Prologue: 今日は休日だけに、#p興宮#sおきのみや#r図書館の館内にはそこかしこに人の姿が見える。 図書館の蔵書がどれだけ充実しているかが、その市町村の文化に対する意識の高さを表している……というのが、司書を長年勤めている母の持論だ。 その意味だと、興宮は郷土についての資料も結構揃っているので……歴史や文化のことを大切に考えている方だと思っていいのかもしれない。 千雨: ただ、結構偏りがあるんだよな……。民間伝承、特に『オヤシロさま』に対する見解に異論がほとんど存在してないってのが、どうにも。 読み終えて山積みにした書籍を眺め見ながら、私は少し徒労感を覚えてため息をつく。 筆者や編集者はそれぞれ違うのに、ほぼ判を押したように同じ内容。しかも本人たちの考察や推論が全く記載されていない。 まるで、『オヤシロさま』について触れることが禁忌であるかのように無難な姿勢に終始して……資料としての価値が低いと言わざるを得なかった。 千雨: こんな内容だったら、美雪たちの手伝いを断るまでもなかったかもな……。 ふと私は、朝食を終えた後で2人と交わした会話を思い出す。 美雪(私服): 『図書館で調べ物……?だったら以前、私と菜央でまとめたノートやスクラップがあるけど、持ってこようか?』 千雨: 『いや、いい。お前たちが調べ上げた内容を疑うわけじゃないんだが、関係資料を自分の目で確かめてみたいと思ったんだ』 菜央(私服): 『そうは言っても、結構たくさんの文献があるわよ。だったら一緒に行って、調べるのを手伝いましょうか?』 千雨: 『……今日のところは、一人でいい。自分なりに考えをまとめたいことがあるから、それまで好きにさせてくれ』 美雪(私服): 『そっか……うん、わかった。手伝えることがあったら、何でも言ってね』 千雨: 『あぁ。……勝手を言って、悪いな』 菜央(私服): 『別にいいわよ。よかったら帰りに、夕飯の食材も買ってきてね』 千雨: ……。あいつらには、申し訳ないことをしたな。 やましいことを企んでいるわけではないが、せっかくの好意を無下にしてしまったことがやはり……後ろめたく感じる。 ただ、今回の資料探しは「あの子」のことが大きく関わっているので、あの2人がいると色々と気を遣わせてしまうかもしれない。 そう考えた私はこうして、単身で図書館に来ることになったのだった。 千雨: にしても、#p雛見沢#sひなみざわ#r御三家のひとつの公由家……。 千雨: いざ調べてみても、ここの一族に関しての資料らしき資料があまり見当たらないんだよな。 郷土誌や歴史書など、雛見沢に関する書籍を片っぱしから読みあさってみたものの……。 御三家、とりわけ公由家に及んだ記述箇所が本当に少なくて……地元の図書館のはずなのにこの程度かよ、と肩透かし感がある。 特に知りたかったのは、5年前に公由家直系の一家が起こしたという無理心中事件だったのだが……。 それに関しての情報が事件に関する事以外全く見当たらず、一家の詳細についても名前と年齢、妻が妊娠していたという事実だけだった。 千雨: 稔、香苗江、そして怜……。以前に一穂から聞き出した名前と一致してる。 千雨: 当時妊娠中だった母親のお腹の子も、順調に生まれていれば今頃は5歳……。 千雨: 一穂が、平成5年から来た私たちと同じ時間軸を生きていたのだとしたら……15歳だから、一応辻褄は合っているな。 つまり、一穂がこの「世界」に存在しないのは誕生前に無理心中事件によって両親が死んだことに「改変」されたからなのか。 あるいは彼女は、素性すらも偽っていたのか……?その辺りの経緯と真偽を判断できる材料がないので、はっきり言って現状では全くの手詰まりだった。 千雨: それに……わかんないんだよな。あいつは確か、以前雛見沢に住んでた祖父さんの電話番号からポケベルに着信があったのが、ここに来るきっかけだって言ってた。 千雨: けど、ダム湖の底に沈んだ場所から電話がかかってくるはずがない……。 千雨: ダム湖ができる前でも、廃村になった時点で外へ繋がる電話線は鹿骨市内の交換機で切られてるって赤坂さんは言ってた……だとしたら……。 あの時、一穂が私たちに話した動機は嘘だった可能性もある……ということになる。 だけど、もしそうなら……どうして嘘をついた?彼女が雛見沢に来た目的は、いったい何なのか……? 千雨: ……くそっ、全く見当がつかねぇ。 考え込めば考え込むほど深まっていく謎に、頭を抱えたくなる。 そもそも、雛見沢にダムができたことでどうして赤坂さんが死なずに10年後の「世界」にいたのかさえ……全く判明していないのだ。 今のところ、赤坂さんが雛見沢か興宮に来ている気配はない……が、もし訪問があればそれは彼の死、そして世界の改変を意味する。 