第六章 「放火と爆破」
「
ユーミがぼやいた。
ヴィルの友人と、その妹であるユーフェミーア・エプスタインは、
晴れ渡った空の下、ラプトア共和国
「ま、こんな日もあるさ」
友人がのんびりと言った。置いてあるバケツの中には、水だけしか入っていない。その脇には小さな水筒と、おやつの干しぶどうが入った
ユーミが
「ヴィル早く帰ってこないかなー」
友人は
「そういえば、まだ言っていないことがあるんだけどな」
しばし時間が流れる。兄は妹にあれやこれや伝え、最後に妹は驚いて
「
ユーミが
「言ったら
「その女は何者よ!」
「俺の素直な感想を言うと──」
友人が思うところを答えた。ユーミが
「……何よそれ?」
「俺にはそんな感じがしたんだ。もちろん、ヴィルにはっきりそう言われたわけじゃないんだが。──考えてもみろよ、いつも
「…………」
「〝一緒に住みましょう〟なんて言われたらそのままついていきそうだな」
「知らなかったわ……、ヴィルにそんな女がいたなんて……」
ユーミが、固く握り締めた両手の
「ま、そういうこった。一応、知っておいた方がいいと思ってな」
そしてまた糸を水面に戻した。小さな浮きが何度か揺れて、先端をちょこんと出して落ち着いた。
「……お兄様」
「ん?」
「つまり、結局、私。──ふられたの?」
「…………」
友人が首を横にして、そして上へ。泣き出しそうな妹の顔を見た。
「そうだな。そう思うのが一番
友人は、その場しのぎの
「そう……」
小さくつぶやいた妹から、友人は浮きへと視線を戻した。そしてつぶやく。
「ま、必要以上に気を落とすな。適当に立ち直るために俺にできることだったらなんでもしてやる。──つまり、できないことは何もしないってことだが」
ありがと、と短い言葉が返ってきて、友人の肩に手が置かれた
「ヴィルの……、ヴィルの……、ヴィルの……」
ユーミがつぶやき、
「ヴィルのばかー!」
最後は
蹴られた人間は、そのまま湖に。
突き落とされた人間が浮かび上がって顔を出して、ぴゅう、と水を
そしてぼやく。
「
* * *
山岳地帯を、客車八両に短縮された大陸
岩山の斜面を
今や
「このまま何もなければだいじょうぶでしょう。
ベネディクトが口を開いた。
「もちろんそれまでは、食事は手製サンドイッチということになりますが。夕方に麓に着いたら、何か
「それはいいんだけどね、わたしは犯人を一度蹴ってやりたかったわ。よくもまあ旅行を
アリソンが景色を
「結局、犯人はあの中の誰かだったのかしら……。そうだとしたら、もう安全だとしても、悲しいわね」
フィオナが硬い顔のまま言った。
ヴィルは黙ったまま窓の外を向いていたが、視線は
数十秒の
「もし──」
ヴィルが突然言った。首を横にして、発言に反応して自分を見るアリソン達に向かい聞く。
「もし、そうじゃなかったら? もし、狙われているのがテロル氏じゃなかったら?」
「何を言い出すのよ?」
アリソンが
「〝もしも〟の話。それ以外のことがないかなって考えた」
「で、思いついたの?」
アリソンの質問に、ヴィルは首を振った。
「思いつかなかった。──だからまだいろいろ考え続けている」
「なんだ」
アリソンが言って、
「でも、思いついたら言って。聞くから」
そしてそうつけ足した。
自然に誰も
「
アリソンが言って、
「そうね」「そうですね」
フィオナとベネディクトが同時に返した。しかし会話は続かない。
トンネルをいくつかくぐり抜け、ベネディクトがそろそろ
「私です。入りますよ」
静かに食堂車のドアを開けて、ストーク
テーブルの脇に口が閉じられた
「こんなことに巻き込んでしまって、大変
ストーク少佐は自分を見る四人にそう言った。ベゼル語なのでフィオナには理解できない。
ベネディクトが、
