1
四月二七日、火曜日。
午後四時三〇分に、浅井ケイは学校指定の白い
中学二年生になって、もう二〇日ほど
ケイはたまに会話を
歩きながら、考える。
中学二年生になって、何か大きな変化があるとするなら、それは目の前に一人の少女が現れたことだ。
階段の
内心でケイは
──要するに、それだけ意識しているということなんだろうね。
相麻菫に対して、ケイが
彼女に初めて出会った四月八日から今日まで、休日を除いた一二日間のうちに、ケイは相麻と一七回も
玄関口に続く、最後の角を曲がる。角の向こうに相麻がいるような気がしたけれど、やはりその予感は外れた。面識のない男子生徒が二人、
ケイも彼らに
横長、ハート型の赤いシールで封をしている。
手に取り、裏面を
グラウンドに出て、封筒から
もうすぐ五月になる時期。空気は暖かいけれど、風はまだ
そこに書かれている文章は簡潔だった。全部で二行。一行目に明日の放課後、屋上に来て欲しいと書かれていて、二行目に送り主の名前がある。
手紙の二行目には、相麻菫と書かれていた。
どうしてわざわざ、こんな方法で呼び出す必要があるのだろう。用があるのなら、いつものように勝手にやってきて、一方的に
──相麻菫の意図がわからない。
これから二年間、高校一年生になってもまだ抱き続けることになる疑問を、ケイはこの日も内心で呟いた。
浅井ケイが
それから中学校を卒業し、高校に入学して一人暮らしを始めるまでの三年と半年ほどの期間、ケイは
一人で生活するには、小学六年生というのは幼すぎる歳だったし、ケイはある事情で咲良田の外に出ることが許されていない。そして中野家は広く、子供がもう一人住むくらいのスペースは十分にあった。
相麻からの手紙を鞄にしまったケイは、国道沿いにある書店で
中野家は数年前に
そちらに視線をやると、少年が一人、バスケットボールをついていた。
背の高い少年だ。短く
いつもの光景だな、とケイは思う。Tシャツにジャージのズボンというラフな
中野家の庭には、バスケットのゴールが一つだけある。古びてさび付いたゴール──中野智樹の父親が、まだ高校生だった頃に備え付けたものらしい。ネットはぼろぼろになり垂れ下がっていたけれど、リングさえしっかりとついていれば、バスケットゴールとしての機能は果たせる。
中野智樹は綺麗なフォームで、バスケットボールを宙に放った。放物線を
「
と、ケイは声をかける。
彼はこちらを見て、額の
「おかえり。
「ん、ただいま。ちょっと
「美倉?」
「本屋だよ、国道沿いの」
智樹は
「歩いていく
「それほどじゃないよ。学校からなら片道二五分ってところだ」
「学校からうちまでなら、一〇分で着く」
彼は「まぁいいや」と
「バスケしようぜ、ケイ」
「あんまり、体を動かしたい気分じゃないんだけどね」
「体を動かしたくない
「本を読みたい気分だったんだ」
とはいえ、智樹にはいくつか聞きたいことがあった。そのついでにバスケットに付き合ってもいい。
「待ってて。
ケイは適当に手を振り、庭の裏手へと向かって歩く。

咲良田を
離れは智樹の祖父が自身の
ケイは
ケイはデスクの上に
バスケットゴールの前に
「よし、はじめようぜ」
智樹とのバスケットというのも、中学一年生の頃から変わらない日常の一部だった。
どちらが先に
ケイは過去の五感や思考を、完全に思い出す能力を持っている。絶対的な
それから目を開いて、ケイは言った。
「君は僕から見て右にかわすフェイントを入れて、左から回り込むつもりだ、と予想するよ」
「……バスケに心理戦を持ち込むなよ」
「
「ま、いいけどな」
智樹はボールを軽くケイに投げる。ケイはボールを受け取り、再び智樹に投げ返す。ワン・オン・ワンの正式なルールは知らないが、中野家の庭では守備側が投げたボールを攻撃側が受け取った
ケイは右方向に移動しやすいよう足の位置を調節する。
智樹はドリブルする手を右から左へと移し変えた。彼の体が
それがフェイントだということには気づいていた。彼の体勢、歩幅、視線の先──それに、表情。すべての情報から、彼の次の行動を予想する。過去の類型的な動作を思い出し、その動作を目の前の彼に当てはめる。
先ほどケイが
──これもフェイントだ。
そう確信しながら、ケイは首から上だけ、彼の動きにつられたように振る
まったく別の方向を見ながら、ケイは前方に足を
