「じょうだん。いっしょにおしえて……」
「もー……」
アンジェリンは口を尖らしたままミトの髪の毛をくしゃくしゃと揉んだ。そのまま二人して家の中に入る。何だかミトもすっかり人間らしくなって来たな、とベルグリフは微笑ましい気分だった。
少し薪を入れておこうと薪置場でごそごそやっていると、グラハムが帰って来た。午前中から子守で広場におり、昼が近くなったから各家に子供たちを送って来たのだろう。
寡黙であるにもかかわらず、妙に子供から慕われているグラハムの存在はトルネラでも大助かりで、特に農作業が忙しい時期には、母親たちも畑に出る事ができると大いに喜んでいた。
「おかえり、グラハム」
「うむ……」
グラハムは少し難しい顔をしていた。年を経たその顔には、普段からやや気難しそうな皺が彫り込まれているけれど、今日は何だかいつもに増して彫りが深い。
ベルグリフは怪訝な顔で首を傾げた。
「何かあったのかい?」
「……分からぬ。ただ、妙な胸騒ぎがする。何かよからぬものが近づいているような……」
「ふむ……? 君が言うと本当に聞こえるが……」
「いつものように取り越し苦労であればいいのだが……」
これまでもグラハムがそんな事を言う事は何度かあったけれど、それほどの問題にはならなかったり、取り越し苦労だったりした。だが、今回は何だか深刻さが違うように思われた。エルフという種族が本来持つ自然との感応性と、グラハムが長い冒険者生活で培った勘とが、彼に不安を告げているらしかった。
ベルグリフは薪を抱え上げた。
「……少し気を付けておいた方がいいかもな」
「すまぬ。不安にさせるつもりはないのだが……」
「はは、君がいたずらでそんな事を言う筈がないのは分かっているさ……午後から森に行くんだが、大丈夫だろうか?」
グラハムは目を伏せた。
「……何とも言えぬ。だが、警戒するに越した事はないだろう」
「そうか……まあ、ひとまず昼飯にしようか」
「そうだな」グラハムは嘆息して頭を搔いた。「……参った」
「そんな顔するなよ、本当に不安になるだろ?」
おどけるように笑うベルグリフを見て、グラハムも小さく笑った。
少しずつ、南から薄雲が青空を覆い始めていた。