Part 1: 赤坂: やぁ、梨花ちゃん。今日はひとりかい? 梨花(私服): こんにちはなのです、赤坂。今日はどこかへお出かけなのですか? 赤坂: うん。宿泊施設の火事の原因もわかったことだし、あとは消防団と大石さんたち所轄の仕事だからね。部外者の口出しはかえって邪魔になる。 赤坂: というわけでせっかくの休みだし、このあたりをのんびり散歩してみるのも悪くないと思ってね。 梨花(私服): みー。村を観光したいのなら、ボクたちが案内してあげるのですよ。 赤坂: はは、ありがとう。でもそれは私ではなく、はるばる#p雛見沢#sひなみざわ#rまで来てくれた戦人くんたちを案内してあげてくれるかな。 赤坂: どちらかというと私は、知らない土地をひとりであてもなく歩くほうが好きなんだ。 梨花(私服): わかりましたのです。暗くなると危ないので、日が暮れないうちに戻ってきてくださいなのですよ。 赤坂: あぁ、そうさせてもらうよ。梨花ちゃんは、例の宿泊施設のお手伝いかな?こんな早い時間から、大変だね。 梨花(私服): いいえ。ようやくアルバイトの目途がついたと魅音から連絡があったので、ボクたちは昨日でお役御免なのです。 梨花(私服): その代わり、例の「連中」がまたこの辺りに出てこないとも限らないので、交代で見張りをすることになったのですよ。 赤坂: ……なるほど。本来なら警察としては、君たちに危険な役割を任せるなんて絶対に認めてはいけない立場なんだけど……。 赤坂: あの怪物どもに対抗できるのは、残念ながら君たちのあの不思議な力だけだ。申し訳ないけど、頼りにさせてもらうよ。 梨花(私服): 任せてくださいなのですよ、にぱー。 梨花(私服): ……あと、赤坂。あなたに尋ねておきたいことがあるのですが、答えてもらっても構いませんですか? 赤坂: もちろんいいよ。で、どんな質問だい? 梨花(私服): あなた……何しに来たの? 赤坂: えっ……? 梨花(私服): 私が記憶している赤坂衛は、出張とはいえ下見でこんなふうに雛見沢にいることはなかったわ。……いつも、公安刑事として忙しく働いていた。 梨花(私服): あなたはどんな時でも、私的な都合より公僕としての責任と矜持を優先する人。確かに温泉は、嫌いじゃないでしょうけど……。 梨花(私服): 少なくとも、職務を忘れてのんびりと怠惰な時間を過ごすつもりだとは……私には思えないのよ。 赤坂: ……梨花ちゃん。 梨花(私服): あなたの立場上、答えられないことはあると思う。……でも、できる範囲でいいから教えてほしい。 梨花(私服): ……あなたも気づいているんじゃないかしら?今のこの状況、わからないことが多すぎるのよ。 梨花(私服): 私なりになんとか真相を探ろうとは思っているんだけど、ひとりだけだととても手が届かなくて……それで……。 赤坂: …………。 赤坂: ……梨花ちゃん。君の見張りの仕事は、何時頃に終わるのかな? 梨花(私服): ……? えっと、お昼には魅音たちと交代する予定だけど……。 赤坂: 続きは、場所を変えたほうがよさそうだ。お昼になったら、2人きりになれる場所で落ち合おう。どこがいい? 梨花(私服): ……古手神社の高台はどう?あそこなら来る人も少ないし、誰が来たとしてもすぐに気づくことができるわ。 赤坂: わかった。それじゃ、そこに行くまでに私も多少準備をしておくよ。じゃ。 梨花(私服): あっ……? 梨花(私服): ……。準備って、どういうこと……? Part 2: 赤坂: やぁすまない、梨花ちゃん。一足先に来る予定だったんだが、少し遅くなってしまったね。 梨花(私服): みー、大丈夫なのです。ボクが約束の時間よりも早く来すぎてしまっただけなのですよ。 赤坂: ははっ、そうかい。……それじゃ、長居するのも申し訳ないから、手短に話をさせてもらうとしよう。 赤坂: まずは、梨花ちゃん。これを見てくれ。 梨花(私服): これは……ひょっとして『ロールカード』なのですか? 