Part 01: ……美雪ちゃんが何気なく俺にいった言葉は、ある程度の好意があってのものだと思う。だから曲解して、悪くとらえるつもりは全くない。 それに彼女は、俺がレナや魅音たち#p雛見沢#sひなみざわ#rの連中にも隠していることをまさか知っているはずがないので、おそらく深い意味などはなかったのだろう。 だけど……いや、だからこそ俺は……それを素直に、そして冷静に受け取ることがどうしてもできなかったのだ。 圭一(私服): えっと……美雪ちゃん。そりゃどういう意味だ? 美雪(私服): 私が感じたままの印象だよ。前原くんってなんとなく、警察官向きの性格をしてるんじゃないかな、ってさ。 圭一(私服): 俺が……警察官……? 一瞬、いつものように冗談を言っているのかと思って苦笑いを返しかけたが……すぐに止める。 美雪ちゃんは、警察官に憧れを抱いている。そして大人になったら警察に関わる仕事に就くと皆に公言してはばからない。 そんな彼女が、警察のことを話題に出して相手をからかうとはとても考えられない。ということは、つまり……。 圭一(私服): えっと……聞いてもいいかな、美雪ちゃん。俺のどういうところを見て、そんな印象を持ったんだ? 美雪(私服): んー、そうだね。細かいところをひとつひとつ挙げていったら前原くん、照れ臭くなってこの場から逃げ出したくなるかもしれないけど……いい? 圭一(私服): ……目立つような何個かでお願いします。 俺自身のことを美雪ちゃんがどう思っているのか気にならないわけではなかったが、悪口だと落ち込むし褒め言葉でも居心地が悪くなってしまう。 そして彼女も、元々俺に面と向かって全てを言うつもりはなかったのだろう。あっさりと引き下がり、言葉を繋いでいった。 美雪(私服): まず、口が達者。理屈なのか屁理屈なのか相手がわからないうちに舌鋒鋭くたたみかけて、なんか納得させちゃう特技があるでしょ? 美雪(私服): あれって結構ユニークで、犯罪者とかには有効な手段だったりするんだよねー。 圭一(私服): ……なんか、詐欺師みたいな言われ方だな。まぁ、オモシロい能力扱いをされているのはちょっと不本意だが。 美雪(私服): ん? あぁ、「ユニーク」ってこの時代だとなぜかそういう意味で使われることが多いらしいね。 圭一(私服): この時代……って、どういうことだ? 美雪(私服): あ、ごめんごめん。こっちの話。で、私が言ったのはそういうことじゃないから。 美雪(私服): 「ユニーク」ってのは「独特」って意味で……他の人にはない特殊能力の持ち主ってことだよ。 圭一(私服): ……口のうまさって、警察には必要な力なのか? 美雪(私服): そりゃそうだよ。怪しいやつらへの聞き込みに、目撃者や参考人、容疑者への質問……話術に優れていないと聞き出すことは難しい。 美雪(私服): なんせ悪いやつらは、どうにかして逃げようとか自分の罪を軽くしようとか……相手をだますことばかり思考して戦いを挑んでくるわけだからね。 美雪(私服): その力を、正義の信念でもって使いこなしている前原くんは、警察官にうってつけじゃないか、ってさ。 圭一(私服): …………。 美雪ちゃんの説明を聞いて……俺はほろ苦い思いをかみしめながらひとつのことを確信する。 やはり彼女は、俺の過去について何も知らないらしい。……それは歓迎すべきことではあったが、同時に一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった。 圭一(私服): (もしかして、と思っていたんだが……それは俺の欲張りすぎだったってことだな) 美雪(私服): ? どうしたの、前原くん。私の言ったこと、そんなに変だった?それとも何か、不愉快なことを言っちゃった? 圭一(私服): いや、そんなことはねぇぜ。