【幕間三】



「──どうするかな……」

 学校からの帰り道。

 暗くなった通りを、チャリで走りながら。

 俺は一人、小さくつぶやいた。

「当日まで、あと二週間ちょい……正直、ちときついな……」

 ──文化祭実行委員長。

 ──有志ステージ運営担当。

 その二足のわらじは、ここまで問題なくこなせたと思う。

 どちらも進行は問題なし、これまでなかった盛り上がりを作り出せるんじゃないかという自負もある。

 それでも、

「……このままじゃ、勝てねえ」

 有志ステージで、メインステージに勝つという課題。

 ゴールが少しずつ近づいて来て、俺は明白にあせり始めている。

 出演者もスタッフも、精一杯以上に頑張ってくれている。個人的な不満は一切ない。

 それでも、

「メインとの差は……明白だよな」

 その事実を、この間の偵察で痛感した。

 めぐりも、きっと同じ感想だろう。

 じゃあ──どうするか。ここからどうやって、メインステージに食らい付くか。

「……まあでも、簡単な話か」

 考えてみて、すぐに俺は答えにたどり着く。

「俺が、努力すればいいだけだな。才能なんて越えられるだけの努力を……あのときみたいに……」

 小さく声を上げながら、俺は思い出す。

 ──才能。

 それを初めて感じたときのこと。

 あれは、小学校四年生の頃だった。

 体育の五十メートル走、それまで学年で一位だった俺を、転校生のたけしたが抜いた。

 当時、俺のタイムは確か8・5秒。

 竹下は、8・0秒で、大差を付けられて俺は負けた。

 その差は──衝撃だった。

 俺だけじゃない、学年全体が驚いていた。

 そんなに速く走れるものなのかと。

 竹下くんは天才かもしれないと、先生までが褒めそやした。

 けれど……俺は負けたくなかった。

 0・5秒というあまりに大きな差を、どうしても埋めたいと思った。

 そこから、俺の初めての『努力』が始まった。

 YouTubeで速く走るための動画をあさり、本を読んで練習を繰り返した。

 親に頼んでタイムを何度も計ってもらいながら、少しずつ竹下に近づいていった。

 そして──もう少しで五年生になる、という頃。

 俺はついに7・9秒というタイムをたたき出し、竹下を抜き去った。


 その経験が──俺の全てを変えた。


 努力をすれば、夢はかなう。

 本気を出して頑張れば、できないことはきっと何もない──。

 あのとき覚えた達成感が、俺の全ての原動力になった。

 だからこそ、俺はここまでひたすら努力を重ねてきたんだ。

 勉強を精一杯やって、地域で一番の進学校であるあまぬま高校に入学した。成績だって学年ナンバーワン。狙っている国立大学にも、このままいけば受かると思う。

 運動だって身だしなみだって、内申点だって同じだ。

 努力をすれば、それに見合っただけ結果が付いてくる。

 才能なんて──努力の前には、大きな問題にならない。

 それが、俺の曲げたくない信念で、俺を支え、これからも俺を導いてくれる一つの『真理』だ。

 ──だから。

 と、俺は頭痛に耐えながら自分に課す。

 ここで、努力の手を緩めるわけにはいかない。

 と俺の間には、今も大きな開きがある。

 はっきり言って、桁違いだ。クオリティも覚悟も、持って生まれたものも全く違う。

 言ってしまえば──住んでいる世界が、違うんだと思う。

 あのときの、努力をする前の俺と竹下の違いのように。

 だとしたら、もっともっと努力をしなきゃいけない。

 あいつに追いつき追い越すまで、もっともっと負荷を──、