第一章 不死船団来航


 レイルーン西南端。勇者が作った人間達の村『スズキーランド』を、元レイルーン国第三王女エクセラはわらばんのような質の悪い紙の束を抱えながら歩き回っていた。隣には赤ん坊のクラリスを抱いたケイトの姿もある。

 マーグリット率いる救世十字軍のレイルーン侵攻により、スズキーランドは焼き討ちされた。いまだに所々が黒く焼け焦げた家屋を見渡しながら、エクセラは藁半紙の名簿に目を落とす。

 現在、確認できた死者は七人。これ以上、増えないことを祈りつつ、エクセラは小屋の扉をノックする。おびえた女性の返事があり、扉がそっと開かれた。

「こ、これは姫様……!」

 傷んだ金髪に、奴隷のようなみすぼらしい服装。だが、その服がはち切れそうな程に大きな胸を持つ女性が、驚いた顔をしてたたずんでいた。

「あっ! アナタは『町で一番、胸の大きな人』ですね!」

 彼女は以前、らいそうしっそうの幹部であるメルキル姉妹がスズキの為に連れてきた奴隷だった。色々あってスズキーランドに招かれたのだが、

「ご無事で何よりです!」

 エクセラはそう言って、彼女と手を取り合った。一瞬、微笑んだ彼女だったが、やがて悲しげにうつむく。

「でも……『町で一番ハゲた人』と『町で一番デブの人』は死んでしまいました」

「な、何てこと! 町一番ハゲた人と、町一番デブの人が……!」

 その二人もまたスズキーランドに見世物として連れてこられた人間であった。そのような経緯ではあったが、当人達は魔物に食べられることから免れた幸運に感謝し、心穏やかにスズキーランドで暮らしていた。なのに……。

 エクセラは歯を食いしばる。

(魔物ではなく人間の兵士によってあやめられるなんて。町一番ハゲた人も町一番デブの人もどんなに悔しかったことでしょう……いや、というか……その前にちゃんと名前で呼んであげないと失礼ですよね……)

 エクセラは分厚い名簿をめくって、スズキーランドの住人の名前を確認した。

「それで、えぇっと……アナタはシェリーさんというのですね?」

「は、はい」

「食料は足りていますか? 何か困ったことがあれば仰ってください」

 何度かの質疑応答の後、シェリーはおずおずとエクセラに尋ねる。

「姫様はこのように一軒一軒、回られているのですか?」

「ええ。何か私にできることをと思いまして」

 エクセラはケイトを振り返る。ケイトはクラリスをあやしながら、少しはかなげに微笑んだ。

 もしも家臣のオルネオが生きていれば、テキパキと的確に指示してくれたかも知れない。しかし、彼はもういない。血だまりの中、くずおれたオルネオを思い出すと、エクセラは涙が出そうになる。

 オルネオの死の後、エクセラは数日間、体調を崩して床に伏してしまった。

『エクセラ。俺のそばにいて手伝って欲しい』

 ベッドの中で勇者に言われた言葉を思い出し、エクセラはない自分を恥じた。

(勇者様はつらい気持ちを押し殺して、魔王軍決起会に臨まれました。なのに私は……)

 エクセラは悔しかった。だから衰弱した心と体にむちを打ち、ベッドから出て、スズキーランドの安否確認をしようと思い立ったのだ。

「いつまでも塞いでいたら、オルネオに笑われますから!」

 エクセラはそう言って、シェリーとケイトの前で気丈に笑ってみせる。エクセラの気持ちが伝わったのか、シェリーは熱のこもった瞳を向けてきた。

「姫様! 私も、何かお手伝いを!」

 シェリーの気持ちがうれしくて、エクセラはケイトと顔を見合わせて微笑んだ。


 シェリーが加わったこともあり、住民達の安否確認は思っていたより早く完了した。

 焼けた家屋のれきを軽々と運ぶサイクロプスを、シェリーが感心した様子で眺めている。

「魔物の皆さんも手伝ってくれているんですね」

 スズキーランドには警備の魔物が常駐しており、彼らは傷んだ家屋の修繕を手伝ってくれていた。こういう時、魔物達の人知を超えるりょりょくはとても頼りになる。

「これも勇者様の努力のたまものですよ!」

 魔物と人間の共同作業──レイルーンがらいそうしっそうに征服される前には、想像すらしなかったことだ。今一度、エクセラが勇者に心の中で感謝を述べていると、ケイトが何か思いついたように笑顔を見せた。

「魔物の皆さんにお茶を運んでは如何でしょうか?」

「いいですね! そうしましょう!」

 三人は湯気の立つ紅茶と茶菓子を数名分用意して、トレイに載せて運ぶ。

(確かこの辺りに、いらっしゃいましたよね)

 エクセラ達が小屋の隅にさしかかった時だった。

「……やっぱ人間って、ムカつかねえ?」

(えっ)

 そんな声が聞こえて三人の足は止まる。恐る恐るエクセラは陰から様子をうかがった。離れた所で、サイクロプスとゴブリン、そしてスケルトン兵が輪になって立ち話をしている。

