Prologue: 日付が変わったばかりの、深夜の料亭――。 料理を運び込ばせた後は関係者以外の者を遠ざけ、外に用心深く黒服の男たちを配置したその部屋はしん……と静まりかえって、誰も声を発しない。 色とりどりの献立と酒を前にしても、左右に居並ぶ男たちは一切手をつけることなくただ一点を見つめて、固唾をのんでいる。 そんな彼らの視線を集めながら、上座にてあぐらをかく初老の男はひとりだけ鷹揚とした態度で、酒をあおり……。 かちん、と音を立てて杯を膳の上に置くと、全員を鋭い目つきでじろり、と眺めていった。 三船: 念のために、確認しておこう。ここに参加した面々は、園崎本家に逆らうことも辞さぬ覚悟で来た……ということでいいんだな? 低い響きで、凄みをはらんだ問いかけの言葉。その迫力を前にして気圧されたのか、一同は震えをこらえるように息を飲み込んだが……。 数多の修羅場をくぐってきた連中だけにすぐさま風格のある面立ちに変わり、身を乗り出すと上座に向かって応えた。 男A: ……もちろんです、カシラ。俺たちがこの先ついていくと決めているのは、あんたしかいません。 男B: そうです! 今のオヤジならまだしも、鉄火場のことも知らねぇ小娘に従うなんてまっぴら御免ってやつです! 男C: これ以上、あの小娘やババァどもに振り回されるなんて、もう耐えられねぇ!俺たちにも面子ってのがありまさぁ! そう叫ぶ男たちに、周囲からも「そうだそうだ!」という声が連呼される。 その反応を聞いて、「カシラ」と呼ばれた上座の男はにたり……と笑みが浮かんだ口元を隠し、元の無表情に戻ってから彼らに向かっていった。 三船: お前らの意気込み……よくわかった。やはり武闘派揃いの連中だけあって、最近の軟弱路線には大いに不満を抱えていたんだろうな……だが。 三船: ……園崎魅音。あの小娘の打ってきた策は、確かに組の収益において相応の成果を上げてきた。飲食店に村の観光業、そして遊興施設……。 三船: 未成年のガキが、調子づいて立ち回ったところで大損して恥をかくだけ……と高をくくっていたが、ずいぶんと予想を超えてきやがったもんだな。 男A: 感心している場合じゃありませんぜ、カシラ!あんな小娘にいつまでも大きな顔をされたんじゃ、俺たちにも立場ってものがありまさぁ! 男B: まったくもって、その通りです!お魎ババァが何年か後に、自分の地位を孫娘へ譲り渡そうと考えているんでしょうが……。 男C: 最近のオヤジの言動から察するに、園崎組までもあの小娘に譲ろうとしているらしいじゃないですか!冗談じゃありませんぜ! 三船: ふん……そうは言いながら、前橋。お前は先日、その小娘が企画したというパレードに家族連れで出向いていたそうじゃねぇか。 三船: 息子を肩車しながら楽しそうな様子だったと、俺のところに報告が届いているぞ……? 男C: なっ? あ、あれはその……敵情視察のために、仕方なく……。 三船: あと……山川に、大場。パレードで騒ぎを起こしたのはいいが、詰めが甘いな。あの程度で損害なんぞあるわけがねぇ。 三船: 同じやるなら、死人が出るくらい派手に仕掛けろ。……オヤジの顔に泥を叩きつける覚悟でな。 男A: す、すみません……カシラ。ボヤを超える火付けとなると、実行する連中が実刑は嫌だとビビっちまうんで……。 男B: それに、オヤジに表立って逆らうのがバレたらあとからの報復が……その……。 痛いところをずばりと指摘されて、男たちは威勢を失ってすごすごと引き下がる。 そんな連中の情けない態度に鼻白んでから、「カシラ」は再びぐい、と酒を飲み干した。 男C: いずれにしても……現状だと俺たちの一派は、完全に蚊帳の外だ。 男C: 今の組長には何度も活動内容を咎められているし、シノギの範囲も狭められちまう。