Part 01: ……ことの始まりは、ある日の放課後。いつものように私たち全員が教室内に集まって、部活を始めようとした矢先に起きた。 魅音: よーし、みんな揃ったね!んじゃ今日は、最近手に入れたとっておきの――。 沙都子: よ……よくも、やりましたわねぇぇっ?! 圭一: わ、悪かったって! 悪かったからっ! 一穂: えっ……何っ、どうしたの? いきなり教室の隅から聞こえてきた怒鳴り声に、私たちは一斉に目を向ける。 するとそこには、怒りをむき出しに食ってかかる沙都子ちゃんと……それを困り顔でなだめる前原くんの姿があった。 レナ: はぅ……2人とも、何があったのかな、かな……? 圭一: いや、その……落ちていたそこの紙くずをゴミ箱に投げ込もうとしたら、タイミング悪く沙都子が割って入ってきて……! 沙都子: いいえ、違いますわ!明らかにわざと! 私の頭を狙って圭一さんがこれをぶつけてきましてよー!! そう言って沙都子ちゃんは、憎々しげな表情で床に落ちた紙の塊を拾い上げてみせる。 くしゃくしゃに丸められたそれは、わら半紙とはいえ何枚も一緒になったものなのか……それなりに重量があるようにも見受けられた。 羽入: あぅあぅ……大丈夫ですか、沙都子? 梨花: ……みー。痛いの痛いの、飛んでいけなのですよ。 沙都子: ちょっ……お腹を撫でないでくださいまし、梨花!私がぶつけられたのは、頭! ここでしてよ?! 沙都子: レディーの頭を狙うなんて、なんという無礼千万!とんだ鬼畜行為で許しがたいですわッ! 圭一: だ……だから、わざとじゃないって!まぁぶつけたこと自体は、悪かったけどさ……。 圭一: けど、紙くずなんだからそんなに痛くないだろ?だいたいお前はいつも大げさなんだよ! レナ: はぅ……わざとぶつけたかどうかはともかく、謝ったほうがいいんじゃないかな……かな? 魅音: そうそう。悪いことをしたら、まずは「ごめんなさい」ね。トラブルのないコミュニケーションの鉄則だよ。 美雪: んー、それは日本ならではの作法ってやつだね。海外だと謝ったほうが悪いって決めつけられて、以降のやり取りが不利に働いたりもするから。 魅音: あー、確かに。でもここは日本なんだし、自分から折れないとさ。というわけで圭ちゃん、沙都子に謝ってね。 圭一: いや、当たった時に悪ぃってちゃんと言ったぞ?なのにこいつが、大げさに騒ぎやがって……! 一穂: あ……えっと、前原くん。今日はここにいても、大丈夫なの……? 圭一: は? 大丈夫か、ってどういう意味だよ……。俺がここにいて何かまずいことでもあるのか? 一穂: う……ううん、そうじゃなくて。前原くんは#p興宮#sおきのみや#rの学校に通ってる……のに、どうしてその、……分校に……? 美雪: あれ……? 一穂、朝のHRで聞いてなかった? 美雪: 今度興宮の学校と、#p雛見沢#sひなみざわ#rの分校とで合同体育祭をするって言ってたでしょ。前原くんはその窓口役で、打ち合わせに来たんだよ。 一穂: えっ……あ、うん。そうだった……ね……。 うっかり聞き逃していた自分の迂闊さを恥じつつ、私は改めて困惑気味の前原くんに目を向ける。 一穂: (……おかしいな。前原くんのことは、魅音さんもレナさんも……沙都子ちゃんだって、嫌ってた……よね?) 一穂: (だけど、みんな普通に会話をしてる……いつ、仲直りをしたんだろう?) そもそも、前原くんはどうして雛見沢のみんなに嫌われていたのだろう?何か理由があったはず、なんだけど……。 一穂: (……思い出せない。