「納得いかねえよなあ。俺達、救世十字軍って人間の奴らにやられた訳だろ? で、このスズキーランドにいるのも人間だ。守る必要なんてあるか?」

「そう言われりゃあそうだな」

「ウロウグル様だって大したんだ。怒ってるに違えねえ」

「そういや今日、スズキが帝都から戻ってくるってさ。あの野郎、隊長補佐になってイキってるらしいぞ」

「いくらわいいったって、スズキだって憎き救世十字軍と同じ人間だ」

「ああ。何だか俺は腹が立ってきたぜ。やっちまうか……!」

 不穏な気配に、エクセラの持つトレイが震える。

(い、いけない! 勇者様がコツコツと築き上げてきた信頼が崩れかけています!)

 ケイトが心配そうに言う。

「ど、どうなってしまうのでしょう?」

「このままでは勇者様が魔物に襲われるかも知れません! そ、そうだわ! ネフィラ様にこのことを伝えて、」

 その時。サイクロプスが野太い声を上げた。

「おっ! うわさをすりゃあだ! スズキの野郎、帰ってきやがったぜ!」

(ゆ、勇者様が戻ってきた!? タイミング悪いです!! このままでは大変なことに!!

 とにかく今、勇者をこちらに来させては危ない。そう思ったエクセラは、

「ダメです! 勇者様ぁっ!」

 トレイを放り出し、小屋の隅から飛び出した。以前、足のけんを切られて、だ満足に走れないエクセラであったが、それでも必死に前に進み、そして……。

「……は?」

 エクセラは目前の光景にがくぜんとする。

 勇者は体に包帯を巻いたウロウグルと一緒にこちらに向かってゆっくり歩んできていた。その周りには子リスや兎などの野生の小動物が跳ねている。

 ウロウグルは、包帯の巻かれた腕を掲げて、満面の笑みを勇者に見せた。

「俺、オーガだかラ、こンな傷へっちゃラ!」

「そっか。ってか『へっちゃら』とか久し振りに聞いたかも! アハハッ!」

「そ、そウ? ウフフフフ!」

 勇者に釣られてウロウグルも笑う。それに合わせて、子リスや兎も嬉しそうに周囲を飛び跳ねた。

(な、何という、ほのぼの感!! ピクニック!! まるでピクニックですわ!!

 勇者はサンドイッチの入った籠などを持っている訳ではない。それでも、にこやかに歩く二人の周囲では、花弁が風に舞い『パァァァ』と漂っている──そんな幻想をエクセラは抱いた。

 突如『ドサドサッ』と、連続した音が聞こえる。気付けば魔物達が、持っていた武器を草の上に落としていた。

「うわぁ……可愛い……!」

「やっぱ、スズキってメチャクチャ可愛いよな!」

「あんな可愛いスズキを襲おうだなんて……俺達、どうしてそんな物騒なこと考えてたんだろ?」

「色々あって心がすさんでたんだ。まったく自分が情けねえぜ」

「可愛いスズキが人間ってことは、他の人間も捨てたもんじゃないってことだよな!」

「さっさと仕事に戻ろう! サボってちゃあ、スズキが悲しむ!」

 急いで修繕作業に戻る魔物達を見て、エクセラは感動で打ち震えていた。

(あんなに殺伐としていた空気が一瞬で! これが世界を救う勇者様のお力!)

 エクセラの隣、シェリーとケイトもまた感極まったように呟く。

「勇者様は本当に可愛くていらっしゃいますよね……!」

「ええ、ええ! 本当に!」

(……えっ?)

 シェリーもケイトも少し頰を染めている。あ、あら? 人間には勇者様の力は働かない筈なのに?

 それに『可愛い』ですって?

 エクセラはおずおずと二人に尋ねる。

「あ、あの……勇者様って可愛い……ですか? 私にはよく分からないのですけれど……」

「えっ。普通に可愛いですよ。勇者様は」

 ケイトは驚いたように言う。シェリーも「私もそう思います」とうなずきつつ、豊満な胸に手を当て、ウットリした顔を見せた。

「ああ……挟んであげたいわ……」

 しばし沈黙。ケイトが口に手を当てながら、シェリーの背中をパーンと叩く。

「もー! ちょっとヤダー!」

「だってだってー!」

 二人でキャッキャしている。い、一体、何をしゃべっているのかしら。エクセラは不思議に思った。

(挟むって一体、何を何で挟むのでしょう? パンで卵を? いや違いますよね。よく分かりません……)

 未亡人子持ち主婦と色香漂うセクシー女性の大人の会話は、エクセラには理解できなかった。それでもエクセラは心の中で、余裕の笑みを見せる。自分は勇者様との付き合いが長い。二人が知らない勇者様の一面を知っている。

「あっ、エクセラ!」

 勇者がこちらに気付き、手を振って駆けてくる。その姿を見て、エクセラの胸はトクンと小さく鼓動した。

 ノエルによるイフリート召喚時。そして、あの恐ろしいマーグリットにもづかず、立ち向かった雄々しき姿をエクセラは思い返す。

(二人共、間違っておられます! 勇者様は可愛いのではなく、格好良いのです! そう……いにしえの英雄ハルトライン様のように!)

