Prologue: 秋の訪れがはっきりと目立ち始めた、放課後のグラウンド――。 一穂: はぁ、……今日も疲れたぁ……。……って、魅音さん? 放課後の居残り練習を終えて、制服に着替えてから私たちが校舎を出ると、魅音さんは体操服のまままだ練習を続けているところだった。 魅音(体操服): 一穂、今日もお疲れさん~。あんたもここしばらくの特訓の成果が出て、少しだけど徒競走のタイムが良くなってきたねー。 一穂: そ、そう? あはは、ありがと――。 魅音(体操服): ……でも、まだ走るフォームに無駄があるよ。明日からはそれを踏まえて、練習メニューを1ランク上げていくから、そのつもりでね。 一穂: えっ……?ま、また練習メニューが厳しくなるの?!さすがに、もう限界……っ。 美雪: まぁ……確かに。魅音の意気込みはわかるけど、一穂に対しての要求レベルがちょっと高すぎるんじゃない? 美雪: 一穂にしては、ものすごく頑張ってるんだからさ。一穂にしては、だけど。 一穂: (一応、フォロー……してくれてるのかな……?) 秋といえば、運動の秋。ただ、私は基礎体力を問われる運動があまり得意ではないので、できれば別の秋を希望したいところ。 ……それなのに、今度行われる体育祭の選手にくじ引きで選ばれてしまい、部長の魅音さんに言われるがままハードな特訓に強制参加。 おかげで最近は全身が筋肉痛で、普通に歩くのもつらい毎日が続いていた……。 魅音(体操服): いやいや、そんなことないよ。一穂は今まで運動を本気でしていなかっただけで、センスは抜群なんだってば! 私の目に狂いはないっ! 魅音(体操服): 鉄は熱いうちに打て! 磨けば光るダイヤの原石!……というわけで、明日からはさらにダッシュを多めにして、ガンガン張り切っていこー!! 一穂: は……はぁ……。 そんなふうに評価されても、全然嬉しくない。むしろ拒否したい。逃げたい。 一穂: (でも……「今の」魅音さんに逆らったら、あとでとんでもない罰ゲームをさせられるかも……) そんな思いから、私は抵抗をあきらめて肩を落とす。……と、そこへ私たちと同様に着替え終わった沙都子ちゃんが、こっちに走ってくるのが見えた。 美雪: おっ沙都子、お疲れー。今日のリレーの練習は結構走りっぱなしだったけど、足の方は平気? 沙都子: えぇ、ご安心くださいませ。これでも山歩きなどで普段から鍛えておりますので、あの程度でしたらものの数にもなりませんわ~! 美雪: へー、言ってくれるじゃん。でも、バトンの受け渡し練習はいい感じだったね。なかなかの速さで、綺麗に渡ってたよ! 沙都子: をーっほっほっほっ、当然ですわ!私と美雪さん、#p雛見沢#sひなみざわ#rの俊足コンビが組めば向かうところ敵なしでしてよ~! そんな会話の間にも、魅音さんは念入りに玉入れの練習をしている。かなりの精度でかごの中に入っているけれど、まだ納得がいかないようだ。 魅音(体操服): あんまりかごの近くに行き過ぎると、入らない!適度に距離を保ちつつ、玉を複数個まとめて――とりゃりゃりゃりゃっ! 一穂: (わ、すごい……あっという間に玉がかごに入っていく……) 感心して、私はその成り行きを見守る。すると、それに気づいた魅音さんが振り返ってにやり、と笑みを浮かべながら手招きをしてきた。 魅音(体操服): 玉入れに興味あるなら、一穂もやってみる?とっておきのテクニックを伝授してあげるよ。くっくっくっ……! 一穂: え、遠慮します……! うっかり頷こうものなら、明日からの練習メニューがさらに厳しくなることが必定だ。というか、このまま夜まで付き合わされたらたまらない……。 ……魅音さんがここまで運動に励んでいるのには、もちろん理由がある。今度の体育祭は、#p興宮#sおきのみや#rとの「合同」で行われるからだ。 魅音(体操服): 合同体育祭の開催は、もう再来週……1種目でも多く、1点でも多く取るためにもとにかく練習しないと……! 魅音(体操服): 絶対に、負けるわけにはいかない!