そもそも美雪ちゃんは冗談っぽく話しても素直だから、腹を立てるような気分にはならねぇしな。 圭一(私服): ただ……俺に正義の心があるってのは、とんだお門違いっていうか、買いかぶりすぎだ。 圭一(私服): だから正直、あんまり言ってほしくない……勘弁してくれるとありがたいぜ。 美雪(私服): ……。うん、わかった。変なことを言っちゃって、ごめんね。 圭一(私服): ……っと、もうこんな時間だ。お袋に買い物を頼まれているから、ちょいと行ってくるぜ。 美雪(私服): うん。呼び止めて話し込んじゃって、ごめんね。あと……。 圭一(私服): なんだ? 美雪(私服): そういうつもりじゃなかったんだけど……おかしなことを言っちゃって、本当にごめん。もう絶対、この話はしないつもりだから。 圭一(私服): ははっ、もう忘れちまったぜ!なんせ俺は、忘れっぽいことが取り柄だからさ!んじゃな! 美雪(私服): あっ……。 俺はいつも以上に脚に力を込め、半ば逃げ出すような速さでその場を立ち去る。 ……いや、逃げたというのは事実だ。俺は少しでも早く、その場から離れてしまいたかったんだ……。 Part 02: しばらくの間走って、走って、走り続けて……図書館が見えてきたあたりで俺は足を止め、乱れた息を整える。 止まった途端、全身に吹き出してくる汗……額からは大粒の滴がとめどなくしたたり落ち、アスファルトの地面に幾つものしみを作っていった。 圭一(私服): ……。美雪ちゃんに、悪いことをしちまったな。 今さらになって、そんな後悔が押し寄せてくる。 落ち着けば、もっと上手なごまかし方があったはずだ。とりあえずヘラヘラ笑って話を合わせるだけでも、美雪ちゃんに嫌な思いをさせることはなかったと思う。 …………。 だけど、……どうしても、できなかったのだ。彼女が本気であぁ言ったからこそ、俺は……。 大石: 前原さんじゃないですか。どうもこんにちは。 圭一(私服): ……大石、さん……? 大石: おや、どうしました。いつもよりお顔の色が優れない様子ですが、何か嫌なことでもありましたか? 圭一(私服): いえ、ちょっと……。 汗だくになった顔を手のひらで拭い、俺はなんとかその場をごまかす言葉がないものかと考えあぐねる。 圭一(私服): …………。 ただ、美雪ちゃんとのやり取りは俺にとって思った以上のダメージとなって心にずしりとのしかかっていたようで……。 つい、この「世界」だとそこまで親しくはないかもしれない大人の彼に向かって……弱い心のまま言葉を切り出していた。 圭一(私服): ……あの、大石さん。答えられる範囲で構わないので、意見を聞かせてもらってもいいですか? 大石: ふむ……うかがいましょう。といってもこんなジジィの古びた知識や助言が、今の若い子に通じるとは思いませんけどねぇ。 そう言って大石さんは、俺にとりあえずベンチへ座るよう促してから……どっこいしょ、とかけ声をひとつ吐き出して横に腰を下ろす。 ちょうどベンチの隅っこだったので、てこの原理から俺の座っていた箇所が軽く浮き上がり……。 地面に戻るや否や、若干の揺れとともにそれなりの衝撃が腰に伝わってきた。 圭一(私服): っとと……。 大石: おぉ、こいつは失礼しました。実は最近、また体重が増えたみたいでしてね。 大石: 医者からは酒を減らせと注意されているんですが私にとっては車とガソリンの関係なので、どうにも困っているんですよ……なっはっはっはっ! そう言って豪快に笑ってみせる大石さんに、俺は笑っているのかどうか曖昧な表情を返す。 ただ、それだけで彼は何かを感じたのだろう……軽く息をついてから、穏やかな表情を浮かべていった。 大石: で、K……じゃなく、前原さん。私に聞きたいこととは、いったいなんでしょうか。 圭一(私服): えっと、……大石さん。