「お帰りなさい、勇者様!!

 大好きな伝記の英雄に心をせつつ、エクセラは満面の笑みで勇者を迎えた。



「えぇい! シャキシャキ働かんかあ!」

 魔王軍直属特別攻撃隊・らいそうしっそうに占領されたサイネス城に、隊長であるネフィラの怒声がとどろく。魔物の兵士達はネフィラのしっに怯えつつ、修繕作業をしていた。

 スズキーランド同様、サイネス城もまた、救世十字軍の侵攻により痛手を負っていた。ネフィラが鳥頭の魔物フォルスを叱りつける。

「全く修理できておらんではないか!! 貴様ら一体、何をしていた!?

「も、申し訳ございません!!

 ネフィラがいらついているのには、二つ理由がある。

 自分達が魔王軍決起会の為、帝都に赴いている間、フォルスに城の修繕を頼んでいたのだが、それが思ったほどはかどっていなかったこと。そしてもう一つは……。

(もう! スズキってば、帰ってくるなりスズキーランドに行っちゃうなんて!)

 このところ、スズキと二人きりの時間を過ごせていない。隊長補佐になりたいというスズキの志願を受けたのも、ひとえに自分の傍に置いておきたかったからである。そんなネフィラにとって、先般、開かれた魔王軍決起会への小旅行は蜜月の時間になる筈だった。

 しかし。帝都には、らいそうしっそうの幹部という名目でメルキル姉妹も付いてきた。ネフィラは歯ぎしりしながら道中の竜車を思い出す。

『うー。休憩、まだー?』

『我慢しろ、メル。もうちょっとで帝都だ。スズキも後少しで、おしっこできるからな!』

『いや俺、別にしたくないし……』

『ホントか? 我慢すんなよ? どうしてもしたくなったらアタシがこの瓶に入れてやるぜ!』

『大丈夫だって言ってるだろ! ペット扱いするの、いい加減やめてくれってば!』

『アタシはお前が、おしっこでぼうこうを破裂させて死なねえか心配なんだよ!』

『膀胱破裂するまで我慢しねえわ!!

『ううー! 姉様ー!』

『ど、どうした、メル?』

『ごめーん! おしっこ出ちゃったー!』

(いや、どうしてアンタが漏らすのよ!!

 幹部の失態を思い出し、ネフィラは頭が痛くなる。道中だけではない。スズキの両サイドには絶えずメルキル姉妹がいて、スズキと腕を組んでいた。何よ、アンタ達! それは私の役でしょ!

 メルキル姉妹は、もう連れて行かない。ネフィラは固く心に誓いつつ、スズキに思いを馳せる。

(スズキ……隊長補佐だってのに、どうして私の傍にいないの? 私はアナタのあるじなのよ? 主っていうか大事な人っていうか、むしろ恋人っていうか……とにかく寂しいじゃない! ぐすっ!)

 ちょっと涙ぐんだネフィラだったが、鳥頭のフォルスが駆けてきたのでとっに顔を引き締め、長としての威厳を醸し出す。

「ネフィラ様。お部屋にて水晶玉が鳴っているようです」

「分かった。今、行く。お前は魔物達に修繕を急がせろ」


 ネフィラが自室の扉を開くと、羽虫のような音が響いていた。机の上の大きな水晶玉には、魔王軍参謀セルフィアノの笑顔が映っている。

「やっほー。こんにちはー」

「はい。こんにちは」

 魔王軍随一の知能を誇る三つ目の悪魔セルフィアノは、魔力を用いた遠隔による水晶玉通信にも成功していた。

「それでネフィラ。どうですか。レイルーンは?」

「ええ。ようやく落ち着いてきました」

「それは良かったです。ホント、こっちもバタバタしてましてですね……」

「もしや救世十字軍が帝都にも!?

「いえいえ。そういう訳ではなく。現在、帝都を魔都に改装中でして」

「ああ、なるほど」

 人間達が作った都を名前も変えず、そのまま利用しているのは気分のいことではない。魔王様の威を知らしめる為にも、施設などはできるだけ魔物用に再築すべきだ──先般の魔王軍決起会にいて、そんな意見が出ていた。

(私もサイネス城の名前変えようかなあ。『スズキとネフィラの愛の城』なんて! うふふ!)

「……ネフィラ? 聞いてます?」

「す、すみません! 少々、考え事を!」

「帝都を改装中と言いましたよね。その兼ね合いもあって現在、新参の魔物達に教育の場を設けているのです」

「ほう。それは素晴らしいことですな」

「でしょう? だからですね。この際、スズキも三泊四日の悪魔研修に参加してもらいたいのですよ」

「ほうほう。それは素晴らし……は? す、スズキを……? い、今、何と言いました?」

「ですから、スズキを悪魔研修に参加させるのです」

 一瞬の沈黙の後、ネフィラは水晶玉に映ったセルフィアノに大声で叫ぶ。

「スズキに悪魔研修など必要ありません!! 奴はもう充分すぎるほど、極悪な悪魔です!!

