あとがき



 後書きもいよいよ六本目になった。後書きが六本目になったという事は、単行本も六巻という事になる。いつも本一冊で小さな物語をまとめるようにはしているけれど、物語全体を俯瞰して眺めてみると、大体ここが折り返し地点であると思ってもらってよい。読者がまだ半分かと思うか、もう半分かと思うか、それは作者の知った事ではない。

 後書きにはいつも何を書こうか迷う。書きたい事があるような気もするし、しかし書きたいからといって何でも書いていては収拾がつかない。

 文章を趣味にし始めて十年ばかり経とうとしているけれど、次第に何を書くべきかではなく、何を書かぬべきか考えるようになった。これ以上足しても引いてもならぬ、という一文を書きたいと常々思っているが、しかし色々書いていると、この程度の描写で伝わるかどうか不安になり、屋上屋を重ねる如く言葉を重ねてしまう。

 だが、小説は言葉によって読者の心に映像や感情を想起させねばならないのであって、それを思うとつい文章は長くなる。それでも作者の思った通りが十全に伝わる事など皆無と言っていいであろう。あばら家を補強し続けているが、隙間風が止まない。

 その隙間を埋めて下さっているのがtoi8先生のイラストであると思うのだけれど、元々が隙間だらけではどうしようもない。そこに漆原玖先生の漫画版というものがそのあばら家をさらに補強してくだすっている。ありがたい話である。

 今まで後書きで小説の内容に踏み込む事はしないようにしていたけれど、今巻に関してはやや言っておきたい事もある。といっても、物語そのものについてというよりは、描写や展開に関しての言い訳である。

 今巻は全体を通して舞台はトルネラ村であった。田舎の小さな村で、大きな町とは違う独自の文化や風習を備えた地域である。

 作者自身も田舎住まいという事もあって、この辺りの描写はたいへん悩んだ。田舎は良い所もあるが、あまり好ましくない所も同じくらい多い。特に人間関係に於ける問題は非常に厄介である。

 通常、田舎というのはどこでも、その地域で育まれて来た伝統を依り所としてコミュニティを維持している。そうなると人々は日常の維持を第一に考えるので、自然と保守的になって行く。伝統にそぐわぬ存在は恐怖であり、また排除の対象となる。

 この物語に於けるベルグリフ氏の存在というのもそれに当たる。もの、変わり者というのは分かりやすい記号であり、何かしらの問題が起こった際には真っ先に疑いの対象となってしまう。

 これは現実でも度々起こりうる事であり、それは別に迷信や思い込みがばつしていた時代に限った話ではない。現代に於いても、あからさまでなくとも、従来のコミュニティの人々と外から来た人々の間に、価値観のが生まれるのは珍しくない。私の住んでいる地域は昔から人の行き来が盛んだったからそれほどでもないが、人の行き来のない山村などは大変だと聞く。何かにつけて「あいつは余所者だから」というのは、思った以上に大変なのである。表向きには普通に付き合えていても、いつも陰口を叩かれていたり、事あるごとに小さな嫌みを言われたりするようなのは、良い気持ちはすまい。

 当作品の時代設定からして、これらの問題は現代のそれよりも余程苛烈であるという事は予想される。今回のような問題が起これば、ベルグリフ氏らは村にいられなくなったであろう。現実にあった魔女狩りという事を考えると、追い出されるだけでは済まなかったというのも考えられる。

 しかしながら、これは小説である。そうして、どのような小説として読者に届けたいのかという根本的な問題がある。そういった田舎の問題をあえてリアルに描く事で問題提起をしたいというのも小説の一つの表現であるけれども、これはファンタジーであって、そういったリアルさを一々優先するのも変である。そもそもリアルな世界を作りたいのであれば、タイトルにSランクなどという単語を入れようとは思わない。

 だから今回はやや都合が良いようにも見えるけれども、寓話的な展開をあえてさせていただいた。こんなのはリアルではない、陳腐だ、と思われる読者諸賢もおられるだろうけれど、そこはある種の理想を形として表現したと理解していただきたい。

 ここのところ現実の世の中が嫌に窮屈になって来ているから、小説の中くらいでは、こういった柔らかな人々がいてもいいのではないかと作者は考えるのである。

 嫌に真面目な話をしてしまった。こういう話をすると後が困る。前述の事はすべて作者の無用な苦労であって、読む方には何の関わりもない。だから読者諸賢におかれては作者の戯言に耳を貸さず、素直に楽しく読んでいただければそれでよろしい。

 いずれにせよ、彼らの旅と生活は続く。これからの旅路がどのようなものになるか、先を知っている方もまだ知らない方も、次巻でまたお会いできれば幸いである。


 二〇一九年九月吉日 門司柿家