Prologue: 平成5年某日 夕方―― 暮れなずむ世界の、光と影の中……私は精も根も尽き果てて、みっともなく地べたにへたり込んでいた。 夏美: …………。 身体上の疲労はない……と思う。ただ、戻ってくるまでの「異常体験」のせいで精神的な負荷があまりにも大きすぎた。 ここがどこで、私を両側から見下ろしているのが誰と誰なのかは足下の靴ですぐにわかったけど……言葉をかけるどころか、顔を上げることもできない。 正直言って、誰の目もなければその場に倒れて気絶していただろう。……そうしなかったのは年下たちに無様な姿を見せまい、という意地だった。 魅音(25歳): だ、大丈夫……? 私の困憊ぶりを見かねたように、そう言いながら魅音ちゃんが左側から駆け寄ってくるのを感じる。 逆に足音が遠ざかっていくのは、千雨ちゃんだろう。どこに行くのか……と疑問が形になるよりも早く、彼女はすぐに戻ってきた。 千雨: 水……飲みますか?一口含んで確かめたので、たぶん大丈夫だと思います。 手水舎から持ってきてくれたのか、私の目の前へと差し出されたのは水の入った柄杓。無意識のうちに受け取り、それを一気に飲み干す。 ……喉が渇いているとは思っていなかったのだけど、心が冷たい潤しを求めていたのかもしれない。気持ちが少し静まり、思考が動き始めるのを感じた。 魅音(25歳): で……どうだった?10年前の#p雛見沢#sひなみざわ#rに、行ってきたんだよね……? 夏美: ……死ぬかと思った。 口をついて出たのは、そんな本音の一言。そして堰を切ったように、私はこれまでずっとため込んできた思いを大声で叫んでいった。 夏美: 10年前どころか、雛見沢でさえなかったよ!この注連縄の『門』を通ってたどり着いたところは、ファンタジー小説で読んだような世界で……! 夏美: 天馬にドラゴン、魔王までいて……!戻ってくるまで生きた心地がしなかったんだからっ! 魅音(25歳): え、えぇ……? 千雨: あの……つまり、どういうことですか?ゆっくりで構いませんので、説明をお願いします。 そう気遣いながらも困惑をあらわに、千雨ちゃんが私の言葉の意味を確認してくる。 ……ここで逆ギレしたところで話は進まない。それを理解した私は息を整えると、これまでの経緯を思い出しながら彼女たちに語っていった。 …………。 魅音(25歳): ……。えーっと、夏美ちゃんの話が全部マジだったとしたら……つまり……。 千雨: 空に浮かぶ島に、跋扈するドラゴン……そしてレナや沙都子たちが、それぞれの集落の姫だの巫女だのになってる世界……か……。 千雨: 軽く聞いただけでも、イカれた世界だな。ちなみに一応、念のために聞いておくが雛見沢に浮遊島なんてあったりしたか……? 魅音(25歳): あるわけないでしょ……。もしそんなものが存在したら、観光名所にして大量にお客を集めまくっていたっての。 ……否定のベクトルがずれている、と内心では思ったけど、だからといって突っ込む余裕もない。 それにしても、異常な体験をしてきたものだと改めて感じる。よくぞ五体満足で戻ってきたと、自分で自分を褒めてあげたい思いだ。 魅音(25歳): にしても……戻ってきた夏美ちゃんが完全に茫然自失状態だったから、どんな惨劇に遭ったんだって結構心配したんだけど……。 魅音(25歳): そういう面白……じゃなくて、奇特な体験をしてきたんだったらまぁその……なんて言ったらいいのかな……? 夏美: ……何も言わなくていいから、そっとして。今までは当然だと思って信じてきたものが、全部信じられなくなりそうだから……。 千雨: ……そういえば私も、以前お菓子の国なんていうイカれた世界に飛ばされたことがあったな。 千雨: つまりあれは何らかのエラーじゃなく、ハズレだとそういう可能性もあるってことを示唆してたってことか……。 夏美: 言ってよ、そういう大事なことは!あんなところに行っても、雛見沢での謎を解明するなんてできるわけないでしょ?! 魅音(25歳): うーん……その話は、東京に向かう途中で千雨も言っていたね。そこも雛見沢とは違っていたんだっけ? 千雨: あぁ。雛見沢にお菓子でできたエリアがあるって言うなら、話は別だけどな。 魅音(25歳): だからそんな愉快な観光名所が、あのド田舎にあるわけないっての。……わかって聞いているでしょ? 千雨: さっきも言ったが、念のためだ。ただでさえあの村は、おかしな怪物が出たりする奇天烈な場所だったからな。 千雨: ……っていうかあの時も、案内してくれたのは確か絢花だったはずだ。まさか、お前の仕業だったのか? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……こちらに矛先とは、心外ですね。私は善意でお手伝いしているだけで、あなた方をからかうような意図は毛頭ありません。 そう言って、巫女服姿の女性……西園寺絢さんは少しだけ眉をひそめながらはっきりと否定する。 とはいえ、彼女はそもそもの『門』を開いた諸悪の根源(?)には違いないので……そう主張されてもまるで説得力を感じない。 魅音(25歳): じゃあ、なにかい?夏美ちゃんや千雨が雛見沢じゃない世界に飛ばされたのは、運が悪かったとでも? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そういうことでしょう。申し訳ありませんが、私の力の及ぶところではありません。 千雨: 運って……あのなぁ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そもそもこの『門』を進んだ先には、以前千雨さんが雛見沢の祭具殿を経由して赴いたのと同じ力……原理が働いています。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: つまり、私の聞いた話が確かであれば……古手梨花が無意識下でいくつも生み出した平行世界の1つに過ぎないのです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ですから、彼女が現実に起きたことを忌避しようと願えば願うほど、実際の10年前とはまるで違ったものへと変貌していく……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そう考えた方が、自然だと思います。 千雨: だったら……とにかく梨花ちゃんを捕まえて説得をしなければ、私たちはますます真相にたどり着くことができなくなる……ってことか? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 可能性は高いでしょう。……ただ夏美さんの話を聞く限り、もはや事態は収拾をつけるのが困難になっているようです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そしてこのままだと、未来として存在する私たちの状況にも影響を及ぼすかもしれません。 魅音(25歳): つまり……梨花ちゃんの暴走を止めなければ、私たちの世界にもドラゴンだの魔王だのが当然のように存在するようになるってこと? 魅音(25歳): ……そりゃ楽しそうだねぇ、あっはっはっはっ! 千雨: 笑ってる場合か!そんなことになったらそもそも過去の雛見沢で何が起きたのかわかんなくなるってことだぞ?! 魅音(25歳): んなこと言われたって、私だってどうしたらいいのかわかんないよ! 魅音(25歳): だいたい、ここにいない梨花ちゃんにどうやって説得を試みろってのさ?! 魅音ちゃんと千雨ちゃんは、実に不毛な口論で怒りをぶつけ合っている。 とんでもない事実を突きつけられて、彼女たちも混乱しているのだろう。私だって正直、わけがわからなくて……。 夏美: (……あ、れっ……?) ……自分の思い出した記憶を追っていくうちに、私は引っかかるものに気づく。そしてぼそりと漏らすようにそれを口にしていった。 夏美: 梨花ちゃんの説得……たぶん大丈夫、だと思う。 千雨: ? どういうことだ、夏美さん? 夏美: 今……梨花ちゃんが納得してくれたら、このおかしな世界の暴走は収まるって言ったよね。だったら……。 Part 01: 私が幻想世界の「#p雛見沢#sひなみざわ#r」に飛ばされてから、数日後のこと――。 美雪(白うさぎ): よーし、到着~!やっぱり上空を飛んでいくって、便利だねー! 一穂(アリス): う、うん……そうだね。空中での移動が速すぎて、来る途中はちょっとだけ怖かったけど……。 一穂(アリス): いつもは何日もかけて歩いていくところをたった数時間で渡りきるなんて、なんだか得した気分だよ。 レナ(部族): はい菜央ちゃん、手を出して。降りるのを手伝ってあげるね。 菜央(マッドハッター): ほわっ……あ、ありがとう、レナちゃん。 レナ(部族): 乗っている間、大丈夫だった?レナの手綱さばきで、途中で酔ったりしなかったかな……かな? 菜央(マッドハッター): ぜ……全然っ! あっという間に着いちゃったから何日でも飛び続けていいのに、って思ったくらいよ! レナ(部族): あははは。さすがに何日も続けて飛ぶと、この子が疲れちゃうよ。ここまでありがとうね、ケーイチ。 ケーイチ: ひひーんっ。 菜央(マッドハッター): ……。あたし、生まれ変わったらレナちゃんの愛馬がいいかも……かも。 美雪(白うさぎ): うんうん。その気持ちはよくわかるけど、言葉にすると私たちがドン引きするから心の中だけにしまっておこうねー。 沙都子(部族): をーっほっほっほっ!私たち部族の聖獣たちをタクシー代わりだなんて、実に贅沢な冒険者ご一行でしてよ~! 美雪(白うさぎ): いや、元はといえばキミたち5つの部族を団結させることが目的なんだから、せめて便乗させてもらわないと割に合わないよ。 美雪(白うさぎ): っていうか……『タクシー』って何?聞いたことのない単語なんだけど。 沙都子(部族): あ、あら……?なんとなく無意識に出てきた言葉なんですけど、どういう意味なんですの? 美雪(白うさぎ): いや、私に聞かれてもさ……ん? 夏美: …………。 沙都子(部族): ……そういえば、美夏さんが静かですわね。もしかしてテッペーの乗り心地が良すぎて、眠っているのかしら? 夏美: …………。 一穂(アリス): って美夏さん、白目むいちゃってるよっ?大丈夫?しっかりしてー! 夏美: ……地面があるって、すごく幸せだよね。 