興宮は詩音と……あの前原圭一が主力なんだからねっ!! 魅音(体操服): 5月に行われた合同体力テストの時は、あのヤローにギリギリの差で負けたんだ。今度こそ、目にもの見せてやる……! そう言ってこぶしを握った魅音さんは、燃え上がっていた。 ……前原くんとの仲の悪さは理解しているつもりだけど、ここまで敵対感情が激しすぎると、なんか……怖い……。 一穂: 体育祭なのに、そこまで熱くならなくても……そもそも、男子に体力で勝つということ自体が結構厳しいんじゃないかな……? 魅音(体操服): あいつは年下なんだよっ?同い年のやつでも腹が立つのに、1コ下のガキに負けるなんて、私のプライドが許さないっての! 一穂: そ、そうなんだ……ね。 ダメだ、これ。聞く耳を一切持たない感じだ。 一穂: あれ……? そういえば、リレー選手に沙都子ちゃんが入ってるけど……確か今度の体育祭って、中学生の対抗戦だよね? 魅音(体操服): あー、それは大丈夫。こっちの生徒数が少ないってことを理由にして、運営委員会には本人の希望を条件にして助っ人枠を認めさせたからね。しかも、ハンデ付きで。 一穂: ハンデ、付き……? 魅音(体操服): こっちは、同じ競技に誰が何回出てもいい。ただし向こうは、最大でも3回まで。 魅音(体操服): そんで、助っ人に小学生を使う時は、距離とかタイムとかで色々と有利になるんだ。 魅音(体操服): まぁ、沙都子の足は中学生レベルでも十分すぎるくらいに速いから、私たちの方が有利になってるんだけどさ……くっくっくっ。 一穂: そ、そうなんだ……。 さすが魅音さん、ずる賢い……。 そしてグラウンドの隅では、レナさんが下級生の子たちをまとめて応援の練習をしていた。 梨花: ふぁいと、おー! なのです~。 羽入: あぅあぅあぅ……。ポンポン、ポンっ!皆さん、頑張るのですよ……! 菜央: ポンポン持って、チアガールって……ほんとにこれで、士気が上がるの? レナ: あははははっ! レナの士気は上がりまくりだよ~?はぅぅ~、お持ち帰りぃぃ~♪ 魅音(体操服): こぅぅぅらぁぁっ、レナぁぁっっ!もっと死ぬ気で、応援の練習しろっ! 魅音(体操服): もし負けたら、あんたたちも含めて全員坊主だよ! その覚悟で臨みなっ!! 美雪: なっ……じょ、冗談だよね? 沙都子: そ……それは、無茶苦茶です!横暴が過ぎますわぁぁっっ!! 一穂: ひぃぃっっ?! ぼ、坊主なんて嫌だよぉぉっ……! 美雪: やばいよ……完っ全に、昭和の体育会系強豪校のノリだよ……。 Part 01: そんな感じに、私たちが#p興宮#sおきのみや#rとの合同体育祭について話をしていた……その時だった。 圭一: がーっはっはっはっはっ!よぉ、#p雛見沢#sひなみざわ#rの諸君、元気してたかぁ~? 詩音: くっくっくっ……気合が入っているようですねぇ、特にお姉は。 魅音(体操服): なっ……! 詩音に、前原圭一っ!あんたらまさか、偵察に来たっての?! 圭一: ふん。んなことする必要なんてね―よ。お前らが束になってかかってきても、俺たちに……いや、俺にかなうわけがないんだからな! 魅音(体操服): んなっ? こ、この……!! 圭一: まぁせいぜい、俺の大活躍のための引き立て役になってくれや……あーっひゃひゃひゃっ! 詩音: お姉とは血を分けた姉妹ですが、今度の体育祭は敵と味方に分かれて戦うことになりますので……まずはご挨拶でもと思って来たわけですよ。 詩音: まぁ正々堂々、楽しんでやりましょうね?くすくすくす……! 魅音(体操服): はんっ! あんたの口から正々堂々なんて言葉が出てくるなんて、明日は吹雪にでもなるってか?! 魅音(体操服): 言っとくけど、下手な小細工を仕かけてきても私たちにゃ通用しないからねぇ! レナ: はぅ……。なんだか、雲行きが怪しいかな……かな。 菜央: ……レナちゃんは、あの前原圭一さんのこと嫌いじゃなかったの? レナ: うーん……前に雛見沢で、色々あったからね。だけど、詩ぃちゃんとは仲がいいから、敵だとあんまり警戒しすぎるのは……はぅ……。 