「いやいや何言ってるんですか。スズキったら可愛い人間でしょ」

「そ、そのようなことは決して! 最近のスズキはそれはもう、私もドン引きするほどの極悪非道振りで、」

「はいはい。あのですね。こないだも彼、魔王軍決起会で何かニチャニチャ喋ってたじゃないですか? 『人間を殺さないでチョ!』とか何とか。ああいうの良くないんですよ」

(ううっ! やっぱり、スズキに発言させなきゃ良かった!)

「あ、あれは冗談とかわいだんとかそういう類いです!」

「いくら何でも猥談じゃないでしょう。とにかくスズキの帝都招聘は例のごとく、魔王様からの命令ですので」

(くっ! それを言われると辛い!)

「ならば! 私も付いて行きます!」

「ダメでーす。今回はスズキだけでーす」

「えっ……? ば、ば、バカなッ! 同行が認められないなら、行かせられません! 大体、スズキ一人で行って迷子にでもなったらどうするんですか! おなかが減って死んでしまいます!」

「空腹になったら自分で何か食べるでしょ。ダメダーメ。いくら言ってもダメでーす」

「ぐうっ!」

「まったく。ネフィラはらいそうしっそうの長でしょう? もう少し、スズキを自立させて……ゴビュッ……あらら。吐血が始まってしまいました」

 水晶玉通信は発信者の魔力を大量に消費する。長時間の通話は発信者の体をむしばむのであった。

 それでもセルフィアノは慣れた様子で、落ち着いた表情を見せる。

「じゃあそろそろ切りますね。ゴビュ」

「ダメです! その前にスズキとの同行を認めてください!」

「ゴビュッビュ。いやだからダメですってば」

「セルフィアノ殿!! 同行を認めてください!!

「しつこいですねー。もう私から水晶玉、切っちゃいまーす。ネフィラばいばーい……あ、あらっ?」

「認めるまでは切らせませんよ!」

 いつの間にか、ネフィラの体から金色に輝くオーラがあふれ出ていた。バチバチと空間でぜるオーラが水晶玉を覆っている。

「つ、通信が切れない!? こんなバカな!! もしやネフィラの雷の魔力に水晶玉が反応しているのですか!? ゴビュボボボ!!

「セルフィアノ殿おおおおおお!!

「い、いけませーん!! アナタはらいそうしっそうの長!! しっかりと自覚を持ちなさイッビュウウウウゥゥゥ!!

「付いていきます!」「ダメでーす!」の問答は数分間続き、セルフィアノはいつしか体中の穴という穴から血液を噴き出していた。

 やがて、まみれのセルフィアノがたまらず叫ぶ。

「オゴッヘェ、ガバビュ! 分かりました、分かりましたよ!! もう分かりましたから! 水晶玉通信、切らせてェェェ! ガハゲヘェッ!!

「ほ、本当ですね?」

「私の負けです、ゴビュビュのビュ! だから水晶玉を、」

「心より感謝いたします! セルフィアノ殿!」

「感謝は良いから早くゥ! これもう危険レベルで言ったら最大のレベル5ですから! ヴアアアアアアアア!! 喉がかゆィィィィィ!! 幻覚も見えてきましたァァァァァ!!

 セルフィアノは血の涙を流しながら、喉をバリバリと搔きむしっていた。安心しかけたネフィラは、ふと気付く。

 いや待て! セルフィアノ殿は先程から「分かりました」「負けです」としか言っていない! セルフィアノ殿は魔王軍最高の知能であり、策士! 演技かも知れぬ! 後で決定を覆されぬよう、しっかり念を入れておかねば!

 ネフィラは「レベル5ですゥゥゥ!」と、血塗れでしきりに叫んでいるセルフィアノを睨む。

「セルフィアノ殿……最終確認です。本当の本当で本当に……私もスズキに付いて行って良いんですね……?」

「耳、付いてんですか、アンタはァァァァァ!! さっきから私、エルファイブだって言ってんでしょうガアッヘェェッ!!

「ならば『ネフィラをスズキに同行させる』と、ハッキリとしたお言葉を!」

「ネフィラをゴボグッシャア!! スズキに同行させまビュルビューッ!! お願いだから早く切らせてええええええええん!! 死んじゃうううううううううううううううう!!

 言質を取った後、ネフィラは水晶玉から手を離す。映像が切れる瞬間、セルフィアノの三つ目が全て白目をいているのが見えた。どうやら演技でも策でも何でもなかったようだ。うん。悪いことしちゃった。ホントごめんなさい。

 少しの反省と深い溜め息の後、ネフィラは自室を出た。

(はぁ。また帝都か。この間、行ったばかりなのに)

 い、いや、こうなった以上、考え方を変えましょう! そう! 前回のリベンジよ! 今度こそ、スズキともっと仲良くなってやるんだから!