「〝
とても短く
「テロル氏の部屋にいなくていいんですか?」
ヴィルが聞いて、
「いない方がいいらしいです」
ストーク
「車内を見回ってきましたが、特に問題はありません。
ストーク少佐は一度左手の腕時計を見た。そして、
「平和な景色です。このまま何もなければ大丈夫ですよ」
窓の外を見ながら、ベネディクトと同じことを言った。
山脈の上を、観測機が飛んでいた。
峰にぶつからないように、高度をたっぷりと取っていた。小さな機体の下を、地形図のような景色がゆっくりと流れていく。山の斜面は土と岩の茶色。頂上と北側
細長い機内には、
「いた! 見つけたぞ!」
そして前の席に座る男の背を
「クレイン中尉、右下。ほぼ真下。やはりこの辺りまで来ていたな。予想どおりだ」
「どこだ? ──ああ、確認した。間違いない」
前に座るもう一人の中尉、クレインが、指示された位置を自分の双眼鏡で
クレイン中尉が前に座る飛行士の肩を叩き、無線機をヘッドセットごと手渡された。耳にはめて、マイクのスイッチを押して話し始める。
『こちらクレインだ。列車の現在位置を確認した。およそ十キロメートルほどで
数秒ののち、返答を聞いたクレイン中尉はもう一人に向かい親指を立てて意志を伝えた。そして無線の相手を
『よくやった。
クレイン中尉はそこまで言って、一度間をおいてから、
『念のために第二班に連絡を取り、時間以外は〝予備計画〟どおり行動させる。確実に挟み
そうつけ加えた。そして無線機を飛行士に返し、
「二班
同時に命令した。飛行士が大きく
機体はゆっくりと、右に
* * *
山の斜面を切り欠いて、平らな部分を造り線路が敷かれていた。
線路は木々がほとんどない岩だらけの
その待避所には、途中に山肌がせり出している箇所があるためにトンネルがあった。長さは二百メートルほど。一つの線路それぞれに入り口があって、トンネルは二本あり、中も分けられている。
大陸
十数秒かけてトンネルの反対側へと機関車は抜け、続いて八両の客車も何ごともなく通り抜けた。列車は騒音を
大陸横断特急が通り過ぎて、二十秒ほどが過ぎたときだった。
出口右側の待避線トンネルで、トンネルの口が作る
やがてエンジンの低い
ヘッドライトを灯した一台のディーゼル機関車が、ゆっくりとその姿を現した。大陸横断特急を引っ張っている大型ディーゼル機関車と比べると、大きさは半分ほど。外見は似たような
先頭部分の広めのデッキには、左右に一
機関車がトンネルから出て、その後ろに
四両だけの列車は、
その列車は、大陸
「ん?」
そう小さく声を出したのは、アリソンだった。
アリソンは食堂車左側の
「どうしたの?」
ヴィルが左上に顔を上げて、ロクシェ語で聞いた。アリソンがロクシェ語で答える。
「なんでもない。何か見えた気がしただけ」
「何かって、どこに?」
「この列車の後ろよ。同じ線路を何かが走っているわけないわよね。
アリソンは小さく肩をすくめて断定したが、ヴィルは
「目のいいアリソンが見間違えるなんて──」
ヴィルが言いかけて、
「何ですか?」
ストーク少佐が大声で聞いた。むろんベゼル語で、その
アリソンが突然
「何でもないわ」
「何でもないわけはないでしょう!」
ストーク少佐の珍しく怒った声。
あからさまにムッとしたアリソンのかわりに、ヴィルがベゼル語で答える。
「後ろに何か見たかもしれない、でも見間違いだろうということです」
「!」
ストーク少佐が顔色を変えて立ち上がった。その勢いでイスは後ろに倒れ、激しく音を立てる。フィオナがびくっ、と体を震わせて目を開けた。
「何ですか?」
ベネディクトの質問を無視して、ストーク
ヴィルはアリソンをちらりと見て、イスから立ち上がった。
「行こう。
「まったく」