毛皮のような……ではなくまさに毛皮のシートの上に寝そべり、私は真っ青に澄み渡った空を見上げる。 照りつけてくる太陽が少し眩しいけど、そこまで暑いというほどでもない。……額の濡れタオルが、冷たいせいだろうか。 レナ(部族): はぅ……とりあえず、少し横になって休んでいてね。レナたちは、地の部族のところに行ってくるから。 夏美: う、うん……ごめんなさい……。 菜央(マッドハッター): 美夏さんは冒険者じゃないんだから、気にしなくていいのよ。……じゃ、一穂は残ってこの人を見ててくれる? 一穂(アリス): う、うん……わかった。みんな、気をつけてね。 沙都子(部族): をーっほっほっほっ!気をつけるも何も、地の部族の集落はすぐそこにありますのよ~。 そう言って沙都子ちゃんたちは、楽しげに談笑しながら去って行く。……あとには私と、一穂ちゃんが残された。 夏美: ごめんね……一穂ちゃん。みんなにも迷惑をかけちゃって、本当に申し訳ないよ……。 一穂(アリス): あ、気にしないでください。……美夏さんのご事情を聞く限り、心労があって当然ですから。 夏美: ……。うん……。 社交辞令的にも違う、と言うのは無理があったので……私は素直に肯定する。 夏美: (空と風に続いて、今度は地の部族の集落かぁ……) 夏美: (改めて言葉にしてみると、おかしすぎる状況だよね……) 改めて、ここに来た経緯を思い返す。 私は、魅音ちゃんと千雨ちゃんに頼まれて古手神社分社の『門』をくぐり、かつての雛見沢を訪れることになった……はずだった。 そしてここは、確かに「雛見沢」という名で呼ばれた場所であり、10年前に会った子たちが同じ名前で存在していた……のだけど……。 夏美: (……なんでレナちゃんが、お姫様っ?しかも空の部族の集落なんてものがあって、さらにそこは浮遊島?!) 夏美: (沙都子ちゃんだって、ドラゴンをペットみたいに飼っているし!いや、駆っているしッ!) 一穂(アリス): っ……あ、あの……美夏さんっ……? 夏美: (あぁもう! 一穂ちゃんたちの格好が変だということが霞んで見えるくらいに、異常すぎるでしょここはッッ!) 夏美: (いったいどういうことなの……?どうして私はこうなっちゃったのか、誰か教えてよぉぉぉっっ!!) 頭を抱えて身もだえを何度もしながら、私は内心で声をこらえて叫びまくる。一穂ちゃんが困っている様子だが、気遣う余裕もない。 今にも発狂してしまいそうな現実が、目の前に広がっていて……もう何百回目かわからないため息がまた、出てしまった。 一穂(アリス): ど、どうしよう……?菜央ちゃんを呼んできて、治療の魔法を……えっ? そう言っておろおろとする一穂ちゃんの言葉がふいに途切れたかと思うと、少し離れた場所から歓声が聞こえてくる。 とりあえず目を向けると、そこには美雪ちゃんやレナちゃんたちに加えてもうひとり……。 民族衣装のようなものに身を包んだ女の子が沙都子ちゃんたちをあやしながらこちらへと向かってくる姿が見えた。 夏美: (あれは……やっぱり、詩音ちゃん……?) 名前からおそらくそうだと思っていたけどやはり彼女は、私が昔から良く知っている園崎家の詩音ちゃんで間違いない。 つまり……この異常すぎる「世界」は、雛見沢であったものが変貌したと考えて差し支えがないということだ……。 美雪(白うさぎ): よーし!地の部族の同意も得られたことだし、残りは水と火の2つ! 美雪(白うさぎ): この調子でどんどん仲間に引き入れて、魔王軍を成敗だー! 沙都子(部族): をーっほっほっほっ!この地で最強を誇る5つの部族の力が合わされば、魔王軍など鎧袖一触! 沙都子(部族): たとえ未知の兵器や大魔法が相手でも、ものの数ではありませんのよ~! 一穂(アリス): で、でも……大丈夫かな?魔王軍ってその、すっごく強いって聞くけど……。 菜央(マッドハッター): あのね……戦う前から、そんな意気地のない覚悟でどうするのよっ?レナちゃんの聖なる力を信じなさい! レナ(部族): は、はぅ……レナにそんな力はないけど、が、頑張ろうね……! 夏美: …………。 「ほとんど」全員が本気で、魔王軍討伐に向けて威勢良く盛り上がっている。 そして、もはや例外的な存在に成り下がってしまった私は……。 夏美: (もうお腹いっぱい!元の世界に帰らせてよー?!) とは、とても言い出せなくて……がっくりと肩を落とすしかなかった。 ……と、そこへ。 詩音(部族): ……どうしました? 私の顔をしゃがみ込んだ姿勢で覗き込んできたのは、詩音ちゃんだった。 詩音(部族): 顔色が良くありませんね……ドラゴン酔いしたってお聞きしましたが、大丈夫ですか? 夏美: あ……は、はぁ……。 気遣ってくれているとは理解しつつも、どう返していいのかわからず曖昧に答える。 なるほど、私は乗り物酔いのように思われているってことか。……酔ったのはむしろ、この世界全体に対してなんだけど。 詩音(部族): それに……皆さんが怪気炎を上げているのに、あなただけが乗り切れていないようにも見えます。何か、ご不安なことでも? 夏美: 見えるんじゃなくて……そうなんだよ。それに、不安だらけに決まっているでしょう? 夏美: 私は魅音ちゃんと千雨ちゃんに頼まれて、10年前の雛見沢に行くつもりだったのに……。 