× × ×
「それは猫を被ってるだけよ! 清音も天女も私なんかより、ず~~~っとず~~~~~~~~~っと、タチが悪いんだから!」
アイリはそれこそモニターにかじり付くように顔を近付け、興奮しつつ必死で自己弁護を行っていた。
『お前、人の事を悪く言うのよくないぞ。天女さんはともかく、清音おばちゃんには会った事ないだろ?…………さてはアイリさん……』
ドキッ!────NBのカラクリを見破られたかと思い、アイリは緊張した。
『お前に怪しげな情報を入れてるんだな。まったく困った人だよな。今度、エルマさんにでも相談して削除してもらおう』
───クスクス。
冷静な西南に、子供のようなアイリ。いつの間にかアイリの後ろに集まった、アイリの秘書軍団と美守は、口を押さえて笑っていた。
× × ×
「まあでも、確かにいろいろとお世話にもなっているし、当然、プレゼントはしなくちゃいけないな」
「ほ、ほんまか?」
NBは嬉しそうに西南に擦り寄った。
「それに一人だけ仲間外れにしたら、何をされるかわからないしな」
西南は笑いながら冗談めかして言った。
「そういや地球の童話にさ、お姫さまの誕生会に呼ばれなかったって理由で、そのお姫さまに呪いをかけたって、魔女の話があるんだけど……」
「ア、アイリはんは、そんな酷い事はせえへんで」
「う~~~ん………そうだな……」
西南は、アイリだったらどういう反応をするか考えてみた。
× × ×
『……アイリさんだったら、お姫様の誕生会に無理矢理押しかけて、料理と酒を食い散らかすわ、誰彼構わずカラミまくって大暴れして、誕生会を無茶苦茶にしたあげく、その場で酔いつぶれて寝ちゃいそうだよな、ハハハ』
西南のあまりに的確な喩えに、アイリの後ろに居る外野達は、床に突っ伏して笑いを堪えていた。
「な、何よ! 私はそんな事…………」
残念ながらアイリにはそれを否定するだけの自信はなかった。何となくではあるが───やっちゃいそう───と、考えたのだった。
「……まあ、私にもくれるんだったらいいわ」
アイリはそう呟くと、イスを引き寄せて楚々と座った。
× × ×
「でも、一番ええのをアイリはんにプレゼントしたってな」
「一番いいの?」
「これなんかどや!」
と、繊細な細工に煌びやかな宝石類の付いた指輪の画像が浮かぶ。そこに表示された値段は家が一軒くらい建てられそうな額だった。
「払い終えるのに、何十年かかるんだよ、こんなの! 自分で探す!」
西南はNBに背を向けて調べ始めた。NBは急に無言となり、しばらく西南の背中をジッと見つめた。
「せや! 大事な事忘れてたわ。なあ旦さん、実はワシな、明日は忙しいねん」
「えっ? いきなり何を言い出すんだ?」
「せやから、買いもん行くついでに、これも買うて来て」
「……ん? なっ!」
NBが表示したリストを見て、西南は真っ青になった。そこに表示されているものは品数こそ少ないが、料金は西南の給料を軽くオーバーしているからだった。もちろん以前、食肉を売った貯金ならば十分、賄える額ではある……。
「なんで俺がこんな物を買わなきゃならないんだよ!」
「霧恋はん達に、プレゼントの事、バラされとう無いんやったら、買って来てェ」
「お前!?…………持ち主を脅す備品なんてアリか? さすが宇宙の科学力……」
「わけ分からん感心の仕方やな。フッ……安心しぃ、代金は振り込み済み、旦さんは物を受け取ってくればええ」
「振り込み済みって、その金はどこから手に入れたんだよ。お前、まさか変な事はしていないだろうな?」
「後ろに手が回るような事はあらへんから、安心しぃ。で、どうするんや?」
ゆっくりと顔を近付けるNBに、ついに西南は観念した。
「……分かったよ」
「ええ返事や。やはりプレゼントというんは、知らん方が貰った時の悦びも、ひとしおやからなぁ」
「あまり期待されても困るからだよ。予算も少ないんだから……」
「まあいろいろと悩んだらええがな。それも楽しみの一つやからのハハハハ…………」
と、急にNBの笑いが止み、無言となった。
「ん? どうしたんだ?」
「……あのな、旦さん……ワイにも、なんか……」