すべて予想通りだった。最速のタイミングで反応できたはずだった。なのに、智樹の口元は笑っている。
彼がシュートのモーションに入ってから、ボールを手から放すまでの時間が、記憶よりも
──これは、届かない。
ケイの手の上を、バスケットボールが通過する。
ボールを放した智樹の手が、胸の前で
ケイは体を
夕焼けの空を背景にした、黒いシルエットみたいなボールが、数式で計算し
地面でボールが
「今のは
舌打ちして、ケイは答える。
「僕と智樹の身長が同じくらいなら、止められた」
智樹の身長は、ケイよりも一〇センチ近くも高い。
「知るか。お前がチビなのが悪いんだろ」
「智樹が大きすぎるんだよ。僕は、平均よりもやや小さい、くらいだ」
「
「智樹の場合、相対化する対象が
ははっ、と智樹は笑う。
「お前が何を言おうが、オレが先制したことは変わらないんだよ」
「バスケットは身長で階級わけするべきなんだ。ボクシングのウェイトみたいにさ」
どうでもいい口論を
「今日は負けないよ」
と言ってみたけれど、そんな言葉、ケイ自身も信用していなかった。
中野家の庭で行われる、ワン・オン・ワンのバスケットは、智樹が二〇点分、あるいはケイが一〇点分ゴールを決めるまで続く。大きなハンディキャップがついているけれど、ケイの勝率は三割というところだ。
この日、智樹が二〇点分のゴールを決めるまでに、ケイは六得点をあげた。
気がつけば日が暮れていた。
試合終了後、ケイは地面に座り込み、額の
ケイは智樹に視線をやった。彼は地面に
「君、また少し速くなったね」
「そうか? ま、成長期だしな」
「
「
智樹は小学生の
ま、いいけどね。と答えてから、なるたけさりげない口調でケイは
「智樹のクラスに、ちょっと変わった女の子がいるでしょ」
「変わった女?
「いや、ショートカットだよ。
彼女は智樹と同じ、二年一組に所属している。
「ああ、うちのクラス委員長だな」
「うん。そう」
彼女がクラス委員長だということは知っていた。
簡単に調査したのだ。ケイが調べた限りでは、彼女はなんの能力も持たない、ただの中学二年生の女子生徒だった。プロフィール上の
「相麻は別に、変わってないと思うけどな。あいつがどうかしたのか?」
「ちょっと気になってね」
「なんだ、
「その可能性は考えてなかったよ」
智樹は視線を空に
「ま、お前が
「失礼な話だね。僕は君のことだって大好きだよ、智樹」
「気持ち悪いな、おい。オレは女の子が好きだ」
「好意をなんでも
「食べ物と同じレベルかよ」
「ただの例え話だよ」
実のところ、それほどスパゲティーが好きなわけでもなかった。たまに食べたくなる程度だ。
智樹は
「ま、別になんでもいいさ。お前が同年代の女の子に興味を持つなんて、前代
少し迷ったけれど、ケイは答えた。
「何度か会って、話をした。そして今日、学校を出る時、靴箱に手紙が入っているのに気づいた」
横長の白い
「相麻からの?」
「うん。明日の放課後に、学校の屋上に来て欲しいってさ」
「そりゃ、
「
「普通に
どうやら相麻に対する印象は、ケイと智樹の間に大きな
まぁいいさ、とケイは思う。明日になればわかることだ。
「ところで、髪の長い女の子っていうのは?」
ケイは
「ん、ああ。髪が長い、変な奴がいるんだよ。ちょっとお前に似てるな」
「へぇ。それは興味深いね」
「
「どこが僕に似てるのさ? どちらかというと僕は多弁な方だし、表情は豊かだし、名前は
「多弁なのは認めるが、表情が豊か?」
ケイはにっこりと
「僕ほどポーカーフェイスが苦手な人も、そういない」
智樹は呆れた風に首を振った。
「ま、いいけどな。なんとなく、どっか
「まったく具体性がないね」
「単純に言えば、そうだな。いろんなことに心がこもってないように見える」
智樹は思いのほか
智樹は言った。
「例えばさ、お前、バスケでオレに勝ちたいとも思ってないだろ」
彼の声には、どこか
本当は智樹だって、こんな話をしたくはないのだろう。なら初めからしなければ良いのに、とケイは思う。言葉なんて、必要最低限の情報さえ伝達できればそれでいいのだ。コンビニで店員と
「そう見える?」
「見えないよ。点を取られれば、ちゃんと
「どうして?」
「さぁな。たぶん直感だよ」
「ああ、そう」
ケイは立ち上がり、ジーンズについた土を
「悪い。変なこと言ったな」
謝るくらいなら、初めから何も言わなければいい。そう思ったが、この