夏美: 時間どころかいろんなものを飛び越えて、こんな変な世界に来ちゃったから……っ! 言っても仕方がないことだとわかっているのにかなり心が参ってしまっていたのか……つい、愚痴を吐露してしまう。 こんなことを言ったところで、ただ詩音ちゃんを困らせてしまうだけだろう。それは自覚している……けど……っ。 詩音(部族): ふむ……なるほど。ということはあなたも、あの世界……。 詩音(部族): あの純和風の田んぼや畑が広がる、元々の雛見沢の記憶を引き継いでいるんですね。 夏美: えっ……? 私は思わず、上体を跳ね起こす。そして隣で膝をつく、詩音ちゃんに勢いよく顔を振り向けた。 夏美: (この世界に来てから、雛見沢についてそういう言い方をする人は他にいなかった。ということは……まさか……?) 夏美: 詩音ちゃん……じゃなかった、詩音姫様はその、えっと……? 詩音(部族): ……詩音でいいですよ。私も美夏さん……いえ、「夏美」さんのことはちゃんと「覚えて」います。 夏美: なっ……? 詩音(部族): 少し、2人きりで話をさせてもらえますか?時間は夕食前に指定します。……では。 そう小声で告げてから、詩音ちゃんは一穂ちゃんたちの会話の中へと加わっていく。 その様子を、私は怪訝な思いで見つめていた……。 Part 02: ……その日の夜。宿舎としてあてがわれた場所を抜け出し――。 指定された時間に、待ち合わせを約束した場所へと向かうと……そこには詩音ちゃんの姿があった。 夏美: ご……ごめんね。待たせちゃった? 詩音(部族): いえ、私も今来たところです。……というか、ちょっと気持ちが高ぶって早めに来ちゃったんですよ。 夏美: 気持ちが高ぶる……って、どうして? 詩音(部族): だって、てっきりここに来るのは千雨さんだって思っていましたからね。 詩音(部族): それが、まさか夏美さん……しかも大人に成長した姿でやってくるなんて、さすがに予想外でしたよ。くっくっくっ……! ……要するに彼女は、千雨ちゃんについての記憶も持ち合わせているということだ。 他の子たちと違って、元の記憶も併せ持つ。その理由は、やはり「あの子」とのことが影響を及ぼして……? 詩音(部族): それにしても夏美さん、変わったようで雰囲気は10年前とほとんど同じですねー。名字は違うようですが、結婚したんですか? 夏美: う、うん……高校時代につき合っていた人と……ね。 詩音(部族): それは羨ましい。こんな状況でおかしな感じかも知れませんが、とりあえずおめでとうと言っておきますね。 夏美: ……ありがとう。 10年のずれのせいで、やはりぎこちなさを感じずにはいられなかったけど……彼女にそう言ってもらえたことを、素直に感謝する。 あまり話す機会はなかったけど、詩音ちゃんの「過去」を知っている身として私は勝手に親近感を抱いていたから……。 夏美: あの……詩音ちゃん。今日の昼間に言っていたけど、ここじゃない元の「#p雛見沢#sひなみざわ#r」のことを覚えているの? 詩音(部族): えぇ、もちろんです。……ただ、最初は驚きましたよ。 詩音(部族): 今度はどんな雛見沢に飛ばされるんだろう、なんてのんきに構えていたら……目の前にファンタジー世界が広がっていたんですからね。 詩音(部族): さすがに私も混乱して、状況を飲み込むまでに苦労しちゃいました……くっくっくっ! 詩音ちゃんはそう言って、おかしそうに笑う。 夏美: (……笑い話にできることじゃないよ。突然放り込まれて、本気であの子たちのことを恨みかけたんだから……) なんて内心の思いが顔に出てしまったのか、詩音ちゃんは「おや」と呟きながら肩をすくめる。 そしてため息をひとつついてから表情を改め、私に向き直って続けた。 詩音(部族): すみません。夏美さんのお気持ちを考えずに、ついはしゃいだ感じになってしまいましたね。 詩音(部族): ただ私としても、笑い事にしないと誰彼関係なく怒りをぶつけてしまいそうになっていたので……そう思い込むしかなかったんですよ。 夏美: そうだったんだ。……私こそごめんね、詩音ちゃんの気持ちを考えないままで悪い方にとっちゃって。 夏美: それに、魅音ちゃんや千雨ちゃんに頼まれてここに来ることになったのは確かだけど……自分で行くって決めた以上、自己責任だもの。 詩音(部族): おや……お姉にも会っていたんですね?どうです、彼女は相変わらず元気でしたか? 夏美: うん。雰囲気は10年たってもほとんど同じ。詩音ちゃんのことを、すごく心配していたよ。 詩音(部族): ……そうですか。私としては、お姉が生き残る未来があるとわかっただけでも、満足です。 そう言って詩音ちゃんは顔を背け、天を仰ぐ。……表情は影になってよくわからなかったけど、再び戻った時には優しげな笑顔に変わっていた。 詩音(部族): 夏美さんには、本当に申し訳ない思いです。あなたは私たちとは無関係に等しい人だってのに、こんなふうに巻き込む形になって……すみません。 夏美: ううん。さっきも言ったけど、ここに来たのは私の意思。だから気にしないでもらいたいな。 詩音(部族): そう言ってくれると、少しは救われます。