NBは急に今までとは雰囲気が変わり、神妙な口調となった。
「ワイにもなんかって……まだ何か買う物があるのか?」
「……あっ、ええんや。忘れて」
「今日はいつにも増して変な奴だな? やっぱり今度、ちゃんとメンテナンスしてもらうかな」
と、不思議そうに首を傾げる西南に、
『西南ちゃん、そろそろ晩ご飯よ。降りてらっしゃい』
と、モニターから霧恋の声が聞こえた。
「あっ、はい。今行きます」
西南はモニターに向かってそう言うと、リストをセーブして立ち上がった。
「NB、約束は守れよ」
「わかっとるがな」
エレベーターで宿舎の一階へ下りた西南は、目の前のエントランスで待っていた霧恋達と合流した。
一階は食堂や大浴場、フィットネスや娯楽設備まで揃っている、ちょっとしたレジャー施設にもなっていて、GPの宿舎に泊まる隊員以外にも、一般市民も利用する場所だった。そのため、目立つ霧恋達はいつも注目を浴びていたのだが、今日に限っては、そこに人は大勢いるにもかかわらず、霧恋達から目を逸らし、シーンと静まりかえっていた。
「あっ、来た来た! こっちよ、西南君」
そこにはその場を静まり返らせている張本人、柾木アイリが嬉しそうに手を振っている姿があった。
「お、お待たせしました……」
「じゃあ、行きましょう」
アイリは西南と少し表情を曇らせたエルマの手を引くと、食堂へ向けて走りだした。
「ア、アイリ様!?」
「アイリさん、そんなに急がなくても」
「お腹空いてるの!」
食堂へ駆け込んだアイリは、料理に向かって、突進という言葉がピッタリの勢いで走って行った。食堂はいくつもあるが、ここはバイキング形式となっていて、アイリは特大のお皿、数枚に凄い勢いで大量の料理を載せ始めた。
「うわ……」
その様子を啞然と見つめる西南達だったが、一見、乱暴に見えても、お皿の料理は整然と美しく、かつ、味が混ざらないよう並べられていた。
「さすがナーシスのオーナーね」
感心する霧恋達の目の前で、アイリはあっと言う間に料理や飲み物を用意し、テラスの方へ歩き出した。
「ほら、貴女達も急ぎなさい」
急かすアイリに、西南達は料理を皿に載せ始めた。
テラスはまだ人もまばらで、かなり空いていた。人が多くなるのは、もっと夜時間になり星空と夜景が美しくなりだす頃だ。しかし西南は地球では見る事の出来ない、圧倒的な造形が視認出来る、この時間帯が好きだった。横ではアイリが席に座るやいなや、料理を食べ始めていた。
「ふむ……あいつめ、なかなかいい味が出せるようになったわね」
「アイリさん、この調理をした人と、お知り合いなんですか?」
「ナーシス仕出し部で調理をしていたのよ」
「ああ、どうりで、この手の大食堂にしては味がいいと思ったわ」
「へえ、そうだったんだ」
西南はここの料理が好きだった。ここに宿泊を始めていくつかの食堂で食べたが、この食堂の料理が一番、口に合った。ナーシスの味に近いとすぐに分からなかったのは、食材の違いや、その人なりの工夫が加わっているせいだろう。
「そういえば西南君は、初月給は何に使うつもり?」
アイリはテーブルへ持って来た大量の料理を平らげた後、山盛りのデザートを食べながら言った。
「!!」
NBを通して、西南がプレゼントをしようとしている事を知ってる者達は、アイリの言葉に反応して、西南の様子を窺った。その様子から、知らないのは霧恋と雨音だけのようだった。
「えっ、それは…………生活費と貯金とか」
「ええええ~~~まじィ。給料日よ給料日! 自分へのご褒美とか、普段出来ない贅沢とかあるでしょう?」
「自分への褒美って、給料を貰えたっていうのが一番だし、普段出来ない贅沢もアカデミーに来てからの生活がそうだし……」
「偉いわ、西南ちゃん。やはり将来の事を思えば無駄遣いをしちゃいけないもの」
「フン! いい事、男はね、無駄遣いをする時も必要なの。お金は使えば使うほど、入って来るようになるものなのよ!」
「西南ちゃん、あんな悪魔の口車に乗っちゃダメよ」
「誰が悪魔よ? この小娘!」
「万に一つの成功例をあげて、それがさも一般常識みたいな事を言って、人を破滅させるのは悪魔以外何者でもないでしょ!」
