Part 01: 菜央(私服): ……ねぇ一穂、美雪。あたし、この朝ご飯を食べたらちょっと出かけてくるわ。 一穂(私服): あ、うん。どこに行くの? 菜央(私服): #p興宮#sおきのみや#rの図書館。お昼は適当に食べてくるから、気にしないで。 美雪(私服): わかった。車に気をつけてね。一穂、あとでみんなの布団を干すから悪いけど手伝ってくれる? 一穂(私服): わかった。ついでに洗濯物も片づけておくね。 菜央(私服): ごちそうさま。じゃ、行ってくるわ。 一穂(私服): いってらっしゃい。……ねぇ、美雪ちゃん。 美雪(私服): んー、なに? 一穂(私服): 菜央ちゃん、ちょっと変だよね?やっぱり、昨夜見たっていう夢のことが気になってるのかな……? 美雪(私服): かもね。どういう内容だったのかは、教えてくれなかったけどさ。 一穂(私服): ……。ひょっとして、私が遊郭の夢の話をみんなにしたことが原因なのかな。そのせいで菜央ちゃんまで、変な夢を……? 美雪(私服): 気にしすぎだって。実際私は、昨夜そういう夢なんか全然見てないんだからさ。 一穂(私服): 確かにそうだけど……それでも……。 美雪(私服): ……一穂。ちょっと電話するから、テレビを消していい? 一穂(私服): えっ? う、うん……。 菜央(私服): ……やっぱり、見つからないわね。 菜央(私服): (あたしが見た夢の中の遊郭……確か、『はると屋』って言ってた) 菜央(私服): (あの店が存在したかどうかさえわかれば、遊郭にいたあの人たちのことがわかるはず……) 菜央(私服): ……なんて思って図書館に調べに来たけど、それらしき資料が全然見当たらない。この近辺の街じゃなかったのかしら……? 菜央(私服): こうなったら、もっと都会の……穀倉の市立図書館とかに行けば、記録が残ってるのかもしれない。 菜央(私服): でも、そこで調べものをするつもりだったら一穂たちにも協力か、少なくとも遠出の了承をもらう必要が出てくる。 菜央(私服): そうなれば2人に、あたしが見た夢の話を詳しく説明しなきゃいけないと思うし……。 菜央(私服): はぁ……どうしたものかしらね。 レナ:私服: ……菜央ちゃん。 菜央(私服): えっ……? レナ(私服): あははは。やっぱり菜央ちゃんだ。 菜央(私服): レナちゃん、どうしてここに……? レナ(私服): 興宮にお買い物に来たついでに、本を借りて帰ろうと思ってね。 レナ(私服): 菜央ちゃんは探したい本、見つかったかな? かな? 菜央(私服): え、えっと、その……。 菜央(私服): (相談……してみようかな。レナちゃんだったら頼めば、きっと一穂には内緒にしてくれると思うし……) 菜央(私服): あの、ね。実は調べたいことがあるんだけど、どうやって探せばいいかわからなくて。 レナ(私服): はぅ……どんな本を探しているの? 菜央(私服): その……実在した遊郭のお店の名前が、書いてある本……とか。 レナ(私服): 遊郭の、お店の名前……?それって昨日みんなと調べた、あの着物が関係しているのかな、かな……? 菜央(私服): う、うん……。あの着物の持ち主が誰なのか、ちょっと知りたいと思って。そういう資料って、どこに行けばあるのかしら? レナ(私服): うーん……ここよりもっと大きな図書館なら、可能性があるかもしれないけど……。 レナ(私服): あの着物がどこから送られてきたのかがわからないと、調べようがないと思う。梨花ちゃんも知らないって言っていたしね。 菜央(私服): ……そっか。やっぱり、そうよね。 レナ(私服): 菜央ちゃんは……あの着物のことで、何か気になることでもあったのかな……かな? 菜央(私服): うん。実は、その……。 鷹野: あら……レナちゃんに菜央ちゃん、何か図書館で調べもの? レナ(私服): えっ? 鷹野: こんにちは。こんなところで会うなんて、奇遇ね。 菜央(私服): 鷹野、さん……? Part 02: 鷹野: くす、なるほど……たかが夢と片づけるには惜しいくらいに、興味深い話ね。 レナ(私服): あの……鷹野さん。菜央ちゃん、とても悩んでいるのでそういう言い方は……。 鷹野: あぁ、ごめんなさい。確かに配慮に欠けた発言だったわ。許してね、菜央ちゃん。 菜央(私服): あ……いえ、大丈夫です。 鷹野: ありがとう。じゃあ、今まで聞いた話を一度整理させてもらうわね。 鷹野: 一穂ちゃんは以前、レナちゃんに似た花魁と姉妹だった夢を見て……最近、その姉がまた夢の中に出てきた。 