Part 01: 魅音(私服): やっぱり、サーカスくらいのイベントをやると遠方からの来客を大勢見込めるのが魅力だよね。宿はもちろん、飲食とかも期待できるし。 魅音(私服): ただ、交通の便は整えておかないとだね。高速道路の誘致を前提としてバスとタクシー、公共交通機関の導入の他には……。 詩音(私服): 新幹線の駅ができると、さらにいいんですけどね。まぁ、それら全部は長期的な計画になりそうです。 魅音(私服): 今回の反省点は、チケット枚数の関係もあってかなり取りこぼしがあったからことだね。次に誘致する時は、そこをクリアしておかないと。 詩音(私服): ですねー。これで定期的な誘致が実現すれば、村おこしの強力な助っ人になると思いますよ。で、あとは……。 圭一(私服): ……なんで魅音と詩音が、ここにいるんだ? 魅音(私服): あれっ、圭ちゃん……。あんたこそ、どうしてここに? 圭一(私服): ケイジと会う約束をしていたんだよ。今日の放課後にちょっと、時間をくれってさ。 魅音(私服): ケイジ……あぁ、例の圭ちゃんに激似のピエロだね。 詩音(私服): 仲良くなったんですか、圭ちゃん?あのピエロが脱走してくれやがったせいで、あんたは死にかけたっていうのに……。 圭一(私服): まぁ、それは事実だけど……本人には言うなよ。あいつそのこと、すげぇ気にしているからさ。 詩音(私服): 気にすればいいんです。そのおかげでお姉と圭ちゃんが大変なことになったんですから。 魅音(私服): 詩音も事情を聞いて、納得していたじゃんか。もう手打ちをしたんだから、あまり引きずって相手を萎縮させると今後やりづらくなるよ。 詩音(私服): そりゃ、そうですけど……お姉はいいんですか?あんな大変な目に遭ったのに、あっさり許して。 魅音(私服): 大事になる前に、なんとかなったしね。圭ちゃんも許したのなら、私は別にいいよ。 魅音(私服): いや、でも……まさか私がサーカスのステージに立つことになるとは夢にも思ってなかったけどね。 魅音(私服): あー、そうとわかっていたならもっと色々準備したってのにっ! 圭一(私服): おいおい、魅音。もしわかっていたら何を準備するつもりだったんだよ……ん? ケイジ: あぁ、来たのか圭一。……って、園崎さんたちもここにいたんですね。 圭一(私服): 園崎……さん? なんか他人行儀な喋り方だな。 ケイジ: 今回の公演の後援者だからさ。トラブルの対応にも全面的に協力してもらったし。 ケイジ: それに、あの件では……大変お世話になりました……はい……。 詩音(私服): ……お姉の言う通りですね。気を遣われた上に圭ちゃんと同じ顔の人に敬語を使われたんじゃ、なんだか落ち着きません。 魅音(私服): 違うってわかっていても、なんかこう……ソワソワするね……普通でいいよ、普通で。 ケイジ: いいのか? そうか、わかった……。 ケイジ: にしても君たち2人とも、この前は大喧嘩していたのにもう仲直りしたんだな。 圭一(私服): 大喧嘩……? 魅音(私服): あー、小さい頃にサーカスを観に行きたいって言い出したのは、私たちのどっちかってこと? 詩音(私服): あれはお姉ですよ。 魅音(私服): いーや、それを言ったのは詩音だって! 魅音&詩音: ……っ……。 圭一(私服): ……まだ、決着がついていなかったんだな。 ケイジ: 悪い、焼けぼっくいに火をつけた。 圭一(私服): いや、その言葉の使い方は違うんじゃないか?まぁなんとなく、ニュアンスだけは伝わるが……。 圭一(私服): とにかく、気にするなって。この2人はいつもこんな感じなんだしさ。 魅音(私服): ちょっと……圭ちゃん。その発言、さすがに聞き捨てならないね。 詩音(私服): そうですよ、お姉の記憶違いが原因なんですから。 魅音(私服): いーや、詩音の記憶違い! 