「別に謝られるようなことじゃないよ。それよりも夕食の前に
「ああ、いいよ」
「ありがとう」
適当に手を振って、ケイは
別にバスケットに負けることが、悔しくないわけではないんだけどね、とケイは内心で考える。だが確かに、時間
──結局のところ、智樹の指摘が正しいんだろうね。
色々なことに、きっと心がこもっていない。
※
翌日、四月二八日、水曜日。その日の放課後、ケイは教室にいた。
昨日買った
ほんの数行読んだところで、ふいに、頭の中に声が
聞きなれた声だった。
──ケイ、
智樹の能力だ。
そのまま解説を読み進めて、ちょうど読み終わる
「悪い、ケイ。英和辞典貸してくれ」
「いいけど、どうして放課後に?」
「部活で使うんだよ」
放送部員がどんな目的で英和辞典を使うのだろう。洋楽のタイトルでも訳すのかなと考えながら、ケイは机の中から英和辞典を取り出す。
それから智樹と少し話をして、気がつくと一五分間が経過していた。彼とは
昨日、靴箱に入っていた手紙を思い出す。──四月二八日の放課後、南校舎の屋上に来てください。相麻
まったく、身勝手な文面だ。
学校指定の
屋上には、
相麻菫ではない。
ケイは、その少女の名前を知っていた。理由は簡単だ。同じ学年にいる生徒の名前を、すべて覚えているだけだ。
中野智樹、そして相麻菫と同じクラスに所属している女の子。
昨夜、智樹が彼女について、変な
春埼美空はじっと、こちらを見ていた。
だがケイには、彼女が自分を見ているのだとはどうしても思えなかった。もしこの場所にケイが立っていなくても、彼女はまったく同じ表情で、同じ方向を見ているのだろうなと思う。
髪の長い、その少女の視線は、あまりに
ケイは意図的に
「君、二年一組だったよね?」
と、ケイは
春埼はしばらく、なんの反応もしなかった。まるでケイの姿も見えず、声も聞こえないという風に。それから彼女は、静かな声で答えた。
「はい」
返答までのタイムラグに気持ちの悪さを覚えたけれど、表情には出さないよう気をつける。
「君のクラスの、相麻さんを知っているかな」
「はい」
「よかった。僕は相麻さんに、ここに来るよう言われたんだけどね。彼女、どこにいるのか知ってる?」
「いいえ」
まったく、なんだこの少女は。
まるで平らな
「君の好きな食べ物はなに?」
と、ケイは尋ねた。「はい」と「いいえ」以外の言葉を
「ありません」
「そう。じゃあ
「ありません」
「好き嫌いがないのはいいね。健康的な食生活を送れそうだ」
適当に答えながら、ケイは内心で
「ところで、どうして君はここにいるの? 一人きりになりたいのなら、僕は出て行くけれど」
「ここにいるのは、
思いのほか、長い言葉が返ってきた。
ケイはため息をつく。
「そういうことは、できればさっき、相麻さんの話をした時に言って欲しかったね」
彼女は少しだけ首を
いちいち気に
「相麻さんに関して、
春埼美空はこくりと
「相麻菫はクラス委員長の仕事で
「その仕事の内容を、君は知っているかな?」
「いいえ」
「なるほど」
例えばクラス委員長を集めた会議なんかが行われるなら、ケイのクラスの委員長も呼ばれているはずだ。だが担任の教師がそんなことを言っていた
──ま、なんだっていいさ。
重要なことは一つだ。相麻はケイと春埼を、同時にこの屋上に呼んだ。なんらかの意図を持ち、二人を出会わせようとした。
「君は、僕も相麻さんに呼ばれている事を知っていた?」
「いいえ」
「それじゃあ、君がここに呼ばれた理由は?」
「わかりません」
「僕と同じだね。まったく、相麻さんも勝手な人だ」
この
表情もなく
「君は、相麻さんと親しいの?」
「親しい、の定義がよくわかりません」
「例えば、相麻さんとよく話をするの?」
「私が去年一年間で、最もよく会話をしたクラスメイトは、おそらく相麻菫です」
「ああ、去年も同じクラスだったんだね」
ケイはおよそ一年前──
「それなら、わりと親しいと言っていいんじゃないかな?」
「ですが私は、おそらく平均的な中学生に比べて、クラスメイトと会話を
「そうなの?」
春埼はこくりと頷く。
「二年生になってから、学校で最も長く会話をした相手は、
ケイと春埼が言葉を交わしたのは、今回が初めてだ。なんともハードルの低いナンバーワンだった。
「新学期が始まって、まだ二〇日ってところだ。これからいろんな人と話をすればいいさ」