その事実を知っている私は、いったいどう動くべきなのか……?正解がわからない状況では、決断すらできなかった。 千雨: もう正直に、このことを美雪たちに教えて協力を求めたほうがいいのか? いや……。 千雨: あいつのことだ。父親が、#p綿流#sわたなが#rしで起きた何かがきっかけになって死んだかもしれないと聞けば……自分の身を犠牲にしても守ろうとするだろうな。 千雨: それに、菜央ちゃんも……、っ……。 菜央ちゃんは雛見沢に、大災害で犠牲になった自分の姉を探しに来たと言っていた。 だけど彼女は、それが誰なのかについてはまだ他の人間に言っていない。……というより、私たちがまだ知らないものだと思っている。 そんな状況で、私がすでに菜央ちゃんの姉が誰か知っているとわかれば……どんな反応をして周囲にどんな影響が出るのか、全く不明だ。 つまり、答えがわかっていながら私は信頼してくれているはずの2人に肝心なことを打ち明けられず……何も行動ができずにいる。 それは、知らないことを知ろうとしていた前回よりも苦しくて辛く……実に余計な知識を手に入れたものだと、私は腹立たしささえ覚えていた。 千雨: あとは……西園寺絢、か。 彼女は、私がこの「世界」に戻ってきた時に力を貸してくれたその人物に対して……なぜだか引っかかるものを感じているという。 古手梨花に近しい面影を持つ彼女は、神奈川県にある古手神社の分社を管理しているとのことだったが……。 梨花ちゃん本人に聞いたところ、古手神社には分社というものが存在しないのだという。 そして、古手家にはそもそも親類が存在せず……西園寺という家名も聞いたことがない、とのことだった。 千雨: じゃあ、私たちが訪れたあの神社はなんだったんだ?それと出会った絢さんは、いったい何者……? なんてことを考えながら再び頭を抱えかけた……その時だった。 詩音(私服): はろろーん、どうもです千雨さん。 背後から、私の名を呼ぶ声。誰かと思って振り返ると、それは園崎姉妹の妹……詩音だった。 詩音(私服): おや、ずいぶん資料を集めていますねー。雛見沢で何か、知りたいことでもあるんですか? 詩音(私服): もしお望みだったらお姉に頼めば、ここにない資料とかも見ることが可能ですよ。 そう言って詩音は、ずけずけと遠慮なくこちらが頼んでもいない提案を持ちかけてくる。 まさに、慇懃無礼の生きた見本のような態度。……そしてこういった輩は、たいていの場合腹に一物を抱えているのが定石だ。 千雨: ありがたい話だが……遠慮しておく。身内でもない私が村のことに興味を示したりすると、変に勘ぐられる可能性もあるからな。 詩音(私服): おや、自覚はあったんですか。……でも、だったらもう少し慎重に動くべきでしたね。 千雨: ?……どういうことだ。 詩音(私服): もうとっくに上の方では、噂になっていたりしますよ。あなたがやけに前のめりになって、御三家のこと……特に公由家のことを嗅ぎ回っているってね。 千雨: ……そうか。まぁ、閉鎖的な集落だったら当然の反応だろうな。 特に驚きもなく、私は苦笑交じりに肩をすくめてそう返す。 別に、こそこそと隠れて動いているわけでもない。それに繰り返すが、やましいことを企む気持ちはこれっぽっちも持ち合わせていない。 私はただ……知りたいだけなんだ。公由一穂がこの「世界」から本当に、そして完全に消えてしまったのかどうかを……。 千雨: ……で、園崎家の人間として警告にでも来たのか?だとしたら、ずいぶんとご丁寧だな。闇討ちでもして脅してくるものだと思ってたんだが。 詩音(私服): いえいえ、とんでもない。あなたみたいな戦闘用サイボーグに手を出すなんて、寝ている虎を起こすよりも無謀極まりないですよ。 千雨: ……誰がサイボーグだ。私はちゃんと身体に血が通ってる人間だし、銃や刃物を防ぐほど強くはないぞ。 詩音(私服): くっくっくっ……冗談ですよ。それにあなた方3人には、これまで村おこしだので色々と力を貸してもらっていますからね。 詩音(私服): くだらないことを企むような気持ちは、少なくとも私は持ち合わせていませんよ。まぁ、もっとも……。 すると詩音は周りを気にしたように小声になり、私のノートに何かを書き込んでいった。 詩音(私服): 実は私も、気になっていることがあるんですよ。あなたがご執着な、この人に対してね……。 千雨: ……っ……?! その文字を見て、はっと息をのんで顔を上げる。 詩音が書き込んだ文字は、「公由一穂」……?! Part 01: それから、数日後。 分校から帰宅した夕方頃、魅音から呼び出しを受けた私たち3人は、園崎本家を訪れることになった。 そこにはやはり、レナに沙都子ちゃん、梨花ちゃんと羽入ちゃんの姿があり……今まさに、玄関の呼び鈴を鳴らしたところだった。 