圭一(私服): ……止まらないな。 ケイジ: うちの団員にも姉妹がいるが、どうも年が近けりゃ近いほど揉めるそうだ。 圭一(私服): はぁ、なるほど……双子なら、なおさらってやつか。複雑なんだな、姉妹って。 ケイジ: ……僕は一人っ子だったから、憧れるよ。こんなふうに、仲良く揉めたりできる相手がいつも近くにいるってのはさ。 圭一(私服): …………。 圭一(私服): あぁ、確かに。無い物ねだりだってわかっちゃいるんだがな。 Part 02: 圭一(私服): そういえば、2人はなんでサーカスの会場に来ていたんだ? 今日は休演日なのにさ。 魅音(私服): 運営さんたちに色々と話を聞きにきたんだよ。元々#p興宮#sおきのみや#rで興行の予定がなかったから、これを逃すとチャンスがなさそうだと思ってさ。 圭一(私服): あー……そうか。元々は穀倉でやる予定だったんだもんな。 詩音(私服): 消防法やらなんやらで諸々引っかかって、取りやめになったんでしたね。 ケイジ: ……あれは参ったよ。通達があった直後の団員の空気も、最悪だった。 圭一(私服): まぁ……やるぞーっ! って気合い入れていたのに急に中止って言われたら、空気も悪くなるよなぁ。 魅音(私服): 多少だったら、大目に見てくれればいいのにね。まぁおかげでうちは結果的に得したわけだから、それはそれでよかったんだけどさ……。 圭一(私服): いや、さすがになぁなぁはダメだろ。万が一火事が起きたら、誰の責任だって話になるんだから。……だよな、ケイジ? ケイジ: あぁ。以前の公演の時にも、観客席で客のポイ捨てタバコが原因でボヤ騒ぎが起こって……大変だったよ。 ケイジ: うちは動物もいるから、避難も簡単じゃない。火の始末や防災対策には、うんざりするほどしつこく時間と手間を割いているよ。 圭一(私服): ……本当に大変なんだな、興行って。 ケイジ: まぁな。もっとも、中止だったら次の公演までのんびりするしかないか、って開き直ることもできるんだが……。 ケイジ: 今回みたいに別の場所に移ってやるって通達があった時は、大慌てだったよ。休み返上で、準備に駆けずり回ったりしてさ。 詩音(私服): えっ……つまり、本来お休みだったのが興宮の興行で取りやめになったんですか? 魅音(私服): なんか……悪いね。私たちのために、無理をさせちゃったみたいでさ。 ケイジ: いや、元々休みだなんて誰も言ってなかったのにそういうことになるだろうって勝手に思い込んだこっちが悪い。 ケイジ: ただ、最近は色々あったせいでみんな疲れていて……正直僕も、ちょっと休みたかったんだけどね。 圭一(私服): 親父さん、団長さんなんだよな? ケイジ: あぁ。でも、みんなが疲れているから休み取るか、とはいかないからな。予定はもう年単位で決まっているからさ。 ケイジ: といっても、ちょっと不幸なことが立て続けにあって……みんなの気が立っていたのも確かだよ。 魅音(私服): 歯車がひとつ狂ったら、後々の予定までおかしくなるってやつか……。なんとか、立て直すことはできそう? ケイジ: もちろんさ。それに立て直さないと、先が続かないしね。 魅音(私服): そうだね……やり直してくれると嬉しいよ。美雪、あんたたちサーカスのファンだから。無くなったらすごく悲しむと思う。 ケイジ: ……知っている。直接伝えてもらったからさ。 詩音(私服): そうですね、あの芸がこれから一生見られなくなるのはもったいないです。2回目は、なかなか楽しく見られましたから。 魅音(私服): まぁ初公演の時はなんやかんやで、落ちついて楽しむどころじゃなかったからね。 ケイジ: ……ごめんなさい。 魅音(私服): あー、いいっていいって。事情はもうわかったことだしね。 詩音(私服): それに他の団員さんたちも言っていましたが、たかが1人欠けたくらいでパニックになる方が問題だとは思いますよ。 