Part 01: 千雨: ふぅ……やっと終わったな。遊園地の手伝いバイトも、明日で最終日か。 千雨: それにしても、すごいアトラクションの数だな。とても片田舎の遊園地の規模には見えない……、って魅音? 魅音(私服): あっはっはっはっ!悪口とかじゃなくて、そのまんまの事実だからさ!別に正直に言ってくれて大丈夫だよ~! そばに魅音がいるとも気づかず、素直な感想がうっかり言葉に出てしまって気まずさを覚えたが……彼女は機嫌を害した風もなく、笑い飛ばしてくれる。 初めて会った時から姉御肌なやつという印象があったが……懐が深いというか、美雪たちが慕うのも納得できる気がした。 千雨: いや……悪いな。お前たちが開園に向けて色々と頑張ってたのに、こういう言い方はなかった。聞き流してくれるか、忘れてくれるとありがたい。 魅音(私服): くっくっくっ……そこまで気にするんだったら、むしろ末代まで語り継いだほうがいいかもねー。何かあった時の交換条件にできるしさ。 千雨: っ……私のできる範囲で、大目に見てくれると非常に助かる……。 魅音(私服): 冗談だよ。むしろ私は、千雨のそういうところが気に入っているんだ。 魅音(私服): 美雪も菜央ちゃんも、田舎を馬鹿にするような発言は絶対に禁句だって身構えているところがあるからね。 千雨: そりゃ当然だろ。何でもかんでも思ったことをまんま伝えるなんて、発言した本人が感じる以上に相手にとってはキツいもんだ。 千雨: 他人の意見に耳を傾ける時ってのはどんなに自信満々に振る舞ってても、何らかの不安を抱えてることが多かったりする。 千雨: 「これで正しいのか?」「独りよがりになって何か見落としてないのか」……てな具合に。 魅音(私服): ……ふーむ、確かにそうかも。なかなかいいところを突いているね。 千雨: あくまで私の考えとしてのものだから、断言はできないがな。 千雨: ただ……そんな心理状態のところへ不備や欠点を正直に伝えると、痛いところを触られたような感じになって刺激が倍増する。 千雨: それを防衛するために反射的、無意識に無視か反論、あるいは激高に出ようとして……まぁ、いい結果にはならないことが多いな。 魅音(私服): へー……そこまでわかっているのに、どうしてあんたは正直を貫こうとするんだい? 千雨: ……私は、嘘が嫌いだ。そしていい加減にごまかされるのも、好きじゃない。 千雨: 自分がされたくないことを、相手にもしたくない。言わなきゃいいことは黙ってればそれで済む話で、言う時は決してごまかさない……それだけだよ。 魅音(私服): くっくっくっ……損な性格だね、千雨ってさ。でも、だからこそ美雪があんたのことを信頼するのがなんとなくわかる気がするよ。 千雨: ……あいつが特別というか、おかしいだけだ。それに私は、自分が一般人の視点から見れば嫌われやすい性分だとよくわかってる。 千雨: 今の発言だって、聞くやつが聞けば喧嘩になる。……わかってるんだよ、これでもな。 魅音(私服): うん、そうかもしれない。……否定しないよ。 魅音(私服): ただ、あえて憎まれ役を買って出るのは普通に生きるよりもパワーと覚悟がいる。並大抵のやつには務まらないだろうね。 魅音(私服): そうまでして、自分にとって大事なものを守りたいって気持ち……たいしたものだよ。 千雨: …………。 やはりこいつは勘がいいやつだ、と私は内心で舌を巻く。 そして、こういった話に対して共感の意を示しているということは……おそらく魅音も、「憎まれ役」の経験があるということだろう。 千雨: ただ、……ん。 魅音(私服): ? 何、どうしたの千雨? 千雨: あ、いや。自分に正直に生きるのは、確かに世間の波風やらに晒されたりしてキツいもんだが……。 千雨: 自分を偽り続けてるやつも、それはそれで色々と苦労があるんじゃないかと思ったんだ。……たとえば、「彼女」のように。 魅音(私服): あー……うん。おそらくあんたなら、とっくに気づいていると思っていたよ。 そう言って魅音は、肩をすくめ……苦笑交じりに私を見つめ返してくる。 「彼女」というのは、他ならぬ魅音の親友……そして菜央ちゃんが姉同然に慕ってやまない、竜宮レナのことだった。 魅音(私服): まぁ……あれでも結構、最近は思ったことを素直に言ってくれるようになったんだよ。 魅音(私服): #p雛見沢#sひなみざわ#rに戻ってきたばかりの頃は、正直……あまりいい傾向じゃなかったのは確かだね。 千雨: ……何か、あったのか? 魅音(私服): その辺りについては、本人の事情だから私の口からは言えないよ。でも……。 魅音(私服): いつもにこにことした笑顔、明るくて優しくて、気配り上手……別に無理をしている感じでもない。 魅音(私服): だけど……いや、だからこそ不安になる。