Part 1: 詩音(私服): はろろ~ん、お姉♪かわいい妹が遊びに来てあげましたよ~。 詩音(私服): ちょっとした気まぐれでケーキも持ってきましたから、お茶でも淹れて一緒に食べませんか……って、あれ? 魅音(私服): うーん、うーん、うーん……! 詩音(私服): なんですか、この部屋の惨状は……?参考書とノートで足の踏み場もないくらいに散らかっているじゃないですか。 魅音(私服): え……? あぁ、なんだ詩音か……。なんであんたがここにいるの? 詩音(私服): なんで、って……遊びに来たんですよ。まぁ、今日はやることもなくて暇だったので軽く世間話でもと思いましてね。 魅音(私服): あぁ、そう……休みは大事だよね……。 詩音(私服): あの……お姉、大丈夫ですか?なんか、目の焦点が合っていませんが……ちょっと台所借りますね。 魅音(私服): うん……どうぞ……。 詩音(私服): ……いったいどうしたんです?とりあえず何か飲み物を準備してきますから、そのケーキでも摘まんでいてください。 魅音(私服): ありがとう……もしゃもしゃ……。 詩音(私服): こりゃダメだ。私が来るまでに、何があったんですかね……? 詩音(私服): はぁ……なるほど。分校の自習時間に、生徒が持ち回りで先生役をやることになったわけですか。 魅音(私服): うん……最近知恵先生が忙しいせいで自習が続いていて、このままだとさすがにまずいんじゃないか、って話になってさ。 詩音(私服): まぁ、言われてみれば自習の時間ってそれほど集中して勉強なんかしませんしね。 詩音(私服): 特に分校は小さい子が多いですから、課題を与えられてもしばらくすれば飽きて別のことに興味が向いちゃいそうですし……。 詩音(私服): ……で、今回はお姉が見事クジでアタリを引いて、見習いティーチャーに任命された、と。 魅音(私服): そうなんだよ。うぅ、こんなことならクジに細工をしておけばよかったなぁ……。 詩音(私服): いや、だめでしょう。委員長が率先してズルなんて、露見すればこれまでの信用がた落ちですよ。 魅音(私服): わかっているよ、そんなことは。言ってみただけで、実際にはしないって。 詩音(私服): ……で、授業の方向性は決まったんですか? 魅音(私服): 決まったように見える……? 詩音(私服): いえ、全然。……っていうか、できないならできないって最初から言っちゃえばいいのに。 詩音(私服): こうなったらもう、今からでも辞退したらどうですか?私には無理なので、誰かやってくださいって。 魅音(私服): そ、そんなのできっこないよ……。クジ引く時に、みんなに向かって恨みっこなしって言っちゃったしさー! 詩音(私服): でも……お姉が先生ですよ、先生。想像しただけで、どんな展開になるか……。 詩音(私服): ……ぶふっ! 魅音(私服): あ、笑ったっ? あんた今、笑ったね?! 詩音(私服): くっくっく……そりゃ笑いますよ。だってお姉に、先生なんて無理に決まっていますしねー。 魅音(私服): あー、言ったね!じゃあ詩音は、先生ができるって言うの?! 詩音(私服): もちろん。私は、お姉と違ってお嬢様学校に通っていた経験がありますしねー。 魅音(私服): はっ!……途中で耐えられなくなって逃げてきたくせに。そんな体たらくのあんたに、先生なんてできっこないよ! 詩音(私服): で……できますよ!私は教わるよりも、人に教えるほうが得意なんですからねっ! 魅音(私服): あーそう、じゃあやってもらおうじゃん!ちゃんと先生役ができるかどうか、判定してくれる審判を立ててさっ! 詩音(私服): わかりました、いいですよ!じゃあ審判は、圭ちゃんに頼んでやってもらいましょうっ! 魅音(私服): 覚悟しなよ!あとになって無理でしたー、って泣いて謝っても許してやんないからね! 詩音(私服): そっちこそ! 私の見事な先生っぷりでお姉をぎゃふんと言わせてあげますよ! 詩音&魅音: ふんっっっ!!!! Part 2: 詩音(私服): ……ということで、協力お願いします! 一穂(私服): いや、その……どういうことなの? 菜央(私服): ごめんなさい、詩音さん。今の話だと、私たちはどうすればいいのかよくわからないかも……かも。 美雪(私服): んー、つまり詩音は売られた喧嘩を買っちゃったんだよねー。 