……とりあえず、戻るまでの間はしばらくお付き合いをいただけるとありがたいです。 詩音(部族): あと……夏美さんから聞いたお話のおかげで、ようやく合点がいきました。 詩音(部族): なるほど、この世界を面白おかしく改変していたのは未来から来た人間の存在ではなく、梨花ちゃま自身の意思……と。 詩音(部族): だとしたら、千雨さんにはかなり酷いことを言ってまるで疫病神のように決めつけてしまいましたね。 詩音(部族): 戻った時にはどうか、詩音が謝っていたと伝えて下さい。 夏美: わかった。……といっても千雨ちゃんは、詩音ちゃんに怒っていなかったと思うけどね。 私がそう返すと、詩音ちゃんは苦笑を浮かべる。……もしかすると彼女は、千雨ちゃんに対して負い目を引きずっていたのだろうか。 以前にも思ったことだけど、元の「世界」の記憶を忘れてしまうのとずっと覚え続けていること……。 どちらがより辛い思いを味わうのかは、「世界」を渡り歩く経験の浅い私にはよくわからない。でも……。 夏美: ……教えて。どうして詩音ちゃんは元の記憶を残していられているの? 夏美: 私のように、未来からきたとか……そういうことじゃないんだよね? 詩音(部族): 未来からきても、お姉や沙都子たちのように取り込まれている人もいますよ。 詩音(部族): たとえば美雪さんに、菜央さん……っと、一穂さんは保留です。本気で忘れているのか、あるいはとぼけているのかが判別しづらくて。 夏美: ……一穂ちゃんが、知らんぷりをしているかもしれないってこと? 詩音(部族): もちろん、私が考えすぎの可能性も高いです。なにしろこういう状況に置かされてきたせいで、疑心暗鬼が大きくなっていますから。 夏美: …………。 詩音(部族): まぁそれはさておき、私がなんで元の記憶を残しているのかですが……。 詩音(部族): 理由の1つとしては梨花ちゃまと私とで、望む世界が全く違っているからなんだと思います。 夏美: 望む世界が、違う……?それってどういうこと? 詩音(部族): まぁ、夏美さんならご存じだと思いますので隠さずに打ち明けますが……。 詩音(部族): 私は叶えたい未来、大切な人……それを手に入れて守りたいがために、村の結束を破るようなことをいくつもしました。 詩音(部族): それと同時に、これまでの「世界」においても雛見沢をダムの底に沈ませるといった計画が立ち上がらないように……村の発展を試みてきました。 詩音(部族): その全ては、「彼」が帰ってくる場所を残したくて……そして、村を崩壊へと導く惨劇をなんとか回避できないかと。 詩音(部族): ……まぁ数え切れないくらいに、失敗続きだったのは情けない話ですけどね。 だからこそ、と詩音ちゃんは続けていった。 詩音(部族): その思いがそもそも、梨花ちゃまの願いとは相容れないものであったのではないか……。 詩音(部族): そのため梨花ちゃまが創造する平行世界では記憶が改変されず、結果として継承されることになってしまったのでは……そう考えました。 夏美: つまり……梨花ちゃんと対立しているから、彼女の支配下から逃れているってこと……? 詩音(部族): はい。……もしかすると梨花ちゃまは、あえて私を自分の軛から放つことで何かを試そうとしているのかも知れません。 詩音(部族): 自分と同じように輪廻転生をし続けて、辛く苦しい時間を繰り返してきても……まだお前は未来を望むのか、なんてね。 詩音(部族): ……だとしたら、なおさら私は負けたくない。あの子と違って私の願いはとても自分勝手で、ちっぽけなものかもしれないけど。 詩音(部族): それを叶えられるのなら全てを投げ出してもいいと思えるくらいに……大切なものなんです。 夏美: 詩音ちゃん……。 その切なる思いを、私は我がごとのように置き換えて真摯に受け止める。 詩音ちゃんの言う願いとは、おそらく昭和57年の#p祟#sたた#rりで失踪した北条悟史くんのことだろう。 もし、自分が同じ立場だったら同じことを願い……そして、破滅するリスクさえ厭わずにあがき続ける。 それが実感できるからこそ、私は提案を持ちかけていった。 夏美: ……詩音ちゃん。私が梨花ちゃんと会って、説得してみるよ。このおかしな状況を、止めるために――。 Part 03: そして、翌日。 レナちゃんと沙都子ちゃん、そして詩音ちゃんは火の部族の集落を訪れて長の説得を試みていた。 説明するまでもないことかもしれないが、火の部族の長は魅音ちゃんだった。……ただ、詩音ちゃんと姉妹ではない設定らしい。 魅音(部族): ……魔王軍の侵攻か。そういう状況だったら、一時休戦も致し方なしだね。しかたない、ここは従ってやるよ! 沙都子(部族): をーっほっほっほっ! これで4部族が無事に結集!鬼に金棒でしてよ~! レナ(部族): はぅ~、これで残りは水の部族の説得だね!まだ時間もあるし、今から全員で向かって――。 火の部族の民: っ……も、申し上げます! と、盛り上がっていたレナちゃんたちのもとへひとりの男が息せき切って駆けつけてきた。 魅音(部族): ? あんたは南の見張り役の……何かあったのか? 火の部族の民: は、はい……!魔王軍が、この火の部族の集落へと押し寄せてきたとのことです! 魅音(部族): なっ……? それは、正しい情報なのっ? 