レナ(私服): あっ、菜央ちゃん。それに美雪ちゃんと千雨ちゃんも、みんな魅ぃちゃんに呼ばれてきたのかな……かな? 美雪(私服): まーね。んー、今度はいったいどんな用件なんだろ? 千雨: ……っていうか最近、魅音からの連絡がトラブルだの無茶振りだのの前触れのように感じられてならんのは、私の気のせいか? 菜央(私服): そんなことないわ……とも言い切れないわね。遊園地の時なんて、結構大変だったもの。 沙都子(私服): ですわねぇ。あれくらいに難易度の高い依頼をされてしまうと、さすがに私たちも身構えてしまいますわ。 梨花(私服): みー。ですが、電話口の魅ぃの感じはさほど焦ったりとか、申し訳なさそうだったりではなかったのですよ。 羽入(私服): あぅあぅ、むしろ受話器から離れていた僕にもご機嫌そうな声が聞こえてきたのですよー。 美雪(私服): まずは聞いてからでもいいんじゃない?頼みがあっても実際に受けるかどうかは、内容と条件次第ってことでさ。 菜央(私服): そうね。あの遊園地でのバイトは、結構いい稼ぎになって助かったし……なにより楽しかったものね。 千雨: …………。 美雪(私服): ? どうしたの千雨、そんな仏頂面になって。 美雪(私服): 千雨も結構満喫したでしょ?あんな可愛い衣装を、大手を振って着られたんだからさ。 千雨: ねつ造するな。大手なんか振ってない。あれは……地獄だった……。 思い出しただけで、全身から火が噴き出しそうな羞恥心がこみ上げてきて……消えてしまいたくなる。 ……結局、「一穂」に代わってもらえたのは初日の1日だけ。残りの日は着替えざるを得ず、私は生き恥をさらすことになった。 千雨: あの時ほど、カメラを発明したやつが憎いと思ったことはなかった……!あの富竹さんに至っては、盛大に撮りまくってきたし……! アリスじゃなく阿修羅に変身してやろうか、と考えたのは一度や二度じゃなかった。さすがに喜ぶ子どもたちの手前、必死に自制したが。 千雨: (一穂も……代わってくれるんだったら、全日やってくれよ!なんで1日だけだったんだ?!) そんな、明らかに筋違いすぎる恨み言を呟きながら職務を全うした後……文字通り私は、灰になって燃え尽きていた。 後日菜央ちゃんから渡された集合写真や記念写真は焼き捨て……るのはさすがに彼女に申し訳ないので、中身を見ることなく引き出しの奥に叩き込んである。 なんて話を私たちがしていると、屋敷の中から魅音が姿を見せる。そして笑顔で、中に招き入れてくれた。 魅音(私服): お待たせ~!さぁみんな、中に入って入って♪ 魅音(私服): いやーみんな、集まってもらって悪いね!実は例の遊園地のことで、ちょっとした報告があってさ~。 そう語り出す魅音の表情は、とても明るい。あまりにもご機嫌すぎるのは、正直言って一抹の不安を覚えずにはいられなかったが……。 隣の詩音もニコニコと笑顔だったので、とりあえず嫌な話ではないだろう、と私たちは緊張を解いて向き合った。 魅音(私服): 実は昨日の会合で、オープン後1週間の報告があったんだけど……すっごい結果が出たんだって! 魅音(私服): 地方の遊園地どころか、関西の大都市にも負けていないくらいの来場者数と売上額があったそうなんだよ~♪ 美雪(私服): えっ……そうなの? 詩音(私服): えぇ。おまけに、リピーターも早い段階でかなりの数が集まっているそうで……。 詩音(私服): マーケティング会社からの報告だと、今後秋から冬にかけての来客も十分見込めるとのことです。 レナ(私服): はぅ~、よかったね菜央ちゃん!きっと、菜央ちゃんが素敵な衣装を作ってくれたおかげだよ~! 菜央(私服): ほ、ほわっ……? そ、そんなことないわ!レナちゃんがパレードで頑張ってくれたおかげだし、それに……! 梨花(私服): みー。ボクたちもマーチングバンドを、一生懸命頑張ったのですよ~。 沙都子(私服): えぇ、そうですわね!最初こそ乱暴なお願いで戸惑いましたけど、しっかり練習して本番に臨みましたのよ。 羽入(私服): あぅあぅ、頑張った甲斐があって本当によかったのですよ~。 魅音(私服): うんうん! それもこれも、みんなが協力してくれたあのオープニングイベントが評判になったおかげだよ! 魅音(私服): 最近は絶叫マシンがブームだから、キャラ重視の遊園地はどうだろうって心配していたんだけど…… 魅音(私服): もしかしたら、時代を先取りしちゃったかなー?あっはっはっはっ! 美雪(私服): んー……もしかしたらじゃなくてそれ、たぶん事実だと思うよ。キャラ重視って、リピーターがつきやすいそうだしさ。 美雪(私服): たとえば、デスティニーランドは10周年を迎えた今でもすごい集客を誇って、グッズ販売も好調って話だからね。 