いったい、どうしたものか……。 三船: ……どうする?ふん……決まっているじゃないか。 男C: えっ……? 三船: 組長や姐さんは真っ当路線を進めたいようだが、そんな綺麗事だけが通じるほど俺たちの世界は甘いもんじゃねぇ。 三船: 現状でも関西や関東を地盤にしているグループが、傘下に収めようとこっちに手を広げている。しかも、海外からのマフィアも油断ならねぇ状況だ。 三船: 一刻も早く裏社会での勢力を固めねぇと、あっという間に飲み込まれちまうぞ。 男A: ってことはカシラ、まさか……? 三船: そろそろ、俺たちが動く頃だな。あの小娘が権力を握って、組の連中を支配下に置く前に……。 男A: おおっ……それは本当ですか、三船さん! 男C: いよいよか。……腕が鳴るぜ。 その言葉を聞いて、いきり立つ一同。と、居並ぶ中からひとりが手を上げ発言を求めるように立ち上がる。 そして、恭しく低姿勢で足を進めると「カシラ」の男……三船に一枚の写真を差し出していった。 男B: その次期頭首の小娘ですが……最近になって、心を寄せるガキができたそうです。 男B: そいつを利用できれば、猫に鈴……いや、馬に手綱ってな感じに制約をつけてやれると思います。 #p三船#sみふね#r: ほぅ、それは使えるかもしれんな。……で、そのガキの名前はなんと? 男B: 前原圭一。今年東京から#p雛見沢#sひなみざわ#rに引っ越してきた、あの小娘よりひとつ年下の中学生です。 Part 01: その日も放課後の教室ではいつものメンバーが集まり、例によって部活で盛り上がっていた。 沙都子: 次……私は、こちらですわ。 梨花: ……みー。 羽入: あぅあぅ……っ。 楽しみながらも、息が詰まるような緊張感。羽虫程度であれば息絶えてしまうかと思うほど、殺気にも似た気迫が室内に満ち満ちている。 千雨(制服): (にしても……トランプゲームで大げさなもんだ。しかもこれ、大富豪だろ?) 自分の手札を呆れ気分で見つめながら、思わず出そうなため息を飲み込む。 最初のうちは笑顔と歓声で始まったが、ゲームが進むごとに口数が減り……今や全員がほぼ無表情でカードを切ったり、送ったりしている。 まるで金ではなく、命のやり取りを行う海外のカジノのようだ。……いったい何が彼女たちを突き動かしているのか、私にはさっぱり理解できない。 魅音: ……っと、これ以上カードを出すやつはいないね?んじゃ、次の山にいくよ。 レナ: はぅ~。それじゃ、レナからだねっ。えいっ……2枚出しだよ! 一穂: ……えっ? 沙都子: なっ……?まだ手札がたくさん残っている状況なのに、2枚出しとはやりますわね……! 沙都子: ――と、賞賛させてもらった上で私も2枚……ですわっ! 一穂: ええっ? 美雪: んー? 今回はカードを切って混ぜるのが甘かったのかなぁ……私も、2枚で! 一穂: ひええぇぇっ?! 次々に山へ投入される2枚セットを前にして、一穂の表情が驚きから失望、そして絶望へとくるくる変わっていく。 「通算5回で大貧民の子が罰ゲーム!」のルールで始まったこの大富豪ゲームも、いよいよ大詰め。 カードの巡り合わせだの何だので、一応私たちのほぼ全員が最下位の大貧民を経験していた……が……。 大貧民と貧民をうろうろして、かつ通算4回目で罰ゲームリーチの大不幸娘は私の隣に座る一穂だった。 一穂: うぅっ……どうしよう、千雨ちゃん……? 千雨(制服): いや、私に泣きつかれてもな……とにかく今は、勝負するしかないだろ。 一穂: ……。勝負……するしか……。 一穂: ……だ、だよねっ? 会則第二条、「勝つためにはあらゆる手段を用いることが許される」だった、はず……! 