Part 01: 名雪: それじゃ、わたしはレナちゃんたちと一緒にここのスーパーで買い物をしてくるから、待ち合わせの時間になったらここで集合ね。 美雪(冬服): んー、それはもちろん構わないけど……一緒に行くのは、レナと菜央だけでいいの?荷物持ちだったら、私と一穂も喜んでやるよ。 一穂(Kanon): そうだね。私たちって、宿が取れなかった都合で名雪さんの家でお世話になってるんだし……せめてそれくらいのお手伝いはしないとね。 名雪: あはは、平気だよ。今日の夕食の食材はもう買い込んであって、あとはお肉と調味料くらいだから。 一穂(Kanon): そ、そうは言っても……今夜は魅音さんたちも一緒に加わっての、大夕食会だって話でしょ?お肉だけでも、ものすごい量になるんじゃ……。 レナ(冬服): あははは。確かにお肉はたくさん買う予定だけど、3人で持てる範囲だから大丈夫だよ。 美雪(冬服): にしても、秋子さん……名雪さんのお母さんには本当に感謝、感謝だねー。毎食の料理に加えて、今夜はご馳走まで作ってくれるんだもの。 名雪: ううん。美雪ちゃんたちが来てくれなかったらお母さんも真琴も、大変なことになってたかもしれないんだから……これくらいのことは当然だよ。 菜央(冬服): あと……美雪をスーパーの中にまで同行させるとまた保存がきくだの手間が省けるだのと言って、パンを買うでしょ? で、それに一穂が抵抗する……。 菜央(冬服): #p雛見沢#sひなみざわ#rならまだしも、こんな馴染みの薄い町で騒ぎなんて起こしたりしたら、警備員さんがすっ飛んでくるわよ。あと、警察もね。 菜央(冬服): 今夜は2人揃って、留置場にでも行ってかつ丼を食べたいって言うなら、止めないけど……どう? 美雪(冬服): おぅ……信用がないとは、悲しいねぇ。私だってそれくらいの分別はついてるよ、ねぇ一穂? 一穂(Kanon): ……。そう言えば美雪ちゃん、そっちに貼ってあった大安売りのチラシをさっきからじーっと見てたよね……。 一穂(Kanon): 確か……『新春パン祭り』?この町ってそんなことをやってるんだね。へー、ふーん……? 菜央(冬服): ……なんてことを店内でやりそうだから、外に出てなさいって言ったのよ。 一穂(Kanon): うぐっ……? 菜央(冬服): あと、外でも騒がしい真似をしたら強制的に夕食会は不参加に決定。いいわね一穂、美雪? 美雪(冬服): はいはい、行ってらっしゃいませ。大人しく適当に時間をつぶしてますよー。 美雪(冬服): レナも、菜央のことをよろしくねー。迷子にならないように、ちゃんと見ててあげてよ。 レナ(冬服): うん、任せてっ。はぐれたりしないように、こうして手をつないでおくから……ね? 菜央(冬服): っ、ぁいっ……?あたしは、子どもじゃないんだから……! レナ(冬服): はぅ……菜央ちゃんは、レナと手をつなぐのが嫌なのかな、かな……? 菜央(冬服): い、嫌じゃないわっ!そんなわけないじゃない、大歓迎よ!! レナ(冬服): あははは、よかった。それじゃみんなのためにおいしい食材、いっぱい買ってこようね♪ 菜央(冬服): う、うんっ!……美雪、あとで覚えてなさい。 美雪(冬服): なに言ってんのさ、嬉しいくせに。んじゃ3人とも、よろしくねー。 美雪(冬服): ……っと、見送ったのはいいけどあとはどこで時間をつぶすかだね。一穂は、どこか行きたい店とかってある? 一穂(Kanon): うーん、特にはないかなぁ……。ちなみに美雪ちゃんって、お金は持ってる? 美雪(冬服): 一応ね。何かあった時のためにこつこつ残してきたへそくりを……ほらっ。 一穂(Kanon): わっ……す、すごい……!私なんて、お買い物ができると思ってなかったから手持ちはこれだけだよ……。 美雪(冬服): そうなの? んじゃ、さっきからかっちゃったお詫びも兼ねて……この前連れてってもらった喫茶店に行くってのはどう? 