霧恋の言葉に、そこにいたほとんどの者達が頷いた。だが一人だけ、玉蓮だけが目を閉じてお茶を飲んでいた。それを目ざとく見つけたアイリは、
「玉蓮ちゃん。玉蓮ちゃんのような大人の女なら、分かるわよねぇ」
と、アイリは猫なで声で言った。
「アイリ様のお言葉が正しいかどうかは分かりませんが……」
「うんうん」
「もし西南様が破滅なさったら、私が養って差し上げますわ」
「えっ」
真摯な目で見つめられ、西南は真っ赤になって玉蓮を見た。
途轍もない美貌の玉蓮、そして絶景───相手が二枚目俳優ならば、ドラマか映画のワンシーンと言った所だろうが、平凡な容姿の少年、西南とのカップリングが凄い異質感となり、逆に強烈なインパクトを与えていた。そしてそこには、どんな優れた演技でも表現出来ない、自然な日常だからこそ起こり得る、時間が止まったような空間が形成されていた。他の女性達、霧恋でさえそのシーンに心を奪われたように見入っていた。
「クスッ」
玉蓮は勝ち誇ったように、アイリを見た。その瞬間、その場の時間が動き出し、霧恋達は大きく息を吐いた。
「わ、私を利用したわね! 西南君、気をつけなさい! あ、悪魔ってのはあの娘のようなのをいうのよ!」
アイリは口に頰張ったデザートを、お茶で強引に飲み込みながら叫んだ。よほど先程のシーンに心奪われていたのが悔しかったのだろう、アイリの目には涙が滲んでいた。
「はいはい、アイリ様の負け」
「くっ、くそ~~~!」
アイリは残ったデザートをかっ込むと、お皿を持って走り出した。そして再び料理を山盛りにして帰って来ると、それを凄い勢いで食べ始めた。
「やれやれ……そういえば、西南は静竜の事、聞いた?」
ともすれば先程のシーンの余韻に浸り、黙り込んでしまいそうになるのを拒むよう、雨音は少し大きな声で言った。
「あ、いえ」
「そういえばすっかり忘れていたわね」
黙り込んでしまえば、玉蓮に負けたように感じるのだろう、霧恋達もまるで睡魔を追い払うように、身体を揺らしながら雨音の方を見た。
「なんでも、あいつの家が身代金を値切って、なかなか解放されないらしいわよ」
「えっ、でも天南先生の家って……お金持ちなんですよね?」
「しっかり者で有名な親父だからね」
「だからって、値切るもんなんですか?」
「西南様。こちらの情報ですと、向こうも持て余してるのか、天南家の要求通り値下げをして、交渉を打ち切ろうとしているのですが……」
「それをさせないようにしているんだろ? 珀蓮」
「はい」
珀蓮は苦笑しながら頷いた。
「やっぱりね。あそこの親父は交渉好きっていうか、それが趣味みたいな部分があるものなぁ……遊べる相手と踏んだんだろう、クックック」
「早く戻れると良いのに」
「おいおい霧恋、心配するだけ無駄無駄! そのうち立派な海賊にでもなって、守蛇怪の前に現れるかもしれないわよ」
「まさか」
笑う霧恋達の中、エルマの視線は西南へ向けられ、そしてその笑みはどこか悲しげだった。
さて、その話題の主、静竜はダ・ルマーギルドの本部、ダイ・ダルマーのある場所に捕らえられていた。そこはタラント・シャンクの管轄するブロックで、主に誘拐されて来た人質達が捕らえられている場所だった。
海賊達にはそれぞれ得意な闇ルートがあり、そこへ乗せる前の盗品をダイ・ダルマーで売り買いしているのだ。
「ふむふむ……なるほど、ここはこうなっているのか」
本来、外との接触を一切封じた状態で連れて来られた静竜が、自分の居る場所を知る由もない。だが静竜はナノマシンで構成されたサイボーグの能力を駆使し、ダイ・ダルマーの内部を調べていた。静竜を構成するナノマシンは、常に最新の技術でバージョンアップされているため、ダ・ルマーギルドの科学力では、彼がサイボーグである事を見抜けなかったのだ。
度重なる容赦のない攻撃を受けても、未開の惑星、深海、どんな劣悪な場所に放り込まれようとも、無事に生還出来るのはこの能力のおかげだった。その能力が知られていない状態ならば、静竜がダイ・ダルマーから逃げ出すのは、さほど難しい事ではない。
だが静竜はバカだった。
