Part 01: 田村媛命: ふむ……そろそろ、あやつが参る頃#p哉#sかな#r。 田村媛命: 別に礼儀など必要もないしするつもりもないが、もし居合わせておらねば喧々と呼び立ててくるは必定ゆえ、先に顕現しておく#p也#sなり#rや……ん? 羽入(巫女): ……ごきげんようなのですよ、#p田村媛#sたむらひめ#r命。 田村媛命: 来たか。まぁ約定の時刻に遅れず到着とは、実に殊勝なりて喜ばしき哉。 羽入(巫女): あぅあぅ……何度やり取りをしても、あなたのその物言いには時々カチンときてしまうのですよ。 田村媛命: 何を申す也や。そも、今回の一件に関しては吾輩が手を貸す理由も意義もなかった哉。 田村媛命: にも関わらず、そなたの願いに応じてやっただけ吾輩の寛大な心に有り難く感謝すべきものと知り給え。 羽入(巫女): うっ……まぁその点については一応、とりあえず仕方なく感謝しているのですよ。 羽入(巫女): ただ、あなたにとってもこのような不正規な流れは予想外だったはずなのです。ならば、ここで情報を共有しておくことも決して損はないと思うのですよ。 田村媛命: ……言うではないか、角の民の長よ。然し、確かに此度の事態は非常かつ深刻であるゆえにそなたの戯言にも傾聴の価値有りと認めてよい哉。 羽入(巫女): はぁ……田村媛命。そのいかにも威厳を過剰に誇示するような言い方はなんとかならないのですか? 羽入(巫女): 大した内容でない時でも聞いていてわかりづらくて、いつも理解に難儀してしまうのですよ。 田村媛命: ……それはお互い様也や。そなたがあぅあぅだの、甘えるような口調だので話すのと同様の理由があってのこと哉。 羽入(巫女): …………。 田村媛命: ことさらに自らの存在を際立たせる吾輩の此れは、ただの奇特にあらず……一種の自己の保全也や。 田村媛命: にもかかわらず異を唱え、あまつさえ狭量にて矯正を申し出てくるは甚だ無礼な姿勢。理解して改めるが善きと知り給え。 羽入(巫女): ……なるほど、これは僕が間違っていたのです。謹んでお詫びとともに撤回しますので、今の発言は忘れてくれるとありがたいのですよ。 田村媛命: その謝罪、受け入れる哉。吾輩はそなたのような鬼にあらず故、格別の慈愛でもって無用の言を聞き流してやる也や。 羽入(巫女): ……。こんな言い方と姿勢でさえなければ、もっとこの地の民に崇め奉られる神として存在し得たと思うのですが……。 田村媛命: ……なんぞ言ったか、角の民の長よ。久々に黄昏を互いに拝む戦をやってみせても吾輩は一向に構わぬ哉……?! 羽入(巫女): あぅあぅ……そうやって、すぐ喧嘩腰になるのは止めてくださいなのです。あなたと違って血みどろの荒事に発展することを、僕は望んではいないのですよ。 田村媛命: その言い方は止める也や!まるで吾輩が、血に飢えた邪神のようにも聞こえる哉……! 田村媛命: 吾輩は元来より、平和と豊穣を司る神……それは今も変わらぬし、今後も同じ存在で有り続ける也や!貴様さえ無用な挑発をせずば、吾輩は……っ! 羽入(巫女): はいはい、わかったのです。先ほども謝罪をしたように、僕も言葉の使い方を少しずつ改めるように心がけるのですよ。 羽入(巫女): それはさておき……田村媛命。あなたは「彼ら」について、どんな感想を抱きましたか? 羽入(巫女): 何か気づいた点などがあったのなら、ぜひ聞かせてもらいたいのですよ。 田村媛命: ふむ……此れまでにも#p雛見沢#sひなみざわ#rには、あのように様々な異世界からの来訪者があった也や。 田村媛命: して、其れらは此の地の常識や異なる存在に戸惑いながらも、吾輩たちが力を補うことで元の「世界」に戻っていった哉。されど……。 羽入(巫女): ……今回、僕たちの「世界」を訪れた彼ら5人はいつもと違っていました。特に「彼女」は僕たちと同じか、それにも勝る能力を持っていたのですよ。 田村媛命: 正に。力を貸すどころか運び方を誤っておれば、彼らによって此の地が支配されていた可能性も決して無ではなかった也や。 田村媛命: ただ、それは例の「やつ」も本意ではない筈故、相当の危険を冒したものと窺い知ることができる哉。にもかかわらず、あえてその手を選んだのは……。 羽入(巫女): ……計画が、次の段階に入った。あるいは予定通りに進んでいないことを焦って、強硬策に打って出てきた……? 田村媛命: #p然#sしか#rり。