赤坂: ふむ……確かに君たちは、この「カード」のことをそう呼んでいたね。その名前をつけたのは、誰なんだい? 梨花(私服): みー、美雪なのです。あと『ロールカード・エスカレーション!』という掛け声も、あの子が最初に唱えてみせたのですよ。 赤坂: ……そうか。彼女にもあとで、話を聞いてみたいところだな。 梨花(私服): それはともかく、赤坂。あなたはこの「カード」をどこで、いつ手に入れたのですか? 赤坂: #p雛見沢#sひなみざわ#rから離れた、県境の山中だ。そして発見したのは、今から4年前……。 赤坂: ダム建設の現場監督が殺されて、その遺体をバラバラにされた……『1年目の#p祟#sたた#rり』が起きた直後だよ。 梨花(私服): っ……?!赤坂、あなたは『オヤシロさまの祟り』の事件に関わっているのですか? 梨花(私服): で、でも……確かあなたは東京の刑事で、それに……?! 赤坂: あぁ。本来、公安として携わるものとしては明らかに毛色が違う。だから私としても、最初は大石さんたちの職分を侵すまいと思っていた。 赤坂: だが、この数ヶ月の間に状況が変わってきたんだ。……この「カード」、もう一度見てくれるかい? 梨花(私服): ……ずいぶんと黒くなっているのです。まるで、火に炙って焦げてしまったようなのですよ。 赤坂: その通りだ。しかもこれは科捜研の鑑識の結果、この世界に存在するどの物質にも合致しない、未知の素材でできていることが判明した。 赤坂: もちろんそれだけだったら、警察の出番ではない。まして公安である私が、首を突っ込む理由もね。 赤坂: しかし……最近これと同じものが首都圏で、おまけに事件現場に落ちていたとなれば、話は別だ。何らかの陰謀が動いている可能性が高いだろう。 梨花(私服): 『ロールカード』が、東京でも……?それはいったい、どういうことなのですか? 赤坂: その前に……梨花ちゃん。君は、私たち家族にとって大切な命の恩人だ。少なくとも私は、君に救われたと思っている。 梨花(私服): みー……? 赤坂: 5年前、君は私に「東京へ帰れ」と言ってくれた。それが何を意味したものなのか、聞いた時はすぐに理解できなかったけれど……。 赤坂: なんとなく胸騒ぎがして、職務放棄を覚悟の上で妻が入院していた東京の病院に戻った翌日……屋上へと向かう階段で、転落事故が起きたんだ。 梨花(私服): …………。 赤坂: それを知った時……全身に戦慄が走ったよ。その階段は毎日、妻が私の早い帰還と無事を願って屋上へ出る時に使っていたものだった。 赤坂: しかも人為的な細工か、単なる経年劣化なのかはともかく……滑り止めのタイルの接着が緩んで、うっかり足を載せると踏み外す仕様になっていた。 赤坂: 事故で大怪我をした人には申し訳ないが……もし、その階段を使っていたのが私の妻だったら取り返しのつかないことが起きていたかもしれない。 赤坂: 妻と、お腹の中にいた娘が無事だったのは梨花ちゃん……君のおかげだ。だから私は、君に心からの恩を感じているんだ。 梨花(私服): 赤坂……。 赤坂: それを踏まえた上で、聞いてほしい。……私は、君に伝えられる限りの真実を話す。どうか、聞いてもらいたい。 赤坂: その上で、私に力を貸してもいいかどうかを判断して……答えを聞かせてくれ。 梨花(私服): …………。 梨花(私服): わかりましたのです、赤坂。あなたのこと、ボクもちゃんと信じるのですよ。 赤坂: ……ありがとう、梨花ちゃん。 赤坂: っと……前置きが長くなってしまったね。詳細については後日として、これだけは君に伝えておくよ。 赤坂: この雛見沢に出没している、異形の生物……君たちが『ツクヤミ』と呼んで戦っている、例の「あれ」のことだ。 赤坂: あの存在については実のところ、政府の一部機関で明らかに把握しているふしがある。……君たちの持つ、『ロールカード』についてもね。 赤坂: その上で連中は、何かを企んでいる……。それを突き止めるべく私は、上層部の命を受けてこの村に派遣されてきたんだ。 