火の部族の民: 間違いありません!当初の想定よりも進軍速度が上がっていて、まもなく領土の境目付近に……! 突然もたらされた凶報に、一同は色めき立つ。……だが、やはり部族をまとめる長だけにすぐさま冷静さを取り戻し、彼女たちは頷き合った。 レナ(部族): 早速使者を派遣して!浮遊島から、空の部族の隊をここに集めるよ! レナ(部族): 沙都子ちゃんと詩ぃちゃんも、援軍を……って、一穂ちゃんたちと美夏さんは? 詩音(部族): こんなこともあろうかと、彼女たちには水の部族の集落へ先に行ってもらっています! 詩音(部族): 梨花ちゃまのことですから、すぐに駆けつけてくれる……はずです! 沙都子(部族): さすが詩音ねーねー!誇らしいほど、先を見る目に優れていましてよ! 沙都子(部族): さて私も、のんびりしてはいられませんの……!ここからだと風の部族の集落はすぐ近くなので、戻って余勢を引き連れてまいりますわ! 魅音(部族): くっくっくっ……! よりにもよって部族最強をうたわれる私たち火の部族を真っ先に襲うたぁ、魔王も焼きが回ったね……! 魅音(部族): すぐに兵を出しなっ!他の部族たちの援軍が駆けつけるまで奥に引き込んで、時間稼ぎをするんだ! 火の部族の民: は……ははっ! 4人はそれぞれ行動を開始し、特に打ち合わせを行うことなく戦備を進めていく。 ただ、それは好き勝手に動くということではない。各自の持ち味、行動パターンを組み込んだ上でのあうんの呼吸というものだった……! 魅音(部族): それじゃ、詩音……じゃない、地の部族の姫!あんたは自分のところの主力が到着するまで、こっちの防御陣の構築に加わりな! 魅音(部族): 手勢だけでも、堅さが売りなんでしょ?それが嘘じゃないことを証明するんだね! 詩音(部族): おーおー、言ってくれますねー。ずいぶんと安い挑発文句ですが……まぁ今回だけは乗ってあげましょう。 詩音(部族): というわけで頼みましたよ、夏美さん。そして……。 魅音(部族): ……ちょっと地の部族の姫、私はこっち。 誰に向かって話しているのさ? 詩音(部族): ちょいとした願掛けみたいなものです。……あと、私のことは詩音と呼んでください。私もあんたを、お姉と呼びますので。 魅音(部族): はぁ……? こんな状況で義姉妹の誓いでもやろうってのかい? 詩音(部族): そんなところです。……世界が違ったとしてもあんたに対して他人行儀だってのは、どうにも違和感がすごくてやりづらいんですよ。 魅音(部族): ……まぁいい、揉めているだけ時間の無駄だ。さっさと準備して連中を追い払うよ、詩音っ! 詩音(部族): 了解です……お姉っ! 一方、その頃……。 水の部族の集落では湖面を見つめながら、ひとりの女の子がぼんやりと佇んでいた。 と、その背後から近寄る気配。おもむろに振り返ると、視線の先にいたのは……。 梨花(部族): ずいぶんと、来るのが早かったわね。……あら? 見慣れない子がひとりいるみたいだけどひょっとしてあなたは、「夏美」……? そう言ってくすりと笑う女の子――梨花ちゃんに向かって、私たちは身構える。 別に、戦いたいという思いはない……だけど彼女の全身から発せられる敵意、そして殺気がそれもやむなしだと示しているかのようだった。 梨花(部族): それにしても、てっきり他の4部族の長と一緒にのんびりここへ来るものだと思っていたのに……もしかして、何か「思い出した」のかしら? 夏美: ……っ……! 妖しげな笑みに気圧される思いを抱きながらも、私はさらに確信を深めて奥歯をかみしめる。 ……やはり、梨花ちゃんは他の子たちと違う。この「世界」の常識に染まりきっていない上、おそらくは元の「世界」のことも……。 夏美: 梨花ちゃん……もう、こんなことは止めよう。あなたは#p雛見沢#sひなみざわ#rで起こった事件の謎を解いて、みんなを助けたいんじゃなかったの? 夏美: こんなふうに世界そのものをおかしくしちゃったら、何かを調べようとしても調べられなくなるだけじゃない……! 梨花(部族): ……調べる、ね。 私の呼びかけに対して、梨花ちゃんは明らかにこちらを馬鹿にしたような態度ではんっ、と鼻を鳴らしてみせる。 私の記憶する限り……彼女のこんな態度は初めてだ。童女のように愛くるしかったそれではなく、まるで達観しすぎてやつれた魔女のような……? 梨花(部族): よく言うわ。未来からのあなたたちに最初こそ期待したけど……結局何も掴めなかったし、それどころか謎が深まるばかりだったじゃない。 梨花(部族): だから私は、自分で動くことにしたのよ。たとえあなたたちが来ても惨劇が訪れないような、「強い世界」を作り出すために……! 美雪(白うさぎ): その結果が……このおかしな世界だっての?言ってることとやってることが無茶苦茶だよ、梨花ちゃん! 梨花(部族): あら? くすくす……やっぱり記憶が元に戻ったようね、美雪。 梨花(部族): だけど、あなたにそんなことを言われる筋合いはない。……というより、あんたにその資格はないの。 梨花(部族): 父親が死んだ謎を突き止めるどころか、ただ怠惰に仲間たちとなれ合ってきたあんたには……ねっ! 美雪(白うさぎ): っ……それは……! 