美雪(私服): あと、他にも所沢や多摩の方で大型のテーマパークがいくつもできてるし……。 レナ(私服): ……あれ?ねぇ美雪ちゃん、東京デスティニーランドって今年できたばかりじゃなかったのかな、かな……? ふと出てきたレナの疑問に、私は内心で「……このバカ」と呟く。 菜央ちゃんが言っていたが、どうも美雪はこのあたりの情報管理についての脇が甘い。というわけで、フォローを入れることにする。 千雨: あー……すまん。美雪が言ったのはフロリダの方のやつで、東京のランドとごっちゃになったな。 千雨: ……あと美雪、所沢と多摩はまだ建設中だ。ちゃんと「思い出せ」。 美雪(私服): えっ? あ、あぁ……そうだったそうだった、ごめんねー。 私の指摘を受けて、ようやく失言を悟ったのか美雪はぎこちなく笑ってみせる。 それを見て菜央ちゃんは軽く、ほっとしたようにため息をつき……そして彼女に顔を近づけると、ささやくくらいの小さな声で咎めていった。 菜央(私服): もう、余計なこと言わないでよ……ややこしくなるんだから、黙ってなさい。 美雪(私服): あ、あははは……ごめんちゃい。 菜央(私服): ……で、今日ここにあたしたちが集められたのは「また」何かお手伝いを頼みたいってことかしら? 菜央ちゃんの発言を受け、私たちの顔に緊張が走る。 そして、今度はどんな無理難題を……と身構えるが、それに対して魅音は「違う、違うって!」と慌てて否定していった。 魅音(私服): 今日はいい知らせを聞いてもらいたかったのと、お礼にご馳走をしようと思って来てもらったんだよ。 魅音(私服): バイト代は確かに出したけど、ここまでの大成功があった以上は私たちの気持ちがすまないし……ねっ、詩音? 詩音(私服): えぇ、その通りです。 詩音(私服): まぁ、正直判断に迷っていることがあるにはあるんですが……そちらはむしろ警察にお任せする問題ですからね。 千雨: 警察に任せる問題……? いったい何があったんだ? 思わず問いかけた私に、「えぇ、実は……」と詩音は口を開きかける。 が、それを遮って魅音は厳しく窘めるように口を挟んでいった。 魅音(私服): やめなって、詩音……来る前に言ったでしょ、これは私たちの問題だって! 魅音(私服): まだ確定もしていないんだし、ここで言うことじゃないって! 詩音(私服): はいはい、わかりましたよ。……というわけで皆さん、昼食はまだですよね? 詩音(私服): 寿司に天ぷら、焼き肉……夜まで食べ放題のフルコースをご用意しましたので、どうかお腹いっぱいに飲み食いしていってください。 千雨: あ、あぁ……。 そう促され、釈然としないながらも私は無理に聞き出そうとするのは野暮だと矛を引っ込める。 千雨: ……ま、本当に困ってるなら言ってくるよな。 そう思い直し、まずは2人の好意に応えてご馳走に与ることにした。 Part 02: そんな感じに、魅音が大見得を切ってからほんの数日後――。 私たちは詩音からの緊急招集で、またしても休日の朝から園崎本家に集められた。 詩音(私服): ……すみません、皆さん。朝っぱらからここに集まってもらいまして。 美雪(私服): いや、もう慣れたからいいけど……魅音じゃなくて、詩音から集まれって声がかかるのはわりと珍しいよね。何かあったの? 詩音(私服): いえ、その……。 そう言って、詩音は口ごもる。……が、やがて意を決したように顔を上げ、私たちを見据えていった。 詩音(私服): 大見得を切って舌の根が乾かないうちに前言撤回となれば、ど厚かましいにもほどがあるってことで……。 詩音(私服): 今回のお声がけは、私が肩代わりした次第です。詳しい話は、本人からさせます。 菜央(私服): 別に聞くまでもないでしょ?また何かトラブルがあったってことだってわかるし……。 菜央(私服): って魅音さん、その格好はどうしたの?! 詩音に促されて入ってきた魅音の姿を見て、呆れ気分を抱きかけていた私たちは一斉にぎょっ? と驚く。 魅音(白装束): ――――。 神妙な表情もさることながら、白装束をまとった彼女はさながら処刑を待つ罪人のようであったからだ。 魅音(白装束): あの……本っ当、毎回みんなにすっごく迷惑をかけているのに、こんなことを頼めるような立場じゃないってわかっているんだけど……。 魅音(白装束): 恥を忍んで、一生のお願いっ!どうかまた、力を貸してください! そう言って魅音は、額を畳に叩きつけんばかりの勢いで土下座する。 ……今まで以上に切羽詰まった、懇願ぶり。その勢いと迫力に飲まれ、私たちは困惑をあらわに言葉を失ってしまった。 レナ(私服): は、はぅぅっ……?魅ぃちゃん、いったい何があったのかな……かな? 魅音(白装束): っ、実は……その……! 