美雪(私服): まぁ私の見立てだと、先生役をどうするか困った魅音にうまく誘導されて、割り引き底値で叩き売りつけられた気がするけどねー。 詩音(私服): ……うっ? そ、それはあとになってから「しまったー!」と思って頭を抱えましたが……。 詩音(私服): だからって、あんなふうに挑発されて引けるわけないじゃないですか! 菜央(私服): ……。で、ここに詩音さんが最近受けたテストの答案があるわけだけど……。 一穂(私服): …………。 美雪(私服): 一穂、何かコメントをどうぞ。 一穂(私服): ご、ごめんなさい……。 美雪(私服): おぅ、なんで一穂が謝るのさ。 菜央(私服): ……コメントに困る気持ちもわかるわ。これを見る限り、先生に向いてる成績とはちょっと言えないかも……かも。 詩音(私服): ぐっ……い、言っておきますが、私の成績はお姉といい勝負ですから! 美雪(私服): それは、うん……確かにそうだね。 菜央(私服): 双子って、こういうところまで似たりするのかしら……? 一穂(私服): あの……詩音さん。#p興宮#sおきのみや#rに戻ってくる前はお嬢様学校に行ってたそうだけど……そこって勉強とか、厳しくなかったの? 詩音(私服): めちゃくちゃ厳しかったですよ。基準点に達しなかったら、即補習。宿題、課題も膨大な量でしたし。 一穂(私服): ということは、勉強がかなり厳しい環境にとりあえず1年はいたんだよね。……なら、勉強の仕方とかは知ってるんじゃないの? 詩音(私服): それは、その……色々とありまして……。 美雪(私服): 言葉を濁すところを見る限り、おいそれと他人には言えない「対策」だの「運動」だのをやってた感じだね……。 一穂(私服): 「対策」……「運動」?どういうこと、美雪ちゃん? 美雪(私服): んー、例えば……その先生がどんな問題を出すのかを何らかの手段で事前に知っておくと、勉強の「対策」はできるよね? 美雪(私服): あと、先輩たちから聞いてその先生がどういう問題をこれまで出してきたのかを入手する「運動」をすれば、予習も……。 菜央(私服): ……それってズルじゃないの? 詩音(私服): むっ……ズルとは聞こえがよくありませんね。円満な人間関係を築くのも、立派な勉強ですよ! 一穂(私服): た、確かにそういう見方もあるかもしれないけど……その結果として今、詩音さんは困ってるんじゃないの……? 詩音(私服): はい、そうです! 美雪(私服): おぅ、元気に言い切った。 詩音(私服): お願いします、私を立派な先生にしてください!このままだとお姉に笑われます……! 美雪(私服): ……正直、ここで笑われた方が詩音のためになる気がすると思うのは、私の勝手な見解かい? 詩音(私服): そんな……!葛西みたいなこと言わないでくださいよ、お願いします! 一穂(私服): 葛西さん、そんなこと言ったんだね……。 菜央(私服): あの人詩音さんのお願いに弱いと思ってたけど……そこは譲らなかったんだ。 美雪(私服): うんうん、ちゃんと保護者してるよねー。 詩音(私服): 笑われた方がいいなんて保護者の言葉じゃないですよ~! 菜央(私服): けど、3日後の午後って……ちょっと時間がなさ過ぎるわ。せめてもう少し、時間をもらったらどう? 詩音(私服): いや、私だってそうしたいですけど……先生ができるかどうかのジャッジとして、圭ちゃんを呼んじゃったんですよ。 詩音(私服): 興宮の学校が午後休みなのは現状そこしかないので……延期は無理です。 詩音(私服): いえ……待ってください。ジャッジが来なければ、勝負は不成立……すなわち、私はノーダメージでは? 一穂(私服): ちょっ……まさか、ジャッジの前原くんが分校に来ることができないように、何か悪だくみをするってこと?! 菜央(私服): ……聞いてしまったからには、それはさせられないわね。 美雪(私服): もし前原くんになにかあったら、それは詩音のせいだと見なして魅音と葛西さんに報告するから、そのつもりでね。 詩音(私服): ぐっ……しまった、口が滑りました。黙って行動に移しておけば……っ! 菜央(私服): ……。詩音さんの口が滑らなかったら、前原さんの足元が滑ったのかも……かも。 美雪(私服): まぁ、それはさておくとして……どうするつもりなのか、考えようよ。成功失敗はともかくとしてさ。 詩音(私服): ダメですよ。私は勝てる勝負でなければ、絶対にしない主義なんです。