一穂(Kanon): えっ……い、いいのっ?! 美雪(冬服): もちろん。それに一穂って、あの時名雪さんが頼んだイチゴサンデーを食い入るように見てたしねー。 一穂(Kanon): あぅ……や、やっぱりばれちゃってた? 美雪(冬服): あははは。ほんと一穂って、注文をする時に周りを気にしすぎちゃうところがあるよねー。遠慮せずに頼めばよかったのにさ。 一穂(Kanon): だ、だって……あのイチゴサンデー、残りがあと少ししかないって言ってたし……他の子も食べたいかな、って。 一穂(Kanon): それに、あれを頼んじゃったら残りの所持金がちょっと心もとなくて……。 美雪(冬服): だとしたら、今日は別に気にする必要はないね。私も頼むから、一緒に食べよう。 一穂(Kanon): ……うんっ、ありがとう美雪ちゃん!っ、わぁっ! 美雪(冬服): っと、足元気をつけなよ。雪が氷になって、滑りやすくなってるんだから。 一穂(Kanon): ご……ごめんねっ。それじゃ、百花屋さん……だったっけ?そのお店に行こう! 美雪(冬服): あ、だから一穂。ちゃんと前を見て歩かないと、危な――。 一穂(Kanon): えっ……わ、わわっ? あゆ: ――わぁぁっ!? 一穂(Kanon): い、痛たたた……ご、ごめんなさい。大丈夫ですか? あゆ: うぐぅ……へ、平気だよ。ボクの方こそごめんね、ちゃんと前を見てなくて。 美雪(冬服): あれっ……? キミは確か、この前……。 あゆ: うぐぅ……? あっ、こんなところで会うなんて偶然だね……って、ああっ!? 一穂(Kanon): ど、どうしたの……? あゆ: うぐぅ……ボクのたい焼きが……キミのお尻に敷かれてぺっちゃんこにー!? 美雪(冬服): あちゃー……こりゃ鯛じゃなくて、もはやマンボウだね。 一穂(Kanon): ご……ごめんなさい!ど、どうしよう美雪ちゃん……っ! 美雪(冬服): んー、どうしようって……こういう場合、お詫びと言ったら「これ」しかないでしょ。 あゆ: うぐぅ……? Part 02: ウエイトレス: ……お待たせいたしました。イチゴサンデー3つになります。 あゆ: うぐぅ……ほ、本当にいいの?このお店のイチゴサンデーをご馳走してもらって……。 美雪(冬服): 遠慮しないでいいよ。たい焼きをダメにしちゃったお詫びだからさ。 美雪(冬服): 本当はたい焼きを買い直すべきかもだけど、お店が早じまいをしちゃってたみたいだしねー。とりあえず、これで勘弁してよ。 あゆ: 全然いいよ!ボク、このお店のイチゴサンデーも大好きだからっ! いただきまーす! 一穂(Kanon): ご……ごめんね、美雪ちゃん。お金は#p雛見沢#sひなみざわ#rに戻った後で、必ず返すから……。 美雪(冬服): さっきのお詫び込みだって言ったでしょ?一穂は気にしなくてもいいから、ね? 美雪(冬服): それより、早く食べないと溶けちゃうよ。いっただっきまーす! 一穂(Kanon): いっ……いただっきまーす! 美雪(冬服): お……こりゃおいしい。エンジェルモートのパフェも最高だけど、ここのイチゴサンデーもいいね~。 一穂(Kanon): うん……! あ、でも私たちだけこんなおいしいものを食べててもいいのかな?菜央ちゃんたちは、夕食のお買い物中なのに……。 美雪(冬服): んー、大丈夫でしょ。だって菜央、雛見沢に戻る前に駅前辺りをレナと2人で買い物するのー、って嬉しそうに言ってたからね。 美雪(冬服): その時にきっとこのお店に入るだろうから、おいしかったよー、って教えてあげようよ。あの子も、レナと2人で食べる方がいいだろうしさ。 一穂(Kanon): そ、そっか……じゃあ、遠慮なくっ。 あゆ: もぐもぐ……んー、冷たくて甘ーいっ♪ 美雪(冬服): えっと……キミってあゆちゃん、だったよね? あゆ: うん。キミたちは美雪ちゃんと、一穂ちゃん……だよね? 美雪(冬服): ありがと、覚えてくれて。