詩音(私服): まぁ……例によって、例のごとくです。 詩音(私服): 集客効果をさらに上げるために、ちょっとしたキャライベントを開催しようと東京の企画会社に委託したんですが……。 美雪(私服): ひょっとして、発注ミス?それとも予算オーバー? 詩音(私服): いえ、その……委託した会社が前金を持って、トンズラしちゃったんですよ。 千雨: は……はぁぁああぁっ?! さすがにそれは予想外だったので、私たちは思わず呆気にとられて声を上げた。 圭一(私服): つまり、詐欺に遭ったってことかよ?!……魅音たちを騙すだなんて命知らずというか、後先考えていないにもほどがある連中だなー。 詩音(私服): 全くです。園崎家の威信にかけてでも地の果てまで追いかけて、それ相応のお仕置きをしてやるつもりです。 千雨: ……ちゃんと「お仕置き」の範囲内にしておけよな。 魅音はともかく、詩音の目つきが非常に「ヤバい」感じだったので……一応、釘だけは刺しておく。 ヤクザの抗争や見せしめなどはニュースでよく見かける……が、それに友人たちが関与していたなんてことはできれば聞きたくない。 千雨: いずれにしても……金が戻ってくるかどうかは別問題として、イベント自体の開催が厳しいってことか。 詩音(私服): えぇ。代わりの業者にはめどをつけましたが、それでも1週間ほどの空白が開いてしまうのは避けられない状況なんです。そこで……。 言いにくそうに詩音は、私たちを見つめてから目をそらしかける。……その振る舞いだけで、彼女が何が言いたいのかは明らかだった。 梨花(私服): みー。そういうことなら、ボクたちがお手伝いしてもいいのですよ。 そんな気まずさを慮ってか、真っ先に声を上げたのは梨花ちゃんだった。 梨花(私服): 困った時に助け合うのは、#p雛見沢#sひなみざわ#rの伝統なのです。この難局を乗り越えるためふぁいと、おーなのですよ。 沙都子(私服): をーっほっほっほっ! 梨花の言う通りですわ。まぁ魅音さんのうっかりミスが原因でしたら、嫌味のひとつでも言いたいところですけど……。 沙都子(私服): お困りの状況で、傷口に塩を塗るような真似はできませんわ。どうぞ遠慮なく頼ってくださいまし。 羽入(私服): あぅあぅ……それに万が一断りでもしたら、魅音はその場で切腹でもしかねない勢いなのですよ。 千雨: いや、それはさすがにおおげさ……って、白装束の時点でそうとも言い切れんな。 これってある意味脅迫なのでは……? と思わなくもない。 とはいえ、詩音の目配せを見て大きくため息をつき、私もそれ以上は何も言わず「……しょうがない」と皆とともに賛同の意を示した。 魅音(白装束): み、みんな……ありがとう……。 そう言って、深々と頭を下げる魅音。……が、次の瞬間には白装束を脱ぎ去り、元の私服に戻っていった。 魅音(私服): というわけで、テーマは『天使と悪魔』!くじ引きで役割を決めるよー! 菜央(私服): ……だからって、この変わり身の早さはどうかと思うけどね。 梨花(私服): みー。これが魅ぃのいいところなのですよ。 羽入(私服): いいところ……なのでしょうか……? ……前言撤回。こいつは一回、痛い目を見た方がいいかもしれない。 Part 03: そんなこんなで、『天使と悪魔』イベントは担当キャストの厳正なるくじ引きが行われて……。 梨花ちゃんと沙都子ちゃん、菜央ちゃん……そして、よりにもよって私が出演者として選ばれることになった。 千雨: なんでだ……なんでだ、この結果は?!くぉおおぉぉぉおおぉぉっっ……!! 前回はアリス、そして今回は悪魔……?なんでこうもおかしな担当が回ってくるのか、ひたすら問い詰めたい。くじ引きの神にッ! 詩音(私服): あれ……? 千雨さん、悪魔はお嫌ですか?でしたら前回と同じ担当でも全く問題ありませんよ。くっくっくっ……♪ 千雨: お前、絶対わかっててその代案出してるだろ詩音っ!退くも地獄、進むも地獄の典型だろうが?! 美雪(私服): おぅ……千雨。先に言っておくけど、この結果はインチキ一切無しの公正なくじ引きによるものだからね。 美雪(私服): 今さらになって誰かに交代とか、まして辞退なんて意見は……。 千雨: ……あぁ、わかってるさ。ただ、この歳になって気づいたんだが……。 美雪(私服): なに? 千雨: 私って、くじ運がまるでなかったんだな……。 美雪(私服): んー、確かに千雨って縁日でも輪投げとか射的とか力試しとか、技や力を要求されるゲームだと無双だったけど……。 美雪(私服): くじとかになると、まるでダメだったよね。そういう不幸の星の下に生まれたってことなのかな? 魅音(私服): くっくっくっ……それはいいことを聞いたね。 