「会話をすることが必要ですか?」
「どうだろうね。別に、絶対に必要だとは思わないよ」
好きにすればいい、とケイは言った。
そのせいだろうか。春埼からの返答はなかった。ケイもそれ以上、会話を交わす理由に思い当たらず、屋上の手すりにもたれかかる。
学校の前の通りを、下校中の生徒たちが歩いていく。彼らの
しばらくの間、ケイと春埼は、無言で屋上に立っていた。相麻菫はいつ来るのだろう。もう五分ほど待って、それでも来なければ次の行動を
ケイがそんなことを考えていると、ずっと屋上の入り口を
何か、春埼の興味をひくようなものがあったのだろうか。この少女が何に興味をひかれるのか、少しも想像できないけれど。
春埼の表情は、今までと同じ、無色で
帰宅中の生徒たちが、雑談を交わしながら歩いていく通り。下校のピークを過ぎたのか、少し人の数は減っているように思う。その通りの向こう、曲がり角の手前に、一人の女の子がいた。
七坂中学校の生徒ではない。中学生よりも、ずっと幼い。小学校の低学年くらいの女の子。
女の子は泣いていた。
転んでしまったのだろうか。迷子になったのだろうか。理由はわからないし、彼女の泣き声がこの屋上まで届くこともない。
でも確かに、小さな女の子が一人、通りの向こうで泣いていた。
春埼美空は、なんだかその女の子を注視しているような気がした。
もう一度、ケイは視線を春埼の方に
その時だった。
「リセット」
と、それは、ため息みたいに。
少し
※
四月二七日、火曜日。
午後四時三〇分に、
中学二年生になって、もう二〇日ほど
ケイはたまに会話を交わすだけの、友人とも呼べないクラスメイト数人に手を振って教室を出る。そのまま
決まったプログラムに従って行動するように。ケイは智樹とのジャンケンに負けて、バスケットゴールに背をむけて立った。
軽く、目を閉じる。智樹の
最初にあったのは、ほんの小さな
──
そう表現するのは、正確ではないのかもしれない。だが
水にもぐる前に息を止めるように、小さな
四月二七日の前日。本来なら、四月二六日があるべき場所。
だが、そこにあったのも、今日と同じ四月二七日だった。
意識したとたん、ケイの頭の中に、情報が
智樹の声が聞こえた。
「どうかしたのか?」
ケイは目を開き、無理やりに
「いや。ちょっと、勝ち目がないなと思ってね」
過去を思い出したはずなのに、未来が見えた。
ケイはこのバスケットのゲームに敗北する。智樹が二〇得点をあげる間に、六点しかとることができない。
──時間が、巻き戻ったんだ、きっと。
スムーズにそう理解できたのは、この現象を今までにも何度か経験したことがあったからだ。ケイが記憶保持能力を手にした二年前から、数か月に一度の
きっと、
失われた二四時間分の記憶は、頭の中に雑然と溢れていた。
ケイは記憶を、正しい時系列順に並べなおす。その作業の終わりに、つまりは時間が巻き戻される最後の
屋上に立つ女の子。
彼女はウェーブのかかった、美しい髪を持っている。
その髪が、風に吹かれて、揺れる。
彼女は呟く。
なんだかため息のような、
──リセット。
そう
なんてことだ、とケイは思う。
一人の少女がリセットと呟いた瞬間に、世界は四月二八日から、四月二七日に戻った。すべて、
それとも、春埼美空。あんなにもちっぽけな一人の女の子が、能力を使ったのか。
世界すべてを、おそらくは宇宙まで
──まったく、信じられない。
思わずケイの口から、笑い声が
「本当に、どうしたんだよ、ケイ」
智樹の声が聞こえた。
「ちょっと楽しいことを思い出したんだよ」
いつの間にか再び閉じていた目を、ケイはゆっくりと開く。
不安げな表情の、智樹の顔が見えた。
だが、そんなことを気にしている
時間を巻き戻す能力。それはケイにとって、
そして、春埼美空は
──リセット。
あまりにこの能力に、似つかわしい言葉。
「智樹。バスケットをしよう」
と、ケイは言った。
さぁ早く、今日という日を終わらせよう。
明日、もう一度、春埼美空に会うために。
2 春埼美空──二度目
春埼美空は、リセットと呼ばれる能力を持っている。
世界中の時間を
リセットには、いくつもの制限がある。
まず、彼女自身が意図的に「セーブ」した時点にしか時間を戻すことができない。改めてセーブし直すと、前回セーブした時点には戻れない。セーブの効果は、三日間で切れてしまう、など。