アリソン達が車内から消えて、
「なに……?」
起きたばかりのフィオナがベネディクトに
「まだ分かりませんが……、なんだかすんなりはいかないようです」
バー・サロン車両の、
「何よ?」「何ですか?」
アリソンとヴィルが、車内からドアを開けて廊下に出てきて、ストーク少佐は、
「
そう言いながら手を伸ばして二人を押しとどめた。ストーク少佐が進行
「何かを見たって言いましたね?」
ストーク少佐が聞いて、アリソンも騒音に負けないように大声で答える。
「緑の点よ。でも、
「飛行機
「まあね」
ベネディクトとフィオナが現れ、ヴィルに何が起きているのか訊ねた。ヴィルがまだ分かりませんと正直に答えているとき、
「……
ずっと後ろを注視していたストーク少佐が、腕時計をちらりと見て小声で
カーブがうねる線路の先に、
「あ。──なるほど、自分の目は信じるものね」
アリソンの何気ない言葉。
「やっぱり何かが──」
ヴィルが聞きかけて、
「ああ。確認しましたよ。列車だ。機関車が見えました」
ベネディクトが言った。交互に頭を出したフィオナやヴィルの目にも、カーブを越えるたびに近づいてくる
「あれは、軍の車両ですね。ひょっとしたら話を聞きつけて
近づく列車を見ながらベネディクトが言った。アリソン達は廊下から交互に首を出して、再びその姿を確認した。その間ストーク
「…………」
廊下の壁に左手をついて、まるでうなだれているように床を見ていた。
百メートルほどの距離に迫った追跡列車の機関車に、兵士が姿を現した。そして一度カーブでその姿が
緑色の光が、白い煙を引いて斜め横に飛んでいく。
「合図だわ。意味は?」
アリソンが聞いて、
「さあ、分かりません」
ベネディクトが正直に答えた。
「あなたは分かる?」
アリソンが
「停車せよ、との合図だと思います」
静かな表情で答えながら、ストーク少佐は自分の右腰に手を伸ばした。そこにあったホルスターの
「な、何を──」
「しかたがないのです」
ベネディクトの言葉を
「みんな車内に戻りなさい!」
叫ぶと同時に、ストーク少佐は撃った。乾いた
「何ごとよ!」
四秒半の
「みなさん車内へ!」
ストーク少佐がそう言って、目の前のベネディクトにドアを開けて車内に戻るように指さした。ベネディクトがフィオナを抱えたまま、ドアを
ストーク少佐は中央部分を一気に飛び越え、車内に入った。
五人がバー・サロン車両のほぼ中央まで戻って、
「ストーク少佐、なんのつもりですか!」
ベネディクトが叫びながら聞いた。ストーク少佐は
「くそっ。──情報は正しかったようです」
「なんの情報です?」
ベネディクトが再び聞いた。ストーク少佐は少し落ち着いた
「テロル氏
「……ストーク少佐! あなたはなぜそれを最初に──」
ベネディクトの怒り混じりの言葉を、ストーク少佐が静かな
「言えると思いますか? 私だって〝一応知っておいてほしい〟程度の扱いで首都を出る直前に言われただけですよ」
「しかし、それなら運行を停止するくらいはできたはずです!」
「あなたは
「せめて
「どのように? 〝同胞が馬鹿をしでかすかもしれないから、殺人者が混じっているかもしれないけど全員でここにいましょう〟と?」
「…………」
ベネディクトが押し黙って、
「
アリソンが叫んだ直後、びびびびびしっ! と木が何本も
「何よ今の?」
アリソンが聞いて、
「
ストーク
フィオナとベネディクトがピアノの脇を通り過ぎた。ベネディクトはバーの前でフィオナをしゃがませて、後ろの三人を待った。そして、
「どうするつもりですか?」「どうするのよ?」
ベネディクトとアリソンが同時に言った。ストーク少佐は
「やつら、乗り込んで列車を乗っ取る気です」
「そんなのは見れば分かるわよ!」
アリソンが少し怒り、