その2つは矛盾するようだが、1つの根茎に注目することで共通項があらわになる也や。 田村媛命: つまり、「やつ」は「世界」を変えたいと強く望む一方で現在の状況と環境に対し、全く価値を見出していない哉……。 羽入(巫女): だとしたら、何らかの場を設けて話し合いや説得などで翻意を促すのは難しい……いえ、無理だと考えたほうがよさそうなのです。 田村媛命: 忌々しいが、吾輩もそなたに同意也や。……角の民の長よ。そのような相手と理解しておきながら、あえて仮初とはいえ此度は「接触」を試みる也や? 羽入(巫女): はいなのです。あなたが掴んでくれた「やつ」の情報から、その動きと真意の一端でも突き止めることができれば、と。 田村媛命: ……左様哉。ならば、止めだてはせぬ也や。されど……。 田村媛命: くれぐれも申しておくが、これからそなたが会うのは「やつ」本体にあらず。彼の者に関して集めた情報をもとにして構成した、仮想の人格に過ぎぬ哉。 田村媛命: ゆえに、そこにまつわる感情や思考については不明のままであり、尋ねたところで何も申さぬ也や。そのあたりを理解した上で接点を持つと知り給え。 羽入(巫女): あぅあぅ、わかっているのです。できれば「やつ」本体の所在を突き止めて、直接話ができれば重畳なのですが……。 羽入(巫女): 今は、各地に散らばった「やつ」の情報を統合して……整理することで何かが見えるような気がするのですよ。 田村媛命: まぁ、発想自体は理解できたものの……そなたも実に面妖なことを思いついた哉。まだ会っておらぬ人物を、情報のみで構築しようとはな。 田村媛命: とはいえ、策としては一理あるものと吾輩も理解するゆえ、まずは試行するも善き也や。 羽入(巫女): ありがとうなのです。……それと、田村媛命。 田村媛命: ……? 羽入(巫女): 僕は「やつ」と違ってこの「世界」に愛着があり、価値があるものだと信じているのです。だからこそ、悪あがきでもできることをしたいのですよ。 田村媛命: ふむ……ならば、善きことを聞かせてやる哉。その想いとやらは、吾輩も同じ也や。 田村媛命: ゆえに、此の件に関してはそなたに力を貸すことも吾輩はやぶさかではないと理解して善きと知り給え。 羽入(巫女): そう言ってもらえると嬉しいのですよ、田村媛命。……でも、あなたとこんなふうに腹を割って話をすることになるとは思ってもみなかったので、不思議な感じなのです。 田村媛命: 其れについても、吾輩は同意也や。未だもってそなたと見解を同じくするのは業腹だが、此の際はやむをえぬと理解する哉。 羽入(巫女): あぅあぅ……今はそれを聞けただけでも、とても心強いのですよ~。 羽入(巫女): ……あ、時間がきたようなのです。それでは田村媛命、行ってくるのですよ。 …………。 田村媛命: 集めた『カケラ』からの情報を統合した、仮想人格との対話……か……。 田村媛命: 通常であれば、『神域』なる場所にてそれも容易く可能となる也や。されど……。 Part 02: #p田村媛#sたむらひめ#r命の協力を得て、私はとある場所へと移動する。 そこは、次元の狭間……「世界」が集まる空間。人間たちでは入るどころか認識することも不可能な、いわゆる『神域』と呼ばれるところだった。 広さはおろか、上下左右の区別も覚束ない空間内を私は泳ぐように移動する。 途中、あちこちに浮かんで見える結晶のような塊は全てが「世界」を構成し司る「カケラ」で、それぞれに生物が存在して命を育んだり、費やしたりしている――。 羽入(ハルヒ): でもまさか、出来損ないの「神」である僕がここを再び訪れることができるようになるなんて、思ってもみなかったのですよ。 羽入(ハルヒ): 梨花と出会い……同じ時間を共有するにあたって、僕は能力の大半を失ってしまったから……。 私はそうひとりごちて「カケラ」の隙間を進みながら、身にまとっているこの「衣装」に目をやる。 これは、#p雛見沢#sひなみざわ#rを訪れたあの5人のうちのひとりから無理を言って預かったものを具現化した「障壁」だ。 原理などは禁則事項に引っかかるということで、詳しくは聞いていないが……。 とにかく私が失った能力の一部を補完してくれる、実にありがたいシロモノだった。 羽入(ハルヒ): それにしても……彼女はどうしてこんなものを持っていたのでしょうか? 羽入(ハルヒ): ひょっとして、彼女も時空間を超えたことが……?