魅音(私服): 千雨が来て以来部活はあんたに辛酸をなめさせられっぱなしだったから、運任せ要素を加えることで次からは一矢報いることができそうだ。 菜央(私服): 確かにその通りかもしれないけど……魅音さん。千雨がこんな貧乏くじを引く羽目になったのは、そもそも誰の責任なのかを忘れちゃダメでしょ。 魅音(私服): っ? は、はい……その通りです……。 菜央ちゃんにそう突っ込まれて、魅音はしおしおと小さくなって平伏する。……少しは懲りろ、この阿呆め。 と、そんなやり取りの中……ふと何かを思いついたのか前原が疑問を口にしていった。 圭一(私服): とりあえず、人選はいいとして……衣装はもう準備できているのか? 圭一(私服): もしあったとしても寸法が違っていると、調整とかに時間がかかると思うんだが。 魅音(私服): ぎくっ? そ、それは……。 魅音は痛いところを突かれたように、言葉を失って固まる。 ……もう嫌な予感しかしないが、それを確定させたのは詩音の次の台詞だった。 詩音(私服): ……何を言っているんですか圭ちゃん、調整どころの話じゃありませんよ。 詩音(私服): そもそも、演者の代わりだって今日この場で、やっと見つかったわけですしね。 梨花(私服): みー……ということは、やはり……。 魅音(私服): 助けてレナえもん、菜央えもーん!あんたたちだけが頼りなんだよ~!! 菜央(私服): ……未来からきたお助けロボットみたいに呼ばないでよ。 魅音にすがりつかれて、さすがの菜央ちゃんもうんざりとした表情を露わにしてため息をつく。 確かに彼女は衣装作りが好きだし、幼いながらも職人といい勝負ができる腕を持っているとは思うが……。 こうも毎回便利屋扱いをされてしまうと、頼られることに対する意気より呆れを感じるのは当然と言えば当然のことだろう。 菜央(私服): だいたいレナちゃんだって、いきなりそんな無茶ことを言われてうんと頷けるわけが……。 レナ(私服): はぅ……わかった、魅ぃちゃん。ちゃんと期待通りにやれるかわからないけど、レナは一生懸命協力するからね。 菜央(私服): ……無いこともないから、結論としてレナちゃんは素敵な女神で最高なのよ。だからしっかり拝んで奉ってあげてよね。 魅音(私服): 拝む拝む!毎朝起きると同時にレナの家に向かって手を合わせて、寝る前には額を畳にこすりつけて拝むようにするから! 相変わらずの手のひら返しな台詞に突っ込むこともなく、魅音は再び土下座で菜央ちゃんに感謝を伝える。 ……これが泣く子も黙る、#p雛見沢#sひなみざわ#r御三家の園崎家の次期頭首の姿かと思うと頭が痛い。警戒していた自分がバカに思えてくる。 羽入(私服): あぅあぅ、雛見沢に新しい神様が誕生したのですよ~。 梨花(私服): みー。だとしたらボクも、新しい神様の巫女に鞍替えするのですよ。古い神様はポイ、なのです♪ 羽入(私服): あぅあぅあぅ~?そ、それは酷いのですよ梨花ぁぁっ?! 沙都子(私服): あの……どうして羽入さんがそんなに慌てているんですの? レナ(私服): は、はぅぅぅううぅっ? 梨花ちゃんが、レナの巫女さんに……? か、かぁいいかぁいい!お、お持ち帰りぃ~♪ 圭一(私服): お、おいレナ。話がややこしくなるだけだから、そのへんで……ぼふぁあっ?! 暴走寸前のレナを取り押さえようと、前原は彼女の肩に触れかける……が。 レナ(私服): はぅううぅぅぅっっ~~!! 残像どころか目にも映らないほどの連打を受けて……あわれ彼の身体は宙を舞い、縁側から庭へと吹き飛ばされてしまった。 千雨: ……あのパンチ、やっぱり見えなかった。いったいどういう動きで繰り出してるんだ? 千雨: 物理法則を一切合切すっ飛ばした、魔法に近い力と技によるものか……? 吹っ飛ばされて庭の真ん中で轟沈する前原を見ながら、私は冷静に分析する。 と、そこでふと我に返り、今度こそ逃げられそうにない我が身の不幸を思い出して頭を抱えるのだった。 千雨: やるのか……また……?また私は、遊園地であんな格好をするのか……?! 菜央(私服): 任せて、千雨っ。今度も腕によりをかけて、素敵な衣装を作ってあげるから。 千雨: いや、かけんでいい……!後生だから思いっきり手を抜きまくって、布面積を多くしてくれっ、頼む……! Part 04: ……そして、イベント当日。 千雨: …………。 私の願いは綺麗さっぱりと無視されて……。 それはもうきわどくてセクシーな衣装が菜央ちゃんとレナの手によって仕上がってきた。 千雨: おい……これは何の嫌がらせだ? 美雪(私服): いや、嫌がらせってそれは言い過ぎ……と、言えなくもないかな……これは……。 さすがの美雪も、できあがった衣装を見てからかいの言葉さえ思い浮かばないのか……絶句して目を丸くしている。 