「武装
ベネディクトはやや冷静に言う。窓に顔を寄せて後ろを見て、
「連中、すぐにまたつっこんでくるでしょうね。どうします?」
ストーク少佐は口では答えず、くるりと振り向いてバーカウンターに近づいた。そこにお腹を載せて、
「この車両、私の
笑顔でそう言いながら、手には酒の
「い、いいんですか?」
行動を理解したベネディクトが
「生き残るためならなんでもありよ!」
アリソンは行動に移る。バーカウンターを軽々と乗り越えて、棚の下にあった同じ瓶を
「また近づいてきたわ! 兵士が先頭に乗ってる!」
窓に
「分かりました。──もう行け」
ベネディクトはもう行け、だけをベゼル語で言って、近くにいたヴィルの背を
「ストーク少佐も」
ベネディクトはフィオナを連れて、食堂車へと消えた。
「分かっていますよ」
「ほら」

アリソンがプレゼントを突きつけた。先ほど作った
「おや、なんと気の利いたお
「
アリソンは言い終えるとすぐに振り向いて、自分を待っていたヴィルの背中を押しながら食堂車へ向かった。
ストーク少佐は、二人の背中を見送った後、
「ははっ!」
一人車内で楽しそうに笑った。次にバーカウンターに右手を伸ばし、高そうな銀製の箱に入っていたマッチを一本
布を静かに燃やす
ストーク
「…………」
ストーク少佐は目の前の
「
窓を立て続けに
ストーク少佐は最後に、今は床の上に転がっている、着火に使った瓶を撃った。
ドアをくぐりながらホルスターに拳銃をしまう男の背中で、飛び散った酒に
線路の上を、大陸
そのすぐ後ろに迫っていた
脇で
「おい、一体どこを撃った?」
撃った兵士もしゃがみ、すぐに言い返す。
「言われたとおり、
「くそっ! 中から火をつけやがったな」
兵士は
「列車は制圧されていないのか? 少佐は
ストーク少佐は、歩いていた。食堂車の後方
「よく燃えているようです。車両
ストーク少佐がのんきとも取れる
「まさかあれ、こっちの車両に燃え移るなんてことはないでしょうね?」
ベネディクトが聞いた。
「ずっと燃えていればありえますね。木製の車両は実によく燃えますから」
「…………」
嫌そうな顔をして黙ったベネディクトに、ストーク少佐は、
「でも、そうさせるつもりはありません」
「では、どうするつもりで? それにやがては追いつかれる」
「やつらは同じ路線を追っています。線路上に障害物を設ければいい。二つの問題を同時に解決させます」
ストーク
「どうやってですか?」
「そんなの簡単です──」
ストーク少佐の言葉を、
「燃えている車両を切り離せばいいだけよ」
アリソンが引き継いだ。ストーク少佐は楽しそうに視線を向けて、
「ご名答」
人差し指を一本立てた。
「アリソン、車両を切り離すって簡単に言っても──」
「どうせヴィルはお酒飲まないでしょ。それに燃えているし。もういらないわ」
「いやそうじゃなくて。ぶつけたりしたら向こうの列車もただですまないんじゃ……」
「いいわよ。せっかくの旅行を
「アリソン……。怒ってるね」
「当然よ! 邪魔ばかりしやがって!」
「〝アリソン。汚い言葉はだめですよ〟」
「ごめんなさいおばあちゃん。──邪魔ばかりしてくださって!」
フィオナを食堂車に座らせて残し、他の四人は、食堂車とバー・サロン車両の
「あのう、二人とも……、よろしいですか?」
ストーク少佐がヴィルとアリソンに聞いて、
「はい。どうぞ」「
との答え。
「では言いますよ。この連結部分を外します。まずは
ストーク少佐が幌の留め具の位置を指さし、ベネディクトが外していった。
「外した。幌を引っ張るんだ」
ヴィルとベネディクトが幌を引くと、食堂車側へと
「次です。それを引き上げてください。落ちないように、手を挟まないように」
「俺がやる」