何か、重要なことが抜け落ちてるような……) 美雪: おぅ……大丈夫、一穂? 一穂: えっ? う、うん……ごめんなさい。ちょっと寝ぼけてた……のかも……? 梨花: みー……。 そんな自分の記憶違いに頭を傾げる私をよそに、前原くんと沙都子ちゃんのやり取りは鎮まるどころかますます熱を帯びていった。 圭一: だーかーら! 悪気はなかったんだよ!ちゃんと謝ったんだから、お前も大目に見てくれって! 沙都子: そうやって居直られて、どこに誠意を感じろとっ?!ずいぶんとナメられたものですわね……! 魅音: ――はい、そこまでっ! と、ついに見かねたのか魅音さんが2人の間に割って入ってきた。 レナ: 魅ぃちゃん……? 魅音: とりあえず、2人の言い分はわかったよ。私たちは直接見ていないとはいえ、沙都子がゴミをぶつけられたのは事実みたいだ。 沙都子: でしたら、私に非が無いことは確定ですわねっ? 圭一: そこまで責められることじゃないって魅音はわかってくれるよな?! なぁ?! 魅音: そうだね……だったらどっちが悪いのか、ここはキッチリ勝負で決めようじゃないか。 沙都子&圭一: へ? 勝負……? 魅音: そうだね、圭ちゃんと沙都子が出場する競技は……あっ、ちょうどいい。 魅音: 今度の体育祭の種目のひとつ、玉入れで勝負だよ! Part 02: 美雪: んー……なんかさ、さっきの魅音の台詞って麻雀ゲームのバトルみたいだったよね?なんでも麻雀の勝敗で決める……みたいな。 一穂: ま、麻雀ゲーム……? 美雪: うん。たまに社宅のお父さんたちがやる時、面子が足りない時に呼ばれるからさ。 美雪: そういえば、TVゲームでもあったよね?勝ったら、画面に出てくる女の子の服を脱……。 菜央: ……この時代だと、ギリギリあるかどうかね。3人の姉妹が出てくる人気シリーズものの4作目が、あたしたちの時代だと最新作らしいけど。 美雪: お、おぅ……なんで未成年のキミが「それ」を知ってるのか、情報の出所を聞いてもいいかな? 沙都子(体操服): そこっ! お喋りしている場合ではありませんわ!私の特訓に付き合ってくださる約束をお忘れですの?! 一穂: ご、ごめんなさい……! 沙都子(体操服): こほん。今度の体育祭の玉入れで白黒……いえ、紅白をキッチリつけてやるために……。 沙都子(体操服): 対策として、圭一さんと背丈が似ている美雪さんを練習台としてお呼びしたんですのよ。というわけで、手伝ってくださいまし。 美雪: んー、手伝うのは吝かじゃないけど……さっきから何をしてるの? 沙都子(体操服): ……作戦を練っていますのよ。圭一さんに無策で突っ込むのは、危険ですわ。 菜央: ずいぶんと細かく、ノートに書き込んでるわね。玉入れって、そこまで戦術性の高い競技だとは思えないんだけど……。 沙都子(体操服): 甘いですわ、菜央さん。今回の玉入れは一対一ではなく、チーム戦……圭一さんの指揮能力はあなどれませんわ。 羽入: あぅあぅ、沙都子が燃えているのですよ……。 沙都子(体操服): 当然ですわ! ゴミを当てておきながら悪気はなかったー、と逃げるあの態度!!腹が立って当然でしてよーっ! 一穂: わ、わざとじゃなかったんだし、もう許してあげても……。 菜央: ……もう言っても無駄よ、一穂。これ以上は堂々巡りになるだけだから。 沙都子(体操服): それに、魅音さんがあえて復讐の機会を用意してくださったんですのよ! 沙都子(体操服): ここで返さず、いつ返しまして?!今しかありませんわー!! 一穂: わ、わぁ……。菜央ちゃんの言う通り、止めるのは無理だね……。 