序章 三大勢力


 旧グランバレル帝国を西南に臨む無人島にいっそうの小舟が着いた。

 ボートのような木の船から砂浜に降り立ったのは、フードをかぶった二人である。海岸に人間や魔物の姿がないのを確認すると、一人がフードを取った。

 美しい桃色の髪が風に棚引く。帝国軍元軍師リールー=ディメンションと従者は、小舟を海岸沿いの林に隠すと無言で歩き出した。

 しばらくの間、原生林に囲まれた野道を進む。ふと何処どこからか、獣のようなけたたましい鳴き声が聞こえて、従者が身構えた。

「問題はないのぞ」

 リールーが従者をなだめるように優しげに言う。リールーが林をのぞき込むと、人間の膝から下しか背丈のない低級モンスター達が争っていた。

 スライムと一角うさぎ、そしてキノコの怪物マタンゴである。縄張り争いなどで野生の低級モンスターが争うのはよくあることだが……。

(三匹同時は珍しいのぞ)

 好奇心を隠しきれず、リールーがジッと観察していると、従者がおずおずと口を開く。

「リールー様。そろそろ談合に向かわねば……」

「お主はどれが勝つと思うのぞ?」

 屈託のない笑顔のリールーに、少し躊躇ためらいを見せた後で従者は言う。

「戦闘力で勝る一角兎かと」

「我はスライムと予想するのぞ」

「スライム、ですか?」

 従者はげんそうに首をひねった。リールーが片方の口角を上げる。

「戦況をよく見るのぞ。一角兎もマタンゴも、一番弱いスライムのことは眼中にない。戦闘で弱った二匹を倒して、最後に残るのはスライムかも知れんのぞ」

「なるほど。流石さすがはリールー様」

 いぶかしげな顔から一転、従者は感心した表情を見せる。

「談合が終われば決着もついていよう。帰りの楽しみができたのぞ」

 ほほみながら、リールーはその場を後にした。


 原生林を抜けた先、視界に入ってきたのは小高い丘。そこにそびえ立つ石造りのけんろうとりでの周囲には、旧帝国軍のよろいをまとった兵士達が陣取っていた。

 魔王軍に世界の八割を征服された今だからこそ、リールーは談合にこの無人島を選び、しかも、魔物に察知されないよう、島全体に強力な結界を張っている。

 それでも天剣の担い手、剣聖タルタニンは非常に用心深い男であり、武装した部下を多数引き連れていた。

 砦内部、戦略会議に使用する円卓にて、タルタニンは屈強な体を黄金の鎧で包み、その隣に忠臣マーグリットを携えている。短くそろえた金髪の強者は、リールーを目に留めるとたかのような鋭さでにらんできた。

(慎重なのは昔から変わらぬことぞ。変わったのは……)

 旧帝国時代は無骨ながらも礼儀をわきまえていた。だが今、タルタニンは魔物でも見るような目付きでリールーと従者をへいげいする。今回のしょうへいに応じてくれたことにリールーが謝意を述べても、タルタニンは「フン」と鼻を鳴らした。

「このような談合に意味などあるのか? 元軍師殿」

 不遜な態度で『元』を強調する。もはや自分の方が位が高いと言わんばかりに。

「東の天剣に、西の天力。双方が協力すれば、人類救済はより一層早かろうと思うたのぞ」

「我が天剣の威力をもってすれば、それだけで世界は救われる。天力も、その担い手との話し合いも不要だ」

「しかし……あまりに気がはやれば、思わぬ損害をこうむることもあるのぞ」

 リールーはそう言いながら、マーグリットに視線を向けた。魔王軍特別攻撃隊・らいそうしっそうとの争いで片腕を無くしたマーグリットは「ぐっ」と小さくうなる。

 リールーは前もって、南部への侵攻を見送るべきだと書面で忠告しておいた。にもかかわらず、マーグリット率いる救世十字軍はらいそうしっそうが支配するレイルーンに攻め入った。結果、マーグリットは片腕を失い、敵軍よりも多くの死傷者を出した。