ヴィルを制止して、ベネディクトがしゃがんで重い渡り板を両手で持ち上げた。バー・サロン車両のを向こう側に
車両の間に数十センチの
「ストーク
ベネディクトが顔を上げて聞いた。アリソンとヴィルが交互に下を
「走行中には無理でしょう」
「ではどうする──」
「右脇に見える管が分かりますか? それがブレーキの空気管です。こちらの車両側にある赤いコックをひねって
ストーク少佐は指示を出すだけで、その手は自分の
「ふう……。ありがとう」
ベネディクトが礼を言いながら身を起こす。セーターの腕と胸が油で汚れていた。
「次はどうするんですか? 連結器が外れないと車両は外れませんよ」
「だいぶ燃えてきたわね」
ヴィルが顔を上げた。アリソンが言ったとおり、バー・サロン車両
「そこで私の出番です」
「え? まさか──」
ベネディクトが
「何よそれ?」
アリソンの質問に、ベネディクトが答える。
「箱状のは最新型の軍用
「え?」
「今いいところですので……、しばしお待ちを」
ストーク
「今度は何?」
楽しそうに聞いたアリソンの目の前で、
「これですよ」
ストーク少佐が
「なんだ」
「役には立ちますよ」
ストーク少佐はそれをベネディクトに放って、
「向こうの車両の
次に爆薬を
「大丈夫なんでしょうね?」
「まあ、すこし揺れるでしょうが大したことはありません。
ベネディクトは
「二人とも下がって。万が一のために」
「おもしろいから見ているわ」「…………」
楽しそうに言ったアリソンと、
「終わりました。先に逃げますよ」
ベネディクトはアリソン達を押しながら、車内へのドアをくぐる。
「どうぞ。私もすぐに行きますよ」
ストーク少佐は爆薬へとしゃがみ、左手で手すりを掴む。上半身と右手を伸ばし、
「不良品でありませんように」
そして尻の部分をノックする。
「フィー! 危ないからなるべく列車の前に行くとき! ──ではなく、行きなさい! 爆破があるんです!」
ベネディクトが叫んだ。フィオナが一度驚いて、走り出す。追いついたベネディクトに、
「何がどうなっているの?」
「あの
「そう? 楽しい人じゃない」
追いついたアリソンが言った。
四人が食堂車の先頭に走りついた。振り向くと、反対側のドアからストーク少佐が、
四人の視線の先で、ストーク少佐はふいに右腕を横に突き出して開いた。すぐに親指を折り込む。一秒後に人差し指を、ついで中指。
ベネディクトがフィオナに
小指を折り
ばぼん。
くぐもった
「言ったでしょう? それほどでもないですよ。──さて」
ストーク少佐はすぐに立ち上がり、食堂車右側の窓を大きく下に開けた。頭を出して後ろを
「成功です」
緩やかにカーブする線路の先。見覚えのある客車が一両、黒い煙を
「車両を切り離すとブレーキの空気管が外れて、自動
ストーク少佐が説明した。燃える客車の進む先は、同じレールの上を走る
「さようならー」
アリソンが小さく手を振って、別れを告げた。急ブレーキをかけた追跡車両の機関車に、まるで
客車は
食堂車の窓から、後ろを見ていた五つの頭がすすすっと引っ込んだ。窓が閉まる。
「
「やるじゃない。おじさん」
アリソンが
「ありがとうございます。お
ストーク
「くそったれ! いいからあの客車をどけろ。せめて
「無理です。
「とにかく火を消せ! その後
「用意していませんよ……」
「全員で押して突き落とせ!」
「無理言わないでください……」
燃える客車から距離を置いて、
先ほどから怒り
「くそっ! どうなってやがる。これは
先ほどから
「……我々はどうしますか?」
「仕切り屋の
「先ほどこれから着陸して第二班と合流するとの最後の連絡が。順当に行けば頭を押さえられます」
「やつらに期待するしかないのか……。ええい