梨花(私服): なっ……? そ、それはつまり『東京』の組織が入江機関を通じて、この雛見沢に何らかの影響を及ぼそうとしているということなのですか?! 赤坂: ……なるほど。やはり君も、『東京』のことを知っていたようだね。そしてあの入江診療所の、裏に隠された本当の姿を……。 梨花(私服): はいなのです。もしあなたが聞きたいのであればボクが入江機関にどういう協力をしているのか、あなたに全部教えてもいいのですよ。 赤坂: あぁ、そうしてくれると本当にありがたい。君と入江氏、鷹野氏との関係は正直言って掴みかねているところが多かったからね。 赤坂: ただ……今回の陰謀は、それと全く別系統で動いている。だからこそ、こうして公安が重い腰を上げることになったわけなんだが……。 梨花(私服): ……。その組織とは、何ですか? 赤坂: それは、――。 Part 3: 赤坂: ……手短に済ませるつもりが、ずいぶんと話し込んでしまったね。疲れたかい、梨花ちゃん? 梨花(私服): みー、ボクは大丈夫なのですよ。ただ……。 梨花(私服): ……あまりにも初めて聞くことが多すぎて、頭の整理に時間がかかっているのです。 赤坂: まだ幼い君に、こんな重要機密を伝えるのは本当に申し訳ないと思っている。ただ……。 赤坂: 梨花ちゃん、君は聡明な女性だ。それに加えて、この村の人たち全てを救いたいと本気で願っているのだと私にも理解ができる。 赤坂: だからこそ私は、ありのままのことを伝えさせてもらった。……それによって、君を苦しませてしまうかもしれないと覚悟の上でね。 梨花(私服): ……いいえ、赤坂。ボクがあなたに、話してもよいと思うこと全てを教えてほしいと頼んだのです。 梨花(私服): むしろ、ボクのことを子ども扱いしないで真摯に向き合ってくれたことが、本当に嬉しいのですよ。にぱー♪ 赤坂: ありがとう、梨花ちゃん。そう言ってもらえると、私も救われるよ。 赤坂: それじゃ、私は行くよ。また何か進展があれば、君に報告するから……じゃ。 梨花(私服): あっ……赤坂! 赤坂: ん……? どうした梨花ちゃん、まだ私に聞きたいことでもあるのかい? 梨花(私服): ……。この質問は、あなたにとってもすごく答えづらいものだとわかっていますです。 梨花(私服): ですが、聞かせてください。……この村で出会った、美雪のことです。 赤坂: ……。美雪さんが、どうかしたかな? 梨花(私服): あなたは、本当に気づいていないのですか?……あの子の正体が、何者であるのかを。 梨花(私服): あなたの娘の名前は「美雪」……そしてあの子の名字は「赤坂」です。これが偶然の一致だとは、とても思えないのです。 梨花(私服): それに、美雪があなたを見つめる表情……観察力に優れたあなたなら、もうわかっていてもおかしくないはずなのですよ。 赤坂: …………。 梨花(私服): なのにどうして、あなたは聞かないのですか?知らないふりをして、他人のように接するのですか? 梨花(私服): あなたが家族を大切に想う気持ちは、5年前のあの時からよくわかっているのです。なのに……どうして? 赤坂: ……。彼女がずっと、黙っているから……かな。 梨花(私服): えっ……? 赤坂: もちろん、私もよくわかっているよ。美雪さんは私を見る時、いつも嬉しそうで……そしてなぜか、泣きそうな顔をするからね。 赤坂: ……親バカだと笑われることを承知で言わせてもらうと、娘のことを思い出すんだ。 赤坂: あの子はいつも、どんなに寂しくて泣きたい時でも私たちのことを思って我慢して、笑ってくれるんだ。とてもいじらしくて、優しくて……。 赤坂: そこが、よく似ている……なんてものじゃない。もし、あの子が10年後の娘だったのだとしたら私は本当に誇らしいし……幸せに感じるよ。 梨花(私服): だ、だったら……! 赤坂: そんな甘えん坊の彼女が、真実を打ち明けまいと必死に耐えているんだ。……きっと何か、言葉にできない事情があるんだろう。 