いえ、詮索しないことを条件として借りたのだから、これ以上は考えないのです。 私たちにも誰かに言えない事情があるように、彼女にもそれがあって然るべきだ。そう考え直して私は、本来の目的を果たすことに集中した……。 …………。 景色は先ほどとあまり変わらないが……私の目を向けた先に突然大きな『カケラ』がずい、と進路を遮るように浮かび上がってくる。 なるほど……正しい順路を通ってこれを使えば、目的の場所が自ら私のもとへやってくるということか。実によくできている仕組みだ。 羽入(ハルヒ): これが……梨花との同調を遮断したものの正体なのですか……? そう言いながら私は、少し不安な気持ちを抱きながら恐る恐る『カケラ』に……触れる。すると、 羽入(ハルヒ): あぅっ……?! 接触が起動の合図だったのか、『カケラ』はまばゆいほどの光を放って輝き出し……。 次の瞬間には、ぼんやりとした輪郭で……人間のような影が私の目の前に浮かび上がってきた。 羽入(ハルヒ): ……人間? それも……女の子……? その言葉に呼応するかのように、おぼろげだった輪郭ははっきりとした形と彩りを伴って具現化した姿へと変化する。  : それは……ひとりの、少女。面立ちの様子から推察するに、レナや魅音と同年代のようにも見えた。 羽入(ハルヒ): これが、田村媛命の力……。情報を統合することによって、その人物の存在を仮想的に構築できる……すごいのですよ。 さすが自分と違って、曲がりなりにも神格を保ち得ているだけのことはある。……そんな賞賛を抱きながら、私は「彼女」に近づいた。 雅: …………。 あくまで情報を集めた上での存在なので、ここにいる「彼女」に感情などはない。ゆえに余計な気兼ねなどもなく、接することができる。 羽入(ハルヒ): ……まず、お尋ねします。あなたは何者ですか? 雅: …………。 私の質問に対して、「彼女」は答えない。表情も変えず、沈黙を保ったままだ。 情報集合体には感情と同時に、拒絶などの意思もない。……つまり答えないということは、「彼女」の素性に関しての情報がまだ集まっていないということだろう。 初手からこれでは、先が思いやられる……。ともあれ、立ち止まってもいられないので質問の方向を変えることにした。 羽入(ハルヒ): では、名無しの人。あなたの目的を教えてください。 雅: ……雛見沢症候群の解明。そして、その転用。 羽入(ハルヒ): 解明と、転用……?要するにあなたは、入江機関と同じ目的をもって動いているということですか? 雅: 否。私は国家が打ち立てた組織の研究者と違い、村に住む人々がどうなろうと興味がない。まして、それによってもたらされる利益にも。 羽入(ハルヒ): ……だと思ったのです。あなたがこれまでに暗躍してきた行動を顧みても、そういった「意思」らしきものが見られなかった。 羽入(ハルヒ): では、雛見沢症候群をどのように使おうとあなたは考えているのですか? 雅: 運命の……改変。 羽入(ハルヒ): 運命を変える……? 雛見沢症候群自体に、そんな力はないはずなのですが……、っ?! 怪訝な思いで首を傾げかけた私は、とある可能性にふと思い立って思わず息をのむ。 雛見沢症候群を研究する、入江機関……そこに資金援助をしているのは厚生省の他に、もうひとつあった……! 羽入(ハルヒ): まさか、あなたは……雛見沢症候群をテロか何かの道具に使うつもりで……?! 雅: ――――。 その質問に対して「彼女」は沈黙したまま、感情を有していない身にも関わらずにやり……と怪しく笑ってみせる。 その笑みは肯定か、それとも別の意図を表しているのか。真意が掴み取れない私はなおも質問を重ねようとしたが、 羽入(ハルヒ): ……っ……? 突然、周囲からガラスが弾けてひび割れるような音が響き渡る。 羽入(ハルヒ): ……もう、活動限界が来たのですか。 やはりありあわせで組み上げた仮想人格では、『神域』における耐久度が足りなかったようだ。 ……このままとどまり続ければ、「障壁」ありでも私の存在が『神域』に閉じ込められてしまうだろう。消滅まではしなくとも、脱出に難儀するかもしれない。 それでも、これだけはと思い……私は懸命に意識を集中し、声を限りにぶつけていった。 羽入(ハルヒ): 最後に、聞かせてください……!あなたは、雛見沢の人々を……梨花たちのことを、どう思っているのですかっ? 雅: …………。 雅: ……ご、……なさ……っ……。 