「それにしても……私はいつ解放されるんだ?」
ダイ・ダルマーの内部を調べているのは、脱出するためでも、GPとしての使命感でもない。ただ『退屈』だからである。
「まあ、私ほどの者となれば、身代金も膨大だろうからな、ハッハッハ……とりあえずご同輩の皆様に挨拶をせねばな」
静竜は意識を偵察に放ったナノプローブに向けた。
『………んんっ!?』
静竜はある独房に入れられていた、GPの女性が居なくなっている事に気付いた。
『なんと! 彼女も無事解放されたか』
静竜の居る独房群は、ほとんどが身代金目的の人質達だった。そして交渉が終われば解放される。他にも十数名の男女が居なくなっていた。
『んん?………なんだ!?』
と、その時、静竜の数千にも及ぶナノプローブの一つが、巧妙に隠されたブロックを発見した。そしてそのブロックの一室で、居なくなった男女が、見るも無惨な状態で散らばっているのを発見した。
『なんと! これは一体どういう事なのだ!?』
静竜はその凄惨さに顔をしかめた。先程バカ食いした朝食が、リバースして来るのを懸命に堪える。
『なんだ、ここは!?』
その部屋を逃げ出すように、ブロックの中を移動し、他の部屋とは明らかに違う豪華な内装の部屋に、タラントと副官らしき若い男が居るのを見つけた。
『あれはタラント・シャンク!』
タラントはシャワーでも浴びていたのだろう、腰にバスタオルを巻いただけの姿でソファーに寝ころんでいた。身体には肉体再生用のギプスやシールが至る所に貼られている。
「タラント様、ダイダロス・コアの新型艦体への換装調整が完了しました。現在こちらへと向かっているそうです」
「ダイ・ダルマーの中央港へ寄港させて、出来るだけ多くの奴らに見せてやれ。タラントの名を侮る奴らが出て来たからな。で、ファントム駆除の方はどうなっている?」
「フオ・チームを投入したおかげで、チェック範囲は六十%を超えました」
「クックック、さすがだな。ファントム駆除が済み次第、例の研究に取り掛からせろ」
「はっ!」
「エルマの方はどうだ?」
「まだ動きはありません。しかし守蛇怪がアカデミーへ帰投していますので、一両日には恐らく……」
「エルマの脱出の手はずは?」
「例の場所に連れて来るよう手配しています。しかし、エルマにやれますかね?」
「フッ、こちらの目的はフオだ。失敗しようと問題はない……もっとも、パーティの主賓が居なくなるのは残念だがな、アハハハハ!」
『フン……あれがタラントか……まるでただのガキだな』
まるでコンビニの前で、食い散らかしたゴミを放置し、だらしなく座り込んで喋っている中学生のような姿に、静竜は吐き捨てるように言った。
と、その時、
「元気そうだな」
「ん?」
静竜の意識を引き戻したのは、コマチの声だった。静竜は腕を組み、不機嫌そうに顔を背けた。
「なんだ。お前か。私は気分が悪い、話しかけるな」
「それはお前の父親に言うのだな」
「ここに入れられた者達を、あのように無惨に弄ぶ者達に、言われたくはないな」
「なに……どういう事だ?」
コマチは反射的に、シークレットウォールを張った。ここはタラントの管轄するブロックではあるが、静竜はあくまで管理依頼をしているだけの預かりだ。人質との会話を他者に知られたくない場合を考慮し、設置されているものだった。
「タラントだよ、あいつがここの者達を連れ出して、偽装した部屋で……思い出したくもない光景だ」
「偽装した部屋?……ちょっと待て! あのように、とはどういう事だ? まるで直接見でもしたようなセリフだが?」
「フッ! この私をなめるなよ。私に分からぬ事は無い!」
「タラントがここにいる人質に手を出していると? だが一体どこへ……」
「どこも何も、このブロックに居るぞ。まあ巧妙に隠しているから、気付いたのはつい先程だったが……なに、私がほんのちょっとだけ本気になれば、あの程度の偽装はすぐに見破っていたがな、ハッハッハ」
(ナノマシンか? だがこいつの精密調査はしたはずだが……。いや、それよりももしこいつの言う事が本当だとしても、自分が不利になる情報を自慢げに話すとはどういう事だ?)