千雨(制服): えっ? あ、いや……微妙に内容が変わってる気がするんだがいったい何をする気なんだ、一穂? 一穂: ふ、ふふふ……あははは……。 完全に目がイった表情で、乾いた笑みを浮かべている。……なんか、怖い。いや結構やばい。 一穂: こ、今度こそ勝つよ……えいっ、革命ッ!! そう言って一穂は、同じ札4枚をべしん、と場に叩きつけた。 大富豪においてはジョーカーやエース、その他の例外を除けば数字が大きいほど強いカードになる。 だが、同じ札4枚を場に出す『革命』は、その力の序列を逆転させることができるのだ。 まさに、最下位続きから繰り出した起死回生の反撃。タイミングさえ合えば、奇跡の大逆転も夢ではない……! ……が、相手が悪すぎた。残念ながら魅音にとって、一穂のそれは想定内の動きだったようだ。 魅音: くっくっくっ……おそらくその手で来るって思っていたよ!だけど、そうは問屋が卸さない! 魅音: それっ、革命返しだ!! 会心の笑みとともに、魅音は同じ絵札4枚を叩きつける。 一穂: あ……ああぁっ? そ、そんなぁあぁ?! それを見た一穂は絶望の表情になり、がっくりと肩を落としてうなだれた。 千雨(制服): (ったく、切り札を出すのが早いんだよ……!魅音の方が手札が多いんだから、反撃も想定してカードを出せっての) そんな呟きを胸の内だけで留めながら、私は回ってきた順番に従ってカードを山に出す。 残念ながら、革命が起きない状況では強い手札を持っている魅音が圧倒的に有利。それに対して、一穂の手札は……。 千雨(制服): ……っ……。 隣なのでちらっと見えてしまったが、見なきゃよかったと後悔するほど悲惨な構成で……彼女の最下位を確信した私は、思わず瞑目した。 魅音: はーい、それじゃ結果を発表するよー!優勝は私、園崎魅音っ!そして栄えある最下位は……一穂だー! 一穂: と、とほほぅぅ……。 ガッツポーズの魅音と、うなだれる一穂。……後者には悪いが、実に順当すぎる結果だ。 菜央: ほんと一穂って、トランプが全般的に弱いのね……。運がないのかしら? それとも戦略がまずいの? 千雨(制服): 両方だな。あれだけ酷い手札が回ってくるとどうしようもない上、出すタイミングが悪すぎる。 美雪: おまけにゲーム中、もろに表情に出ちゃうからねー。ポーカーとブラックジャックは、一生やらない方がいいというのが私からの忠告だよ。 一穂: うぅ……でもでも、4枚カードが揃った時は今度こそ魅音さんに一矢報いることができる、って思ってたのに……! 魅音: あっはっはっ! 私をハメようなんざ100億年早いよ!地球創生からやり直しておいで~くっくっくっ! 魅音: と、いうわけで! 罰ゲームは一穂で決定~! レナ: はぅ……さすがに魅ぃちゃん、やりすぎじゃないかな……かな。 沙都子: 今日はゲームを開始した時からずっと、一穂さんを狙い撃ちですものねぇ。何か恨みでもありまして、魅音さん? 魅音: いやいや、ないって! あるわけないでしょ?! 魅音: ただ、一穂の反応を見ていると癒やされるというか、懐かしい感じになって……。 魅音: あれ?何度もみんなと部活をやってきたはずなのに、なんでこんな感覚になるのかなー? 梨花: みー。つまりは魅ぃのドSモードが発動しているということなのですよ。 羽入: あ、あぅあぅ……元祖ドSの梨花が言うとものすごい説得力があるのですよ。 梨花: ……あら、こんなところに鷹の爪が。軽くちょっとだけ一かじり。もぐもぐ。 羽入: ひぎゃああぁぁぁああぁっっ?!や、焼ける焼ける! 口の中が大火事で大惨事なのですよ~~っ?! 沙都子: ど、どうしましたの羽入さん……?掃除していない床の上でゴロゴロ転がったら、服が汚れてしまいましてよ?! そんな感じに、盛り上がる一同。 ……ただ私だけは、ゲームに参加しながら内心で複雑な思いを抱いていた。 Part 02: ……話は、今日の昼休みにまで遡る。 一穂と少しまとまった話がしたいと思った私は、彼女を校舎裏に呼び出すことにしたのだ。 美雪: ねぇ千雨、一穂を連れ出すのは別にいいんだけど……ここで私たちに聞かせられない話ってこと? 千雨(制服): あ、いや……そういうわけでもないんだが。 聞かれたくないというより、聞いてもらうためにはもう少し情報を整理してからにしたいという思いが本音だったのだが……。 ただ、内緒話というのは確かだったのでどう説明すればいいのか返答に窮してしまう。すると、 美雪: ……ま、いいや。今度気が向いた時にでも、話せる範囲だけでいいから教えてよ。じゃ、いってらっしゃーい。 美雪はそう言ってにぱっと笑うと、菜央ちゃんたちが話している輪に加わっていく。 千雨(制服): (ここのところ美雪には、内緒にすることが増えて申し訳ないな……) その背に向けて内心で謝りながら、私は一穂を校舎裏へと連れ出した。 千雨(制服): 聞きたいことは、ひとつだ。……一穂、お前はどうしてこの「世界」に戻ってきたんだ? 一穂: …………。 予想通り一穂は少し困ったような表情で、私の顔を見返してくる。 千雨(制服): (おそらく、どう説明すべきか……いや、どこまで話すべきかで迷ってるんだろうな) そんな彼女の心境が透けて見えたので、私は少しでも話しやすい空気になるよう努めて心を静めながら続けていった。 千雨(制服): ……先に言っておくがな、一穂。今の私は、お前が戻ってくることに否定的な姿勢じゃない。むしろ歓迎してるくらいだ。 千雨(制服): まぁ……姿を消す直前までお前のことを過剰なほど警戒してたのは事実だから、疑われても仕方ないと思ってるがな。 一穂: ……ううん。千雨ちゃんがそう感じてた理由をちゃんと話してくれたから、今はそんなに怖いと思ってないよ。 千雨(制服): そうか。それはよかった……ってやっぱり怖がられてたのか、私は? 少し傷ついた思いで肩を落とすと、それを見た一穂はくすっ、と小さく口元だけで笑ってみせる。 が、すぐに彼女は口調を改め……私の質問に答えていった。 一穂: ……私たちの「敵」が私の意図に気づいて、邪魔をしてきそうな感じなんだよ。 千雨(制服): は……?その「敵」ってのは、どういうやつのことだ? 一穂: それは、まだ言えない。私もなんとなくでしか、知覚できない存在だから。 一穂: 私は、無数の平行世界の中から平和な「世界」を見つけだして、そこにみんなを移動させたいと思ってたんだけど……。 一穂: 私たちでは届かない場所から何者かが干渉して、トラブルを起こそうとしてるってわかったんだ。 千雨(制服): ……。例によって、どうしてそれがわかったのか。そもそもなんでそんなことができるのか……って疑問は残るが、それは後日きっちり聞くとしよう。 千雨(制服): で……一穂。お前はどうするつもりなんだ? 一穂: 今度は誰を差し向けてくるのかは、まだわからない。……だからまず、相手の出方を待つしかない。 一穂: 消極的かもしれないけど……今は、そうするしかないんだよ。 千雨(制服): 「敵」の正体は、まだ不明。だが、確実に来ることだけはわかってる。……面倒極まりない話だな。 千雨(制服): ちなみにそのことを、なんで美雪と菜央ちゃんに話さないんだ? 一穂: 考えたくないけど、「敵」があの二人に干渉してる可能性があるんだよ。だから打ち明けるのは、ちょっと……。 千雨(制服): とりあえず、私はその「敵」とやらに属してないという信頼はあるわけか。……光栄と思うべきかは、正直言って複雑だな。 一穂: ごめんなさい。