Prologue: 魅音(私服): というわけで今週末は、裏山を使って対『ツクヤミ』の特訓だー! そんな魅音さんの提案から始まった、裏山でのサバゲー演習。 多少の違いこそあったとしても、いつもの部活の延長で楽しく行われるものだと呑気なくらいに身構えていたのだけど……。 参加するメンバーの中に、予想もしていなかった「彼女」の姿を見つけて……私たちは言葉を失ってしまった。 一穂(私服): ど、どうして……絢花さん、がっ……?! 絢花(巫女服): 頑張りましょうね、一穂さん。 あまりにも大きすぎる変化が起きて、この「世界」にいるはずのない古手絢花さんとごっこ遊びとはいえ対峙することになり……。 羽入(巫女): 『……古手絢花を、殺してください』 羽入ちゃんの姿をした『オヤシロさま』からの、残酷すぎる依頼。本人を目の前にしても、私はそれをどうすべきか……わからなかった。 …………。 だけど、そんな私の背中を押して強く優しく、励ましてくれたのは――。 美雪(私服): キミと絢花さん、2人っきりじゃないとできない話だってあるんでしょ? -motion菜央:私服sinken菜央:私服「まずは本人の話を聞かなきゃ……というわけで、こっちは任せて行きなさい! 美雪ちゃんと菜央ちゃんにそう励まされて、私は絢花さんと対話することを決心し……小屋の中で絢花さんと向かい合い、戦った。 そして、激しい攻防の末に辛うじて彼女に打ち勝つことができた……のだけど……ッ! 一穂(私服): っ……ぐ、……がぁ……ッ……?! 私は、今……冷たくうつろな瞳の絢花さんの手によって、絶体絶命の危機に陥っていた。 一穂(私服): あ、……絢花さっ、……やめ……ぐっ……?! 息ができず、呼吸を求めて喘ぎながら必死に声を絞り出して訴えかける。 だけど絢花さんは一切の容赦もなく、細い腕からは信じられないほどの怪力で私の喉を締め続けていた……! 絢花(巫女服): ……抵抗しないでください。あなたを、長く……苦しませたくない……。 一穂(私服): ど、どうして……っ?絢花さっ……うぅっ……?! 理由を問い質しても、絢花さんはそれ以上何も語らず……何も答えようとしないまま私の首を握りつぶさんばかりに力を込めていく。 一穂(私服): ……っ、……が……ぁ……?! わからない……なんでこんな状況になっているのか、全く理解できない。 どうして絢花さんが、私を殺そうとしているのか。というより、そもそもなんで私は、彼女を殺せと命じられているのか……?! 答えの見つからない疑問だけがぐるぐると頭の中を巡り続けるのを感じていると……視界が、急速に暗くなっていく。 ……私は、ここで死ぬんだろうか。そんな思いと同時に意識が遠のき、全身から力が抜けて……もう――。 一穂(私服): えっ……? 突然、視界の下の方からあふれ出した光が徐々に広がって……私自身を飲み込んでいく。 そして、その正体が何なのかを考えようとした次の瞬間……ぷつん、と。 私の意識は、そこで途絶えてしまった――。 絢花(巫女服): っ……く、……ぅ……?! そのまばゆいほどの輝きによって「我」に返った私は、目眩を覚えながらも光源に向けて……いっぱいに手を伸ばす。 すると、ほんの一瞬だけ指先に何かが触れるような感覚があり、掴もうとして必死に手繰ってみせたが……。 絢花(巫女服): ……っ……?! 触覚は不意に途絶えて、光が収まってから改めて目を向けても何もなく……誰の姿も、ない。 ただ、周囲に生える水晶がほのかに輝く薄暗い洞窟だけが視界に映っていた……。 絢花(巫女服): ……ぁ、ぁあ……っ……! 悔しさとふがいなさにこぶしを握りしめ、私はごつっ、と自らの額へと打ちつける。 彼女を逃がしたことに対して、ではない。むしろ「救えなかった」ことが口惜しく、情けない思いで一杯だった……。 絢花(巫女服): っ、なんてことを……!わかっていたはずなのに私は……、っ? と、その時……背後に人の気配。 振り返って視線を向けたその先には、薙刀を手に携えた「あの人」の姿があり……静かな足取りでこちらへやってくるのが見えた。 雅: ……。やっぱり、私が事前に言っていた通りになったわね。 絢花(巫女服): っ……はい。私の意思とは関係なく、「あれ」は発動しました……っ。 そう「彼女」に頷いてみせてから……私はがっくりとその場に崩れ落ちる。 そして自らの手を震えながら見つめていると、目から涙がとめどなくこぼれ落ちていくのを感じていた……。 絢花(巫女服): なんで、どうして……っ?大切なお友達……一穂さんのためにも、絶対に言いなりにはならない……! 