鷹野: だから、夢の原因かもしれない古い着物をもう一度倉庫から出したら……。 鷹野: 入っていたはずの手紙が消えて、代わりにかんざしが入っていた。 鷹野: そのかんざしに触れた菜央ちゃんは、夢の中で同じくかんざしに触れた梨花ちゃんと姉妹の花魁になっていた……。 レナ(私服): レナに似たお姉さんが、梨花ちゃんに。そして一穂ちゃんに似た妹が、自分に……。 レナ(私服): そんな夢を見た……最初はそう思ったんだね。 菜央(私服): うん。でも……。 鷹野: 実際には、レナちゃんと一穂ちゃんに似た姉妹は別にいて、梨花ちゃんと菜央ちゃんの姉妹は遊女という名の隠密だった。 鷹野: その目的は、花街で違法に流通していた麻薬の取り締まり。 鷹野: そしてその黒幕は、一穂ちゃんに似た妹だった……。 菜央(私服): えぇ。で、その妹を……一穂に似た人をあたしがかんざしで殺したところで、目が覚めたのよ。 菜央(私服): (……結局、聞かれるままに全部話しちゃった) 菜央(私服): (レナちゃんもだけど、鷹野さんって人の話を聞くのが上手ね……やっぱり看護師さんって話術も大事なのかしら) レナ(私服): 一穂ちゃんや美雪ちゃんに、その夢の話はした? 菜央(私服): ううん……こんな夢を見たなんて知ったら、一穂がどう思うかと思ったら……。 菜央(私服): あと……美雪にも、言えなくて。あの子が一穂に言わない保証もなかったしね。 菜央(私服): それに……どうしてこんな夢を見たのか、自分でもよくわからなくて。納得しようと思っても、どうしたらいいか……。 レナ(私服): 菜央ちゃん……。 鷹野: ……そうね。あくまで私の考えだけど、いいかしら? 菜央(私服): あ、はい。どうぞ……。 鷹野: 菜央ちゃんがそんな夢を見た理由だけど……おそらく似たような出来事が、副次的に絡み合って発生したせいだと思うわ。 菜央(私服): 副次的……って、どういうことですか? 鷹野: 少し話は変わるけど……黒い点が3つあると、人の顔に見えたりしない? 両目と、口に。 レナ(私服): 天井の染みが顔に見えたりとか、ですか? 鷹野: えぇ……人の脳はね、意味のないものにも自動的に意味を見いだそうとしてしまうの。 鷹野: もちろん、派生の度合いには個人差があるけど……そもそも脳はそういうふうに作られているのよ。 菜央(私服): は、はぁ……。 鷹野: ……それで、話は変わるけど。倉庫掃除って、大人数で一斉にやったのよね? レナ(私服): はい、そうです。 鷹野: だとしたら、手紙は何かの手違いで別の箱にしまわれたか、あるいはゴミに紛れて処分してしまって……。 鷹野: かんざしは別の箱に入っていたものを、誰かが間違えて着物の箱に入れてしまった……その可能性はない? 菜央(私服): そんな偶然が、起きたっていうんですか? 鷹野: ない、とは言い切れないわ。逆に菜央ちゃんこそ、そんなことは絶対に起きていないって断言できる? 菜央(私服): ……できない、です。 レナ(私服): そうだね。あの時はみんな、すごく忙しかったから……ちゃんと整理できていたかは怪しいよね。 鷹野: あるはずのものが消えて、ないはずのものが現れている。 鷹野: 不可思議な出来事に対する恐怖と、一穂ちゃんが見た花魁の夢を……菜央ちゃんが繋げてしまった、なんてね。 レナ(私服): はぅ……じゃあ、麻薬という要素はどこから出てきたんでしょうか……? 鷹野: 最近見たドラマや、映画……かしら?見た記憶がなくても、無意識のうちに残っていたりするものだしね。 菜央(私服): (そういえば昨日の朝、美雪が麻薬がなんとかってそんな話をしてたような……) 菜央(私服): (全然関係ないことだと思って、すっかり忘れちゃってたけど……) 菜央(私服): じゃあ、あたしは……。 菜央(私服): 自分が見聞きしたものを頭の中で繋げて、勝手に悪い夢を作り上げてしまった……そういうことですか? 鷹野: 少なくとも、今の話を聞く限りはその可能性はない、とは言えないと思うわ。 レナ(私服): つまり……菜央ちゃんは考えすぎて、悪い夢を見ちゃった。それだけなんですね。 菜央(私服): ……そっか。あたしは悪い夢を見た……それだけなのね。 菜央(私服): ……よかった。 Part 03: 菜央(花魁): ……ぅん……? ……目を開けると、そこには金魚が泳いでいた。 菜央(花魁): (金魚……そういえば昔、ちょっとの間だけ買ってたような……いつだったっけ?) ぼんやりとした頭で優雅に泳ぐ金魚たちを見ながら、あたしは歪んだ鉢に写る自分を見つめて……。 