誰も巻き込みたくないって思ってたんだけど……。 そう言って一穂は、頭を下げる。……そんな姿を見せられては、私としてもため息をつくしかなかった。 美雪: でさー、一穂と菜央は問題ないって言ってるけど……って、千雨? そう呼びかけられて、はっと我に返る。 私は部活を終えた後、美雪とともに通学路を歩いているところだった。 一穂と菜央は、掃除当番で居残り。そして私たちは夕食の買い物に行くため先に下校することになったのだ。 千雨(制服): すまん、ちょっとぼーっとしてた。……で、なんだ? 美雪: だから、部活を終わった時に魅音から頼まれた件だよ。 美雪: ……で、どうする? キミも参加して大丈夫? 千雨(制服): 参加……って、何のことだ? 美雪: 何のこと、って……あのさぁ。 美雪: 最近の千雨、ほんとに変だよ。キミが話してくれるのを待つ、とは言ったけどさすがに目に余ると心配になってくるじゃんか。 千雨(制服): っ、悪い……まだ考えがまとまらなくてな。 千雨(制服): もう少しだけ、時間をくれ。整理ができたら必ず、お前や菜央ちゃんにちゃんと話す。……約束する。 申し訳ない思いでそう返し、私は頭を下げる。……すると美雪は大きくため息をついてから、ぽん、と私の肩を叩いていった。 美雪: はいはい、わかったよ。キミにそんな顔されたら、何も言えないじゃんか。 千雨(制服): ……すまん。 美雪: んじゃ、さっきの話の続きね。さっき、魅音から頼まれたのはさ……。 Part 03: 魅音: ……実は今度、園崎家が主催になって秋のお茶会を開くことになってね。 魅音: で、もしよかったらみんなにもそこに参加してもらえないか、って婆っちゃと母さんから言われたんだよ。 レナ: はぅ……そのお茶会って、どんなことをするのかな、かな? 魅音: まぁ読んで字の如く、煎じたお茶を作法に則って皆に振る舞うって会合、って理解でいいと思うよ。……正直、私はあんまり好きじゃないんだけど。 美雪: 好きじゃないって……抹茶が?それとも場の空気? 魅音: 両方、かな。抹茶味のお菓子は好きだけど、甘くないアレは苦みが強くてちょっと……ね。 魅音: 何より、あの肩が凝りそうな雰囲気の中で長時間も座っているのが結構キツくてさー。 梨花: みー。僕も抹茶味のプリンやアイスは大好きなのですが、魅ぃたちのお茶会に参加した時は口の中が渋々、顔もシブシブになったのですよ。 そう言って魅音と梨花ちゃんは、あまり乗り気じゃないと言いたげにため息をつく。 大人の場に参加することの多いこの2人が、これほどまでに後ろ向きなので……さすがに私たちも積極的に参加を申し出る気分にはなれなかった。 沙都子: あの……魅音さん。その会合への参加を辞退することは現状だと難しいんですの? 魅音: もちろん、そんなことはないよ。さっきも言ったようにあくまで「打診」だから、それぞれの事情で断るのも自由だ。 魅音: みんなが乗り気じゃないなら、私が婆っちゃたちにうまく伝えておく。……だから心配はいらない。 そう言って魅音は、一応紹介だけはした、と言い訳作りをするように話題を収めようとする。 ただ……その表情を見る限り、なんとなくまだ言い足りないものを含んでいるようにも感じられて……。 混ぜっ返したところで面倒が増えるだけだとは理解しつつも、つい彼女に質問を重ねていった。 千雨(制服): ……本音はなんだ、魅音?そこまでネガティブな情報を最初から言うんだったら、私たちに話すまでもなくお前が断っても良かったのに。 千雨(制服): それでも、私たちの意向を聞いてきたのは……参加に当たって何かあったりするのか? 魅音: ……っ……。 その問いかけがどこか痛いところを突いたのか、魅音は息をのんではっ、と目を見開く。 