「た、タルタニン様は独自に帝都奪還の準備を進めておられる! 他者のかかわる余地はない! 無論アナタもです! 元軍師殿!」

 マーグリットは顔を赤くして、叫ぶように言った。

 やれやれ、とリールーは思う。反省しているかと思えば、敗れてますます血気盛んである。

 やにわにけんのんな雰囲気になった戦略会議場。だが、そこに突如、

「すいませーん! 遅れましたー!」

 気勢をぐ声が響く。司祭服を着た神父が戦略会議場に駆け込んできた。つるりと禿げ上がった頭、口元には黒いひげを蓄えている。

 円卓の前、神父は中腰で息を切らしていた。やや遅れて、白装束をまとった十歳ばかりの年頃の子供達が神父の周りに集まった。

 この場にそぐわない神父と子供達を見て、マーグリットは毒気を抜かれたようにあきれた顔をしている。リールーは神父に席を勧めながら、やんわりと尋ねた。

「貴殿が天力の使つかい、ザビエストなのぞ?」

「はい。いかにも……おおっ! その美しき桃色の髪! 噂通り、ご存命でしたか、大軍師リールー=ディメンション殿! いやぁ、何と美しい! まさに神のわざ!」

 世辞を述べるザビエストにリールーが苦笑いしていると、連れていた子供の一人が突然激しくき込んだ。

「この子達は?」

「先般、魔王軍に滅ぼされたコブの町の子供達です! 不肖、私めが世話をしております!」

 自慢げに笑みをたたえるザビエストをタルタニンが睨み付ける。

「こんな男が救世主……天力の御使いだと? 一介の神父ふぜいが英雄気取りとはな」

 ザビエストが悪態をくタルタニンを振り返った。しかし、ザビエストは怒るでもなく、

「剣聖タルタニン様ですな! いやいや! 何としいお顔にお姿! 敬服致します!」

 ニコニコと微笑むザビエストに、タルタニンは小さくいきを吐くと、黙って首を横に振った。ザビエストは隣のマーグリットに視線を移す。

「そちらは帝国軍剣術指南役のマーグリット様とお見受けします! こちらもまたお美しい……ん? その腕は?」

「貴様には関係のないことだ!」

 負傷した腕のことに触れられ、マーグリットは声を荒らげた。ザビエストが心配げに言う。

「し、しかし、剣聖様の懐刀となるべき御方が、その腕では。治療されては如何いかがです?」

「治せるものなら、とっくに治している!」

 リールーは憤慨しているマーグリットをいちべつする。その腕は十中八九、らいそうしっそうの長ネフィラにやられたものだろう。

(雷の魔力で切断面がしているのぞ)

 だとすれば、どのような医術や治癒魔法を用いても腕が完全に再生することはあるまい。

 それでもザビエストは笑顔を湛えたまま、

「ならば我が天力を」

 そうつぶやいて、背後の少年をちらりと振り返った。

「お手伝いなさい」

「はい!」

 少年が満面の笑みを見せて、ザビエストの司祭服の袖をまくる。神父らしからぬ、花の入れ墨が彫られた筋骨隆々の腕が現れた。ザビエストは、失われたマーグリットの腕辺りに両手をかざす。

「福音『さくらん牡丹ぼたん』より【せいせい】」

 呟いたザビエストのてのひらからもやが発生し、それはすぐに沢山の花弁をかたどった。花のオーラがマーグリットの消失した腕付近に集まる。

「な、何だ、これは……!」

 驚くマーグリット。やがて密集していた花のオーラが突風に散るように飛散した。そしてそこには、失われたはずのマーグリットの右腕があった。

 マーグリットが大きく目を見開き、再生した手の指を開いたり閉じたりする。「おおおっ!」と周囲の兵士達から感嘆の声が漏れた。

 戻らぬものと思っていた腕を治癒され、口元をほころばせたマーグリットだったが、ハッと気付いたように慌てて「か、感謝する!」と叫んだ。変わらず微笑むザビエストに兵士達がざわつく。