絢花(巫女服): やっと、絶好の機会を得られたと思って臨んだというのに……またしても私は、操り人形になってしまった……っ……! いったい、何が足りなかったのだろう。強い意思か、力か……あるいは、その両方か。 思えば思うほど後悔に苛まれて、悲しさと悔しさに胸が押し潰されそうだった……。 雅: ……あなたのせいじゃない。全てはこの「世界」をつくり出した『神』がやらせたもの。 雅: どんなに構えていても、他の#p雛見沢#sひなみざわ#rの子たち……公由一穂のそばにいる赤坂美雪や鳳谷菜央でさえ、本人たちの自覚なく恣意的に操られる。 雅: だから……自分を責めなくていい。 絢花(巫女服): ……っ……。 まだ止まらない嗚咽で啜り上げながら私は、膝をついて視線を合わせてくる「彼女」……西園寺雅さんに目を向けて見つめる。 淡々とした口調の中にも滲む、あたたかさ。……もう心が壊れたと自虐する彼女だったが、全ての感情が失われたわけじゃない。 不器用ながらも、気遣おうとする優しい感情。少なくとも、私だけは……そう信じたかった。 絢花(巫女服): っ……あなたの言う通りでした。もし『スクセノタマワリ』が圭一さんを通して一穂さんの手に渡っていなかったら……。 絢花(巫女服): 私は、自分の意思に関係なく……彼女の命を、奪っていたかもしれません……っ。 かけがえのない友達の命を、この手で奪う……想像するだけでも恐ろしく、おぞましい可能性だ。 絢花(巫女服): それで……一穂さんは、どの「世界」に飛ばされたんですか? 雅: ……次も変わらない。可能性によって雛見沢がたどるはずだった「世界」……そして……。 そう言って雅さんは、懐のポケットから小さな丸い塊を取り出す。 黒い、まるでビーズのような水晶玉だ。彼女は以前、それを古手家の秘宝のひとつ『カムノミコトノリ』と呼んでいて……。 雅: 実際にはあり得ない、幻想……彼女の心を壊すためだけに生み出された「可能性」のなれの果てよ。 手のひらの上で弄ぶように転がされたそれは、漆黒の中にひとつの像を映し出していた……。 Part 01: 一穂(私服): …………。 一穂(私服): っ、……ぁ……。 頭の中に……鈍い痛み。それを感じながら意識を取り戻した私は、恐る恐る目を開ける。 一穂(私服): ……。ここ、は……? 視界に映し出されたのは……土埃が舞う、岩と砂だらけの寂れた光景だ。 ……頬のあたりに、ざらついた感触。手の甲で拭うと、砂利と乾いた泥が肌にまとわりついてきた。 一穂(私服): っ、……ここは……? 確か、気を失う直前まで私がいたのは水晶が壁一面を覆う洞窟の中だったはずだ。……それが一変したことで、困惑を覚える。 そして、さっきまで自分を絞め殺そうとしていた絢花さんの姿は……どこにも見えず、気配も感じなかった。 一穂(私服): っ……私は、どうしてこんなところに……? 困惑とともに、疑問が思考を支配しかけたけど……すぐにそれは氷解してひとつの結論が導き出される。 これまでの経験から考えて、おそらく私は謎の干渉によって別の「世界」に移動させられたのだろう。 ただ、……何がきっかけとなってあの場所から移動することになったのかがわからない。 確か気を失う前に光を感じて、そして……。 一穂(私服): ……あっ……。 はたと気づいた私は、ポケットの中に手を入れてまさぐる。 指先に当たったのは、小さな丸いもの。取り出してみるとそれは、前原くんから預かった水晶玉……『スクセノタマワリ』だった。 一穂(私服): もしかして、これが……? そう思って太陽にかざしてみたが、『スクセノタマワリ』は光を反射するだけで特に変わった様子は見せない。 私の危機を察して、あの場所から脱出させてくれたのだろうか。あるいは、何か別の要因で……? 一穂(私服): ……とりあえず、まずここがどこなのかを確かめよう。 そして私は身体を起こし、地面に手をつきながら周囲へと目を向けて――。 一穂(私服): ……っ……? 物陰から人の気配がしたことで、私はよろめきながらも力を振り絞って立ち上がり……なんとか身構える。 すると、その奥から現れたのは――。 一穂(私服): えっ……?! 姿を見せたのは、レナさんと……魅音さん……? 魅音(アラビアン): ……おっ、気がついたみたいだね。怪我とかはしていないようだけど、平気? レナ(アラビアン): はぅ~……こんな人里離れた場所で気を失っていたから、悪い人たちに襲われたのかと思って心配したよ……。 レナ(アラビアン): もう動いても大丈夫なのかな、かな……? 一穂(私服): え……えっと……。どうして魅音さんと、レナさんが……?それに、その格好は……。 