梨花: みー。修羅場に突入なのですよ、にぱー☆ 羽入: た、楽しそうですね、梨花……。 魅音(体操服): ちょっとみんな、余計なこと言わないでよっ!詩音、こっち来な! あんたに相談が――。 詩音: あ、お断りします。何か裏交渉でもしようという腹積もりかもですが、今回はそういうの、一切聞かないつもりなので。 詩音: あとは一服何かを飲ませて、私を戦闘不能にしようって考えているようですが……あいにく私、今は喉が渇いてないんですよ。……ね、沙都子? 沙都子: っ? ど、どうして私を見るんですのっ?この水筒に入ってるお茶でもいかが、と思っただけで、わ、私は……っ?! 菜央: ……バレバレね。 美雪: バレバレだね。にしても双子だってのに、対抗心すごいね~。……いや、むしろ双子だから? 魅音(体操服): くぅっ……詩音、あんた……っ! 詩音: お姉ってば、余裕ありませんねぇ……くすくす。ところでこれ、見てください。 そう言って詩音さんが懐から取り出したのは、1枚のプリントだった。 魅音(体操服): これは……体育祭の競技プログラム?ようやく全部本決まりになったんだね。 美雪: んー、なになに……玉入れに、綱引き、かけっこ、リレー。全部定番だね。で、最後は……へっ?! 一穂: 『ボコスカバトル・対抗戦』……って、これ何の競技? 圭一: ん、なんだ知らねぇのか?文字通り、競技用に呼び寄せた「アレ」をチームでどれだけ倒せるか、って競技だ! 菜央: 「アレ」ってまさか、体育祭に『ツクヤミ』を呼び寄せる……ってこと? 圭一: まぁ、そういうことさ。ちょうどいい機会だ……お前らの実力とやらを今度の大会で見せてもらうぜ! 圭一: じゃーな。俺らも色々と忙しいから、この辺で引き上げるぜ。 詩音: くすくす……そうしましょうか。あと……お姉? 魅音(体操服): な、なにさ?! 詩音: お姉が働きかけていた、沙都子のハンデの件ですが……。 詩音: 以前の体力テストのデータを運営委員会に送ったところ、どうやら「必要なし」という判断になって却下されたそうですよ? 魅音(体操服): んなっ?! 詩音: というわけで、「正々堂々」ガチで戦いましょうね……くっくっくっ……。 魅音(体操服): あ、あんた……余計なことをっ!! 詩音: 「余計な小細工」はなしと言ったのはお姉ですからね。それじゃ、ごきげんよう~♪ 魅音(体操服): くっそぉぉぉぉ!! 詩音のバカ――っ!!! 一穂: (どっちもどっちだよ……) Part 02: それから、数日後……合同体育祭の日がやってきた。 場所は#p雛見沢#sひなみざわ#r分校のグラウンドで、大勢の観客が所狭しと押し寄せてごった返している。ものすごい人の数だ。 ちなみに魅音さんは、まだ登校したばかりの私たちと違ってすでに体操服に着替えていた。……意気込みがすごい。 一穂: 学校の体育祭なのに、こんなに人が来るんだね……。 美雪: 保護者もいるし、あと近所の人も見に来てるみたいだよ。ほら、あそこにいる人たちって、畑仕事の帰りって感じだし。 沙都子: をっほっほっほっ……武者震いがしてきましたわぁ……! 一穂: (私は、プレッシャーが……はぁ……) 魅音(体操服): みんな、絶対勝つよ! 勝てなきゃ切腹……いや、打ち首だ!死ぬ気で気合入れていかないと、許さないからねッ!! 一穂: ひぃぃっ……?! 美雪: あのさ……魅音。それって激励じゃなくて、もはや脅迫でしょうに……。 美雪: 気持ちはよくわかるけど、もう少しやる気を盛り上げる言葉にならないかなぁ……? 魅音(体操服): だ、だってさぁ……!私、あいつらに負けたくないしっ!! 一穂: いや……向こうって、男子生徒の数が多いから女子ばっかりの私たちは、かなり不利なんじゃ……。 魅音(体操服): 一穂、諦めムード禁止っ!なせばなる、なさねばならぬの精神で当たらなきゃ勝利は掴めないよっ! 美雪: ……ダメだこりゃ。 レナ: そうだよ! みんな、まだ負けるって決まったわけじゃないよ。