「あの状態の腕を再生させるとは!」

「これが天力! 救世主の力か!」

 ザビエストの能力を目の当たりにして、兵士達はもちろん、マーグリットでさえも不遜な態度を改めかけていた。しかし。

「……くだらん」

 吐き捨てるように、タルタニンは言う。

「ハイ・プリーストに毛が生えた程度の治癒能力。防御に偏った補助たる力だ。かようにまつな力では魔王軍を滅ぼすことなどできん」

 辛辣な言葉を浴びせられたザビエストは、頰をポリポリと指でく。

「は、はい。私めの力はおっしゃる通り、補助たる力。おそらく、天剣の担い手タルタニン様を援助するために神から与えられたものかと思います……」

 タルタニンに言い返すことなく平身低頭に徹するザビエスト。だが、リールーは今、かいたザビエストの力にしんかんしていた。

(まさしく救世主と呼ぶに値する力ぞ)

 タルタニンは低く見積もっているが、無くなった腕そのものを完全に再生させることはハイ・プリーストにも不可能。言うならば、伝承クラスの能力である。

(だが、その強大な力の源は……?)

 リールーが思案していると、子供がまたもせきをした。今度は先程よりも激しく咳き込み、床に吐血する。タルタニンは、汚い物でも見るようなまなしを子供に向けた。

「おい。この小僧。もしや伝染病ではあるまいな?」

「い、いえ。この子は生まれつき体が弱いもので……」

 ザビエストが子供の背をさすりながら弁解した。

「ザビエスト様、ありがとうございます!」

 男の子は吐血したというのに、ザビエストに感謝して幸せそうに笑っていた。

 タルタニンがザッと席を立つ。

「ともかく、これではっきりした。世界を救うのは天力ではない。我が天剣だ」

 さっそうとこの場から立ち去ろうとしているタルタニンに、リールーは脱力する。

(い、いやいや! まだ何の話もしていないのぞ!)

「元軍師殿の名に免じて義を通し、顔を出した。されど、このような談合はこれ一度きりだ」

 タルタニンは、天力がどれほど威力のあるものか確認したかったのだろう。だから渋々、この談合に出席した。そして、天剣の威力にはるかに及ばぬと知ってあんしたのだ。

(はぁ……。まぁ予想通りといえば予想通りなのぞ)

「タルタニン。一つだけ、頼みがあるのぞ」

 帰り支度をするタルタニンにリールーが言う。

「これを言うのは二度目なのだが……レイルーンのことは、先に天より遣わされた勇者に任せて欲しいのぞ」

 リールーはマーグリットを一瞥した後で念押しした。気まずそうにマーグリットが視線をらす。

「スズキは今までにない新しい方法で世界を救おうとしているのぞ」

「マーグリットから聞いている。魔物に好かれる能力を持つという『偽りの勇者』だな……」

 タルタニンが呟く。そして、その刹那──黄金の剣をさやから抜き、リールーの背後に回り込んだ。

 瞬きほどの一瞬でリールーの背後を取ると、タルタニンはにたりと笑った。

「天力も、偽りの勇者の力も、貴女あなたの力も同じく瑣末なもの。強大な力の前ではこのように簡単に命を奪われる」

 自らの能力を誇示した後で、

「戯れだ。許せ」

 タルタニンはしたり顔で剣を収めた。

「安心しろ。今は帝都奪還の準備に忙しい。レイルーンに構っている暇はない」

「それは良かったのぞ」「うむ。良かったのぞ」

「……何?」

 背後からオウム返しのように同じリールーの声が聞こえて、タルタニンは眉間にしわを寄せる。タルタニンの背後にいた従者はリールーと全く同じ声色であった。

「目に見えるものだけを見ていると、いずれ足をすくわれるのぞ」

 従者がフードを取ると、桃色の髪が棚引いた。うりふたつのリールーを見比べて、タルタニンが僅かに口角を上げた。

「なるほど。影武者か。貴女のへんの術は、自身以外の者の姿を変えることもできるのだな」

「人間だけではないのぞ。……タルタニン。剣は此処ここに置いておくのぞ」

 リールーが、ことりとタルタニンのゴールド・ブレイドを机に置く。タルタニンは自分が握っていた剣が、いつしか木剣に変わっていることに気付くと「ぎつねが!」と忌々しげに吐き捨てた。

 タルタニンが軽々と腕で木剣をへし折ったその瞬間。立派だった戦略会議場は石の転がるはいきょへと変わった。

 マーグリットと兵士達が動揺する。

「こ、これは……!」

「空間そのものを変化させていたのか!?