声をかけてくる2人の姿を見て、私は呆気にとられてしまう。 彼女たちの衣装は、まるで外国の……それもかなり、古い民族衣装のようだ。 少なくとも、見慣れた普段着ではない。そう考えた私が、訝しく目を向けると……。 魅音(アラビアン): っ……あんた、誰……? そう言って魅音さんは、若干の警戒心を表情に浮かべながら私をじっと見つめてくる。 隣に立つレナさんもまた、困惑したようにおずおずとのぞき込むようにしていった。 レナ(アラビアン): えっと……ごめんね?レナたちは覚えていないんだけど、どこかで会ったかな……かな? 一穂(私服): なっ、……あ……。 一瞬驚いて言葉を失ったものの、今の状況を察して気持ちを静める。 さっきも気づいたように、ここは私のいた「世界」ではない……いわゆる「異世界」というものだろう。 つまり、彼女たちは姿形、そして名前が同じであっても……「同一」ではないのだ。 一穂(私服): ご……ごめんなさい。その、えっと……。 しどろもどろになりながら、私はうっかり名前を言ってしまった言い訳ができないものかと、必死に考えあぐねる。 すると、レナさんは私をしばらくじっと観察してから……ぽん、と手を叩いていった。 レナ(アラビアン): あっ……ひょっとして、少し前に訪れた町でレナたちの大道芸を見てくれたのかな、かな? 一穂(私服): そ、そうなんです……!知り合いみたいに声をかけちゃって、ごめんなさい……! とっさに私は、レナさんの解釈に便乗して話を合わせる。 美雪ちゃんのように、上手く場をしのげたかは不安だったけど……それを聞くや魅音さんは、「なーんだ」とばかりに相好を崩してくれた。 魅音(アラビアン): あっはっはっはっ、別に謝らなくてもいいよ!むしろ名前を覚えているくらいに、私たちの芸を気に入ってくれたってことだからねー。 魅音(アラビアン): じゃ、改めてになるけど自己紹介するね。私は魅音で、この子はレナ。もう知っての通り、旅芸人だよ。 レナ(アラビアン): レナは踊りが担当で、魅ぃちゃんが演奏。よろしくね。えっと……。 一穂(私服): あっ……その、私は公由一穂と言います。よ、よろしくお願いします……。 なんとか2人に不審なところを見せないよう、頑張ってみたけど……やはりギクシャク感は否めなくて、内心で大いに自己嫌悪を覚える。 ただ、そんな振る舞いでも彼女たちはあえて気づかないふりをしてくれているのか……屈託なく「よろしくねっ」と返してくれた。 魅音(アラビアン): で……公由さん、て言ったっけ。あんたはなんで、こんな辺鄙な場所で寝っ転がっていたのさ? 一穂(私服): あっ……その、私は……、っ? 答えようとしたその時、突然頭痛を覚えてその場にうずくまる。 魅音(アラビアン): ちょっ……どうしたのさ? 一穂(私服): っ、……急に頭が……ぐっ……?! 嘘でもごまかしでもなく、私は頭を強く締めつけられるような痛みに声さえまともに出せなくなってしまった。 一穂(私服): (これは、いったい……っ……?!) 原因不明かつ突発すぎる事態に戸惑い、私は苦悶の声を上げる。 ……すると、そんな私のことをレナさんと魅音さんは左右から寄り添うように介抱しながら、気遣うように言ってくれた。 魅音(アラビアン): 落ち着いて。無理はしなくていいよ。……きっと長旅で疲れが出たんじゃない? レナ(アラビアン): とりあえず、次の集落がすぐだからそこでゆっくり休もう。レナたちも一緒についていくから……ね? 一穂(私服): っ……ありが、とう……。 痛みは間もなく引いたものの……今後どうするべきかで不安しかなかった私は、ありがたく2人の勧めに従うことにした。 Part 02: 一穂(私服): あの……レナさん、魅音さん。ここから、どこに向かうんですか? 魅音(アラビアン): もちろん、ゆっくり休めるところだよ。私たちは野宿も慣れっこになっているけど、あんたはそうはいかないだろうからね。 レナ(アラビアン): それに、具合が悪い時は屋根がある場所でちゃんと体調を戻したほうがいいと思うよ。大丈夫、レナたちに任せて……ねっ? 一穂(私服): あ、はい……。 私ひとりのために2人の手を煩わせて、申し訳ない後ろめたさもすごくあったけど……正直この異世界では、わからないことだらけだ。 とりあえず、オアシスがあるというその集落に送ってもらえたら、あとは自分でなんとかしよう。 そう決心して、私は2人の好意に甘えることにした……のだけど……。 一穂(私服): っ……あ、暑い……。 じりじりと地上を照りつける太陽と、生温かいを通り越した熱気の風に煽られて……出発してほどなく、私は音を上げてしまう。 