そして、しばらく私の顔を見据えると……大きくため息をつき、苦笑交じりに口を開いていった。 魅音: ……千雨って、妙なところで鋭いよねー。実はちょっと、面倒な宿題を押しつけられちゃってさ。 レナ: はぅ? 宿題ってなにかな、かな……? 魅音: 実は、うちの家と付き合いの深い代議士先生が今回のお茶会に参加するそうなんだけど……余計なお世話なことに、TV局を呼んじゃってさ。 魅音: 『村おこしのために頑張る、#p雛見沢#sひなみざわ#rの子どもたち』って特集番組をたてて、アピールに協力するって言ってきたんだよ。 羽入: あ、あぅあぅ……それは初耳なのですよ~。 魅音: そうそう、私も昨夜聞いてびっくりってやつ!さすがに突然すぎて準備なんかもできていないし、とても対応はできないって言ったんだけど……。 魅音: その先生ときたら、強引でさー。村おこしに是非とも力を貸したい、って前のめりで押し込んできたんだよ。 梨花: ……みー。それは建前で、結局のところ自分の選挙活動に知名度を上げる絶好の機会だと考えているだけなのですよ。 沙都子: ですわねぇ。全く政治家の人というものは、明後日の方向ばっかりに励むことが多くて困ってしまいましてよ。 魅音: だよねぇ。……けどまぁ、特集番組で取り上げられるんだったら、私たちとしてもチャンスには違いないし……。 魅音: ほんのまねごと程度でもいいから、何人かに協力してもらえたら……その……。 美雪: あはは……そういう事情があるんだったら、先に言ってくれたらいいのに。だったら選択肢は、是非もなしってやつでしょ? 千雨(制服): ……だな。その代議士とやらはあとでシメてやりたいが、それは心の中だけに留めておこう。 菜央: で、場所はどこで行われるのかしら? 魅音: #p興宮#sおきのみや#rのゲストハウスだよ。そこにお茶会用とかの施設を作って、全員を招き入れることになっているんだ。 魅音: ただ面倒なのが、生け花のお披露目会も連続して行われるところで……出るためには多少の作法を覚えてもらう必要があるかもだね。 レナ: はぅ、生け花……ってことは、華道だよね。やったことがないけど、誰か教えてくれる人がいたりするのかな、かな……? 魅音: その辺りは、私がちゃんと指導するから。付け焼き刃だけど、立ち回れるようにするよ。 魅音: あと、お茶会の他にも矢打ちの儀が行われるから、そっちへの人員配置も必要になってね……。 菜央: ……矢打ちの、儀式? 美雪: お茶会は一応、私たちでも想像がつくけど……その矢打ちってのはどういうものなの? 魅音: 名前の通り、射的だよ。一年の豊穣の感謝と、厄払いを兼ねた「おありがたい」儀式なんだってさ。 千雨(制服): ……言葉にトゲがあるぞ、魅音。気持ちはわからなくもないけどな。 美雪: んー、茶道と華道に、弓道か……。参加することが、かえって魅音たちの恥にならなきゃいいんだけどね。 魅音: その辺りは、大丈夫!編集やらなんやらでなんとかしてもらうから! 魅音: あと、弓道は……とにかく弓を引いて矢を放てばなんとかなる……といいなぁ……。 美雪: おーい魅音、途中から願望が入ってるよー。 ただ、魅音の頼みとあっては無下にすることもできず……一同が話し合った結果、くじ引きで担当が決められることになった。 そして、当日のこと。 千雨: で……矢打ちの方は菜央ちゃんと沙都子、茶道は一穂が任されたってわけか。 一穂(着物): あ、あははは……茶道なら、少しはやったことがあるしね。罰ゲームとしては、優しい方だよ。 千雨: お前が納得してるなら何も言わんが……てっきり私は、またこっちに貧乏くじが回ってくるものだと思ってたよ。 