痛いところを突かれたのか、美雪ちゃんは絶句して言葉を失う。 と、そんな彼女をかばうように立ったのは、一穂ちゃんだった。 一穂(アリス): 梨花ちゃん……どんな事情があっても、これ以上平行世界を乱造し続けるのは間違ってるよ! 一穂(アリス): だからあなたを、ここで止める!美夏さん……じゃない、「夏美」さんも手伝って! 夏美: えっ? で、でも私には、戦う力なんて……。 突然話の矛先を向けられて、私はぎょっとなった思いで困惑する。 だけど一穂ちゃんは、揺るぎのない目でこちらを見て……さらに言葉を繋いでいった。 一穂(アリス): ありますよ……あなたにも、力が!だって私たちと同じように未来からきて、本当の雛見沢を知ってる人だからっ! 夏美: ……っ……! 正直、言っている意味はよくわからない。あまりにも無責任だし、唐突な上に支離滅裂だ。 だけど、……その言葉はなぜか、強くて。私は疑うよりも早く、彼女に頷き返していた。 夏美: ……わ、わかった!私に力を……そして、勇気を貸してっ! 梨花(部族): ……遊んであげるわ。おいで、無力な迷子たちッッ!! Part 04: 梨花(部族): くっ……?! 一穂ちゃんたちの攻撃に対してついに耐えきれなくなったのか……梨花ちゃんはその場に、がくりと膝を折る。 ……信じられない機動力、攻撃力だった。4人がかりでなんとか対抗することができたが、負けていてもおかしくなかったと思う。 夏美: (この力は、一穂ちゃんたちと同じ……?いや、うまく言えないけど違う気がする) だとしたら、彼女をここまで恐ろしい存在にしたのはいったい何者の仕業によるものなのか。わからないことが、まだまだ多すぎる……。 梨花(部族): ……ぅ、ぐっ……! 梨花(部族): な、んで……?この「世界」は、私の意思によって生み出された場所の、はずなのに……! 梨花(部族): どうして、こいつらに……よそ者のあんたたちに、負けなきゃ……いけないのよ……っ?! そう言って彼女は、最後の力を振り絞り……抵抗すべく必死に身体を起こそうとしている。 菜央(マッドハッター): 梨花……あんた……。 梨花(部族): まだよ……まだ、私はやれる……!ここで諦めたりしたら、みんながっ……! 美雪(白うさぎ): もう……もうやめようよ、梨花ちゃん!私たちは、キミと戦いたいわけじゃない! 梨花(部族): そんなの……私だって同じよっ……!でも、こうでもしないと……私は……! 梨花(部族): 「世界」を創って、移動し続けないと……他のみんなを、救うことが……ッ……! 羽入(巫女): ――梨花っ!もう十分です、みんなもやめて下さい!! そう叫びながら、割って入ってきたのは……。 突然、梨花ちゃんをかばうように立ちはだかったのは、巫女服姿をした女の子だった。 夏美: (えっと……誰……?) 戸惑いを覚えて、その場で固まる。明らかに私の知らない女の子だ。だけど――。 美雪(白うさぎ): えっ……な、なんでキミがここにっ……? 美雪ちゃんたちは覚えがあるようで、目を大きく見開きながら驚いた声をあげていた。 夏美: えっと……あなたたちって、この子と知り合いなの……? 菜央(マッドハッター): えぇ、そうよ。夏美さんも、面識があるはずだけど……。 夏美: ううん。私は、この子と会ったことなんて一度も……。 …………。 ……そうだ、思い出した。確か沙都子ちゃんと同じく、梨花ちゃんの家で一緒に住んでいる親戚の女の子だ……。 夏美: (名前は……そうだ、羽入ちゃん……) 私がそのことを思い出していると、女の子……羽入ちゃんは涙目で大きく手を広げながら、私たちに向き直っていった。 羽入(巫女): 違うのです! 梨花は「世界」を自分の身勝手に改変しようと考えて、こんなことをしたわけではないのです! 羽入(巫女): ただ、みんなを守るために……自分の思考を停止させないようにと考えたあげく、この手段を選ぶしかなかっただけなのです……! 菜央(マッドハッター): 思考を停止させないためって……どういうこと? 羽入(巫女): ……未来からきた特殊な事情を持つあなたたちだから、正直にお話しします。 羽入(巫女): 梨花はいつまでたっても惨劇の連鎖から抜け出せない状況に絶望して、生きる意義を見失いかけていました。 羽入(巫女): 同じことが繰り返されて、未来が終わるのを目の当たりにし続けるだけ……ならば自分はいったい何のために生きているのか……。 羽入(巫女): 心を閉ざしかけていたのです……。 羽入(巫女): ……そんな中、#p雛見沢#sひなみざわ#rにやってきたのが未来からの一穂、美雪、そして菜央でした。 羽入(巫女): だから、僕たちは期待したのです。雛見沢の結末を知る彼女たちならば何かの変化を与えてくれると……でも……。 梨花(部族): 結果は……何も変わらなかった。ただ怪物だの奇妙な力だの、不可思議な現象が増えただけ。 梨花(部族): それを見た私は……失望した。結局は何も変わらず、何も変えられない……。 梨花(部族): だから、とあるきっかけで入手した「平行世界」の創造の力を使って……。 羽入(巫女): それによって梨花は、自分の心を殺さないようにしたのです。 