そして、リセットの最大の問題点は、使用者である春埼自身にも効果を
例えば今回リセットによって消え去ったのは、四月二七日の午後四時三〇分から、二八日の午後四時四五分までの、およそ二四時間だ。世界は一度、四月二八日になり、リセットの効果で二七日が再現された。
だが春埼自身も、リセットを使ったことを覚えていない。リセットによって消えてしまった二四時間に何が起こったのかわからない。
四月二七日の午後四時三〇分が再現された時──つまりは前回、春埼美空がセーブを使った時、彼女は
学校からの帰り道、泣き声が聞こえたのだ。
そちらに視線を向けると、公園で一人、女の子が泣いていた。おそらくは小学校の低学年だろう、
春埼は人の感情を理解することが苦手だ。表情を見ただけでは、それが
今、春埼の目の前にいる女の子は、
春埼は
ともかく、ルールでそう決まっているのだ。
だからこの時も、リセット、と呟こうとした。
しかし思い出す。最近はセーブしていない。セーブは三日間しか効果を持たない。三日以内にセーブしていなければ、リセットすることはできない。
仕方がなかった。
セーブ、と春埼は呟いた。次に泣いている人を見つけた時に、きちんとリセットできるように。
──リセットによって再現されたのは、この
春埼はそのまま、公園から立ち去ろうとしたけれど、その前に声が聞こえた。
「あの」
泣いている少女の声。春埼は再び、そちらに視線を向ける。
悲しいという感情は、よくわからない。春埼が
あるいは全部、忘れてしまっただけなのかもしれない。悲しいという感情も、かつて泣いたことも。だがともかく中学二年生の春埼
小さな女の子は言った。
「私のお母さんを知りませんか?」
それは不安定に
「知りません」
と、春埼は答えた。母親どころかこの少女のことも知らない。
少女はまだ、春埼を見ていた。だからしばらく待ってみたけれど、次の質問はない。ただずっと、泣いているだけだ。
おそらくこの少女は、母親を
迷子に出会った時の正しい対処法を、春埼はよく知らなかった。警察に連れて行くべきなのだろうか。だが
最も効率的な
結果、この少女を公園に残し、春埼だけで警察に向かうことを決めた。この少女の
春埼は目の前の少女を観察した。白いポロシャツ、チェックのスカート。肩から深緑色のポシェットをさげている。
春埼は
「どこで母親とはぐれたのですか?」
その少女は何も答えない。じっと春埼の顔を見ているだけだ。
はぐれた、という言葉の意味がわからなかったのかもしれない。そう考えて、春埼は質問を変える。
「今まで
少女は、ぼそぼそと答える。聞き取りづらい声だった。
「検査で、病院に、いきました」
病院内ではぐれたのだろうか。確かにこの公園の裏には、規模の大きい病院がある。それならばまず、病院に
「貴女の名前を教えてください」
と、春埼は言った。外見と名前がわかれば十分だ。
少女は震えた声で、くらかわまり、と答えた。──クラカワ、マリ。漢字の表記まで尋ねる必要はないだろう。春埼は病院と警察に連絡を入れるため、その場から立ち去ろうと向きを変えた。
その時だった。
なぜだか少女──マリは、春埼の制服の
「放してください」
と、春埼は言った。
だがマリは答えない。ただ泣いているだけだ。
無理にでもこの少女の手を引き
だが春埼は、なぜだかそうしようという気にならなかった。マリが制服を摑む力から、
制服の裾を摑まれたまま、春埼は自身が取ろうとした行動について説明する。マリはこの公園で母親を待ち、その間に自分は病院と警察に連絡する。それがおそらく一番効率的な対処法なのだと伝える。
だがマリは、春埼の制服の裾を摑んだまま、泣き続けるだけだ。
春の終わりの公園。桜の木は花を散らし、
春埼は制服の裾を摑まれたまま、じっと少女の答えを待っていた。
マリの母親が現れたのは、それから二〇分ほど
その
マリの母親の
なぜ彼女が、マリの母親と共にいるのだろう。わからなかったが、どうでもいいことだ。
頭を下げる母親にマリを引き
さも当然だという風に、相麻菫は春埼の隣に並ぶ。
「謝らなければいけないことがあるの」
彼女は言った。
「貴女とあの女の子が出会った時、私は公園の入り口にいたの。声を
「わかりません」
相麻菫はくすりと笑う。
「貴女がどうするのか、興味があったの。だから、ごめんなさい。貴女には何も言わずに、私は一人であの子の母親を捜しに行った」