いつかその仮面が顔からはがれ落ちた時、別の一面とどう決着をつけるんだろうな、ってさ。 千雨: ……そうか。 どういう事情と、意図でもっての話なのかは読み取れなかったが……魅音が「彼女」のことを心配していることだけは伝わってくる。 とはいえ、まだ親しくなっていない今は無理に聞き出すのは失礼の極みだろう……そう思って、話の向きを変えることにした。 千雨: あと……私はさっき嘘が嫌いだと言ったが、ひとつ訂正させてくれ。 魅音(私服): ……? 千雨: たとえ嘘でも、真実を隠してても……目の前に見せるものを真実に変えようとする努力は、評価されるべきだと思う。 千雨: それは、相手を騙して利用しようという邪な思いじゃなくて……むしろ相手の信頼に自分が応えられるように行う、努力だからな。 魅音(私服): そう言ってくれると、友人としてもありがたいね。 魅音(私服): あと、菜央ちゃんはその、あの子のことを……。 千雨: 今のところは気づいてない……と思う。あるいは、気づいてても知らないふりをしてるかの、どちらかだろう。 千雨: ただ、そのことをどちらも私たちにはまだ言ってこない以上……こちらとしては、待つしか無いと思う。 魅音(私服): ……そうだね。 そう言って、これ以上話を続けるべきかそれとも打ち切るべきかで迷い、なんとなく言葉が途絶えた……と、その時だった。 レナ(キャスト): 魅ぃちゃーん、千雨ちゃーん……! 空気を打ち破るように声をかけてきたのは、さっきまでの話題の中心にいたレナ本人だった。 Part 02: 魅音(私服): あれ、レナ。まだ着替えていなかったの?千雨はパレードが終わったらすぐ脱いでいたのにさ。 千雨: ……言うな。あんな格好はもう、金輪際ごめんだ。 レナ(キャスト): はぅ……だってこの衣装、とってもかぁいかったんだもん。もう少しだけこのままでいたいかな……かな。 魅音(私服): まぁ、もう閉園したから自由にして構わないよ。……っと、私はこのあとに支配人さんたちと来週からの打ち合わせがあるんだった。 魅音(私服): もうすぐ迎えの車が来る予定だから、あんたたちはそれまで控え室で休んでいてね。んじゃ、よろしくー。 そう言って魅音は、ひらひらと手を振ってこの場から去っていく。 ……空気を変えたい気分だったので、彼女から立ち去ってくれたのは正直ありがたかった。 千雨: ……行ったか。相変わらずフットワークの軽いやつだな、魅音は。 千雨: いいところのお嬢様はもっと、人任せにして偉そうにふんぞり返ってるものだと思ってたよ。 レナ(キャスト): あははは。魅ぃちゃんは、みんなに動いてもらうんだったらまずリーダーから、っていつも話しているよ。 レナ(キャスト): だからレナたちも、多少の無茶なお願いでも喜んで聞いてあげることができるんだ~。 千雨: ……今回は、多少のレベルを超えてると思うぞ。素人に大型アミューズメントパーク並みのパフォをやらせるなんて、正気の沙汰じゃない。 レナ(キャスト): うん、結構大変だったよね。……でもその分すっごく楽しくて、やりがいもあったかな、かなっ。 千雨: そういう前向きな姿勢は、たいしたもんだな。私はどちらかというと悲観論に寄ったタイプだから、正直憧れるというか……尊敬するよ。 レナ(キャスト): ……レナも、最初からこうだったんじゃないよ。魅ぃちゃんや千雨ちゃんが話していたように、自分の思いを出すのが上手じゃなかったから……。 千雨: っ……お前、私たちの話を聞いてたのか? レナ(キャスト): ごめんね。立ち聞きするつもりはなかったんだけど、偶然通りがかった時に2人の会話が聞こえてきて……。 千雨: ……悪いな。陰口を叩くつもりはなかった。 千雨: あ、けど私はともかく……魅音は私を気遣って、話を合わせてくれてただけだ。だから、あいつのことは許してやってくれ。 レナ(キャスト): あははは、大丈夫だよ。だって2人とも、レナのことを心配してくれていただけなんだよね。 レナ(キャスト): 見抜かれていた、って知った時はちょっと驚いたけど……やっぱりレナは#p雛見沢#sひなみざわ#rに帰ってきて良かったな、って。 千雨: ……いい友達に恵まれて、よかったな。お前たちの絆の強さは、改めてすごいと思うよ。 レナ(キャスト): うん、そうだね。……だからレナは、もっと頑張らなきゃいけないんだ。 レナ(キャスト): 魅ぃちゃんに優しくしてもらって、詩ぃちゃんに信頼されて……沙都子ちゃんや梨花ちゃん、羽入ちゃんに慕われて……。 レナ(キャスト): 菜央ちゃんに甘えられて、美雪ちゃんや千雨ちゃんに褒めてもらって……みんなの笑顔のためだったら、レナは何でもできる。 レナ(キャスト): どんなに辛くて、「い」やなことがあっても歯を食いしばって……顔を上げていられる。私はそう、思っているんだ。 千雨: ……。えっと、いいのか?