応援団のリーダーとしてレナ、みんなをいっぱい応援するからねっ! レナ: ファイト、ファイト、おー! だよっ! 梨花: みー。そうなのですよ。ふぁいと、ふぁいと、おー、なのです。 羽入: あぅあぅ、いっぱい応援するのですよ。ふぁいと、おー! なのですよ! あぅっ。 菜央: ……まぁ、頑張りましょう。怪我をしない程度にね。 魅音(体操服): みんな……ありがとね! 沙都子: をっほっほっほっ!梨花たちの応援は、とっても心が癒されて励みになりますわぁ~! 美雪: ……。まぁ、一穂。とりあえず無理のない範囲で頑張ろう。もしもの時は、骨拾ってあげるから。 一穂: そ、そうだね……って、縁起でもないこと言わないでよ、美雪ちゃんっ?! レナ: はぅぅっっ~!応援団のみんな、かぁいいよぉ~!おっ持ち帰りぃぃ~~! 魅音(体操服): こらーっ!せっかくの応援が台なしだよ、レナっ!気持ちを集中させて!! レナ: ……はっ!だめだめ、今日は応援に専念するの……はぅぅ、けどかぁいい……! 羽入: レナは、かぁいいものに弱すぎるのです……。 そんなふうにわいわいとした空気の中、私は改めて今回の競技プログラムが書かれたプリントを広げてみる。 まずは、かけっこ。そして借り物競争に綱引きが続く順番になっていた。 一穂: (運動得意じゃないのに、選手になっちゃって……大丈夫かな) 一穂: はぁ……。 美雪: 大丈夫だって、一穂。魅音はあんなこと言ってるけど、しっかり手を抜かずに頑張れば、みんな納得してくれるよ。 美雪: だから一穂も、あんまり自分を追い込まないようにね? 一穂: っ……!う、うん。ありがとう、美雪ちゃん。 美雪ちゃんのフォローの言葉に、私は少しだけ緊張が和らいだような感覚になる。 と、そこへアナウンスの声。体育祭の開会式、30分前を告げるものだった。 魅音(体操服): いよいよだね。 美雪: さて、と。さっさと着替えて、気合入れ直すか~。 沙都子: みんなで力を合わせれば余裕ですわ。をーっほっほっほっ! 一穂: うん、そうだね……頑張ろう。 魅音(体操服): じゃ、みんなで円陣するよ。……雛見沢ーファイッ! 全員: オーっ! 魅音(体操服): 開会式が終わったら、すぐに一穂の出番だからね!さぁ、早く着替えてウォームアップ!練習の成果をしっかり見せてよ~! 一穂: う……頑張る。 最初から出鼻をくじくわけにはいかないと、私はぐっ、とこぶしに力を入れた。 梨花: みんな、ふぁいと、おーなのですよ。にぱー☆ Part 03: 花形のリレー競技が終わり、私たちは次の種目に備えて私服に着替え、応援席へと戻った。 『ボコスカバトル・対抗戦』は『ロールカード』を使う関係上、体操服のままでは戦うことができない。そんなわけで出場組は、この服装に着替えたのだけど……。 一穂(私服): (魅音さんだけ、着替えてない……?ということは……) おそらく彼女の体操服は、『ロールカード』の力が備わったこの日のための「特注」なのだろう。……今日にかける意気込みがすごすぎて、ちょっと怖い。 レナ(私服): みんな、いよいよ最終種目だねっ!リレーはちょっと残念だったけど……いい勝負だったよ! 梨花: みんな、よく走って頑張っていたのですよ。にぱー☆ 羽入: あぅあぅあぅ……いっぱい応援したのです。ちょっと声が枯れちゃったのですよ……あぅ。 菜央: あたしの声、聞こえてた……? 一穂(私服): うん、よく聞こえてたよ。ありがとう、菜央ちゃん。 応援団のねぎらいの言葉をありがたく受け取りながら、私たちリレー参加組はシートの上に腰を下ろした。 美雪(私服): いやいや、久々に思いっきり走って気持ちよかった~。あとちょっとの差だったんだけどね。 そう言って美雪ちゃんは、満足そうに息をつく。……だけどそんな中、沙都子ちゃんだけが浮かない表情でがっくりと肩を落としていた。 沙都子(私服): はぁ……最悪ですわ……。 一穂(私服): 沙都子ちゃん、そんなに気を落とさないで。あのカーブ、ちょっと滑りやすかったもんね。