 スズキとイチャつく想像に胸を膨らませる。すると、ネフィラはだんだん楽しくなってきた。

 含み笑いしつつ、廊下を進むネフィラを見て、すれ違った魔物達が呟く。

「お、おい! ネフィラ様が笑っておられるぞ!」

「戦闘以外、滅多に笑わないネフィラ様が……!」

「きっと救世十字軍への報復に燃えているに違いない!」

「こりゃあ血の雨が降るぜ……!」

(ウフフ! 待ってなさい、スズキ! 片時も離れず、イチャイチャにイチャついてやるわ!)

 らいそうしっそうの魔物達を誤解させつつ、ネフィラは拳を握りしめた。



 陥没した石畳の道に、倒壊した建物の瓦礫が散らばっている。

 エクセラと一緒にサイネス城に向かうすずたかしの目には、救世十字軍によってもたらされた惨状が広がっていた。

 何だかいたたまれなくなって、たかしは隣を歩くエクセラに頭を下げる。

「ホントごめん。こんな大変な時にレイルーンを離れちゃって……」

「い、いえ! そんなことは!」

 救世十字軍襲来の後、魔王軍はきゅうきょ、帝都で決起会を開いた。スズキーランドが大変なことになっているのは分かっていたが、あんなことがあったからこそ、たかしは魔王軍決起会への参加をネフィラに願い出た。自分の意志を直接、魔王軍の上層部に伝える絶好のチャンスだと思ったからだ。

「それで決起会は如何でしたか?」

「うん。まぁ一応……言いたいことは言った……けど……」

 歯切れ悪く、たかしは言う。固い決意を持って臨んだ魔王軍決起会。たかしは思いの丈を幹部達にぶつけたが、暖簾のれんに腕押し。まるで成果を感じられなかった。

「ぶっちゃけ、何も変わってないと思う」

 たかしの溜め息に、エクセラが無理に絞り出したような明るい声を出す。

「で、でも! 人間が初めて魔王軍決起会に参加したのです! それだけでも大変に意義のあることかと!」

「そう言って貰えると助かるよ」

 そのまま二人、無言で歩く。たかしはエクセラの手前、元気を出さなきゃと思うのだが、塞いだ気持ちはなかなか戻らない。

 ふと、たかしの前に、首輪をつけた人間の女性を引いた悪魔が通りかかった。

「何もたついてんだよ! このクソ女!」

 そう言って、悪魔は女性の腹を蹴り上げる。たかしは、くずおれた女性に駆け寄った。

「お、おい! 奴隷を虐待しちゃダメだろ!」

「あっ、スズキ……」

 バツの悪そうな顔をした悪魔の脇腹を、隣にいたスケルトン兵が肘で突く。

「バカ!『スズキ様』だ! 隊長補佐になられたんだからな!」

「そ、そうでした! すいません、スズキ様!」

 ヘラヘラ愛想笑いする魔物達から女性を引き離す。たかしは少し離れた場所まで連れて行って、女性に優しく語りかけた。

「なぁアイツ、いつもあんな感じなのか?」

「い、いえ。救世十字軍の侵攻以降、ご機嫌が悪くて……」

 たかしは歯嚙みする。マーグリット達がレイルーンに侵攻したせいで、らいそうしっそうの魔物も何体も殺されている。人間に対する憎悪が魔物間で燃え盛っているようだ。

(クソッ! ようやく人間に対しての見方が変わろうとしてたのに!)

 たかしの落胆は大きかった。とりあえず、先程の悪魔に奴隷を虐待しないよう、しっかりくぎを刺した後、肩を落として歩き出す。

「あの……勇者様。少しだけお時間よろしいですか?」

「ん? あ、ああ」

 エクセラは笑顔でたかしの手を引いた。


「こちらが私の部屋です」

 エクセラが案内したのはサイネス城内二階にある、かつての自身の部屋だった。ちょうめんなエクセラの性格を表したように、調度品が整頓されて並んでいる。だが現在、誰もこの部屋を使用していないらしく、机や本棚に白いほこりが積もっていた。

 エクセラはベッドまで歩いて、埃を手で払うと、にこりとたかしに微笑む。

「勇者様。どうぞこちらへ」

(え。な、何だろ?)

 たかしは緊張しながら、ベッドに腰掛ける。すぐ隣にいるエクセラがたかしの顔を覗き込んできた。え、エクセラ、どことなく今日は色っぽいような……?

 潤んだ目でエクセラはたかしを見詰める。そしてたかしの下腹部の辺りに顔を近付けた。

「私……勇者様に元気になって頂きたくて……」

「い、いや! でもそれは流石に!!

「だから、これを」

 エクセラはかがみ込み、ベッドの下に腕を突っ込んだ。しばらくゴソゴソした後、一冊の古びた本を取り出す。

「この本を勇者様に読んで頂きたくて!」

(だ、だよね! ビックリした……!)