その言葉とともに世界は暗転し、私は危機を察知した田村媛命による強制転送で『神域』から間一髪で脱出した――。 Part 03: 羽入(巫女): ……はぁ……っ……。 額ににじむ汗を拭いながら、私は顔を上げる。……そこは#p田村媛#sたむらひめ#r命が住まう、鬼樹の杜だった。 田村媛命: ふむ……無事のようで、重畳#p哉#sかな#r。して、首尾はいかがであった#p也#sなり#rや? 羽入(巫女): ……あまり捗々しくはなかったのです。やはり本人との接触が行われていないので、情報が不確かなままのせいでしょうか。 田村媛命: 確かに、それも一因哉。……然しながら吾輩は、他にも大きな要因があって正体を曖昧にしているものと推察する也や。 羽入(巫女): と、申しますと……? 田村媛命: この世にて起こる事象には、必ず因果律が存在する哉。ある原因があって結果が生じ、関わる者がことごとくそれらの影響を与え、受ける也や。 田村媛命: 然るに彼の者は、いずれの「世界」においても己の行動の痕跡を残さず……存在もまた、虚のまま哉。この事象は、まこと不可思議としか考えられぬ也や。 羽入(巫女): あぅあぅ……田村媛命、もう少しわかりやすく説明してくださいなのです。今の内容では抽象的すぎて、わからないのですよ。 田村媛命: ……神の身でありながら、察しの悪いやつ哉。つまり、人の子らが引き起こす事件には必ずきっかけが有り……犯人の痕跡が存在する。 田村媛命: 然し事件が起き、きっかけによって犯行を起こしたいわゆる実行犯は存在するのに、教唆をした犯人が全く知覚できない……。 田村媛命: いや、それだけでなく教唆を行った事実そのものを未だに追跡することができておらぬ也や。 羽入(巫女): つまり、実行犯たちは何者かに焚きつけられて惨劇をもたらす行動に出たというのに、それを唆したはずの存在が感知できない……。 羽入(巫女): というより、実行犯を「焚きつけた」行為自体が「世界」の中に記録されていないということなのですか? 田村媛命: その通り哉。……およそ人の子がなせる技を凌駕し、神である吾輩から見ても「非常識」である也や。 羽入(巫女): …………。 田村媛命: 心して臨み給え、角の民の長よ。この陰謀を企む者は、吾輩たちと同じく「神」によって能力を与えられた可能性が極めて大きい哉。 田村媛命: 吾輩たちの#p思惑#sおもわく#rの上を行く存在……「悪しきもの」では到底収まらぬような、大いなる意思が介在している也や。 羽入(巫女): はい……わかっているのです。でも……。 それでも私たちは、「彼女」を追わなければならない。入り混じって絡まり合い、容易に解けなくなった運命を元の姿に戻すためにも……! 羽入(巫女): 手を貸してくれてありがとうなのです、田村媛命。おかげで僕ひとりでは到底突き止めきれないことを、早期にて知ることができました。 羽入(巫女): いずれこのお礼は、きっとさせてもらうのです。では僕は、元の「世界」に戻って――。 田村媛命: ……再びこの「世界」の者共と、命運をともにするつもり哉? 羽入(巫女): …………。 田村媛命: 行いが誤りとは、吾輩も決して申さぬ。その選択が無くば、そなたの望むものが叶わぬことも重々承知している也や。 田村媛命: されど……水が低きに流れるのと同様に、人の命運はあるべき地点へと帰結する。それはもはや、宿命と呼ぶべき定理である哉。 田村媛命: にも関わらず、そなたはなおも抗い続ける……己が本来持ち得たであろう力や立場を捨ててまで、この地に住まう者のために苦しみ、そして――。 田村媛命: ……いや、何も申さぬと言ったは当の吾輩也や。ゆえに差し出がましく理を説くつもりはない哉。ただ……。 羽入(巫女): ……っ……? 田村媛命: ……。また何か小智慧が浮かんだのであれば、憚り無く申して参るが善きと知り給え。絶対とは申さぬが、常に検討はしてやる所存也や。 羽入(巫女): …………。 羽入(巫女): 感謝するのですよ……田村媛命。 そう伝えて私は、深々と頭を下げ……踵を返して田村媛命に背を向ける。 彼女の気遣いは、わかる。ありがたいと心の底から嬉しく思う。でも……。 羽入(巫女): (これが、僕の決めた道……そして、戦いなのですよ) その決意を胸に……私は力を込めて、足を前に踏み出す。 ……明日は、#p綿流#sわたなが#rし。運命の日がいよいよ迫っていた――。