一穂(私服): (今までの事例なら、「世界」を移動した時は直前の頃までいた「世界」の季節を踏襲してたはずなんだけど……) この暑さは、初夏ではなく真夏なみだ。……いや、少なくともここまで高い気温は異常気象と言ってもいいかもしれない。 これほどまでに急激な環境の変化は、今までは一度もなかったはずだ。これはいったい、どういうこと……? 魅音(アラビアン): ……大丈夫?飲み水だったらまだたくさんあるから、遠慮しなくても構わないよ。 一穂(私服): け、けど……さっきもかなりもらっちゃったし、これ以上は……。 レナ(アラビアン): あははは、気にしないで。それに公由さんの服装は、こういう炎天下に不向きっぽいみたいだからね。 一穂(私服): ご、ごめんなさい……。 ……確かに、私が着ている服装は夏仕様とはいえ直射日光の熱をそのまま受け止めてしまっている。レナさんたちのものとは大違いだ。 加えて、日焼けもむき出しで受け続けていると手足が火傷みたいになってしまうと言われて……今は2人の予備の、ローブを上からまとっていた。 魅音(アラビアン): はぁ……こういう時は、地上を歩くんじゃなくて守護獣に運んでもらえると楽だったんだけどねー。たとえば小竜とか、天馬とか……。 レナ(アラビアン): ……っ……。 魅音(アラビアン): あ……レナ。そういう意味で言ったんじゃないんだけど……ごめん、忘れて。 レナ(アラビアン): ううん、いいよ。……はい公由さん、お水。 一穂(私服): あ……ありがとう……。 レナさんからお手製の水筒を受け取ってから、私は行脚を再開する2人の背中を追いかける。 一穂(私服): (小竜に、天馬……? もしかして……) ふと記憶の中に、引っかかるものを覚える。もし予想通りであれば、この2人は……。 一穂(私服): あの……レナさん、魅音さん。今から向かう集落の名前って、聞いてもいいかな? 魅音(アラビアン): ん? もちろんオアシスのある場所だから、『鬼ヶ淵村』だよ。今は水の部族が住んで水源の管理をしているんだ。 一穂(私服): 鬼ヶ淵、村……。 確か、#p雛見沢#sひなみざわ#r村の昔の名前がそういう名前だった。それに、水の部族ということは……。 一穂(私服): (前に美雪ちゃんや菜央ちゃん、夏美さんと一緒に訪れた時は、水の部族の長として梨花ちゃんがいた。だとしたら、ここでも……?) 一穂(私服): あの……その水の部族の長って梨花ちゃん、なの……? 魅音(アラビアン): ――――。 その名前を出すや……2人はぴたり、と足を止める。そして振り返ると、怪訝そうな表情を浮かべながら私に問い返してきた。 魅音(アラビアン): ……公由さんって、梨花ちゃんと知り合いだったりするの? 一穂(私服): っ……う、ううん。水の部族の長がそういう名前の人だって、人づてに聞いただけで……。 魅音(アラビアン): ……そっか。じゃあ、梨花ちゃんが今どうなっているかは聞いていないんだね。 一穂(私服): ? 聞いてないって……どういうこと? その言い方に嫌な予感を覚えた私は、踏み込みすぎかもと思いつつも質問を重ねる。 すると魅音さんは、軽くため息をついてから……低い声で呟くようにいった。 魅音(アラビアン): 梨花ちゃんは……行方不明なんだよ。今、水の部族を率いているのは代理の人。 一穂(私服): っ? 代理の人って……まさか……?! その言葉を受けて、真っ先に私の脳裏に浮かんできたのは……絢花さんの顔だ。 ということは、つまりこの「世界」でも彼女が梨花ちゃんの代わりを務めている……? 一穂(私服): (絢花さんは……あの時、私を殺そうとした。そして私が、『オヤシロさま』に頼まれたあの人の殺人依頼についても……知ってた……) だけどその情報は、誰から手に入れたのだろうか。彼女が姿を現した時点では、梨花ちゃんと一緒に羽入ちゃんも存在が消えていたのに……? 一穂(私服): (……確かめなきゃ。どうして私と敵対して、あんなふうに殺そうとしてきたのかを……!) そう意を決した私は、頼ってばかりで申し訳ないと思いつつも2人に相談を持ちかけていった。 一穂(私服): あの……魅音さん、レナさん。その代理の人に会うことって、できない……かな。 魅音(アラビアン): ……? 会ってどうするの?その人に何か、用でもあったりするとか? 一穂(私服): う、うん……。 上手い理由は思いつかないけど、とりあえず頷く。すると、魅音さんはレナさんと顔を見合わせて……笑みとともに親指を立ててくれた。 魅音(アラビアン): なんか、やむにやまれぬ事情があるみたいだね。よしきた、任せなっ。 