私に至っては、全身の血の気が一気に退くくらいの怖気と寒気を覚えて……この場で気を失ってしまいそうだった。 千雨: なぁ、菜央ちゃん……私はお前に嫌われるようなことを、何かしたか?だったら謝る、正直に言ってくれ……! 菜央(私服): 何を言ってるのよ。千雨はもっと、自分が女性としての魅力に満ちてることに気づくべきだと思うわ。ねっ、レナちゃん♪ レナ(私服): うんうん、その通りだよ~!千雨ちゃんは運動をしていて身体のラインがとっても素敵だから、きっと似合うんじゃないかな、かなっ♪ 千雨: ……ダメだ。この似たものコンビ、まるで人の話を聞いてない。 そう言って盛り上がる2人に頭を抱えながら私はすでに着替え終わった沙都子ちゃん、梨花ちゃんの衣装に目を向ける。 実に可愛い……可愛いとは思う……が。 彼女たちの中に自分が混ざることを考えると、とても穏やかな気分ではいられなかった。 詩音(私服): まぁまぁ、千雨さん。これもくじによる神様のお導きってことで、ね。 千雨: ……その神様が本当にいるんだったら、あつあつのピザを思いっきり叩きつけてやりたい気分なんだがな。顔面に。 千雨: ついでに、それに便乗してからかってくる不届き者にも八つ当たりをしてやりたい気分だ……! 詩音(私服): からかってなんかいませんよ。……ただ、いつもはクールに構えている千雨さんも苦手を前にしてはそんな顔をするんですねー、って。 詩音(私服): それを見ているのが楽しいだけです。くっくっくっ……! 千雨: それをからかってるって言うんだ……!だったらお前が着ろ!心が邪悪なお前だったらきっと悪魔はぴったりだ! 詩音(私服): あっ、じゃあ交換しますか? 実は私とお姉も、皆さんにだけお任せするのは申し訳ないと思ってあり合わせの服で仮装することにしたんですよ。 千雨: あり合わせの服……?それってどんなやつだ、普通の衣装か? 詩音(私服): えぇ、それを着て街中を歩いても全く違和感がないごくごく普通のものです。千雨さんは、そちらにしますか? 千雨: ……服を見てから考える。 詩音(私服): えー、ここで決断してくださいよー。でないと準備のなんやかんやで、二度手間になっちゃいますから。 千雨: 服を見てから考える。 詩音(私服): そんなこと言わずに、私を信じて……ね? 千雨: ――やっぱりじゃないか、この大嘘つきが!! 詩音が身にまとった衣装を見て、私は思わず怒声を上げてしまった。 詩音(魔女): そうですか?これくらいの衣装だったら、大都会の町並みを歩いていても違和感はないと思いますよ。 千雨: その都会ってのは、秋葉原か池袋のことか……?どう考えても普段着とは明後日の方向じゃないか?! 危なかった……!もしうっかり変えてくれ、と口にしていたらこれを着ていたかと思うと、悪寒がする。 美雪(白うさぎ): まぁまぁ……そんなわけだから、千雨もいい加減腹をくくりなよ。 美雪(白うさぎ): 今回は富竹さん、急用があって来ることができないって話だったし、撮影の方は大丈夫だって。 千雨: ……富竹さんはな。ただ、あっちで診療所の先生の姿が見えるのは私の目の錯覚か……? 入江: 素晴らしい……実に素晴らしい!まさか、こんなところでゴシックメイドさんと天使な沙都子ちゃんをお目にかかれるなんて……! 入江: かような光景は……まさに、至福ッ! 天国!!この入江京介、生涯の家宝といたしましょう!! 千雨: ……あの先生の撮影、止められんのか? 美雪(白うさぎ): 無理だね。ある意味で、富竹さんよりも厄介だもん。 千雨: じゃあ、悪化してるってことじゃないのか……? 美雪(白うさぎ): ……。頑張ってね、千雨!陰ながら応援してるよ~! 千雨: あっ、待て!逃げるな、おいぃぃいぃぃ?! そんなやり取りをしてから、本番前。仕方なくも皆に遅れて着替えるため、私は更衣室に戻ろうとしたが……。 千雨: ん……? なにげなく視線を向けた先にまたしても見覚えのある顔が見えて……私はあっ、と息を飲む。 「彼女」は、本来私が着るはずだった衣装をまとって観客の中に紛れ……背を向けながら、遠くに去ろうとしていた。 千雨: 一穂っ……お前、また私の代わりにそれを着て……?! 今度こそ捕まえてみせる、と勇み……私はその後を追いかけた。 そして遊園地のステージ前で追いつき、その手を掴んだ。 一穂(悪魔): ……千雨、ちゃん……? 千雨: ったく……お前はいったい、何なんだ?自分のことを忘れろと言ったくせに、首を突っ込んできて余計な気を回してきやがって。 千雨: 私はこの衣装を代わりに着てくれ、なんてお前に頼んだ覚えはないぞ。……まぁ、代わってくれるんだったら助かるがな。 一穂(悪魔): …………。 千雨: ……一穂。