私も一瞬、走ってて躓きそうになったよ。 沙都子(私服): ですが……せっかく請われて助っ人に参加したというのに、あんな体たらくでは……。 梨花: 一穂の言うとおりなのですよ、沙都子。気を落としすぎるのもよくないのです。 沙都子(私服): 梨花……。ありがとうなのですわ……。 そう。第三走者だった沙都子ちゃんは、急ぐあまりにカーブで転倒してしまったのだ。 一穂(私服): (アンカーの魅音さんが、差を縮めてくれたけど……先を行く前原くんには、わずかの差で及ばなかった) 魅音(体操服): …………。 魅音さんはさっきから、険しい顔をして点数表を見ている。もう、勝ち目はないのだろうか……? 沙都子(私服): も、申し訳ありません……魅音さん。私のせいで、総合点を逆転されてしまって……。 魅音(体操服): え? まぁ、しょうがないね。むしろあの後、よく巻き返してくれたよ。 沙都子(私服): えっ……?で、ですが……負けたら打ち首、って……。 魅音(体操服): いやいや、さすがにそれはないって。そもそもあれは、一生懸命やってのミスなんだからさ。 魅音(体操服): それより沙都子、足のケガはどう?手当はちゃんとしてもらった? 沙都子(私服): え、えぇ……。監督が救護室におりましたから、消毒と止血を……。 魅音(体操服): うん、血は止まってるみたいだね。なら、心配はないか。 沙都子(私服): ですが……少々、足首をひねってしまいましたの。とりあえず参加を前提に、着替えはしましたが……この状態では、お役に立てないかもしれませんわ。 一穂(私服): そんな……。 美雪(私服): んー、まじかぁ……。 魅音(体操服): さて、どうしようかね……。 魅音(体操服): あの前原圭一は出場枠3つを使い切って、最後の対抗戦には出られないみたいだけど……#p興宮#sおきのみや#rチームには詩音が出るだろうし。 魅音(体操服): 私と美雪、レナと一穂……あと1人だけ、足りないんだよね。 美雪(私服): 対抗戦には、最低5人出ないとなんだっけ? 魅音(体操服): そうだよ。4人以下だと失格だ。しかも、興宮チームには詩音が他の4人に『ロールカード』を渡して、練習したって言ってたし……厳しいね。 沙都子(私服): 申し訳ありません、私のせいで……。 魅音(体操服): だから沙都子、そうやって自分を責めなくていいよ。でも、こうなったら……どうすっかねぇ。 魅音(体操服): うーん、梨花ちゃんか菜央ちゃん、もしくは羽入に出てもらうことも……? その時、ザッ……と砂を踏む音が聞こえて、私たちは一斉に振り返る。 すると、そこに立っていたのは――。 圭一(体操服): ……話は聞いたぜ。最後の対抗戦、1人足りないんだって?なら、俺が数合わせに出てやるぜ。 一穂(私服): (な……なんで、興宮の前原くんが……っ?!) Part 04: 一穂(私服): (前原くんが、対抗戦でうちのチームに参入……?!) 突然の提案に、あぜんと言葉を失う私たち。その中でも一番驚いたのは、魅音さんだった。 魅音(体操服): て……敵のくせに、よけいな口挟んでくるんじゃないよ!だいたいあんた、出場枠がもうないじゃないか?! 圭一(体操服): あぁ。ラストは詩音が決めたいって言うから、俺は出ないつもりで出場枠を全部使い切ったぜ。 魅音(体操服): ほ、ほら!だったら枠なんか、もうないでしょ……。 圭一(体操服): ……#p興宮#sおきのみや#rの学校としては、な。 魅音(体操服): はっ……?! 圭一(体操服): #p雛見沢#sひなみざわ#r分校としては、助っ人枠が残ってるはずだぜ。そっちは助っ人なら、誰を出してもいい……そうだろ? まさに、ルールの盲点を突いた奇策。でも……確かに、その通りだった。 魅音(体操服): だっ……誰が、あんたの情けなんか受けるもんかっ!! 魅音(体操服): それに、うちにはまだ他にも戦力がいるんだ!梨花ちゃんか菜央ちゃん、それに羽入っ!その中の誰か1人でも参加すれば、万事解決……っ! 