レナ(アラビアン): 向こうに着いたらレナと魅ぃちゃんとで、上の人に掛け合ってあげる。タイミングさえ合えば、きっと会えるよ。 一穂(私服): えっ……で、でも、何の繋がりもないのに交渉なんてできるの? 魅音(アラビアン): 大丈夫♪私たちにはとっておきの切り札があるからさ。 一穂(私服): (……。切り札……か) それがもし私の予想通りのものだとしたら、レナさんと魅音さんは……やっぱり……。 それから、数時間ほど歩いた後……私たちは水の部族の集落に到着した。 レナ(アラビアン): 早速、部族の長がいるところへ行ってみよう。……公由さん、体調は大丈夫? 一穂(私服): う、うん。道中でいっぱい水を飲ませてもらったし、ここは少し涼しくなったから……。 本音を言うと、ずっと歩きづめで少し休みたい気持ちもあったけど……旅の疲れは、あとでじっくり癒やせばいい。 今は状況と、自分の予想が当たっているかの確認が何よりも優先すべき事項だった。 ……そして2人の案内の元、私は水の部族の長が住むという場所へと向かう。 その玄関口とおぼしき手前には、ものものしい格好と武器を手に持った門番らしき男性が立っていた。 門番: ……止まれ。ここに何用だ? 魅音(アラビアン): あー、忙しいところにごめんね。水の部族の長って、ここにいる? 門番: 無礼者め。旅芸人風情が、口の利き方を弁えよ。 そう言って門番は、いかにも胡散臭いと言いたげな態度で私たちを追い返そうとする。 ……まぁ、当然の反応だろう。だけど魅音さんは一切の怯みも見せることなく、そしてレナさんも――。 レナ(アラビアン): ……失礼しました。レナと魅ぃちゃんが会いに来たと言えば、すぐにわかってもらえると思います。 魅音(アラビアン): あー、あとさ。邪険に扱う前にこれ、見てくれない?ついでにレナの手にあるものもさ。 そう言って魅音さんはレナさんとともに、身につけていた首飾りを外して門番に見えるようかざしてみせる。 すると、それを胡乱な目で見ていた彼の表情はみるみる青ざめて……がばっ、と後ずさるやその場に平伏してしまった。 門番: も、申し訳ございません……!!あなた様方であることに気づかず、とんだご無礼を……ッ?! 魅音(アラビアン): あー、いいよ。けど、私たちの顔を知らないなんてまだ新顔さんだったりとか……? 門番: は……はいっ!先月よりここに、配属されたばかりで……! レナ(アラビアン): あははは、気にしないでください。門番のお仕事、お疲れ様です。 一穂(私服): ……っ……? 恐縮する門番と、そんな彼のことを笑顔で労う魅音さんとレナさんの様子を見て……私はぽかん、と言葉を失ってしまう。 水の集落の長に仕える門番の人が、恐れ入って恭しい態度で接する……そんな立場は、ひとつしか考えられなかった。 魅音(アラビアン): で、さっきの話に戻るけど……水の部族の長は、ここにいるの? 門番: あ、いえ……部族の長は今、急な用事があって風の部族の集落に赴いております。 門番: 戻るのはおそらく、数日後とのことです。 レナ(アラビアン): 待っていても、いつ戻ってくるかわからないし……風の部族の集落はそんなに離れたところにない。 レナ(アラビアン): だから、こっちから会いに行くのはどうかな、かな? 魅音(アラビアン): その方がいいね。もう時間も遅くなったし、夜が明けてから出発しよう。 一穂(私服): ……うん。わかった。 そう勧められた私は、2人とともに宿となる施設へと向かう。 その途中で私は、2人の正体が自分の「予想通り」だったことを確かめて、そっとため息をついていた……。 Part 03: ……その夜のこと。 一穂(私服): …………。 あてがわれた宿舎の一室で休んでいた私はふいに目が覚めて、ベッドから起き上がる。 ……すぐ隣に目を向けると、ベッドが2つ。その上には、誰の姿もない。 一穂(私服): ……、……ぁ……。 ベッドにいたはずの2人はどこに、と思っていると……遠くの方からかすかに、何かの音が聞こえてくる。 最初は風の音かと思ったけど、一定の旋律が続いている。……おそらく楽器の演奏だろう。 一穂(私服): もしかして、……。 なんとなく予感を覚えた私はもそりとベッドから抜け出て、寝間着から普段着に着替える。 そして部屋を出て、建物の外に出ると……それほど離れていない広場の辺りで、同室で休んでいたはずの「2人」の姿を見つけた。 一穂(私服): ……レナさん、踊ってる……? 月光に照らされながら、魅音さんの演奏に合わせてレナさんが見事な踊りを披露している。 とても優雅で、洗練された舞いだ。