コマチは困惑気味に、大笑いをしているバカッ面を見つめた。
「静竜と言ったな……お前、この場所がどこか分かっているのか?」
「お前らの小汚い巣窟などに興味はないわ」
「なに?」
「とっととこんな所はおさらばしたいところだが……、父上の交渉を邪魔しては叱られるからな」
「交渉というより、しつこく値切り要求をして来るタチの悪い客、と言った感じなのだがな……」
「ハッハッハ! 良い物を安く買う。それが商売の鉄則だぞ」
(どうやらここが、ダイ・ダルマーだという事は気付いていないようだが……だとすると先程の話は信憑性が無い事になる。だが否定するには……)
コマチは、静竜からタラントの偽装ルームの場所を、うまくおだてつつ聞き出すと、急いで自分の艦へ戻った。
× × ×
「どうだった?」
コマチは自艦のブリッジに駆け込むなり、怒鳴るように言った。
「確かに偽装された空間がありました。詳しい場所を聞かなければ、恐らく見つけられなかったでしょうね」
「……そうか。奴の言った事は事実か」
コマチの心情は凄く複雑だった。
(奴の言う事は本当だった……ならば、奴の能力は疑う余地が無い。だが奴は、この場所がダイ・ダルマーである事を、知らない、いや興味がないと言ったぞ? あの隠された場所を見つけた能力があれば、それを知る事は造作もないはず…………あいつ確かGP隊員だったよな)
ふと、コマチは、静竜の今までの言動や、息子の身代金を嬉しそうに値切っている父親の事を思い返した。
「…………もしかしてあいつ……バカなのか?」
何やら苦悩をしているコマチに、オペレーターは間合いを計るように話しかけた。
「コマチ様、ただ……、先程、居なくなっていた人質が、戻って来ています」
「なんだと!」
コマチはハッと顔を上げ、監視モニターに近付けた。静竜が挙げたリストの人質達は、全員が何事もなかったように独房に居た。
「どういう事だ?……どこか変わった所は?」
「ここからじゃ、わかりません。直接調べられればあるいは……」
「静竜と同じく、預けになっている人質はいないか? 誰か協力してくれそうな奴の持ち物なら……」
「ダメですね。全部、タラントの買い取りですし、しかも身代金が振り込み済みなので、近日中には家族の元に返されます」
「そうか…………。そうだ! 人質の家族がどこにいるかは分かるか?」
「……全員、アカデミーです」
「全員だと? 偶然か…………いや、そんなはずは無い!」
「あの男なら、何か分かるのでは?」
オペレーターの言葉に答えず、コマチは考え込んだ。
(静竜が見たという猟奇的なものが、ただ単なる趣味で、しかも蘇生復元しているとなると、こちらが口出しをする理由としては弱い。何か細工をしていたとしても、相手がアカデミーならば、どうとでも言い訳はできる…………ダイ・ダルマー内に無許可の施設を造った事は、少々問題とはなるだろうが……)
リョーコの家族を連れ去った事や、この件にしても、タラントの力を奪い、その背後関係を調べる理由としては弱いのだ。
(リョーコの件は、確実に山田西南を仕留めさせるため、こちらは敵対するアカデミーに何らかの工作をするためだと言われれば、どうする事も出来ない)
タラントのやり過ぎは、今に始まった事ではない。多少の問題はあれど、ギルドに刃を向ける行動でない限り、黙認されて来たのだ。
「しばらく静観しよう。引き続き調査は続けてくれ」
「了解」