梨花: ……。みー。 梨花: ごめんなさいなのです。さっき食べたおはぎがおいしくて、食べすぎて動けないのですよ。 魅音(体操服): えっ……? 菜央: あたしも……応援で頑張りすぎて、もう疲れちゃったかも……かも。 羽入: あぅあぅあぅ……僕には荷が重いのですよ……。 魅音(体操服): ちょっ……あ、あんたたちっ……?!何言ってんだよ、裏切る気っ?! 圭一(体操服): おいおい……なんだ、みんなダメじゃねーか。やっぱ俺が参加しなきゃ、数が足りねぇようだな。くっくっくっ……! 魅音(体操服): くっ……! 前原圭一、あんたいったい、何を企んでるのさっ? 圭一(体操服): 別に、企んでなんかないさ。さっきのリレー対決じゃ、お互い納得がいかない感じになったからな。 魅音(体操服): ……っ……?! 圭一(体操服): まぁ、この際総合点はさておいて……どっちが多くあいつらを倒せるか、再戦といこうぜ。 圭一(体操服): それとも……不戦敗ってことで終わらせるか?俺はいいけど、そうなると雛見沢分校の完全敗北ってことになるよなぁ? 圭一(体操服): それで、お前は納得いくってのか? んん? 魅音(体操服): 完全、敗北……っ? じょ、冗談じゃないよ!そこまで言うなら、やってやろうじゃないか! 圭一(体操服): じゃー、決まりだ。早速エントリーといこうぜ! 魅音(体操服): 上等だぁ!!  : 前原くんが受付へ足を向けるのを、追いかける魅音さん。  : あまりの展開に口を挟むことができなかったけれど、彼女もまた、今までのしがらみとかが抜け落ちてひとつのことにしか頭が回らなくなっている様子だった。 美雪(私服): あーあ……乗せられちゃって。魅音は熱くなると、IQが下がるからなぁ。 沙都子(私服): ……確かに、あっけなかったですわね。憎らしいですけど、前原圭一は魅音さんの扱いを熟知している感じですわ。 梨花: 手のひらの上で転がされているのです。ころころ~なのですよ。 レナ(私服): ……さっきの勝負は、お互いに不本意だったんだね。今回だけは、大目に見てあげてもいいかな……かな。 一穂(私服): ……。レナさん……? 菜央: 一穂……今は、余計なことを言うのは野暮よ。 一穂(私服): う……うん……。 ただ、不思議だけど……今日の魅音さんと前原くんは、ある意味で息が合っている感じだ。 もし仲間だったら、最強コンビになっていたのかもしれない……そんなことを、私は考えていた。 Epilogue: ……激闘の合同体育祭は幕を閉じ、着替え終わった私たちはグラウンドに出てお互いの健闘(?)をたたえ合っていた。 詩音: はぁ、まったく……まさか、圭ちゃんが最後の最後で裏切るとは思いませんでした。 詩音: #p雛見沢#sひなみざわ#r分校の助っ人として、対抗戦に出るなんて……あんなの反則ですよ。 圭一(体操服): へへっ、悪ぃ悪ぃ。やっぱ俺も、魅音と決着がつけたかったからさ。 結局最後の対抗戦は、魅音さんと前原くんが撃破数を競い合ったこともあって、雛見沢分校が勝利。 総合点も、無事に分校の逆転優勝になった。 沙都子: をーっほっほっほっほっ!私たちの勝利ですわぁ! レナ: うんうん、優勝できてよかったねぇ。 羽入: あぅあぅ……まさか本当に逆転できるとは思わなかったのです……驚きなのですよ~! 梨花: 特に、魅ぃがすごかったのですよ。圧倒的な撃破数だったのです……にぱ~♪ 美雪: 2人で、撃破数を競い合ってたからねぇ。同じチームの私たちを置いてきぼりにしてさ。 一穂: でも、そのお陰で点数が増えたから……。相乗効果ってやつかな? 菜央: そうかも……かも。 美雪: 何にしても、よかったよ。無事に優勝できて、打ち首も坊主も回避できたわけだしね。 沙都子: をっほっほっほっ、確かにそうですわね!淑女に坊主なんて、屈辱が過ぎますわ……! 一穂: い、いや……魅音さんもさすがに本気で坊主にしようとは考えてなかった……と思うけど……。 私たちが勝利を分かち合っているそばで、詩音さんは大げさなため息を吐いていた。 