梨花: みー、沙都子は結構根に持つタイプなのですよ。……それでも、ちゃんとスジさえ通せば相手を許してあげられる優しい子でもあるのです。 美雪: いや、スジって……極道じゃないんだからさ。けどまぁ、怪談とかでも情が深ければ深いほど強い悪霊になるって言うしね。 羽入: あぅあぅ……恨みではないのですか? 美雪: 薄情な人間なら、恨みも持たないよ。もちろん、愛情もね。 沙都子(体操服): ……私、ただ腹が立っているというだけで情が深いというわけではありませんのよ?圭一さんのことだって、別に……。 梨花: そんなことないのです。沙都子は情が深くて優しい子なのですよ。ボクはそれを、よーく知っているのです。 梨花: 沙都子は圭一が一緒だと、いつにも増して元気いっぱいにしていて……圭一も同じく、楽しそうに笑っているのです。 梨花: ……みー。ボクとしては、ちょっとヤキモチなのですよ。 沙都子(体操服): は……はぁ?梨花がヤキモチを焼く要素が、いったいどこにありますの? 梨花: 沙都子と圭一は一緒にいる時、ボクが一緒にいる時とは違う顔になるのです。 梨花: それは、素直に感情をぶつけ合っているからだと思うのですよ。 羽入: 梨花……。 美雪: んー、まぁ沙都子と前原くんは感情をぶつけ合ってるついでに、玉入れの球もこれからぶつけ合う予定だけどね……。 一穂: あの……美雪ちゃん。玉入れはそんな競技じゃないと思うよ。それじゃ、まるでドッジボール……。 沙都子(体操服): ぶつけ合う……? ぶつけ、ぶつけ……? 沙都子(体操服): っ……ひらめきましたわ!この作戦なら、圭一さんを圧倒できましてよ! 美雪: おぅ……?なんか、ひらめかせちゃった……? 羽入: あぅあぅ……まさか、何か酷い作戦を思いついてしまったのですか? 沙都子(体操服): 酷い、とはずいぶんな言われようですわね。ちゃんとルールに則った、正々堂々な妙案ですわ。 沙都子(体操服): ただ、これには仲間の協力が必要不可欠。……梨花、ヤキモチを焼いている場合ではありませんのよ。当然あなたにも、協力してもらいますわ! 梨花: みー……協力……? 一穂: (なんか、嫌な予感しかしない……) Part 03: 沙都子(体操服): をーっほっほっほ! 食らいなさい!百花繚乱、乱れ投球!! 圭一(体操服): あだっ? ちょっ……あだだだっっ?! 興宮生徒: う、うわぁっ?前原が、集中砲火くらってるぞ?! 圭一(体操服): ちょっ……沙都子?これはダメだろ、ルール違反だろ?! 圭一(体操服): いただだだ審判!しんぱーん! ジャーッジをリクエストー!! 審判: 『今回の玉入れ競技では、人に玉をぶつけてはいけません――という規則はありません』 圭一(体操服): ……嘘だろ、おいっ!どう考えてもこれは本来の競技と中身が違うものじゃねぇか?! 審判: 『うっかりしていました。このような作戦は、過去の前例からも想定外だったので……来年度以降に、ルールを再検討します』 圭一(体操服): いや、来年はいいから今っ!ジャストナウで検討と判断をしてくれぇぇぇええっ!!――ぐほはぁぁぁああっっ?! 沙都子(体操服): をーっほっほっほ!つまりこれは、正攻法な作戦のひとつでしてよー! 美雪: ……正攻法って、意味が違う気がするんだけど。 魅音(体操服): くっくっくっ……まぁいいんじゃない?実際観客にも大受けで、盛り上がっているしさ。 圭一(体操服): くそっ……沙都子のやつ、ルールを確認してその穴を突いてきやがったな?!あだだだだだだだだだだだだだだだだっ!! 