赤坂: だったら私は、それに応えなきゃいけない。そうでなきゃ、父親の資格なんてないから……ね。 梨花(私服): 赤坂……。 赤坂: ……梨花ちゃん。ここで話したことは、誰にも言わないでくれ。もちろん、美雪さん……いや、「美雪」にもだ。 赤坂: 時期が来れば、彼女たちにも必ず話す。いや、もしそれが叶わない状況になったとしても手段を講じてきっと、伝えてみせる。 赤坂: それが、今もずっと頑張っている娘にできる……せめてもの手向けというものだからね。 梨花(私服): …………。 沙都子(私服): あっ、いたいた!そんなところにおりましたのね、梨花……と、赤坂さん? 赤坂: やぁ、沙都子ちゃん。梨花ちゃんを探していたのかい? 沙都子(私服): えぇ……実は、また宿泊施設の奥の山にあの連中が出没したとの知らせがあったのですわ。 赤坂: それは大変だ。もしよかったら、この前のように私にも手伝わせてもらいたいんだけど……どうかな? 沙都子(私服): えっ? それはもちろん、ひとりでも多く参加していただけると助かりますけど……よろしいんですの、梨花? 梨花(私服): みー、もちろんなのです。赤坂にもあの連中のことを、もっとよく知っておいてもらいたいのですよ。 赤坂: ありがとう、梨花ちゃん。それじゃ早速、現場へと向かうとしよう。 圭一(私服): おぉっし、そっちに行ったぞ!戦人さん朱志香さん、後は頼んだぜ! 戦人: おうよ、任せろ!朱志香も、覚悟は出来てるか? 朱志香: い……いや、まぁ怪物駆除に連れて行け、って頼んだのは私だけどよ……。 朱志香: まさか、私まで戦力に加えられるとは思ってねーだろ!………はぁ、うまくやれる気がしねぇぜ……。 美雪(私服): 大丈夫ですって、朱志香さん!女は度胸、男は愛嬌ってやつですよっ! 美雪(私服): ……あれっ、逆だったっけ。まぁいいか! 一穂(私服): み、美雪ちゃん、張り切ってるね……。 菜央(私服): ……まぁ、その理由は何を見るよりも明らかだけど。 美雪(私服): 赤坂さん、追い込みました!あと、よろしくお願いしまーすっ! 赤坂(ゲームマスター): あぁ……付け焼刃だが、やらせてもらうよ! 赤坂(ゲームマスター): 食らえ、怪物どもッ!うおおおぉぉぉおぉッッ!! 魅音(私服): お……おおぉぉっ?な、なんかよくわかんないけど、すごい攻撃があの連中の群れを一掃しちゃったよ……! 圭一(私服): あぁ、すげぇな……!しっかし、攻撃もそうだけど赤坂さんの服って強そうっていうか、ド派手な感じですね。 戦人: 中は俺の服だろ?マントが付いてるだけで、派手に感じちまうぜ……なんでそんな格好になってんだ? 赤坂(ゲームマスター): いや……私に言われてもね。渡された『ロールカード』とやらを使ったら、こんな感じになっただけだからさ。 美雪(私服): いいでしょ、カッコいいじゃん! 頼りになるじゃん!なんか文句があるんだったら、私が相手になるよ! 戦人: いやぁ、別に文句を言ったつもりはねぇって。似合ってるのは確かじゃねぇか。 菜央(私服): ほんとあんたって、赤坂さんが絡むと熱狂的ファンに成り下がるわね……。一歩間違うとフーリガン(暴徒)に認定されるわよ。 美雪(私服): ぴーぴーぷー、聞こえませーんっ。というわけで赤坂さん、次はあっちを片付けましょう! 赤坂(ゲームマスター): あぁ、ガイド役は任せるよ。美雪さん。 美雪(私服): はいっ、任されましたー!いっくよー、おりゃぁぁああぁっ!! 沙都子(私服): をーっほっほっほっ、なかなかやりますわねぇ!私たちも負けていられませんわよ、梨花っ! 梨花(私服): …………。 沙都子(私服): ……梨花? どうかなさいましたの? 梨花(私服): みー、なんでもないのです。今日も一日、ふぁいと、おーなのですよ。 …………。 梨花(私服): (お互いを想うからこそ、嘘の中だけでもその幸せな時間を過ごす……か) 梨花(私服): (本当……似た者親子ってやつね、あの2人は)