 勘違いしかけたたかしは、気を取り直すように頭を軽く振った後、エクセラに差し出された本を手に取る。

「こういった類いの書物は禁書扱いになると思い、ベッドの下に隠しておりました」

 たかしはエクセラに渡された本を見る。表紙には剣を持った鎧姿の男性が、ドラゴンとたいしている絵が描かれていた。上部に記されているタイトルをたかしは読み上げる。

「『英雄ハルトライン伝説』か」

「はい。ハルトライン様は、かつて竜王に支配されていたこの世界を救った英雄です。ハルトライン様は片腕を落とされても立ち向かい、竜王を倒して世界を救われたのです」

「へぇ……」

 エクセラの話を聞きながら、たかしはパラパラと本をめくる。見開きのページに、筋骨隆々で長身のハルトラインが、海を剣で真っ二つに割る絵が載っていた。


の神剣エクスカリバラスは大海をも二つに切り裂く』


「何コレ、かっけー……!

 たかしの口から自然と感嘆が漏れた。

「ですよねっ!」

 エクセラもまた胸の前で両拳を握りしめて、顔を紅潮させている。

「ハルトライン様の剣は、海を真っ二つに裂いたと言い伝えられているのです! とにかくもう、格好良くって最高ですよね!」

 あまり見たことのないエクセラの興奮した様子にたかしは驚く。エクセラの目は、恋する女性の瞳だった。

(そっか。エクセラは、男らしくて格好良い男が好きなんだな)

「ハルトライン様が実在しなかったなどと言う学者もいますが、私は信じません! ハルトライン様は絶対に存在したのです! 三百年前、グランバレル帝国の基礎を作ったのもハルトライン様だと言われてましてですね、」

 テンション高めに、まくしたてるエクセラ。たかしは、ぼそりと呟く。

「俺もそんなカッコいい英雄になりたいな……」

「もちろんなれますとも! いえ! 勇者様はもう既に格好良いです!」

「ほ、ホント!?

「はい!」

 満面の笑みを見せるエクセラ。少し気恥ずかしくなり、たかしはポリポリと頰を搔いた。エクセラが不思議そうにたかしの顔を覗き込む。

「どうされたのです?」

 先日、ネフィラに「格好良い」と言われた時もたかしの胸は高鳴った。

(うん! やっぱり可愛いより、格好良いって言われた方が嬉しいな! ようし、俺も英雄って呼ばれるように頑張ろう!)

「ありがとう、エクセラ! ちょっと元気出たよ!」

 世界を救った男らしい英雄の話を聞き、たかしも奮い立った。そうだよ! こんなことで負けちゃいられない!

「まずはスズキーランドの立て直しから始めなきゃな!」

「ええ!」

 その途端、扉がバーンと大きく開かれる。双子悪魔のメルキル姉妹が、ズカズカと部屋の中に雪崩れ込んで来た。

「わ!? メルとキル!?

 たかしは焦って、咄嗟に本を背後に隠す。

「スズキ! こんな所にいたのか! 探したぜ!」

「ネフィラ様が呼んでるよー!」

 二人は笑顔でたかしにそう告げた。


「ま、また帝都!? 帰ってきたばかりなのに!?

 ネフィラから悪魔研修の話を聞いて、たかしは声を張り上げた。

「仕方あるまい。魔王様のご命令だ。お前は三泊四日の悪魔研修に参加せねばならん。これは決定事項だ」

(スズキーランドを立て直そうと思ってた矢先に、また面倒なことに……ってか……)

「研修なんてあるんだ? 魔物のくせに……」

 たかしが独りごちるように呟くと、傍で聞いていたキルが眉間に皺を寄せた。

「おいおい、スズキ。アタシらをケダモノみてえに思ってねえか?」

「そーそー。私と姉様も、ちゃんと研修課程を終えてるんだよー?」

 メルも少し頰を膨らましている。

「あ。ごめん」

 たかしは素直に頭を下げる。確かに、この世界を日本と比較して、遅れた文明だと見下していたかも知れない。たかしは心の中で少し反省した。ネフィラが「ごほん」と咳払いする。

「ともかく、悪魔は強くないといかんからな。私はあえてお前を魔物達の巣窟に叩き込む。しっかり鍛えられて帰ってこい」

 荘厳な口ぶりのネフィラとは逆に姉妹は嬉しそうに叫ぶ。

「よーし、メル! 旅行の準備しようぜ!」

「うんうんー!」

 そんな二人をネフィラが睨んだ。

「ダメだ。お前達は残れ」

「「ええ!!」」

「前回より滞在期間が長い。幹部二人がレイルーンに不在はまずかろう」

「うう……マジっすか……」

「ちぇーっ」

「じゃ、じゃあ、ネフィラ。帝都には俺一人で行くのか?」

「お前は隊長補佐。つまり隊長である私とは一心同体だ。なので私は仕方なく同行する」

 メルがプクーッと頰を大きく膨らませる。

「ネフィラ様だけズルイー!」

「愚か者。ズルくなどない。私とて全然行きたくなどないのだ。帝都にはこの間行ったところだというのに全く。ふふふ。ああ面倒くさい。ああイヤだイヤだ。ふふふふふふ」

(楽しそうじゃん……!)