沙都子(体操服): さぁ白組のみなさん、このスキに玉をじゃんじゃんあちらのカゴへ入れてくださいまし! 沙都子(体操服): 向こうが「奇襲」に動揺しているうちに、できる限り点数を稼ぎますわよー! 菜央: ……奇襲?「#p何でもあり#sバーリトゥード#r」の間違いでしょ。 美雪: ……キミはいったいどこで、そうも年不相応な言葉を覚えてくるのさ? 圭一(体操服): っ……ま、負けた……! 沙都子(体操服): をーっほっほっほ! 私の作戦勝ちですわ! 羽入: さ……作戦……? 沙都子(体操服): 玉はカゴに入らなければ、得点になりませんわ。こちらが得点を稼ぐことも、当然大事ですが……。 沙都子(体操服): こちらが点を入れて相手に点が入らなければ、こちらの勝利ですわ!! 沙都子(体操服): 今回の玉入れで圭一さんがリーダー……司令塔になることは目に見えていましたわ。 沙都子(体操服): では、その司令塔が突然強襲を受けたら? 梨花: みー、周りは動揺して……手が止まる。 美雪: まぁ、普通に考えて悲鳴が近くで上がってたら嫌でも集中なんてできないよねぇ。 一穂: ずーっと集中砲火を浴びてたもんね……。 沙都子(体操服): ということですわ。さぁさぁ、圭一さん。謝罪してくださいまし! 圭一(体操服): くっ……! お、お……。 圭一(体操服): 俺が、悪かった……です。 沙都子(体操服): ごめんなさいが聞こえませんわよ~? 圭一(体操服): ぐっ! ご、ごめんなさい……! 沙都子(体操服): をーっほっほっほっ!ではこの程度で許してさしあげますわ! 圭一(体操服): そうか……いや、すまねぇ。俺も意地を張り過ぎていたことは、謝るぜ。 圭一(体操服): ……だがな! 俺の顔面に集中攻撃で玉入れの玉をぶつけまくったことについては、別途で謝ってもらうぞ!! 沙都子(体操服): は、はぁっ?終わった勝負にケチつける気ですの?! 圭一(体操服): 勝負は勝負だが、顔面ボコボコにしていいとは言ってねぇ! 梨花: ……にぱー。 羽入: 梨花……? 梨花: この光景が、すごく見たかったのです。 一穂: えっ? 前原くんが酷い目にあう光景を? 美雪: おぅ、サディスティック。 羽入: あ、あぅあぅ……そういう意味じゃないと思うのです! 羽入: ……たぶん。 梨花: 沙都子と圭一が、仲良くしている様子を見たかっただけなのです。 梨花: あと羽入、今夜はたっぷりキムチを食べましょうなのですよ。 羽入: あぅあぅあぅあぅ~~?! 梨花: 沙都子が言いたいことを、なんでも言える一番の相手は……圭一なのです。 圭一(体操服): えっ? 沙都子って、そんなに本心を言わないやつだったのか?……いや、そんなことないだろ。 沙都子(体操服): 圭一さんに同感ですわ。 沙都子(体操服): 私、思ったこと感じたこと、ジャンジャンバリバリ口にしておりますのよ? 沙都子(体操服): 私は言いたいことはなんでも言いますもの。圭一さんだけではなく、もちろん梨花にも。 梨花: ……はいなのです。これからもそうしてくれると、嬉しいのです。 沙都子(体操服): 当然ですわ!……さて、次は借り物競走ですわね。何が出ても負けませんわよー! 圭一(体操服): よし、じゃあ次は俺が勝って沙都子が俺に謝りたくなるようにしてやるからな! 美雪: えっ? この戦いって、まだ続くの? 魅音(体操服): くっくっくっ……この体育祭中は終わりそうにないねぇ。 梨花: ……というわけで、2人とも。引き続きふぁいと、おーなのですよ。