玉砕なんて、断固としてお断りですよ。 一穂(私服): そんな、胸を張って言わなくても……。 菜央(私服): ……詩音さんの強みって、結局それよね。 詩音(私服): えっ……それって? 菜央(私服): だって、考えてみてよ。誰がどう見てもこの状況って最悪じゃない? 美雪(私服): だねー。私なら、白旗を揚げる準備はじめるよ。 菜央(私服): なのに、負けを認めたりはしないし……出たとこ勝負にかけることもない。絶対に勝つ方法を探して、必死に考えてる。 菜央(私服): 詩音さんにとっては、勝利と成功だけが価値のあるもので……その過程は重視しない。それってある意味、すごい執念だと思うの。 一穂(私服): それは……うん、確かにそうだよね。 一穂(私服): そんな詩音さんだからこそ、いつも何か逆転の一手を打ってくるんじゃないかって油断ができないし……期待もしちゃうんだよ。 美雪(私服): だね。沙都子たちもそんな話をしてたけど、授業内容はともかく……授業そのものに対して不安を抱いてる様子はなかった感じだったね。 詩音(私服): 授業内容には、不安を感じていたんですか……? 菜央(私服): だけど、こうやって詩音さんに相談されるまであたしたち、あなたが先生役をやるって聞いてもなんだかんだで形を整えてくる、って思ってたわ。 菜央(私服): つまり詩音さんって、ハッタリを効かせるのがすごく上手なのよね。 詩音(私服): えっと……それって、褒められていると受け取っていいんですか?なんか複雑というか、微妙な気分なんですけど。 一穂(私服): あ……でも、ハッタリを効かせるのはひとつの武器としても、それを授業にどうやって活かせばいいの? 菜央(私服): ……こういうのはどうかしら?あたしの通ってた塾って、先生を生徒が選べるの。希望者が多いと、抽選とかになったりするけど……。 菜央(私服): 人気の先生って、たいていの場合はある条件を満たしてるのよね。 詩音(私服): 人気の先生の、ある条件……? 菜央(私服): えぇ。詩音さんなら、きっと満たせると思うわ。 Part 3: 詩音(女教師): 午後から、知恵先生がご用事……というわけで今回の自習は、この園崎詩音が行わせていただきま~す。 男子生徒たち: お、おぉおおおおお……! 詩音(女教師): ご声援ありがとうございま~す。……ということで、今からプリントを配りますねー。 詩音(女教師): 各自、問題に向かって自分の心の内側……わからない問題と向き合ってください。 詩音(女教師): 大丈夫、みんなは1人ではありません。先生が一緒です。 詩音(女教師): 先生と一緒に、頑張りましょうねっ。 男子生徒たち: はいっっっ!!!! 男の子A: 詩音先生、ここわからないです! 詩音(女教師): えっと……どれどれ? 男の子B: ぼ、ボクもわからないです! 詩音(女教師): はーい、じゃあ次に行くから待っていてくださいね。 詩音(女教師): それまで、わからないところは飛ばしてわかるところからやってみてください。 詩音(女教師): ……大丈夫です。あなたならできますよ。先生は信じていますから……ね♪ 男の子B: は、はい……っ! 女の子A: 詩音さん、すごいねー。お姉さんって感じ! 女の子B: っていうか、あんな感じの女の人って「お姉さま」って言うんじゃないかな? 女の子A: なんか……カッコイイねー。 女の子B: ねーっ。 男の子B: で……できました! 詩音(女教師): あら、偉いですね~。じゃあちょっと、見せてもらいますね。 詩音(女教師): ふんふん……なるほど。あら、ここは間違っていますね。 男の子B: あ……。 詩音(女教師): くすくす……そんな泣きそうな顔をしなくても、大丈夫ですよ。 詩音(女教師): これは練習ですから、いくら間違えても大丈夫。大事な時に間違えないように、頑張りましょうね。 男の子B: は、はいっ! 圭一: お、おぉ……みんな、バリバリやる気になって問題を解いているなー。 美雪: 詩音の特技は、ハッタリって言ったけど……ちょっと効き過ぎじゃない? 沙都子: というより、あれはハッタリを飛び越えて別のものが効いている気がしますわ。 羽入: あぅあぅ……効いているのではなく、「惑わされている」と言ったほうが正しいような……? 一穂: 色気、ってダメじゃないかな……授業的に。 梨花: みー……一穂が言ってはいけないことを言ってしまったのですよ。 