一穂(着物): あ、あははは……千雨ちゃんばかりが割りを食う流れだと、さすがにちょっとかわいそうかな、って。 千雨: ほぉ……語るに落ちたな、一穂。 一穂(着物): えっ……?! 千雨: 同情したから、今回は手心を加えた……。 千雨: つまり、あの不運の巡り合わせは、やっぱりお前が仕組んでやがったのか……! 笑顔のまま、私は袈裟固めを決めて抑え込む。 一穂(着物): ご、ごめんなさいごめんなさい~! 泣き叫んで謝る一穂。そんな私たちの様子を見ながら、美雪はあきれ顔でため息をついていった。 美雪(私服): なんか最近の千雨って、一穂とべったりだよねー。……ひょっとして、惚れちゃった? 千雨: なるほど。……だったら次はお前に惚れて、十字固めでもしてやればいいのか? 美雪(私服): ちょっ……ストップ!キミの寝技はシャレにならないから……ん? 圭一(私服): おぅ、美雪ちゃんに千雨ちゃん。相も変わらず仲良しだよなー。 そう言って声をかけてきたのはひとつ下の興宮での友人、前原だった。 菜央(弓道着): あら、前原さん。今日は来るって聞いてなかったんだけど、どうしたの? 圭一(私服): いや、実は魅音から招待状をもらってさ。とりあえず、ここに来てくれって。 そう言って彼は、便せんに書かれた地図を私たちに広げてみせる。 千雨: (かなり簡略されたものだが、一応わからなくもないな……) 圭一(私服): ……俺、この施設がどういうところなのかあまり詳しくなくてさ。よかったら誰か、近くまで案内を頼んでもいいか? 千雨: なら、私が付き合ってやるよ。ちょうど手空きだからな。 美雪(私服): あ、私も一緒に行くね~。 そう言って私たちは、前原を促して歩き出した。 Part 04: たどり着いた先は、中国風の庭園だった。 圭一(私服): はぁ……いつ見てもここは、豪勢なつくりだよな。 千雨: ……来たことがあるのか? 圭一(私服): あぁ。確か、正月頃にここでイベントをやったんだよ。中華風の衣装を着て、撮影会みたいにな。 千雨: …………。 今の台詞に、私は違和感を抱く。確か前原はさっき、この施設内が詳しくないと言ったはずだ。それに……。 千雨: ……なぁ、前原。お前って確か、今年の春頃にこの#p雛見沢#sひなみざわ#rへ転校してきたって言ってたよな? 千雨: なのに、どうして正月の記憶がある?分校に転校してくる前に、観光か何かで雛見沢には来たことがあったのか……? 圭一(私服): えっ……? いや、来たことなんてねぇって。雛見沢への引っ越しを決めたのは、俺の親父なんだからさ。 圭一(私服): 正月の記憶が残っているのは単純に、俺がここで、※※に……ん? んんっ……? 千雨: ……前原? 圭一(私服): なんだ……? 思い出せねぇ。俺……どうしてここのことを、覚えて……?! 千雨: おい……しっかりしろ、前原! 圭一(私服): ……っ……? 私の呼びかけを聞いて、頭を抱えていた前原は我に返ったように顔を上げ、大きく目を見開く。 ……その額には、大粒の汗。荒く息をつき、どこか困惑したように視線を泳がせていた。 美雪(私服): どうしたのさ……前原くん。ひょっとして、体調が悪かったりとか? 圭一(私服): あ……いや、大丈夫だ。心配かけて、すまねぇ。 千雨: ……。とりあえず、魅音を探すか。 前原の反応は気になったが、魅音との合流が先だ。手紙には「ここで待つ」とあったので、どこかに来ているはず……だが……。 千雨: ……どこにも、姿が見えないな。 圭一(私服): あぁ。……ここで場所はあっているんだよな? 千雨: 間違いない……と思うぞ。他に似たような場所は、なかったはずだしな。 そう言って私たちは、きょろきょろと辺りを見回す。 魅音どころか、他に人の気配が感じられない……。