でも、この演舞の様子は……どこかで……。 魅音(アラビアン): ……? 公由さん、起きてきたの? 一穂(私服): えっと、何をやってるんですか? 魅音(アラビアン): あー、ひょっとして起こしちゃった?ごめんね。音が聞こえないよう、気をつけていたつもりだったんだけど。 一穂(私服): ううん、気にしないでください。そんなことより、その舞いは……? 私の問いかけに対して、レナさんと魅音さんは顔を見合わせる。そして肩をすくめながら、やや自嘲混じりにも聞こえる口調で言った。 レナ(アラビアン): ……これは、鎮魂の舞だよ。死んだ人の魂を慰めて、死後の世界でも安らかに休めるように……ってね。 一穂(私服): 死後……って、じゃあやっぱりレナさんと魅音さんは空と火の……?! 魅音(アラビアン): なんだ、公由さんはもう知っていたのか。……うん、その通り。私たちは魔王軍と戦って滅ぼされた、それぞれの部族の生き残りだよ。 一穂(私服): 魔王軍と戦って……滅ぼされた……?! その事実を告げられて、私は絶句してしまう。 全ての部族が同盟を結んで、魔王を討伐する戦力を集める……それが以前訪れた「世界」で繰り広げられたことだ。 だけど、魔王軍が部族を滅ぼしたなんて深刻な事態には陥っていなかったはずだ。少なくとも私の記憶には、全然……っ……! 魅音(アラビアン): で、私たちはかつての仲間と、もうひとつ……地の部族の遺志を継いで、魔王軍を倒すために旅をしているってわけさ。 そして魅音さんが手に取って見せてきたのは、黒い水晶玉。 その形状を目にした私はあっ、と声を上げていった。 一穂(私服): それって、もしかして『カムノミコトノリ』……?! 魅音(アラビアン): へぇ……「これ」も知っていたんだ。まぁ、私たちが脱出する時に力を使い果たしたのか今となってはただの石ころ同然だけどね。 魅音(アラビアン): ということは……公由さん。あんたは、別の「世界」から来たって考えて間違いがないってことだね。 一穂(私服): っ……それは、どういうこと……? 魅音(アラビアン): この『カムノミコトノリ』ってやつは、こことは違う『世界』と繋がることができる不可思議な代物らしい。 魅音(アラビアン): 地の部族の長……詩音がこれを、どうやって誰から手に入れたのかはわからないけど……。 魅音(アラビアン): あの子が命を賭して私たちに託してくれた時に、「予言」を残したんだよ。 魅音(アラビアン): 『同じものを持った誰かが、いつか必ず異世界から来る……その時に力になってあげて』ってさ。 一穂(私服): じゃあ……詩音さんは……っ? レナ(アラビアン): ……っ……。 魅音(アラビアン): ……バカだよ、あいつは。 その問いかけに対して、レナさんは静かに首を横に振り……魅音さんは苛立たしげに吐き捨てる。 ……どうやらこの「世界」は、私の知る「世界」の後日にあたるらしい。 そして魅音さんたちの部族は戦いの末に敗れ、2人だけが生き残ったということだ……。 魅音(アラビアン): で、公由さん……確認するけど、あんたはあの時、詩音が言っていたように別の「世界」から来た人なんだよね……? 一穂(私服): ……うん。 もう隠す必要は感じられなかったので、私は素直にそう答えて頷く。 そして意を決すると、2人に向かい口を開いていった。 一穂(私服): 私……いろんな「世界」を渡り歩いてきた。ここみたいに幻想的なところもあったし、他にも……。 そして私は、魅音さんとレナさんに自分のこれまでのことを打ち明けていった。 一穂(私服): レナさん、魅音さん。私……今よりも少し過去の時間軸になる、あなたたちの「世界」にいたことがあったんだよ。 ……私の話を、魅音さんとレナさんは最後まで一切口を挟まずに聞いてくれた。 魅音(アラビアン): なるほど……ね。 話し終えてから大きく息をつくと、魅音さんはそういって神妙に何度も頷く。 そして顔を上げると、私の目をまっすぐ射貫くように口を開いていった。 魅音(アラビアン): 話の内容自体は奇妙奇天烈、摩訶不思議のオンパレードだけどね。 魅音(アラビアン): あんたが詩音と同じ『カムノミコトノリ』を持っているってことは……もう確定って考えて差し支えがないってことか。 一穂(私服): っ……信じて、くれるの? 魅音(アラビアン): それが、詩音との約束だったからね。……受け止めて咀嚼するのに時間はかかっても、とりあえず信じるのは大前提、ってさ。 そういって魅音さんは、苦笑交じりに肩をすくめる。隣に座るレナさんもまた、笑顔で頷いてくれた。 