一穂: うぅっ?! レナ: はぅ~、先生な詩ぃちゃんってかっこいいけど、かぁいいよ~! 魅音: ぐ、ぐぐぐっ……あ、あんな手が……っ? 魅音: きりーつ、れい! 生徒たち: ありがとーございましたー! 詩音(女教師): はい、ありがとうございました~。 魅音: ――詩音、反則ッッ! 詩音(女教師): なんですか、お姉。急に大声を出して。 魅音: 反則でしょ、そんな手はっ!色仕掛けなんて、先生らしくない!そんな胸元ガバーって開けちゃって! 詩音(女教師): 仕方ないじゃないですか、授業直前に胸のボタンが取れちゃったんですから。 美雪: えっ? そのボタンの開け方はわざとじゃなかったの? 菜央: 作戦のひとつだと思ってたわ。 一穂: わ、私も……。 詩音(女教師): いや、違いますよ!これ見てくださいって、ほらっ! レナ: はぅ……確かにちぎれちゃったんだね。ボタンの糸が、シャツに残っているよ。 沙都子: ……ご自分でわざと引きちぎったのでは? 詩音(女教師): 沙都子……この後で、カボチャを美味しく食べるお勉強をしましょうね? 詩音(女教師): 2人っきり……で。うふふっ。 沙都子: いやぁああああああ!!! 梨花: みー……詩ぃが打ってくる手は偶然でも必然でも、わざとのような感じがして信用ができないのですよ。 羽入: あぅあぅ……日頃の行いは大事なのです。 魅音: そうだ、そうだーっ! 詩音(女教師): なんとでも言えばいいですよ。で、今回は私の勝ちということでいいですね? 魅音: 勝ちもなにも、授業じゃなくて普通にプリントを配ってみんなに解かせただけじゃんか! 圭一: でもみんな、すごく真剣にプリントに向かっていたよな。……自習って、今までこんなに集中するものだったのか? レナ: ううん。ここまでみんなが真剣にプリントと向き合っていたのは、珍しいと思うよ。 詩音(女教師): つまり、自習時間の先生役としてはきちんと務めを果たせたということですね。 魅音: い、異議あり異議あり!ちゃんとみんなに勉強を教えてなかった!これは先生の授業とは言わないっ! 詩音(女教師): ふぅ……お姉。先生にとって、大事なことはなんだと思いますか? 魅音: そ、それはわかりやすい授業を……! 詩音(女教師): ノンノン。それ以前の問題です。 魅音: じゃあなんなのさ?! 詩音(女教師): 先生の役割は、生徒のやる気を引き出すことです。 梨花: みー。判定の圭一、どう思いますですか? 圭一: そうだな……魅音の主張はわからなくもないが、詩音の言うことも間違っていない。 圭一: どんなにわかりやすい授業でも、生徒が聞いてなければ意味がねぇからな。 一穂: つ、つまり……? 圭一: 認める。勝利者、詩音ッ! 詩音(女教師): イエーイ! 魅音: う、うそぉ……。 圭一: ただし、この戦法が通じるのは小学生までだと俺はここできちんと、明言しておきたい。 一穂: えっ? ど、どうして……? 圭一: それは……。 圭一: ……中学生以上の男子にその格好は、刺激が強すぎて勉強に集中できないからだ! 美雪: んー……それはそうだろうね。 一穂: で、でもどうしてみんな集中力があがったのかな……? 菜央: あたしの通ってた塾でも、人気があるのは教え方が飛び抜けて上手い先生と、見た目がいい先生だったのよ。 沙都子: で、後者はなぜかみんなのやる気が上がって成績がいい……。先生にはお気の毒ですが、理屈としてはわかる気がいたしますわ。 菜央: 男前の先生とか、人気ありすぎてバレンタインとかすごいことになってたわね。 一穂: そ、それはいいのかな……先生として。 美雪: 現状の善し悪しはともかく、学力アップに繋がってるならいいんじゃない? レナ: そうだね。いつもならともかく、たまにならレナもいいと思うな。 詩音(女教師): で、お姉はどんな授業してくれるんです?私もお姉の授業受けてみたいな~、なーんて。 魅音: くぅうう……!わ、私は授業内容で勝負するから! 魅音: やってやる!ちゃんとした先生をしてやるから!! 詩音(女教師): くっくっくっ……頑張ってくださいね~。 レナ: 魅ぃちゃんのやる気も、上がったみたいだね。 圭一: こりゃかなり工夫した授業になるだろうな。俺も受けてみたいぜ。 梨花: 魅ぃの授業も楽しみなのですよ。にぱー。 一穂: ほ、本当にこれでいいのかなぁ……?