 兵士達がざわめく中、リールーと従者はタルタニンの刺すような視線を背中に感じつつ、石の廃墟を後にした。



 談合の後、二人のリールーが原生林を歩く。

 リールーとしては、従者にかけている変化の術はもう解いても良いのだが、拠点に着くまでは影武者としての任務を全うしたいという従者の願いだった。

「やはりタルタニンとマーグリットは危険ですね」

 憎々しげに従者が言うので、リールーは少し笑った。

「うむ。まるで劇薬なのぞ」

 タルタニンは着々と帝都奪還計画を進めている。だが、リールーは、後一年は足回りをしっかりと固め、もっと兵力を付けてから実行すべきであると考えていた。

 天剣を授かったタルタニンの元には、続々と有志が集まり続けている。タルタニンの軍は今や、人類最後の兵力と言っても良い。もし敗北することがあれば、人類は二度、魔王軍に滅ぼされることになる。そうなれば再起は完全に不可能。

 そうならない為にも、天力と天剣が力を合わせ、帝都を包囲できる程に兵力を増せば勝機は充分にある──今日、リールーはタルタニンにそう進言するつもりだったが……。

(結果は悪い予想通りだったのぞ)

 どう見ても失敗に終わった談合ではあったが、こちらとしてもタルタニンの現状把握と、ザビエストの天力を目の当たりにできた。それなりに意味があったとしておこう。

(まぁ、これまで通り、タルタニンには監視が必要なのぞ)

 タルタニンは直情的だが、それ故に行動も読みやすい。むしろ不気味だったのは……。

 ザビエストの仮面のような笑顔が脳裏をよぎる。そして、同じく不自然な笑顔の子供達──。

(天力……あれは、おそらく……)

 ハイ・プリーストの癒やしの力とは別種の力。発動時にザビエストから醸し出されたおぞをふるう波動を思い出して、リールーは頭を横に振った。

 世界を救わんとして神は、天剣と天力を器となるタルタニンとザビエスト両名に与えた。だが現実は、神が思い描いた通りにはいきそうもない。

(彼らは真に世界の救世主たりえるのか。『偽りの勇者』はどちらなのか)

 歩きながら、ふと、リールーは思い出す。来る途中で見た三匹のモンスター達の争いはどうなったろうか。

(確か、あの辺りだったのぞ)

 道を逸れて、林を覗き込み──リールーは、切れ長の目を大きく見開いた。

「何と……!」

 争っていたスライム、一角兎、そしてマタンゴ──その全てが倒れて絶命していた。

 リールー自身はスライムが生き残る確率が一番高いと予想していた。無論それ以外にも、様々な可能性を考えた。だが……。

(まさか三匹全てが相打ちになって、全滅しているとは……)


 従者が小舟のかじをとるキィキィという音を聞きながら、リールーは静かにまぶたを閉じていた。そしてつい先程、林の中で見た珍事を思い返す。

 あのモンスター達の争いは『兆し』かも知れぬ。天剣、天力、そして魔王軍。強大な力同士がぶつかり合えば、あのような最悪の結末も起こり得るということ。

 リールーは続けて思い浮かべる。この世界とは異なる世界から来た少年のことを。

 船を下りた後も、リールーは一言も従者と口をきかずに歩いた。そしてタルタニンの拠点へと続く分かれ道で、リールーはしばらく立ち止まった。

「……リールー様?」

(やはり、この世界にはあの力が必要なのぞ)