 ネフィラに少し白い目を向けた後、たかしは真剣に考える。

 けど悪魔研修か。だ、大丈夫かな? 何かちょっとヤバそうな感じだけど。俺、無事に帰ってこれるんだろうか?

 気付くとネフィラもまた真面目な表情をしている。張り詰めた雰囲気に、たかしは生唾を飲み込む。

「スズキ。悪魔研修は途方もなく厳しい。一つ、お前に忠告しておいてやる」

「あ、ああ」

「研修を受けている最中『どうしても辛い』『無理かも』『今日は頭が痛い』などと思うことがあれば、すぐに私に知らせよ。休息、あるいは欠席とうの措置を講ずる。その上で『どうしても肌に合わない』『やっぱりしんどい』と思うならば辞めても構わぬ。以上だ」

(すっげえ、ゆとり教育!!

 子供をダメにしちゃうような過保護振りだが、それでも一応、ネフィラが傍にいてくれれば大事にはならなそうだ。そう思い、たかしは安心した。

「それでは、スズキの荷を持て」

 ネフィラがパンパンと手を叩く。三名の魔物が大きな革袋を抱え、よっせよっせと運んできた。

「す、すごい荷物だな。三泊四日だろ?」

「ほとんどがお前のおやつだ」

「いや俺、こんなにおやついらねえけど!?

「だ、だが……おやつを無くせば、片手で持てる荷物だけになってしまうぞ?」

「だったらそれで良いよ!」

「そうか。だが、あめちゃんくらいは持って行け」

「飴ちゃんって……!」

 ネフィラに幼児のように思われていることに、たかしが気恥ずかしさを感じた時だった。スケルトン兵が慌てて駆け込んでくる。

「ネフィラ様! 帝都より不死船団団長ヂュマ様、到着されてございます!」

「な……! もう来たのか!? しかもヂュマだと……!!

 ヂュマと聞いて、ネフィラは顔色を変えた。ネフィラの周りの空気が急激に張り詰める。この状況を見て、たかしはまたも不安になる。

(一体、どんな魔物が来るんだよ……?)

 ギギギと王の間の扉が開く音がした。一直線に伸びたあかじゅうたんの先。魔王軍不死船団団長ヂュマは黒いドレスを身にまとい、体を少し傾けた体勢で立っていた。

 メルキル姉妹を始め、王の間にいたらいそうしっそうの魔物が一斉にこうべを垂れる。小学生女子のような体格のヂュマに、らいそうしっそう強面こわもて達が跪いているのは妙な光景だとたかしは感じた。

 そんな中、ヂュマはひょこひょことぎこちない動きで歩いてくる。遠くで見ると小さくて、か弱げな少女だが、近付いてみれば、皮膚の色が所々違い、つぎはぎになっているのが分かった。ドレスより露わになった肘の関節は球体だ。

(に、人形の魔物! そういや決起会にいたっけ!)

 たかしがヂュマに視線を向けていると、ヂュマもまたたかしをちらりと見た。

「きけ! ききけけけ!」

 そして甲高い声でわらう。口の中にびっしりと並んだ針のような歯が見えた。

(ひ!? 何か俺のこと見て笑ってる……!!

 ヂュマはネフィラと軽く会釈を交わすと、たかしの方に近付いてきた。

「お、お前がスズキだね。わ、わ、私、ヂュマ……」

 とつとつと喋る人形の魔物。その不気味さにたかしは心中、穏やかではない。目前の魔物から、通常の魔物の比ではない程に危険な匂いを感じて──たかしは咄嗟に決心する。

(よし! 今後の為にプリティス、一発かましとこ!)

「ヂュマ! よろしくな!」

 たかしは無理矢理、笑顔を繕い、ヂュマに右手を差し伸べた。

「四十八のプリティス・第四の仕草『にぎり』!」

 リールー師匠に教わった、たかしの可愛さをより一層高める四十八種の技『プリティス』を発動し、ヂュマの手を握った瞬間、

(冷たっ!)

 体温のない手に、たかしの背筋が凍った。手触りもマネキンを触ったような感じだ。

(で、でも、これで俺に敵意を持たない筈、って……え……?)

「きき……けけけけけ……!」

 ヂュマは大きく目を見開くと、

「ち、ち、血の通った腕ェェェェェ!!

 握ったたかしの腕をすさまじい力でグイッと引っ張った。

「うわあ!?

 そしてヂュマはたかしに顔を近付けて頰ずりする。ズリズリと冷たい感触が伝わった。

「あ、ったかいいいいい! が、が、ガブムシャって! し、したい、したい、したい!」

「お、おい! ヂュマ!」

 ネフィラが慌てた声を出し、

「ぢゅ、ヂュマ様、ご乱心!!

 スケルトン兵達が叫んで、やにわに周囲がざわついた。だが、ヂュマは王の間の騒然に、ハッと気付いた顔をすると、

「す、すまん。と、取り乱した……ききけけ……」

 乱れたドレスを直しながら、取り繕うように笑った。

(な、な、何だ?)

 乾いた笑い声をあげるヂュマを見ながら、たかしの額を汗が伝う。ヂュマに対して軽くマウントを取っておきたかった。なのに……。

(今、プリティスがむしろ逆効果になったような……?)