たい焼きを買ってたみたいだけど、甘い物が好きだったりするの? あゆ: うん。寒い時に食べるたい焼きは、格別においしいんだ~!……あ、でもこのイチゴサンデーもおいしいよ! 一穂(Kanon): た、たい焼き、本当にごめんなさい……。 あゆ: 気にしないで。ボクも前を見てなかったから、おあいこだよ。 一穂(Kanon): …………。 一穂(Kanon): (……そう言えば、この子って私が学園で魔物を倒した後に、夢の中で出てきた子に似てるような……?) 一穂(Kanon): (それに……) 美雪(冬服): あ、それと最初に会った時に聞こうと思ってたんだけど……その服って、羽入が着てるのと似てるね。 あゆ: えっ……? 羽入……って、誰? 一穂(Kanon): えっと……わ、私たちの友達。その子が着てる服と、似てるんだよ。その鞄もね。 美雪(冬服): そうそう。羽入も可愛い感じだったけど、キミも似合ってるよねー。 あゆ: ありがとう! その羽入って女の子とも、一度会ってみたいねー。 美雪(冬服): ……。うん、また機会があったら紹介するよ。あ、そうだ。もうひとつ聞きたいんだけど、キミってこの町に住んでるの? 美雪(冬服): よかったら私たち、町のことを知りたいから案内してもらいたいんだけど。 あゆ: いいよ! あ……そうだ。イチゴサンデーをご馳走してくれたお礼に、いいところにつれていってあげるね! 一穂(Kanon): い、いいところ……? 美雪(冬服): …………。 美雪(冬服): (私たちは羽入のことを、あえて女の子だって言わなかったのに……彼女は「女の子」って決めて、話してきた) 美雪(冬服): (これって……たまたま? それとも……) Part 03: 一穂(Kanon): あの……ここって……? あゆ: 素敵な場所でしょ?ここは、ボクの思い出の場所なんだ。 美雪(冬服): へー。この切り株って、結構大きいね。年輪から数えると、えっと……。 一穂(Kanon): (美雪ちゃん……すごく熱心に観察してる。何か気になることでもあったのかな?) あゆ: ……ねぇ、一穂ちゃん。 一穂(Kanon): え、あっ……なに? あゆ: ボク、ここで失くしものをしたんだ。 一穂(Kanon): な、失くしもの……? あゆ: うん。でも、この前やっと見つかったんだ。ボクの大事な人が、探し出してくれたの。 一穂(Kanon): そうなんだ……よかったね。 一穂(Kanon): (悪い子じゃない……それだけはわかる。でも、この子は……どうして……) 一穂(Kanon): ……。あの、あゆさん。あなたって、私の……その……。 あゆ: ……ボク、ここで人を待ってるんだ。 一穂(Kanon): えっ……? あゆ: ボクの失くしものを見つけてくれた人と、約束したんだ。だから、帰ってくるのをここで待ってるんだよ。 一穂(Kanon): ……そっか。早く会えるといいね。 あゆ: うんっ! 一穂(Kanon): (……確かめるなら、今しかない。夢の中のあの子の話が、本当なら……) 一穂(Kanon): (だけど……もし私の勘違いだったら、嫌な気分にさせるかもしれないし……) あゆ: ……一穂ちゃん。 一穂(Kanon): っ、な……なにかな、あゆさん。 あゆ: 何か、苦しいって思うことがあるんだね。 一穂(Kanon): ……。どうして、そんなふうに思うの? あゆ: なんとなくだよ。……もしよければ、ボクに話してもらってもいいかな?大丈夫、誰にも言わないから。 一穂(Kanon): …………。 一穂(Kanon): (……あとになって考えると、私はなぜあゆさんにこんなことを言ったんだろうと不思議に感じる) 一穂(Kanon): (だけど私は、自分でも驚くほど自然に抱えていたわだかまりを打ち明けていった) 一穂(Kanon): あのね、あゆさん。もし、もしも……。 一穂(Kanon): 私たちがここに来たせいで、いろんな人が不幸になったとしたら……やっぱり、みんな怒るのかな。 