「どうされました、リールー様?」

 従者に呼ばれていることに気付く。リールーは決心した後、厳しい目を従者に向けた。

「我はこの後もタルタニンの動向を監視する。お主はレイルーンへ」

 言った後、リールーは荷から小包を取り出して、従者に手渡した。

「これをスズキに届けて欲しいのぞ。そして、我が弟子の力になってやって欲しいのぞ」

「かしこまりました」

 ひざまずいて包みを受け取ると、従者は変化していたリールーの姿から元の姿に戻る。

 腰より下にスリットの入った光沢のある服。髪は団子のように二つにまとめている。年端のいかない顔立ちは見事なまでに愛らしく整っていた。

「リールー様。お気を付けて」

「お主もの」

 二人は別れ、互いに違う道を歩き出した。



「まさか場所ごと、変化させていたとは! 超高度な幻術! 流石は大軍師!」

 リールー、そしてタルタニンら救世十字軍が退出した後。ザビエストは笑顔のまま、そう独りごちてから──拳で壁を力一杯たたいた。

「って言うか、さあ……」

 メシャッと骨が砕ける音がして、石壁に亀裂が入る。ザビエストの鼻がヒクヒクとけいれんし、繕っていた笑顔が崩れる。代わって現れたのは鬼の形相だ。

「わざわざこんな辺境まで来てやったのに! それに女の腕まで治してやったってのに! あの若造がよー!」

 談合の時とは打って変わったザラついた声で叫ぶ。ザビエストはタルタニンの気取った態度を思い出しながら悪態を吐き続けた。

したに出りゃあ、調子に乗りやがって、クソが! あー、ムカつく!」

 しこたま拳を壁に打ち付ける。あまりにも打ち付けたせいで、壁はザビエスト自身の血で赤く染まり、拳の骨が露出した。それでも、お付きの子供達は相変わらず夢見心地のような笑顔を浮かべている。

「もうどうでもいいや。タルタニン、ブッ殺して俺も死ぬか? いやマーグリットをブッ殺した方が苦しむか? アイツら絶対できてるもんな。そうだ、そうするか……」

 血走った目で覚悟を決めて振り返る。だが、そこで、

「……痛ってー」

 拳の痛みに気付いて、ザビエストは正気を取り戻した。

(落ち着け、落ち着け! あんなアホ共に、せっかくの能力を使うなんてバカげてんだろ!)

「そうだよ、そうだ、そうだって! 何で俺があんなクソバカの為に死ななきゃなんないんだよ! カカカ! カカカカカカカ!」

 こうしょうする。ひとしきり笑って涙を拭いた後、ザビエストは歩き出す。

 いつの間にか傷ついたザビエストの拳が治っていた。そしてザビエストの足下には、もはや咳をすることもかなわず、ひゅうひゅうとかすれた呼吸を繰り返すひんの子供がくずおれている。

 ザビエストは氷のような目で、倒れた子供を見下ろす。

「連続で治したからな。しゃあねえわ。天国でママに会えるんじゃね?」

 鬱陶しい司祭服を脱ぎ捨てると、軽装鎧をまとったようへいの姿になる。あらわになったザビエストの両腕には、この世界には存在しない花『牡丹』の入れ墨が彫られてあった。

 いや、入れ墨というのは的確ではない。ザビエストが神より天元のオーラを授かり、天力を発動させた時、花の紋は自然と腕に現れた。

「治癒魔法だと? アホが! 誰が敵になるかも知れねーやつの前で本当の力、さらすかっつーの! 勘違いしてろや! んで、シコシコ帝都奪還の準備でもしてろ! 無駄な準備をよー!」

 既に息絶えた子供を振り返りもせず、ザビエストは歩き出す。

「何してんだ! 行くぞ、ガキ共!」

 ザビエストの後を、笑顔の子供達が続いた。ザビエストは懐から酒の入ったボトルを取り出すと、栓を歯でんで抜き、喉に流し込む。

(天に王は二人いらねー! 真の救世主は、この天力の御使いザビエストだ!)

 物心ついた時からあったザビエストの攻撃的な性格は、天力を授かって以来、より強く濃くなっていた。

 ザビエストの心の中で、もう一人の自分がささやく。その囁きをザビエストはそのまま声に出す。

「邪魔する野郎は──ブッ殺す!」