大勢の来客が来ているのに、なんとなく異質な空気だ。 美雪(私服): ふふっ……こんな人気のない場所に呼び出して、魅音は何をするつもりなのかな~? 圭一(私服): さぁな。何か、おかしなことを企んでいるんじゃねぇのか? 圭一(私服): たとえば、あの水の中から何かが飛び出して……俺を驚かせようとしているとかさ。 美雪(私服): んー、私が言ったのはそういうことじゃないんだけど……。魅音も大変だね……。 美雪のからかいの意味も理解しない前原の朴念仁ぶりに、私は思わず苦笑を覚えて口元をほころばせる。……が、 千雨: っ? 伏せろ美雪、前原っ! そう言って私が2人を突き飛ばすと、突然水の中から異形の怪物が出現して彼らがいた場所に爪のようなものを突き立てる。 圭一(私服): なっ……こ、こいつらは……?! 美雪(私服): っ? 千雨、前原くん、あれっ! それを合図にしてか、怪物が次々に姿を見せ、こちらを取り囲んでいった。 圭一(私服): お、おい……!まさか、これって魅音の仕掛けたサプライズじゃねぇよな? 美雪(私服): そんなわけないでしょっ!いくら魅音が空気読めないやつだからって、さすがにここまでは……。 美雪(私服): ……。たぶん、おそらく……。 千雨: おい、美雪。自信なくしてるんじゃない。 美雪(私服): とにかく……こいつらを会場に行かせたら、みんなが危険だ。食い止めよう、千雨! 千雨: あぁ。……だが、数が多い。私たちだけで対処できるか……? 苦戦を予想して、全身に緊張が走る。……と、その時だった。 一穂(着物): 美雪ちゃん、千雨ちゃん……! 菜央(弓道着): 大丈夫……ってなんなの、こいつらは?! 圭一(私服): お前ら、来てくれたか……!へへっ、グッドタイミングだぜ! 魅音(宵越し): 圭ちゃん、なんでここに?……って、そんなこと言っている場合じゃない!行くよ、みんな!! Epilogue: 魅音たちの加勢によって、怪物の群れは会場にまで向かうことなく撃退された。 消えていくそれらを見つめ、私たちはほっと胸をなで下ろす。 千雨: ……とりあえず、なんとかなったな。 圭一(私服): あぁ。……にしても、焦ったぜ。魅音からの手紙でここに来てみたはいいものの、あんな連中に待ち伏せされていたなんてな。 魅音(宵越し): えっ……私?手紙って……何のこと? 魅音は目を丸くして、首を傾げている。それを聞いて肩を並べていた私と前原は困惑を抑えきれず、顔を見合わせた。 圭一(私服): なぁ、魅音。この手紙って……お前からのものじゃないのか? 魅音(宵越し): えっ? ち、違うよ……!本当は圭ちゃんも呼ぼうって思っていたんだけど、この時期は塾で忙しい、って聞いたから……。 圭一(私服): ははっ、そんなこと気にしてくれなくてもいいのに。 圭一(私服): ……にしても、じゃあ俺をここに呼び出したのは誰だったんだ?こんな怪物まで用意しておくなんてさ。 不可解な話に、首を傾げる一同。 ……そんな中、ふと思い当たるものを感じた私は一穂のもとに歩み寄り、そっと耳打ちしていった。 千雨: なぁ、一穂。これってお前が言ってた、「敵」の仕業ってやつなのか……? 一穂(着物): わからない。ただ、もしそうだったとしたら今回は本気で襲うつもりじゃなかったと思う。数も少ないし、それほど強くもなかったから……。 千雨: 私も同意見だ。たぶんこれは、ただの脅しだろう。あるいは宣戦布告ってやつだろうな。 とりあえず一件落着ということで、私たちはいったん、会場へと引き上ることにした。 …………。 詩音: まぁ……あの程度で、やられるはずありませんよね。さて、次はどういう手でいきましょうか……。 詩音: くすくす……くっくっくっ……!