あゆ: ……どうして? 一穂(Kanon): どうして、って……私たちがここに来たせいで、不幸になった人がいるんだよ?体調を壊したり、危ない目に遭ったり……。 一穂(Kanon): この町は、奇跡が眠る町って聞いたけど……私たちのせいで、せっかくのその奇跡がおかしくなったかもしれなくて、それで……っ。 あゆ: ……。一穂ちゃんは、それを望んだの? 一穂(Kanon): えっ……? あゆ: みんなが不幸になることを望んで、……そう思って、ここに来たの? 一穂(Kanon): そ、そんなことは……! あゆ: じゃあ、キミたちのせいじゃないよ。 一穂(Kanon): ……っ……?! あゆ: 不幸な偶然、ただの事故。キミたちのせいじゃない。 あゆ: だから、そんな顔しないで大丈夫。……それに、ちゃんと奇跡は戻ってきたんだから。 あゆ: キミたちのせいじゃない。祐一君も、きっとそう言うはずだから。 一穂(Kanon): でも、……。 あゆ: ……ねぇ、一穂ちゃん。 あゆ: 奇跡は、願わないと起きないんだよ。誰かが願ったから、ちゃんと奇跡は戻ってきた。 あゆ: だから、キミも信じて。ボクも……奇跡を信じる。 あゆ: きっと、奇跡は起きるよ。だから……覚えていて。キミの大事な人、そして……のことを――。 一穂(Kanon): っ……あゆさん?どこに行くの、あゆさんっ――? 一穂(Kanon): (っ、風で目が……!) 美雪(冬服): ねぇ、あゆちゃん。この木だけど、切り口が新しいけど……あれ? 美雪(冬服): 一穂、あゆちゃんってどこに行ったの? 一穂(Kanon): えっ……あ、あれっ?あゆさんが、いない……? 美雪(冬服): どうしたの? 帰っちゃった? 一穂(Kanon): わ、わかんない……急にいなくなっちゃって。でも……私に信じてって、言って……。 一穂(Kanon): 奇跡は起きる、……って。だから、大事な人のことを忘れないでって。 美雪(冬服): 奇跡……奇跡、か。具体的に何のことを指すのかはわからないけど……それが大変なことだってことはわかるよ。 美雪(冬服): 大事な人のことを覚え続けてるのって、結構……辛かったりするからさ。 美雪(冬服): 会いたいって願っても会えないんだったら、いっそ忘れたほうが楽なんじゃないかって思うこともあったりするしね。 一穂(Kanon): 美雪ちゃん……。 一穂(Kanon): (お父さんのこと、思い出してるの……?) 美雪(冬服): しっかしまぁ……結局手紙で私たちを呼び出したヤツの正体はわからず仕舞いだね。手がかりもないしさ。 美雪(冬服): ただ、いろんな人に会えたし……無駄な旅じゃなかったかどうかは、これからの私たち次第かな。 一穂(Kanon): …………。 美雪(冬服): だから、覚えていようよ。この町で何が起こったかを、さ。これからの私たちのためにもね。 一穂(Kanon): う、うん……でも、あゆさんって何者だったんだろう。 美雪(冬服): さぁ、なんだったんだろ。けど……どうしてかな?また会えるような気がするんだ、何となくね。 一穂(Kanon): 私たちが、覚えていれば……? 美雪(冬服): あはは、そういうこと!……さ、帰ろう!菜央たちのところへね。 一穂(Kanon): うん! 田村媛命: ……そなたらには、迷惑をかけた#p哉#sかな#r。神ゆえに謝罪はできぬが、心は伝えておく哉。 あゆ: ううん、そんなことないよ。問題は解決したし、新しい友達ができて楽しかったしね。 あゆ: ……でも、あの子たちは大丈夫かな? 田村媛命: 問題ない#p也#sなり#rや。あやつらは、我輩の御子故。 あゆ: キミのことは、正直まだよくわからないけど……キミがあの子たちを信じてることはよくわかるよ。 あゆ: ボクが、祐一君を信じたみたいにね。 あゆ: 奇跡は、必ず起こる。だから……。 あゆ: 頑張って、みんな!