詩音: はぁぁ……悔しすぎます。裏切り者の圭ちゃんには責任、取ってもらわないといけませんね。 圭一(体操服): せ、責任……?! 詩音: ふっふっふっ……。一体、どんな目に合わせてやりましょうかねぇ? 詩音: さしあたっては……そうですね、エンジェルモートで1週間ほど、バイトの手伝いでもしてもらいましょうか。 圭一(体操服): お、……おいっ? それって裏方だよな?あの衣装着て、ウェイトレスやれってことじゃねぇよなっ?……ん? 詩音: なんだ……お姉じゃないですか。まだ何か、御用が? 魅音(体操服): 大した用じゃないよ。ただ……あのさ、前原圭一。 圭一(体操服): ん? なんだよ。 魅音(体操服): 私は、借りを残さない性分なんだ。だから、こ……これ……っ! あんたにやるよ。 魅音さんはぶっきらぼうな口調で、顔を赤らめながら手に持っていた1枚のチケットを渡す。それを見た前原くんは、驚いたように目を見張って叫んだ。 圭一(体操服): えっ……? これ、エンジェルモートのデザートフェスタのプレミアチケットじゃねーか?! い、いいのか?! 魅音(体操服): そ、その代わり今度戦う時は敵同士だからっ!絶対、ぜぇーったい負かしてやるんだからねぇぇぇぇ!!! 魅音さんは照れくさかったのか、叫びながら逃げるように駆け去っていく。あっという間にその姿は、校舎の向こうに消えて見えなくなった。 圭一(体操服): ちょっ……あぁ、行っちゃったな。 詩音: ほっといて、構いませんよ。ああなったお姉は暴走機関車みたいなものですから、止まりません。 詩音: まぁ……#p時間薬#sじかんぐすり#rってやつです。気長に続けていきましょうよ、ね。 圭一(体操服): ……だな。今回はありがとな、詩音。色々と助かったぜ。 菜央: まったく……仲がいいんだか、悪いんだか。 美雪: まー、喧嘩するほど仲がいいって言うしさ。 一穂: ……だけど、終わりよければ全て良し、かもね。 Part A1: 美雪: ……ほ、一穂ってば……。 一穂: ……っ、……。 菜央: まったく、姿が見えないと思ったらこんなところで居眠りしてるなんて。……起きなさい一穂、ほらっ! 一穂: ひゃぁっ……?! 一穂: あれ……美雪ちゃん……。それに、菜央ちゃんも……どうしたの? 美雪: いや、それはまんま私の台詞だって。こんなところに座り込んで、何をしてたのさ?早く着替えないと、開会式に遅れちゃうよ。 一穂: ……えっ?けど体育祭は、もう全部の競技が終わって……。 アナウンス: 『……あと15分後に、#p雛見沢#sひなみざわ#r・#p興宮#sおきのみや#r合同体育祭の開会式が行われます。参加する各校の生徒は、入場口に集合してください。繰り返します――』 一穂: 終わって……ない……?でも、さっきまでグラウンドで魅音さんたちが興宮の子たちと戦って、それから……っ……。 美雪: いや、一穂……何を言ってるのさ?体育祭はこれからで、全然始まってもないよ。 一穂: …………。 菜央: どうしたの、一穂。顔色がよくないけど、体調が悪かったりとか? 一穂: ……ううん、平気。もしかしたらここで、夢を見てたのかも……。 美雪: 夢ってまさか……体育祭の?あははは、モチベが上がってるのかもしれないけどさすがにそれは気が早すぎだよー。 菜央: 今日は朝も早かったから、仕方ないわね。昼休みになったら内緒で保健室に行って、少し休んできたらどう? 一穂: ありがとう。……けど、もう大丈夫だと思う。それはそうと、興宮の――。 圭一(体操服): おう、一穂ちゃん!それに美雪ちゃんと、菜央ちゃんも一緒か。今日はよろしく頼むぜ! 一穂: ま……前原くん……? 美雪: 相変わらず元気いっぱいだねー、前原くん。最初から飛ばして肝心な勝負時にガス欠ー、なんてことにならないでよ? 圭一(体操服): はっはっはっはっ、心配はご無用だ!この日のために俺たち興宮チームは満を持して鍛えてきたんだからなー! 