──俺が警察署を訪れたのは、へきてんさいが終わり未来に戻った次の日。

 午前十時過ぎのことだった。

さんの失踪に関して、伺いたいことがあります』

 と丁寧な連絡を受け、両親とともに都心近くの警察署へ向かった。

 ──この未来でも、は結局失踪してしまったらしい。

 ろくよう先輩との問題を解決しても、天文同好会を去ることがなくなっても。

 彼女は俺たちの前から姿を消してしまう──。

 ……実を言うと、そのことは……少し予想済みだった。

 が俺に話してくれた『いなくなるべき理由』。

 それはまだ確かに解決していないわけで、にとって最大の問題は、今も彼女の前に立ちはだかっている──。

 警察署に入り、一階のロビーで訪問の理由を告げる。

 しばしお待ちくださいと言われ、手持ち無沙汰でスマホのニュースサイトを眺める。

 失踪の報が流れてから、こちらの時間軸でもしばらくっている。

 今も見つからない彼女のことをマスコミは継続して取り上げていて、ファンの間でも動揺が収まらない状況らしい。

 もちろん、彼女の残した手紙の内容は、以前よりずいぶん落ち着いていた。

『さようなら』

『もう東京には戻りません』

 公開された文面からは、彼女が今もどこかで生きていることがはっきり感じられた。

 それでも、彼女の音楽に心酔してきたファンからすれば、不安は消えないだろう。

 ネットでは失踪理由の様々な予想が流れていて、根も葉もない妄想から現実味のある推測まで、無数の『nitoが消えた理由』が文字列や動画になって増殖し続けていた。

「──お待たせしました」

 建物の奥から、若いスーツの男性が現れた。

 どうやら、俺たちを案内してくれるらしい。

 彼に続いてエレベーターに乗り、応接室のような部屋に通された。

「すみません、遠くにわざわざ来ていただいて……」

 どこか閉塞感のある、無愛想なその部屋で。

 きいきい言う椅子に腰掛け、俺を待っていたのは中年男性だった。

 話によると、彼が行方不明になったnitoの捜索を取り仕切っているとのこと。

 有名人ということもあって慎重に、なおかつ大規模に彼女を探している最中とのことだった。

「それで……」

 と、彼は何枚かの紙を取り出した。

 何かがコピーされているらしい、A4の用紙。

さんの残した手紙に、あなたの名前がありまして……」

「……そうですか」

 実は、それも予想していたことだった。

 卒業式の日、流れていたニュースのもんごんを思い出す。


 プレスリリースによりますと、20日に都内でリハーサルがあったのを最後にnitoさんとの連絡が取れなくなり、一人暮らしの自宅を訪ねたところ知人に宛てたと見られる手紙が残されていたとのことでした。


 ──知人に宛てた手紙。

 これはきっと──俺のことだ。

 今の俺なら、理解できる。彼女は、俺に手紙を書いて失踪してしまった。

「……読んでみて、いただけますか?」

 慎重なこわいろで、彼は俺に言う。

「思い当たるところがあれば、お話しいただけると助かるのですが……」

「……わかりました」

 覚悟を決めて、俺はうなずく。

 が俺に宛てて残した手紙。それは間違いなく、俺が読むべきだろう。

「ありがとうございます。では、お願いします……」

 そう言って、男性はそのコピー用紙を俺に手渡した。

 大きく息を吸い込むと、俺はその文面にゆっくりと目を落とす。


 ──そこには、の字で俺への謝罪が書かれていた。


『──めぐりは、本当はすごい人なの』

『──わたしと関わる前は、そうだった』

『──天文学でね、色々結果を出して。大学もその道に進んで』


『──わたしといると、あなたはその道をあきらめてしまう』

『──きっと、わたしがあなたを変えてしまった』


『──だから、さようなら』

『──ごめんなさい』


「……なるほど」

 全てを読み終え、俺は深く息を吐き出した。

「そうか、そういうことですか……」

 ……思っていた通りの内容だった。

 俺はきっと、彼女の経験したどこかのループでは、天文学に打ち込んでいたんだろう。

 の天才性に惑わされることも、友人たちと楽しく日々を過ごすこともなく……ストイックに自分の未来のための努力を重ねた。

 そして──何かしら、大きな結果を出した。

 ただ、が近づくとそんな未来が壊れてしまう。

 俺は何かの形で、くいかない結末を迎えてしまう。

 責任を感じたは、俺の前から消えるため、全ての活動をやめて姿を消してしまう。

「なるほど……」

 ──その事実をみ込んで。

 彼女の失踪の理由をたりにして──。

 俺は、自分が時間移動で『本当にやるべきこと』を理解した。

「そうか、つまり俺は……」

 目の前にある紙数枚。

 そこに書かれたの字をじっと見つめながら──、


「──小惑星ほしを見つければ、いいんだな」


 小さく、そうつぶやいたのだった──。


 ──時間移動の結末が。

 俺たちのやり直しの終着点が、少しずつ近づいている──。