それがなぜ謝らなければならないことなのか、春埼にはわからなかった。
だがわざわざ
「貴女はまるで、善人みたい」
相麻菫は楽しげに、春埼の歩調に合わせて歩く。その足音に乗せるように、流れるようなリズムで話す。
「泣いている女の子を助けようとして、服を摑まれれば
歩きながら、春埼は
「はい」
彼女の母親が見つかったことにだって、特別な
相麻は続ける。
「ずっと、
春埼にとっては、なんの興味もない話題だった。
四月二七日、午後五時。夕暮れにはまだ早いが、太陽の高度はずいぶん落ちていた。春埼と相麻の足元に、長い
「貴女を見ているといつも、まったく同じ形をした、二つの白い箱を連想するの」
落ち着いた声で、相麻菫は語る。
「貴女はいつも、まっ白な部屋にいて、まったく同じ形をした二つの白い箱と相対している。一方だけを開かなければならないけれど、どちらが正解なのかはわからない」
意味がわからなかった。
春埼はそのまま、「意味がわかりません」と告げた。
相麻菫は、
「つまり貴女にとって、世界はそれほど
やはり、意味がわからなかった。
いまさらになって思い出す。相麻菫は、去年も春埼のクラスメイトだった。その頃から彼女は、
「例えば、春埼。私が貴女に、何かお願いをしたとしましょう」
春埼美空は前だけを見て歩き続ける。
相麻菫は春埼の横顔を
「それを聞き入れるか、それとも断るのかが、二つの白い箱。貴女は私に好かれたいとも、
春埼は
「
躊躇いもなく、春埼は頷く。
「わかりました」
相麻菫は、くすりと笑う。
「貴女はどうして、私のお願いを聞いてくれるの?」
表情もなく、春埼は答える。
「ルールに従いました」
「ルール?」
「私には、いくつかのルールがあります」
それは例えば泣いている人を見つけたら、リセットを使おうとするように。人に
春埼はそのルールに従って生きている。単純なプログラムで動く、コンピュータのようなものだと思う。
「ルール、ね。まぁいいわ」
相麻菫は
「お願いを聞いてくれるお礼に、これをあげる」
差し出されたそれを、
青い封筒は、きっちりと
「お守りみたいなものよ。困った時に、開いてみて。それから貴女のお願いを、きちんと言葉にするの。そうすると、お願いが
信じられる話ではなかった。だが、否定する必要もない。
春埼は小さく
曲がり角で、相麻菫はふいに足を止めた。
気にも留めずに、春埼美空は歩き続ける。
背後から、彼女の声が聞こえた。
「明日の放課後、ちゃんと屋上に来てね」
足を止め、頷いて、春埼はまた歩き出した。
※
四月二八日、水曜日。
その放課後に、春埼美空は、相麻菫の指示通り南校舎の屋上にいた。
相麻からは教室を出る直前、クラス委員長の仕事で少し
春埼はフェンスの前に立ち、じっと屋上の入り口を見つめる。待つことは苦痛ではない。
背後からは
空はよく晴れていた。
それは悲しいことなのだろうか、と春埼は考えた。
なぜそんな疑問を抱いたのか、春埼自身にもわからなかった。
わからないことは苦痛ではない。クラスメイトを待つことと同じように。時間が
五分経っても、一〇分経っても、屋上には誰も現れなかった。
ほんの
そこに、一人の女の子がいた。
一人きりの屋上で、春埼
──クラカワマリ。
その名前をスムーズに思い出せたことが、少し意外だった。だがその理由は明確だ。彼女はまた、泣いていた。昨日、公園でそうしていたのと同じように。
顔を
昨日、マリを見つけた時点で、セーブを行っている。今回は問題なく、リセットできるはずだ。
ため息のような口調で、春埼は
「リセット」
しかし春埼の視界は、なんの変化もしなかった。グラウンドからは喧騒が、隣の校舎からは吹奏楽部の演奏が聞こえていた。そしてマリは一人、泣きながら歩いていた。
春埼美空は、ようやく気づく。
自身が同じタイミングで、すでにリセットを使っているのだろうということに。一度リセットを使ってしまうと、セーブはその効果を失う。また新たにセーブし直す必要がある。
──おそらく私は、リセットしてから、同じ行動を
今までに、何度も経験していることだった。
春埼はリセットの効果で、リセットしたことを忘れる。覚えているのは、リセットしようとして、だがそれが出来なかったことだけだ。
──本当に私は、リセットと呼ばれる能力を持っているのだろうか?