まだ会って間もない私に、そこまで話しても……。 レナ(キャスト): はぅ?……あ、あれっ?どうしてレナ、こんな話を千雨ちゃんにしちゃったのかな、かな……? レナ(キャスト): ごめんね千雨ちゃん、変なことを言って。あの、このことはみんなには……はぅ……。 千雨: ……あぁ、わかってる。絶対に誰にも言わないし、お前にもこのことを今後突っ込んだりしない。 千雨: なにしろ私は、体育会系の脳筋だからな。記憶力は鳥並で、すぐに忘れちまうんだ。 レナ(キャスト): ……ありがとう。やっぱり千雨ちゃんは、見かけ通りに優しいね。それじゃ。 千雨: ……。見かけ通りに……か。生まれて初めて言われたぞ。 千雨: にしても、魅音とレナはずいぶん私に対して胸襟を開いた話をしてきたな。これっていったい……? …………。 千雨: ひょっとして……一穂、お前の仕業なのか……? Part 03: 魅音(キャスト): さぁ! いよいよリニューアルイベントも今日が最終日! みんなも疲れているだろうけど、もうひと頑張りよろしくねー! 梨花(キャスト): みー!全員一丸になって、ふぁいと、おーなのですよ~♪ 美雪(白うさぎ): おー! というわけで私は最後も全力で逃げるから、千雨と菜央はちゃんとついてきてねー! 菜央(マッドハッター): はいはい。だからといってこの前みたいにつんのめって、派手に転んだりしないでよね。 美雪(白うさぎ): 大丈夫、任せて!さすがにちょっとびっくりしたけど、衣装は無事だったわけだしさっ。 菜央(マッドハッター): 服なんて二の次でいいのよ。破れほつれは頑張って直すことができても、傷でも残ったら一生ものなんだからね。 羽入(キャスト): あぅあぅ……菜央は美雪が怪我をしないように、と心配してくれているのですよ~。 菜央(マッドハッター): べ、別にそういうことじゃないわ!あたしはただ、あとで色々と面倒なことにならないように、って思っただけで……! 美雪(白うさぎ): ……ありがとね、菜央。ラストも失敗しないように注意するから、キミも怪我がないようにね。 菜央(マッドハッター): ふん……当然よ。レナちゃんの晴れ舞台の邪魔をしないよう、しっかりとやり遂げてみせるわ。 美雪(白うさぎ): 千雨も結構大変だったと思うけど、今日で最後だからしっかりね……って、千雨? 千雨: これで最後だ……私はやれる。これで最後だ……私はやれる。これで最後だ……私はやれる……ッ! 美雪(白うさぎ): お、おぅ……なんか鏡に向かって、強敵との決戦前によくある自己暗示をかけてるみたいだねー。 沙都子(キャスト): こういうおまじないって、わりと効き目があったりしますのね。私もやってみましてよ。えっと……。 圭一(キャスト): ブロッコリー、なす、カボチャ、アスパラガス。ブロッコリー、なす、カボチャ、アスパラガス。ブロッコリー、なす、カボチャ、アスパラガス……。 沙都子(キャスト): ひっ、ひいぃいいっっ……って、圭一さん!背後から物騒極まりない単語をつらつらと呟かないでくださいましっ! 圭一(キャスト): いや、こうして脳内に叩き込んでおけば苦手意識がなくなるんじゃないか、と思ってさ。 沙都子(キャスト): むしろ夜な夜な悪夢にうなされそうですわ!……って、詩音さん?その手にあるカセットデッキは何ですの?! 詩音(私服): 即興でテープに吹き込んでみました。エンドレス再生になっているので、あとで聞いてみますか? 沙都子(キャスト): 断じて結構!冗談は寄せ鍋ちゃんこ鍋でしてよ~!! ……なんて感じに、私たちは楽しく盛り上がる。 #p雛見沢#sひなみざわ#rを再び訪れた時、私は1日でも早く真相を突き止めて美雪と菜央ちゃんを連れ帰る――頭の中には、そんな思いしかなかった。 だけど、こうして皆と一緒に同じ時間を過ごしていると……なぜだろうか……。 いつまでも、この「世界」でのんびりとした毎日を送るのも悪くない……そんな誘惑に身を委ねそうになっていた……。 観客A: おっ、来たぞ来たぞ! お姫様の登場だ! 観客B: わーい! お姫様、こっちを向いてー! 観客C: あっ……手を振ってくれたわ!ラッキー! お姫様の衣装に着替えたレナが、観客の前に現れ……演奏とダンスの動きの中、可憐な容姿を披露している。 まるでプロの役者のように綺麗で、見事な振る舞いだ。菜央ちゃんが慕って懐いているのも、頷ける気がする。ただ……。 千雨: ……。誰かのために、自分を偽ってでも頑張ってみせる……か。 それができるやつは、すごいと思う。……だけど同時に、悲しくて切ない。 そんな思いから生じる切なさが、レナの美しい笑顔に繋がっているのだとわかってはいるのだけど……。 千雨: だから……お前も自分だけ抱えようとせずに、ちゃんと話をしてくれよ。 千雨: 必ず、探し出してやるからな……一穂……。