ケイジ: まぁ、迷惑をかけた僕が言うのも変だけど、それくらい厳しい状況だったってことさ……。 魅音(私服): 悪いことの積み重ねのしわ寄せが、今回の騒動に繋がったってことか。いやー、どこも色々あるねぇ。 圭一(私服): ……華やかなサーカス団も、結構大変なんだな。 魅音(私服): うん……圭ちゃん、それは逆じゃないかな。 圭一(私服): ん……逆って、どういう意味だ? 魅音(私服): 華やかだからサーカスじゃなくて、サーカスだから華やかに見せているんだよ。 魅音(私服): 家の中のことなんて、外からじゃわからない……と言うか、わからないようにするしかない。 魅音(私服): 理解されると大きな問題になるなら、理解されないように隠すしかないからね。 魅音(私服): よくある話だよ……悲しいけどさ。 詩音(私服): お姉……? 魅音(私服): まぁでも、火の輪くぐりに挑む圭ちゃんの勇士は見たかったな!あっはっはっはっ! 魅音(私服): そうだ、サーカスに白いライオンっているよね!火の輪くぐりとかをやっていた! ケイジ: あいつか? 慣れた人に対しては大人しいが、そうじゃないヤツにはちょっと荒っぽいぞ。 魅音(私服): じゃあ今度、そのライオンと仲良くなれたら圭ちゃんと共演しようよ! 魅音(私服): 圭ちゃんVS白ライオン!どっちが華麗に火の輪をくぐれるかバトル! 圭一(私服): ひ、人ごとだと思いやがって……!よし決めた! 今度の部活で魅音をボロボロに負かしてやる! 魅音(私服): おっ、それでサーカス団で罰ゲームって? 魅音(私服): いいよ、その勝負乗った!圭ちゃんが負けたら今度こそ火の輪くぐりをやってもらうよ! 圭一(私服): おうよ、受けて立つぜ! ケイジ: おいおい……僕のサーカス団の仲間を罰ゲームに使う気か? 詩音(私服): へー。あなたがそれを言っちゃうんですか。 ケイジ: ぐっ……?! 詩音(私服): くっくっくっ……冗談ですよ、冗談。にしても、この程度でぎゃふんとなっちゃうのは見た目が似ていても、圭ちゃんとは別人ですね。 魅音(私服): ちょっと詩音、あんまり虐めちゃだめでしょ。 詩音(私服): はいはい、わかりましたって。 詩音(私服): ……うーん、でもやっぱりお姉だったと思いますよ。子どもの頃、サーカスを観に行きたいって言ったのはね。 魅音(私服): まだ言うか、あんたは?!あれは絶対詩音だって! 詩音(私服): お姉! 魅音(私服): 詩音! 詩音(私服): お姉! 魅音(私服): 詩音! 魅音&詩音: ううううううううううううううううううう!!! ケイジ: ……決着がつきそうにないな。 圭一(私服): 仲良く喧嘩しな、だな。 Part 03: ケイジ: そうだ、これを預かっていたんだった。圭一に渡しておけばいいかと思って……ほら。 魅音(私服): これ、って写真? あ……。 詩音(私服): これ、この前お姉が舞台に立ったやつですね。綺麗に撮れているじゃないですか。 圭一(私服): あの時の口上、すごかったよな。 魅音(私服): あぁ……あれか。 魅音(私服): レディースアーンド、ジェントルメン!林原大サーカスへようこそ! 魅音(私服): ところで、ここにいるお客さんの中でサーカスを観たのは初めて……ってのはいったいどれだけいるかなー? 魅音(私服): お、挙手ありがとう! いっぱいいるね~。だいたい半分くらいって感じ……? 魅音(私服): 初めましての人、実は私も同じなんです。この林原大サーカスが来てくれたおかげで、こうして本物を観ることができました。 魅音(私服): だから、これから始まる華麗なショーを早く早くと待ちかねる気持ち、よーくわかります! 魅音(私服): あー、でもでもでも……? この#p興宮#sおきのみや#rの地元民、サーカスに憧れた人間たちによる前菜もちょっとだけ観ていってほしい! 