春埼の能力に関する知識は、すべて管理局と呼ばれる、公的な機関から聞いたものだ。管理局は、
管理局は春埼の能力を、
マリはまだ、泣いていた。
彼女の元に行くべきだろうか? 制服の
やがて、通りの反対側から、マリの母親が現れるのが見えた。
二人が出会ったとき、マリは泣き
リセットも、制服の裾も関係なく。
どうでもいいことだ。
背後で、
3
浅井ケイにとっては二度目の四月二八日、水曜日。
放課後になるとすぐ、ケイは英和辞典を摑んで、教室を出た。
リセット前のこの時、ケイは教室でしばらく時間を
だが今回は
春埼に会う前に、
どうしてケイを呼び出した先に、相麻ではなく春埼がいたのか。なぜ春埼がリセットと呟き、その
「よう、ケイ」
「やあ。これ、貸してあげるよ」
ケイは英和辞典を彼の
「ん? 辞書?」
「部活で使うんでしょ」
「おお、そうだった。……なんで知ってんだ?」
リセット前に聞いたからだ。だが、事情を説明するのも
「色々あるんだよ。ところで相麻さんは、まだ教室にいるのかな」
「ああ、いたよ。呼んでくるか?」
「いや、いい」
ケイは教室の方を気にしながら、智樹と会話を続けた。
部活動について、音楽について、気になっている映画について。
ふいに、頭の中に、声が
──ケイ、
リセット前に聞いたものとまったく同じ言葉だ。
そうだ。今までだって、そうだった。智樹が使った能力は、時間が巻き戻っても効果を発揮することを、ケイは経験的に知っていた。
今みたいに、一度目の四月二八日に届いた声は、二度目の四月二八日にも聞こえる。
確認のために、ケイは
「智樹。今、このタイミングで声が届くように、僕に能力を使った?」
そう尋ねると、彼は
「いや。どうしてだ?」
「ちょっとね」
ケイは声が聞こえた理由について考えるが、いまいち構造がわからない。
ともかく今は、相麻のことを優先しよう。
「ごめん、智樹。ちょっと用ができた」
「ん、ああ。オレもそろそろ、部活に行くよ」
軽く手を振って智樹と別れ、ケイは歩き出す。足音を
彼女はまっすぐに廊下を進む。理科室や美術室なんかの、
周りに人がいなくなると、足音が気になった。できれば相麻の目的地がどこなのかを知りたかったが、気づかれずについていくのは難しいかもしれない。
相麻は棟の奥にある、上り階段に足をかけた。ケイもそっとその階段に近づく。一つ上の階にある音楽室から、
階段を上りきり、廊下の先に視線を向けたとき、不意に相麻と目が合った。
彼女は微笑を
「こんにちは、浅井くん」
いつからこちらに気づいていたのだろう。内心でため息をつきながら、ケイは尋ねる。
「何をしているの、相麻さん」
「クラス委員長の仕事よ」
「こんなところで?」
ただの廊下の真ん中に、クラス委員長が行うべき仕事なんてものがあるとは思えない。
「別に、場所はどこでもよかったのよ。南校舎の屋上でさえなければ」
「どういうことかな? こんなものを出しておいて」
ケイはポケットから、靴箱に入っていた手紙を取り出して見せる。白い
「それ、
「君の名前を見つけるまではね」
「雑貨屋で買ってきたの。靴箱に入れるには、ぴったりだと思って」
「封筒の良し
相麻は
「ごめんなさい。どうしてもある女の子と
「それが、クラス委員長の仕事?」
「そう。半分くらいは、私の
まったく意味がわからなかった。
「君が僕に会わせたい相手っていうのは、
そう尋ねると、彼女は細い
「ええ、その通り。どうしてわかったの?」
「色々あるんだよ」
一日分時間が巻き
「僕と、春埼さんを二人きりで会わせることが、どうして委員長の仕事になるのかな?」
と、ケイは尋ねた。
相麻はにっこりと笑う。
「あんまり彼女と親しい人っていないのよ」
「それで?」
「貴方と春埼を会わせてみたら、友達になるかなと思って」
屋上に行きましょう、と言って、相麻は歩き出す。
ケイは彼女の
「それが、クラス委員長の仕事だとは思えない」
「そうかしら? クラスのみんなの人間関係に気を配るのは、わりと重要な仕事だと思うけれど」
「僕は君のクラスの人間じゃない。春埼さんに友人を作りたいんなら、君のクラス内だけでどうにかして欲しいね」
「不可能よ」
微笑んだまま、声の質を
「彼女の友達になれるような人が、そうそういるわけがないわ。私のクラスには、きっと一人もいない。だったら
「二年一組には、
「
「君はどうなの、相麻さん」
「
相麻は
なんだかそれは、意外な言葉だった。なぜ意外なのかは判断できない。ケイは相麻のことを、それほどよく理解しているわけではない。
それでも、何かが意外だ。──彼女と友達になることはできない。
二人は東校舎の二階を通り抜け、
ケイは
「春埼さんが友達になりにくいタイプの人だっていうのはわかるよ。でもどうしてその相手に、僕を選んだのかな?」
「一番相性が良いからよ」
「その
「だって、貴方と彼女は似ているから」
以前、智樹にも
「一体、どこが似てるのさ」
「価値観、
まったく、わけがわからなかった。
「少なくとも、空気と真空が似ているとは思えない」
「そう?