客車の炎はますます勢いを増し、時折
* * *
「そのとおりです。妨害
食堂車の端についている
「さっきも言いましたが、麓までは何がなんでも逃げます。速度は緩めないように。多少の障害物は
さらりと
「
ストーク
四人の後を追って、ストーク少佐も食堂車の車内に戻る。まずは全員がイスに座った。左側に並んで四人と、向かい合って一人。
「ストーク少佐……。いくつか質問が」
「なんでしょう?」
「あなたの
ストーク少佐は
「言ったでしょう? 警備ですから。万が一に備えていただけです」
「信じると思いますか?」
「信じてくれると
「答えになっていません!」
ベネディクトが声を荒げて、そして本日三度目の、
「
アリソンの注意。ベネディクトがため息をついた。
ヴィルから
「
優しい
「分かりました。そうですね」
ベネディクトは軽く右手で
ストーク少佐はゆっくりと立ち上がると
「このまま何もなければ大丈夫です」
「あなた、さっきもそう言ったわよ」
アリソンが笑いながら言った。ヴィルは黙ったまま、男が時計を見た
「でしたっけ?」
ストーク少佐が一度照れ笑いを見せて、身をかがめて窓の外へ顔を向ける。谷の向こうで、
「
アリソンがイスから立ち上がって、
「景色を見ましょ」
ヴィルの手を引いた。
ヴィルは笑顔で立ち上がり、二人はテーブルを避けて窓側に。ストーク
「…………」
その
アリソンはカーテンを開いて固定し、ヴィルと一緒に、一つの窓から景色を見る。
「どう?」
アリソンが、ただそれだけをロクシェ語で聞いて、
「うん。
「あんなことがあっても?」
「うん」
「大変よろしい」
フィオナは
「…………」

二人を横目で見るストーク少佐の顔で視線が止まった。
やがてフィオナは、ふと何かを思い出し、右手を自分の腰に当てる。そこにあるポーチを探し出した。そして、
「…………」
中身のカメラを取り出すことはなく、ゆっくりと手を下ろした。
「寒い? 窓開けていい?」
アリソンがヴィルに聞いて、ヴィルはすぐに自分で窓を開ける。上の部分を押し下げた。
風が入って、アリソンの長い
「わ──」
「あ、ごめんごめん。位置交換」
アリソンはヴィルの体を引っ張り、自分は後ろを通って左右を入れ替えた。
「あなた達は──」
ストーク
「……えっと、とても仲がいい」
ストーク少佐の発言。アリソンが少し笑いながらも
「なにそれ?」
「いや、なんでもありません。ふと思っただけですよ。──それより、景色を楽しんでください」
ストーク少佐が、三百メートルほど離れた谷の反対側を指さした。斜面は相変わらず急だが、標高が下がってきたのか、草や木々がちらほらと増え始めている。見下ろす谷底では、大きな岩が転がる
「うん。
アリソンが言った。
「このままこの渓流ぞいに線路が走ります。そしてしばらく行くと、谷にできた細長い湖の脇を通ります。これは
ストーク少佐が、窓枠に背中をつけ寄りかかったまま、観光ガイドを始めた。
「今から三百年ほど前のことです。この辺りの沢では砂金が取れると評判になり、たくさんの人間がやってきました。でもすぐに
「ふーん」
アリソンが相づちを打って、そして外を見たまま、
「ガイドさん。一つ聞いていい?」
「何なりと」
「谷の反対側にもレールがあるの?」
「え? ──ええ、ありますよ。この辺りはいくつも線路が敷かれましたからね。でも、向こう側は斜面がきついので、落石や
「なるほど。
「なぜそのようなことをお
「だって──」
アリソンが答える。
「反対側の斜面に、たまに穴がいくつも並んでいるからよ」
「ああ。それはトンネルの空気
「もう一つ聞いていい?」
「どうぞ」
「道はないのよね?」
「ありませんよ」
ストーク少佐は
「じゃあ、今トンネルから出てきたあれは何? ──