魅音(アラビアン): にしても、詩音は死なずにすんで……梨花ちゃんも行方不明になっていない「世界」があったかもしれないってことか。 魅音(アラビアン): ちなみにそこだと、私たちはちゃんと幸せに暮らしていたの……? 一穂(私服): ……ごめんなさい。結末がどうなったのか、そこまでは私も……。 魅音(アラビアン): はぁ……にしても、今と違った可能性の存在を認めるってのは、結構キツいよねぇ。 魅音(アラビアン): じゃあ私たちに足りなかったものは何なのか、あるいは何を間違えたのか、って後悔ばかり頭に浮かんできてさ……。 レナ(アラビアン): ……そうだね。過去を変えられる力を本当に手に入れることができるんだったら、欲しくなるのは当然だよ。 そういって魅音さんとレナさんは、お互いに顔を見合わせて嘆息する。 だけど、私は……そんな2人に同意できず、自嘲とともに呟いていった。 一穂(私服): もし、力があっても……それを上手く使いこなせないんだったら、持ってても意味はないよ……。 魅音(アラビアン): えっ……? 一穂(私服): 「世界」を移動する力があっても、私にできることなんて……本当に何もなかった。誰も救えなくて……苦しくて、悲しくて……。 一穂(私服): 壊れていくたくさんの「世界」をただ見て、そこから逃げることしか……私には……。 レナ(アラビアン): ……公由さん。 魅音(アラビアン): ……もう、夜も更けたしね。明日に備えて、そろそろ休もうか。 一穂(私服): うん……。 結局、気分が晴れないまま……私たちは宿に帰ってそれぞれ寝床につく。 ただ、どんなに寝返りを打っても私はなかなか眠ることができなかった……。 Part 04: そして私たちは昨夜の気分を引きずったまま、風の部族の集落へと向かうことになった。 レナ(アラビアン): はぅ……公由さん、昨日はよく眠れた? 一穂(私服): あ、はい。一応、少しは……。 強がってみせるのはかえって失礼だと思い、気遣ってくれるレナさんに正直に答える。 いざ寝ようと思っても、頭の中にいろんなことが浮かんで……朝方近くまで、あまり眠れなかった。 とはいえ、目を閉じて横になっていただけでも身体の具合は昨日よりもずっといい感じなので、多少の回復には繋がった……と思いたい。 魅音(アラビアン): 風の部族の集落までは、歩いてもすぐだからさ。そんなに急がなくても大丈夫、……っ? 一穂(私服): ? どうしたの、魅音さん……? 魅音(アラビアン): ……焦げ臭い。鉄錆が……いや、血が焼けた臭いがする。 レナ(アラビアン): 焼けた血の臭い……じゃあ、まさか……?! 魅音(アラビアン): ごめん、公由さん……ちょっと急ぐよ!レナ、魔法よろしくっ! レナ(アラビアン): うん、わかった……!公由さん、レナの腕につかまって!! 一穂(私服): こ、こう……って、わぁあぁああっっっ?! レナさんの細い腕にしがみつくや否や、身体がふわりと浮遊感に包まれて……全身に、鋭い疾風が駆け抜けていく。 いや、それは風が吹いたのではなく私たちの身体が宙を舞い、超高速で移動しているためだった……! 一穂(私服): ま、魔法って……レナさんたちは、そんなものも使えるのっ?! 魅音(アラビアン): そりゃもちろん……って、喋らない方がいい!不用意に口を開けていると、舌をかむよ! 一穂(私服): っ、……わ、わかった……! …………。 そして、私たちがたどり着いた先は……私の記憶にあった、風の部族の人たちがいる美しい場所ではなく――。 怪物たちが跋扈して、たくさんの人々が死屍累々とばかりに草原の上に転がる……凄惨な光景が広がっていた……! レナ(アラビアン): っ? さ……沙都子ちゃんっ?! その中に見知った姿を見つけたレナさんが、息をのんで駆け寄る。 そして、抱きかかえられた女の子……沙都子ちゃんは血を流して息も絶え絶えになりながら、なんとか目を開けてくれた。 沙都子(部族): っ、……レナ、さん……?それに、魅音さんも……。 沙都子(部族): 来て……くださったのですね……、ぐっ……?! レナ(アラビアン): っ? 沙都子ちゃん、何があったの?ひょっとして、魔王軍が……! 沙都子(部族): に……逃げて、くださいまし……!部族の方々が、魔王たちの瘴気に当てられて……っ……! 魅音(アラビアン): 沙都子っ……?しっかりしな、沙都子ッ!! 一穂(私服): ……っ……! 瀕死の沙都子ちゃんを気遣うレナさんと魅音さん。それを見て、私は意を決する。 そして持っていた『スクセノタマワリ』を取り出し、魅音さんに渡していった。 一穂(私服): 魅音さん、レナさん……2人はこれを使って、沙都子ちゃんと一緒にこの「世界」から移動して。 