「そんなことは、物事の本質じゃないよ。空気と真空は、三日月とバナナよりも違う」
「つまりは、そういうことよ。貴方たちは、本質が少し違うと思うの。でもきっと、近づけると、とても自然に自動的に混ざり合うわ。空気が真空に
ケイは首を
「まったく具体性がないね」
「そうね。シンプルに表現するなら──」
同じ話題で、智樹は「いろんなことに心がこもってない」と言った。
「とても
と、言った。
中野智樹とは真逆の評価に思える。
「
「僕が彼女と仲良くなることに、意味があるのかな」
「あるわよ。貴方たちが、二人でいることには大きな意味がある。そうね──」
相麻はケイの耳元に口を寄せて、小さな声で
「春埼が持っている能力の効果を、教えてあげましょうか?」
「……知ってるの?」
「ええ」
「どうして?」
相麻が
「適切な意思を持ち、適切な場所にいたなら、欲しい情報は手に入るものなのよ。自動的に、なんだって」
まったく答えになっていなかった。
それを指摘する前に、彼女は話を
「ねぇ、浅井くん。引力と重力の違いはなに?」
「引力は、他の質量から受ける力だ。重力は、引力に遠心力なんかの、別の力が加わった場合の合計の力」
例えば地球が様々なものをひきつける力が引力で、それに地球の回転で生まれた遠心力を合わせた力が重力だ。だから重力は、遠心力の分、地球の中心から赤道の方向に少しずれている。
相麻菫は
「春埼さんは引力みたいに、
「彼女の方が純粋だってことは、認めるよ」
「でも貴方の方が、本来の力は強いわ。せめぎあっている分、少し
二人は渡り廊下を通って校舎を移動し、階段を上った。
南校舎の、最も高い位置。相麻は、屋上へと続く
音を立てて、風が
扉の先では、
あの、泣いている少女を見ているのだろうか? 時間が巻き戻る前に、
ゆっくりと振り返った春埼
四月後半の日差しは暖かだが、風が吹くとまだ少し寒かった。
屋上の
「私たちは、話をしましょう」
ため息をついて、ケイは
「話って、どんな?」
「なんだっていいのよ。そうね、例えば私は、一年を四つの季節に分けることに、なんだか
ケイは手すりにもたれ
「でも、季節は有益だよ。例えば八月の暑さを、夏のせいにすることだってできる」
「夏を否定しているわけじゃないのよ。ほら、もう桜は散ってしまったし、もうすぐ四月が終わるでしょ? 私はそこに、春の終わりを感じる。でも、夏はまだ、遠すぎる」
相麻は春埼を見て尋ねた。
「ねぇ、これから
春埼はゆっくりとまばたきをするくらいの時間を置いて、答える。
「来週末は、立夏です」
立夏。夏の気配を感じる時季。
相麻は
「そう。夏は思っていたよりも、ずっと近いところにあるのね」
それから彼女は、もう一度、空を見上げる。
ケイもなにげなく、同じ方向に視線を向けた。
四月末の、南の空。それは春と夏の間にある。無重力を連想させる春の
その空はどちらかというと、春の淡さをより多く残しているように感じた。夏は来週末よりも、もう少し遠いところにあるように思う。
「じゃあ、もうすぐ訪れる夏を、私たちはこの場所で過ごしましょう」
と、
「何度も何度も、この屋上で顔を合わせて。
ケイは軽く、首を
「そうすることに、意味はあるかな?」
興味のないふりを装いながら、ケイは考える。
相麻の提案は、
だが一方で、相麻が何を考えているのかがわからない。クラス委員長の仕事として、春埼に友達を作りたいだけなのだとは、とても思えない。
相麻は微笑む。
「意味。そんなものは、それぞれが勝手に見つければいいのよ。私たちは、ただ会って話をするの。電線に並ぶスズメみたいに。ほんの羽休めとして、
「目的のない行動は
「じゃあ、何か適当な意味を付け足すわ」
彼女は少しだけ思考するような時間を置いてから、言った。
細い
「私たちの中に、アンドロイドがいると仮定しましょう」
「アンドロイド?」
「ええ。人に似せて作られた、人工的な
ため息をついて、ケイは答える。
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか? ──フィリップ・K・ディックが、一九六八年に書いた」
「そう。あの物語に出てくるアンドロイド。私たちのうち、誰か一人が、ああいうアンドロイドだったと仮定しましょう」
SF小説に出てくるような、
「その仮定の意味は、なんだろう?」
「ただの質問よ。──アンドロイドは、誰?」
「何か意味のある質問なのかな」
「ええ、きっと。アンドロイドは誰なのか、どういう
ケイは軽く、肩をすくめる。
「
「それじゃあ、仮定の意味がないでしょう? 私たちは全員、ただの人間よ。その中で思考して、誰がアンドロイドなのかを予想するの。そして夏の終わりに、答え合わせをしましょう」
アンドロイド。
その言葉で、最初に連想するのは、春埼美空だった。
表情がなく、意思というものを感じさせない、一人の少女。彼女について、ケイはあまり情報を持っていない。でもなんだか、彼女はいくつかのプログラムに従って行動しているだけのように見えた。まるで人工的に作られた存在みたいに。
春埼美空は今だって、
つまり、春埼について考えろ、ということだろうか?
屋上で何度も顔を合わせて、春埼美空を観測する。その
彼女を──時間を巻き
「春埼も、それでいいかしら?」
と、相麻は
春埼は
「私はその本を読んだことがありません」
「なら、読んでみて。今度貸してあげるわ」
「わかりました」
気がつけば日が暮れかかっていた。
夕日に照らされて、
「夏が始まる
と、相麻菫は言った。