自分の格好の、おかしさに気付く。 菜央(花魁): って、ここはあの遊郭じゃない!なんであたし、またこの夢を? そう疑問に思いながら、周囲を見渡して……。 菜央(花魁): (外が、騒がしい……?) おそるおそるふすまのような窓を開けると、その眼下には人混みがあった。  : その中心では、レナちゃんに似た花魁さんが大勢の人に囲まれながら幸せそうに笑っている。  : 隣には……一穂に似た花魁さん。目に涙を浮かべているけれど、とても嬉しそうに見えた。 花街に、花が舞っている。おめでとうと、祝福の声が響いている。 華やかで美しくて……もちろん、それだけではないのだろうけど……。 菜央(花魁): あたし、また……夢を見てるのね。 梨花:花魁: えぇ、そうよ。 菜央(花魁): っ?! 振り返ったそこにいたのは。 梨花:花魁: …………。 菜央(花魁): 梨花……? 菜央(花魁): (いや、違う。この人は梨花に似てるけど梨花じゃない) 菜央(花魁): (梨花によく似た花魁の……花梨さんだ) 花梨太夫: あんたは、この景色が見たかったの? 菜央(花魁): ……そうね。えぇ、見たかったんだと思うわ。 姉は殺されることなく身請けされて花街を去り……妹は姉を見送った後、新たな花魁として花街に咲く。 もちろんこの景色が、幸せだけに満ちているとは思わない。 美雪の言う通り、裏で何かがあるかもしれないし……これから姉妹の花魁が幸せになれる、とは限らない。 でも……。 花梨太夫: この景色が事実かどうかはわからない。むしろ自分の単なる妄想の産物だって、自分でわかっているんでしょう? 菜央(花魁): えぇ、わかってるわ。でも……。ここはあたしの夢なのよね? 菜央(花魁): だったら、別に都合のいい夢だっていいじゃない。 菜央(花魁): もしかしたら、こういう結末もあったかもしれないって……夢を見たって。 そう呟くと……背後で花梨さんが笑う気配がした。 花梨太夫: ……そう。わかっているなら、それでいいわ……。 菜央(花魁): えっ? それはどういう意味か……聞き直そうとした時。 ぱしゃん、と。鉢の中の金魚が跳ねて……。 美雪:私服: ……なお……。 菜央(私服): ぅ、ぁ……? 美雪(私服): おはよう菜央。 菜央(私服): 美雪…………? 美雪(私服): いや、こんばんはかな? 夕飯前だし。にしても、長い昼寝だったね~。 美雪(私服): 図書館でレナと鷹野さんにばったり会ってお昼ご馳走してもらったって言ってたけど、食べ過ぎちゃった? 菜央(私服): そこまで食べてないわよ……。 美雪(私服): なら、夕飯は入りそうだね。うーん、顔色はよさそう……朝よりもなんだかすっきりしてるよ。 菜央(私服): ……ねぇ、美雪。 美雪(私服): なに? 夕飯ならもうすぐ……。 菜央(私服): 鷹野さんはともかく、あたしが図書館でレナちゃんに会ったのは……偶然? 美雪(私服): おぅ、なんのこと? 菜央(私服): あんた、昨夜あたしが何の夢を見たのか……あえて聞こうとしなかったでしょ? 菜央(私服): あたしが言わないと思って、レナちゃんを通じて聞き出そうとしたの? 美雪(私服): んー……仮にそうだったとしても、何があったか私は聞くつもりはないよ?解決したならよかったね、でおしまい。 美雪(私服): どうしても、この人には知られたくない悩みってのは、私にも経験あるからねー。 菜央(私服): ……年上ぶらないでよ。 美雪(私服): 一応、菜央よりちょっと長く生きてるよ。ま、本当にちょっとだけだけどさ。 美雪(私服): レナと鷹野さんに相談できて、それで解決できたんでしょ? よかったね。 菜央(私服): ……。あんたはそれでいいの? 美雪(私服): 解決したなら、いいってさっき言ったでしょ?でも、菜央が納得できないってんなら……。 菜央(私服): なら? 美雪(私服): そこの階段の陰から、こそこそ心配そうにしてる一穂には……できる範囲で説明してやったら? 一穂(私服): えっ……?! 菜央(私服): あたしも気づいてたわよ。さっきから影がチラチラしてるし。 一穂(私服): あ、う、えっと……。 菜央(私服): …………。 菜央(私服): (……もしもあたしが見た悪夢が、一穂から伝染したものだとしたら) 菜央(私服): (いい夢だって、伝染させることもできる?) 菜央(私服): (……そう思ってもいいわよね?試したって、いいわよね?) 菜央(私服): ねぇ、一穂。 一穂(私服): な、なぁに? 菜央(私服): あたし、いい夢を見たの。よかったら、聞いてくれる?