レナ(アラビアン): えっ……公由、さん……? 一穂(私服): 詩音さんから渡された『カムノミコトノリ』と同じように……きっとこの水晶玉にも、「世界」を移動させる力があると思う。 一穂(私服): あなたたちならきっと、幸せの可能性を見つけ出すことができるはずだから……私なんかと、違って……! 魅音(アラビアン): って、公由さん……?これを手放してあんたは、どうする気なのさ?! その問いかけに対して、私は応えずに走り出す。 そして感覚に導かれるまま、怪物たちの群れの中に飛び込んでいった。 一穂(私服): はぁっ、はぁっ、はぁ……!! 汗だく、傷だらけになりながらも私は燃えさかる風の集落の奥へとたどり着く。 そして、その中にたたずむひとり――絢花さんの姿を見つけて、武器を構えた。 一穂(私服): 絢花さん……これも、あなたの仕業なんですか?! 絢花(巫女服): …………。 その叫びに対し、絢花さんは静かに視線を返してくる。 そしてぞっとするほどの冷たい声で告げていった。 絢花(巫女服): 『スクセノタマワリ』……手放したのですね。その意味を、理解していますか……? 一穂(私服): もちろんだよ……!あなたの望んだ通り、ここで終わらせる……。 一穂(私服): みんなの未来を、守るためにッ!! Epilogue: 一穂(私服): っ、ぅああああぁぁぁっっ!! 必死に力を絞り出し、絢花さんに立ち向かう。 しかし、彼女の力はすさまじく……何度攻撃を仕掛けても当たらない。 徐々に防戦一方へと追いやられていった。 絢花(巫女服): ……全てを賭けてぶつかって、この程度とは。やはり「出来損ない」のあなたでは、この程度が限界なのかもしれませんね……。 一穂(私服): 出来損ないって……どういう……、っ? その時、私は気づく……気づいてしまった。 これと同じことを以前、言われた記憶があった……それは……。 魔女沙都子: すっこんでろ、出来損ないッッ!! 一穂(私服): ……っ、あなた……絢花さんじゃ、ない……? 目の前の人物の全身から放たれる禍々しい波動……それに既視感を覚えて、はっと息をのむ。 絢花(巫女服): くす……くすくす……っ! だが絢花さん(?)は妖艶の笑みとともに、容赦なく攻撃を繰り出してきて……! 一穂(私服): ぐっ……ぅ……っ!! たまらず私は、その場に膝を屈してしまった。 一穂(私服): っ……あなた、……いや、お前は……誰……? 絢花(巫女服): ここで消えるあなたに、答える必要など全くもって感じませんが……あぁそうですね。 絢花(巫女服): あくまでもしめくくりとして教えましょう。私は――。 魅音・レナ: 「「っらああぁぁぁああぁっっ(はあぁぁぁぁあああっっっ)!!」」 と、そこへ現れたのは魅音さんとレナさん。 2人はそれぞれに絢花さん(?)めがけて攻撃を仕掛けて……! 魅音(アラビアン): っ……受け取りな、一穂ッ!! わずかに間合いができた隙に、呆然と固まる私に向かって……『スクセノタマワリ』を手渡していった。 レナ(アラビアン): 早く行って……一穂ちゃんっ!そして今度こそ、あなたが本当に望んだ「世界」を見つけ出してっ! 一穂(私服): レナさん……で、でもっ……! 魅音(アラビアン): 一穂……あんたの気持ちは嬉しいけど、ここは私たちの「世界」だ……! 魅音(アラビアン): そして私たちは、自分の意思でこの道を選んで決めて、ここにいるんだっ! 魅音(アラビアン): なのに、外から来たあんたに失敗や後悔を押しつけるなんて卑怯な反則、できるわけないでしょ?! 一穂(私服): っ……魅音さん……! その呼びかけが言葉になるよりも早く、私の身体は光に包まれていく。そして――。 一穂(私服): 次こそ……絶対、私は絢花さんを……ッ!! その決意を心に刻みつけながら、意識は闇に閉ざされて――。 …………。 …………。 一穂(私服): っ、……ぁ……。 遠くの方から、鳥たちの歌声が聞こえてくる。そして、重なるように響いてくるのは……。 一穂(私服): ひぐらしの……なく……。 美雪(私服): あっ……やっと起きた。 菜央(私服): まったく、心配したじゃない。こんなところでひとりで居眠りなんて、不用心にもほどがあるわ。 一穂(私服): えっと……ここは、どこ……? 美雪(私服): ……? どうしたのさ、まだ寝ぼけてる?そろそろ帰らないと、日が暮れちゃうよ。 菜央(私服): いよいよ明日は、本番の#p綿流#sわたなが#rしなんだから。しっかり休んで英気を養わないとね。 一穂(私服): …………。 一穂(私服): 明日は……綿流し……?