ほんとはお前……自分もこのバカ騒ぎに参加したいんじゃないのか? 千雨: だったらこそこそ隠れてないで、もう一度戻ってこい。辻褄合わせにも、できる限り付き合ってやるから。 千雨: ……ただ、説明してくれ。お前の意図がきちんとわかれば、以前のように疑って邪険な態度を取らないって約束する。 そう言うと一穂はうつむき……何かを考えるように黙り込む。 そして、しばらくしてから顔を上げ……私を見つめ返して、いった。 一穂(悪魔): ……ここまで来てもらったのは、それだけじゃないよ。 一穂(悪魔): 千雨ちゃんだったら、きっとひとりでもなんとかしてくれる……そう思ったから……。 千雨: ……? おい、それはどういう意味だ――、っ? その真意を確かめようと詰め寄りかけたその時、ステージの裏側から何やら焦げたような臭いが漂ってくる。 何かと思って目を懲らすと、そこには火をかけようとしている数名の不審者の姿があった。 千雨: お前ら……そこで何をしてる?! 男A: なっ……おい、見られたぞ! 男B: へっ……構うもんか、相手は女2人だ! そう言って男たちは、一斉に私を取り囲んでくる。 口封じにさらうか、それとも実力行使か。ただ、いずれにしてもはっきりしていることは……。 千雨: ……ふん。相手との力の差も見抜けないとはな……。 彼らが身の程知らずで、命知らずだという厳然たる事実だった……! Epilogue: ……そして、数時間後。 早い段階で消防を呼ぶことができたので……ステージ裏の放火は、なんとかボヤ程度で消し止めることができた。 そして犯人たちは残らず私の手で叩きのめし……詰めかけていた警察たちが連行していった。 千雨: ……ずいぶん手回しが早かったな。いくら人が集まる遊園地だとしても、こんなにも対応がいいものなのか? 魅音(魔女): あー……実はさ……。 詩音(魔女): ……すみません、千雨さん。実は遊園地の方に、脅迫状が届いていたんです。 千雨: 脅迫状……だと?! 詩音(魔女): 送り主は当然不明だったのですが……遊園地の運営を今すぐ休止しないととんでもないことが起きるって文面でした。 魅音(魔女): ただ、日程が確定していなかったし……とんでもないことの意味がわからないから、ただのイタズラだって思っていたんだよ。 魅音(魔女): もちろん警備は増やして地元警察にも巡回してもらったりしてね。けど……。 梨花(堕天使): みー。まさか放火騒ぎを起こそうと動いてくるとは、予想外だったのですよ。 ……警察立ち会いで面通しをした魅音によると、どうやら犯人グループは彼女たちの実家である園崎組の対抗勢力とのことだった。 最近の関連企業の好景気ぶりが目障りになり、鼻を明かすべく嫌がらせに出た……というのが見立てだという。 とはいえ、その証拠が出るという保証はどこにもないのだけど……。 魅音(魔女): 今思うと、例の委託詐欺とやらもその一環だったかもしれないね……。 魅音(魔女): みんなのおかげで色々助かったけど、危うくえらい目に遭うところだったよ。 美雪(白うさぎ): 魅音たちは村のことを思って頑張ってきただけなのに、それを面白く思わない連中はどうしても出ちゃうってことか……救われない話だね。 魅音(魔女): 報告が遅れて、本当にごめん。これ以上みんなに余計な面倒をかけるのはよくないって黙っていたんだけど……。 魅音(魔女): こんなにも連中が早い段階で実力行使に出てくるとは思わなかったから、かえって迷惑をかけちゃってさ……。 美雪(白うさぎ): まぁ、火事の被害も少なかったし、結果オーライだよ。 レナ(キャスト): あははは、そうだね。イベントの開始はちょっと遅くなっちゃったけど、今からでも間に合うんじゃないかな……かな? 詩音(魔女): えっと……いいんですか?皆さんにまた迷惑をかけてしまったのに、手伝ってもらうなんて……。 菜央(マッドハッター): もちろんよ。それにせっかく練習もしたんだし、全部なしにする方がもったいないわ。……そうよね、千雨? 千雨: ……あぁ、そうだな。私もそろそろ、腹をくくることにするよ。 そう言って渋々ながらも、着替えの準備に控え室へと向かうことにする。 そして、皆がめいめいの担当場所へと向かった後……詩音が私を呼び止めていった。 詩音(魔女): 千雨さん。……もしかして火事の現場を教えてくれたのは、「あの子」だったんじゃありませんか? 千雨: ……根拠は?それ次第で、私も答え方を変えさせてもらう。 詩音(魔女): くっくっくっ……その言葉だけで、答えは是非もなしですよ。それでは。 そう言って詩音は、含みを持たせた笑みで去って行く。 その後ろ姿を見つめながら、私は思わず言葉を漏らしていった。 千雨: 園崎詩音……お前は、一穂を見つけてどうしたいんだ……?