魅音(体操服): へー……そうかい、そうかい。だったら私たちの方も、手加減は無用ってことで問題はなさそうだね……くっくっくっ! 一穂: (っ、魅音さん……?) 圭一(体操服): へへっ、そんなの最初から期待してねぇぜ!どんな時も正々堂々、実力勝負! ってのが俺たちの興宮魂なんだからな! 詩音: ……いや、興宮魂って何ですか。初耳ですよ。そんな汗臭いフレーズで、私たちのことまで一緒くたにしないでください。 魅音(体操服): ほー、なるほど。……それはつまり、詩音が勝てなかった時の逃げ口上ってことかい?本気じゃなかったから負けた、なーんて言ってさ。 詩音: 本気を出さないとは言っていないでしょう?まったく、ずいぶんと安い挑発ですね……。 詩音: ……ですが、いいでしょう。乗ってあげますよ。閉会式で地団駄踏んで悔しがるお姉の吠え面が、今から楽しみです……くすくす! 魅音(体操服): なっ……? 泣きべそかくのは、詩音の方だよっ!せいぜい全員分のハンカチを用意しておくんだね!ふーんだ! レナ: レナは、みんなと一緒に楽しく過ごせたらすごく嬉しいかな……かな。仲良くやろうね! 圭一(体操服): おうよ! この前原圭一さまの勇姿と活躍を、その目にしかと焼き付けてやるぜぇぇ!! レナ: あはははは、頑張ってね圭一くん!でもレナは、地面に手をついてうなだれている圭一くんもかぁいいと思うな……はぅ♪ 羽入: あ、あぅあぅ……。レナもにっこり満面の笑みをたたえながら、目が全然笑っていないのです……! 梨花: ……みー。あのレナの目は、同じ「やる気」でも「殺」の漢字を使った「殺る気」なのですよ。 一穂: …………。 美雪: 一穂……? おーい、一穂ってば。 一穂: (牽制し合ってる……けど、レナさんも魅音さんも前原くんのことを嫌ってる感じじゃ、ない……?) 一穂: (ううん、それどころかいい感じにお互いを認め合ってるような……?) 沙都子(体操服): をーっほっほっほっ! この合同体育祭では圭一さんと詩音さんは興宮チーム、すなわち敵っ! 沙都子(体操服): そして体育祭でのことは、残さず引きずらずが鉄則!つまり、私にとってこの絶好のシチュエーションこそが日頃の恨みを晴らす絶好の機会でしてよ……ッ! 羽入: あ、あぅあぅ……沙都子が、すごく燃えているのです……! 梨花: みー。気合いが入りすぎて空回りを通り越した上滑りをしてしまうのが沙都子の魅力でもあるのですよ。 梨花: 詩ぃにコテンパンに叩きのめされて、泣きじゃくる沙都子をかわいそかわいそしてあげるのが今からとても楽しみなのです……にぱー♪ 羽入: 最初から、沙都子の自爆を期待している……?や、やっぱり梨花は鬼なのです……! レナ: はぅ……菜央ちゃん。今日のためにレナ、いっぱいお弁当を用意してきたよ。お昼になったら、一緒に食べようね♪ 菜央: ほわっ……う、うん……!あたしもたくさん新作料理を作ってきたから、よかったら感想を聞かせてね。 美雪: おぅ。それで菜央、今朝は早起きだったんだね。けど、体育祭なのに料理に力を入れるって……なんか違くない? 魅音(体操服): 別にいいと思うよ。体育に関することが全てだったら、運動が苦手な子はそれこそ楽しくない一日になっちゃうからさ。 魅音(体操服): 最近のレナと菜央ちゃんは、興宮の子たちとも料理やら何やらで色々と交流しているみたいだし……体育会でもそういった繋がりができるといいよね。 一穂: …………。 美雪: ? どうしたの、一穂。さっきからずっと口数が少ないみたいだけど、本当に大丈夫? 一穂: うん……ちょっと、ね。夢の中で見た合同体育祭も、それなりに楽しいと思ってたんだけど……。 一穂: やっぱり、こうやってみんなと一緒に仲良くにぎやかに過ごしてる時間の方が素敵だな、って……。 美雪: そっか。……でも、その台詞はまだ早いよ。だってまだ、始まってもないんだからさ。 一穂: あははは……そうだね。それじゃ美雪ちゃん、私たちも着替えに行こうっ。 美雪: おっけー! 気合い入れて頑張ろうー!