魅音(私服): これをやるせいで、本来のメインディッシュが減らされるなんてありえないから、そこはご安心。 魅音(私服): さぁ、暇つぶし程度に観ていって!その方が、メインディッシュの次の芸を美味しく楽しめると思うよ~! 魅音(私服): 借り物の衣装に、でまかせの口上……一世一代の大勝負にしては、ぶっつけ本番にもほどがあったよ。 詩音(私服): 観ているこっちも、いろんな意味でヒヤヒヤしましたよ……。 詩音(私服): けど、レナさんたちが盛り上げてくれたおかげで戸惑っていた観客の空気がいい感じに暖まって……時間稼ぎになりましたけど。 圭一(私服): あぁ言うの、なんだっけ……サクラって言うんだっけか? ケイジ: 見せかけの客ってやつだな。客を楽しませるのは真に技術だけではなく空気作りだ……って言うやつもいたよ。 ケイジ: 半信半疑だったが、あれを見せられたらあながち嘘とも言えないな。 魅音(私服): まぁでも、圭ちゃんに即興で助手を頼んだのは正解だったよ。よくわかったね、私の手品は初見だったはずなのにさ。 圭一(私服): 手品自体は見ていなかったけど……チケットを渡された時、この前部活で魅音がどんな手品をやったかは聞いていたしな。 圭一(私服): 隠し芸大会だっけか?あっちも大盛り上がりだったんだよな。俺も参加したかったぜ~。 圭一(私服): なんで誘ってくれなかったんだよ。俺だって自慢の隠し芸ひっさげて参加したってのに! 魅音(私服): いや、圭ちゃんも呼ぼうと思ったけど確かその日って興宮の学校で何かの行事があるって聞いていたから……。 魅音(私服): でも、そっか……覚えてくれていたんだね。ちょろっと話しただけだったのに。 圭一(私服): そりゃ、見たかったからな。 魅音(私服): ……そっか。うん、そっかぁ……。 ケイジ: ……あぁ、なるほど。 詩音(私服): なんですか、ケイジさん。納得ーみたいな顔で頷いていますが。 ケイジ: いや……お姉さんって、わかりやすいな。 詩音(私服): わかりやすいのが困りものなんです。こんな感じだと、どれだけそれっぽくても本物のサーカスはムリじゃないですか? ケイジ: そうだな。手品のタネを客に隠しているって意味だと、サーカス団は嘘つき集団とも言えるからな。 詩音(私服): まぁ、嘘でもいいんですけどね……。みんな不幸にしない幸せな嘘なら、別に。 魅音(私服): え、なに? 嘘って、何の話? 詩音(私服): ……お姉がサーカスを観たいって言い張っているのは、私の方だって嘘をついているって話ですよ。 魅音(私服): はぁっ?!いや、あれは絶対詩音だって……。 詩音(私服): でも、嬉しかったですよ。 魅音(私服): へ? 詩音(私服): 大昔の約束……いつか絶対、サーカス見に行こうねって。子どもの頃の話だったのに、ちゃんと覚えてくれていて。 詩音(私服): 私がつれて行くって話でしたけど、まさかお姉がサーカスそのものを連れて来てくれちゃうなんて……。 詩音(私服): サーカスを中止にしなかったのも、私との約束を守るためだったんですよね? 詩音(私服): ……嬉しかったですよ。ありがとう、お姉。 魅音(私服): 詩音……。 圭一(私服): ……って、今の詩音の話の流れだとサーカスを観たいって言い出したのは魅音ってことになってないか? 魅音(私服): はっ?! 魅音(私服): あっ、危ない危ない……!うっかり場の空気に流されるところだった……! 詩音(私服): ちょっ……圭ちゃんっ?! ケイジ: 圭一、今のは真実でも言っちゃまずかったんじゃないか……? 詩音(私服): 圭ちゃん、余計なことを言わないでくださいっ!空気読んでください、空気っ! 圭一(私服): ご、ごめんなさい……? 魅音(私服): こら、詩音っ!話をうやむやにするんじゃないよっ!