羽入(巫女): 心が死んでしまうと……惨劇を回避するための平行世界への移動が絶え、「世界」が終わってしまうから……。 梨花(部族): 思考と感情を揺り動かすのは好奇心、って誰かさんが言っていたのよ。……だから私は、現実とは違う世界を思い描くことにした。 梨花(部族): まさか、本当に異世界に行けるとは思っていなかったけど……これも選択肢としてありえるのなら、と肯定してみたのよ。 一穂(アリス): それが理由で、梨花ちゃんは……。 梨花(部族): ……我ながら無駄なあがきを通り越して、児戯にも等しい行為だったと反省しているわ。 梨花(部族): あなたたちの記憶にも干渉して……戻る意欲どころか、雛見沢を訪れた本来の目的さえ奪うことになってしまった。 梨花(部族): ……本当に、ごめんなさい。 そう言って梨花ちゃんは、頭を下げる。だけど彼女に対して、一穂ちゃんたちは首を横に振っていった。 一穂(アリス): 謝ることなんてないよ。……悪いのはむしろ、私たちの方だもの。 美雪(白うさぎ): 確かに、まぁ……せっかく過去の雛見沢へ行く機会をもらったのに、そこでのんびり過ごしてどうするんだ、って怒られたら返す言葉がないね。 美雪(白うさぎ): 梨花お姉ちゃんのために、もっと本腰を入れて動くべきだった。……ごめんなさい。 菜央(マッドハッター): あ、あたしもお姉……レナちゃんたちと過ごす時間がすごく楽しすぎたから……。 菜央(マッドハッター): いつまでもこのままでいられたら、って甘えてたかも……かも。 そう言って一穂ちゃんたちは、申し訳なさそうに反省の言葉を伝える。 それを聞いた私は、なんとか梨花ちゃんと彼女たちを和解させられたことに安堵したけど……。 最後にひとつ残った疑問を、彼女にぶつけていった。 夏美: そういえば、世界創造の力を手に入れたきっかけって何だったの? 梨花(部族): それは、――。 それに対して梨花ちゃんが答えかけた……その時。 私の視界は突然、光に包まれて意識も急速に遠のいていった――。 Epilogue: ――再び、平成5年 夏美: 私が梨花ちゃんたちと話してきた内容は、これで全部……だと思う。 魅音(25歳): ……なるほど、ね。梨花ちゃんが私たちの前から姿を消したのは、そういう理由だったんだ。 夏美: 梨花ちゃんなりに、10年前の#p雛見沢#sひなみざわ#rで何が起きたのか……そして悲劇の結末を回避するために必死だったんだと思う。 夏美: やり方が正しかったかどうかは私にはわからないけど、とりあえず納得はしてくれた……んじゃないかな。 千雨: なるほど。……だとしたら夏美さん、やっぱりあなたに行ってもらって良かったと思います。 千雨: 私だったらきっと、梨花ちゃんを糾弾しようという思いがにじみ出て、拒絶されるか逃げられるかで話し合いに応じてくれなかった気がします。 夏美: ……。だったら、頑張った意味はあった……のかな。 魅音(25歳): うんうん、大殊勲の大健闘だよっ! 魅音(25歳): 何もわからない状況でわけもわからない世界に飛ばされたのに、梨花ちゃんと会って暴走を止めてくれたんだからさ! 夏美: ……よかった。 たくさんの未知の経験が一度にのしかかって、正直今すぐにでも眠ってしまいたいくらいに疲れ果てているけど……。 2人の期待に応えて、誰かの役に立ったのなら少しは苦労が報われた思いだった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 平行世界の乱造が止まったのであれば、おそらくこの『門』も本来の役割を取り戻して過去に向かうことができると思います。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: どうしますか、千雨さん?またここを通って、「雛見沢」に行きますか……? 千雨: あ、いや……。 絢さんに勧められたものの、千雨ちゃんは即答を避ける。 そしてしばらく考えた後、首を振っていった。 千雨: 美雪たちが本来の記憶を取り戻したのなら、これ以上干渉するのはかえって危険だ。 千雨: 今はあいつらのことを信じて、無事に戻ってくることを願うのが一番だと思う。 魅音(25歳): ……そうだね。その間私たちは、この未来の「世界」で過去を調べることにしよう。 魅音(25歳): そして何が変わって、何が変わらなかったのかを逐一記録するんだ。そうすることで一穂や美雪、菜央たちの動きが見えてくるかもしれない……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ならば……私も協力させていただきます。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あなたたちが世界の改変によって記憶を左右されないように、西園寺家の秘術をお教えしましょう。 そう言って千雨ちゃんたちは、未来での新たな活動に対して意気込みを見せる。 そんな彼女たちを見て私は、注連縄の『門』に目を向け……。 夏美: ……頑張って。 10年前の雛見沢で奮闘しているであろう姿の見えない彼女たちに声援を送るのだった。 夏美: (あ、でも……) 夏美: (梨花ちゃんに世界創造の力を与えたのは、結局誰だったんだろう……?)