あとがき
前略────
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あとがき劇場 その3
「痛たたた…………ん?」
海は踵落としを喰らった脳天を押さえつつ、受話器を握ったまま恥ずかしそうに沈黙している母親に気付いた。
「……なあ母ちゃん、それじゃあ、まるでウブな中坊カップルみたいだぞ」
「!! な、何を言い出すの、この子は!?」
「ここん所、妙に若作りだし、西南の事を話す時、やけに浮かれているというか……」
海は月湖をジッと見つめた。
「確かに、母ちゃんは独り身で、誰と恋愛しようと自由だけど、俺は西南を父ちゃんと呼ぶのは嫌だぞ」
「海……」
「俺の、俺の父ちゃんは一人だけだ……」
海は俯いて悲しげに言った。そんな海を月湖はジッと見つめていた。
「海……で? そういう事を言うと、ダイからいくら貰えるのかしら?」
「ギク~~~~ッ!!」
海は言わなくてもいい、心の擬音を叫んだ。それは月湖の推論が当たっている、と白状したようなものだ。
「じゃあ、今月のお小遣いはいらないわね、海」
「うわ~~ん、ごめんなさいお母様! 言わせて下さい。ぜひとも西南をお父様と言わせて下さい。だからお小遣いだけは……」
海にとって、母親が同級生と結婚する(?)という事実より、一ヶ月のお小遣いの方が重要だった。
「こら、海! 約束と違うじゃないかぁ!」
縁側の障子の陰から、月湖達の会話を聞いていた海の父親、ダイが泣きながら乱入して来た。
「父ちゃんが報酬を値切るから、いけんのじゃァ~~~!!」
「僕だって小遣い減らされたんだぞ!」
「いつまでも親に小遣い貰ってんじゃないよ、みっともない!」
「お前だって貰えるなら欲しいくせにぃ」
海とダイは、小学生のような喧嘩を始めた。
バキッ! ゲシッ! 月湖の見事な連続蹴りが、海とダイにめり込み、二人は庭へ蹴り出された。そして月湖は障子を閉めると、再び電話の前に座り受話器を取った。
× × ×
『お待たせ。これで静かに話せるわね』
スッキリした表情で、月湖は微笑んだ。
「二人共……相変わらずのようですね」
西南は、海の父親発言に戸惑っていた。それが海の冗談というのは分かっていても、月湖を友人の母親ではなく、一人の女として意識した場合、西南にとって月湖は、十分ストライクゾーンに入っているのだ。と、言うより、霧恋の成長と共に、月湖と霧恋のイメージが近付き、ストライクゾーンに入っちゃった、というのが正しかった。
『もういい加減、疲れちゃったわ』
月湖はいつものように、顔をしかめつつ、こめかみに手を当てた。
「はは……」
西南が子供の頃、月湖とダイの喧嘩は見ていて辛かったものだが、成長するにつれ、月湖にとって、ダイというのは、いつまでも独り立ちしない、子供のような存在なのだと気付いたのだ。おもしろい事に、それは霧恋と海の関係にもよく似ていた。
『そうだわ! ねえ西南ちゃん。もうちょっとしたら海も、自分の素性を知る事になるけど、その時は西南ちゃんも儀式に参加しない?』
「儀式に、ですか?」
『あの子を驚かす、いいアイディアがあったら、試してみたらどうかしら?』
「ハハハ、考えておきます」
『フフッ、それでね……』
月湖は急に真面目な顔になり───もちろん月湖側には映像が無いため、だいたいのカメラ視点を想像しながらなのだが───西南をジッと見つめた。
『儀式が終われば、海も独立するでしょうから…………そうなったら、またアカデミーに行って、勉強をしようと思うんだけど、どうかしら?』
「勉強ですか?」
『ええ、学校の方は休学扱いだから、戻ろうと思えばすぐにでも復学できるの』
月湖は何かを期待するように、モジモジしていた。
「そうだったんですか。いいと思いますよ」
『本当? ありがとう西南ちゃん』
月湖は安心したように、嬉しそうに笑った。
『西南ちゃん、食事の用意が出来たから、降りてらっしゃい』
と、ドアのインターフォンから霧恋の声が聞こえた。
「あっ、そういう事なんで、月湖おばちゃん、またかけます」
『ええ、元気でね』
「はい」
月湖と短い別れのやり取りをして西南は通信を切った。
× × ×
「フフッ。『いいと思いますよ』……か。向こうに行ったら、私も西南ちゃんと一緒に住んじゃおうっと♡」
月湖は満面の笑みで、そう呟いた。
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小説はいつも本業のかたわら、少しずつ進めているのですが、今年は半ば過ぎまで、本業の方がものすごく忙しく、まったく小説に取り掛かる余裕がありませんでした。しかしそのおかげで『異世界の聖機師物語』という新たな世界が誕生しました。こちらも機会があればDVD、あるいはブルーレイの方で見ていただけるととても嬉しいです。
さて、次巻はようやくネージュ・ナ・メルマスと福ちゃんが出ます。いろいろ出ます。別離、再会、復讐、酒池肉林────というわけで、次巻でまた。