「じゃ、じゃあ、スズキ……い、行こうか?」

 早速、帝都に向かおうとしているヂュマを、ネフィラが片手を上げて制する。

「そうくな、ヂュマ。飯も食わんお前達と違い、我々は用意に時間が掛かる。出航は明日だ」

 しかし鳥頭のフォルスが、恭しくネフィラとヂュマの間に割って入った。

「ネフィラ様! ご心配には及びません! 既に準備は整ってございます!」

「な、何……?」

「へー、やるじゃん! フォルス!」

 キルに褒められ、フォルスは大きなくちばしを手で誇らしげに擦った。

「城の修繕が遅れていましたからな! これにて名誉ばんかいといったところですよ! 準備は完全! レディ・パーフェクトリー! なんつって、わっはははは!」

 そんなフォルスをネフィラは激しく睨んだ。

「フォルス……! 貴様は格下げだ……!」

「ぎげぇっ!? 何故なぜ!?

「ききけけけ。な、なら早速、スズキを、わ、私の船に案内しよう」

 ヂュマはたかしを見て、カパッと人形の口を開けてケタケタと笑う。

「わ、私の船内コレクションを、み、見せてあげるからね」

「せ、船内コレクション……?」

 ネフィラは忌々しそうに黒髪を搔きむしった後、玉座から立ち上がった。

「それでは私も行く」

「あ、あれ? スズキだけだと、き、聞いていたけど?」

「スズキは私の補佐。そして私はスズキの保護者でもある」

 有無を言わさぬようキッパリと告げると、ネフィラは扉に向けて颯爽と歩き出した。


 ネフィラとヂュマの後に続き、たかしはどことなく不安な気持ちで王の間を出る。しばらくして、

(……ん?)

 背後から服の裾が引っ張られていることに気付く。振り向くとエクセラが切羽詰まった表情でたかしの服の裾を握っていた。

「え、エクセラ?」

 そしてエクセラはたかしの前を歩くネフィラとヂュマを、キッと睨むように見詰めた。

「私も同行させてください! 私は勇者様の奴隷ですから!」

「……ああ?」

 ネフィラがあからさまに機嫌悪そうに、眉間に皺を寄せた。

「貴様、前はそんなことを言わなかったではないか!」

「こ、この間はオルネオが亡くなり、心身共に衰弱しておりました! しかし今は体調も回復しております! 何より、らいそうしっそうの隊長補佐ともあろう御方が、奴隷無しで遠出などありえません!」

 近くで話を聞いていたメルとキルが顔を見合わせて頷く。

「まぁ幹部クラスにゃ、荷物持ちの奴隷は必要だよな」

「だねー」

「ぐっ!」

 歯嚙みするネフィラ。たかしはそんな中、エクセラに近付いて耳元で喋る。

「け、けどエクセラ。ホントに大丈夫なのか?」

「私はもう平気です。それに……何だかイヤな予感がするのです……」

 エクセラも神妙な顔でたかしに耳打ちした。エクセラの視線は、少し離れた所でカパカパと口を動かすヂュマに注がれていた。

(た、確かに、エクセラが付いてきてくれた方が心強いかも)

 たかしは、ちらりとヂュマを見て、おずおずと聞いてみる。

「あの……奴隷、連れてっても良い?」

 意外にも、ヂュマは機嫌よく笑った。

「きけけけ。い、良いよ。ざ、材料は多い方が良いからね……」

「材料?」

「な、何でもない。ききけけけ」

 ヂュマの言ったことが気に掛かったが、とりあえずたかしはネフィラの様子を窺ってみる。案の定、ネフィラは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

「私は反対だ! スズキの世話なら私がする!」

 エクセラがそんなネフィラの前に立ち塞がり、意志の宿ったエメラルドのそうぼうを向ける。

「隊長が隊長補佐の世話をされるのですか? 逆のような気が致しますが?」

「何だ、エクセラ!! 貴様、奴隷の分際で私の決定に文句があるのか!?

 ネフィラから醸し出される強烈な威圧感。バチバチと周囲に爆ぜる雷のオーラに、たかしの心臓はドキドキと鼓動する。エクセラ!? ネフィラにそんなこと言っちゃマズいって!!

 しかしエクセラは負けていなかった。ネフィラに余裕の表情を向ける。

「あの、もしかして……ネフィラ様は、勇者様のことがお好きなんですか? だから二人っきりになりたいと……?」

 途端、ネフィラのオーラと威厳はシュボーンと消失した。ネフィラは顔を真っ赤に染める。

「は、はあああああああああ!? そ、そんな訳ないでしょー!! 何言ってんの!? ねぇ、この子、何言ってんの!?

「じゃあ付いていっても良いですよね?」

「か、か、か、勝手にしたら!!

 ネフィラはプイとそっぽを向いた。エクセラがたかしを見て、微笑みながらウインクする。

(へぇ! やるじゃん、エクセラ!)

 たかしもそれを見て、ひそかに笑った。