罪を犯した人間を捕まえることを、あなたはどう思いますか? 大石: ほぅ? 確かに、なかなか変わった質問ですね。ふむ……つまり犯罪者に対する警察としての姿勢を、私なりにお答えすればよろしいんでしょうか? 圭一(私服): あ、はい……変な質問で、ご不快に感じられるかもしれませんが……。 大石: いえいえ、そんなことはありませんよ。ふむ……そうですねぇ……。 大石: 私は警察官ですので、法に従って悪い連中を捕まえる。そして、仕事を終えた後はうまい酒を引っかけながら気心知れた仲間と楽しく笑顔でたたえ合う……。 大石: 私が刑事として職務に臨む姿勢は、それだけです。時々不条理めいたことも感じることもありますが、そのあたりはまぁ、酒を飲んで忘れたりしますよ。 圭一(私服): ……なんか格好いいですね、それ。男の中の男、ハードボイルドって感じがしますよ。 大石: なっはっはっはっ、あまりおだてないでください!偉そうなことを言ったところで、このビール腹が引っ込むわけでもありませんしね~! 圭一(私服): ……。あと、教えてください。犯罪者ってのは、やっぱりいつまでたってもその罪が消えたりしないんでしょうか? 大石: ……前原さん。その理屈だと、一度道を外せば人は永遠に救われないことになります。その結果、再び悪事に手を染めてしまう……。 大石: ならば、犯罪者は全て死刑にすべきでしょう。社会の治安維持を考慮すれば、よほど効率的と言えますからね。 圭一(私服): ……っ……。 大石: ですが……そんな社会は救われません。常に失敗に怯えながら、弱者は強者によって食い物にされるだけになってしまいます。 大石: そうなることで警察としての仕事が楽になり、酒をゆっくり飲める機会が増えたとしても……少なくとも私は御免被りますね。 圭一(私服): …………。 大石: あと、前原さん。警察の中にある交通機動隊というのをあなたはご存じでしょうか? 圭一(私服): 交通機動隊……それって、白バイに乗っている警察官のことですか? 大石: えぇ、その通りです。彼らは暇さえあればバイク操縦の練習に励み、その腕で交通犯罪を取り締まっています。 大石: ……その中には警察官になるまでは暴走族に所属し、スピード違反などで検挙された者もいたりするんですよ。 圭一(私服): えっ……? 大石: まぁ、好きが高じてってことでしょうね。あるいは、若気の至りかもしれませんが。 大石: ただ、そういった勘違い連中を悪と見なし、全ての可能性を奪ってしまうようなことがあったとしたら……どうです? 圭一(私服): ……っ……。 大石: あと、これは真面目な連中にとってあまり嬉しくないことなんでしょうが……検挙率は、元不良の方が高かったりします。 大石: 自分が悪にいたことがあった分、相手の考えや行動パターンがわかったりするのかもしれませんね。過ちも過去も、活かすのはその人次第です。 圭一(私服): 活かすのは、自分……。 大石: というわけですので、前原さん。警察でさえ、たかだか1度や2度の過ちくらいで誰かを見捨てたり、決めつけたりはしませんよ。 大石: むしろ、たとえ時間をかけてでも犯罪に手が染まってしまった人たちが改心してくれることを望んでいます。 大石: そいつが私の、刑事魂ってやつです。……こんなもので答えになりましたかね? 圭一(私服): ……。ありがとうございます、大石さん。話を聞いてもらって、考えを聞いて……少し、気分が楽になりました。 圭一(私服): もしよかったら、またこんなふうに話をさせてもらってもいいですか?もちろん、お酒にはお付き合いできませんが。 大石: えぇえぇ、いつでも大歓迎です。若い人との会話はいつも刺激的で、新鮮で……いいボケ防止になりますからね~。 圭一(私服): はは……それじゃ、また。 大石: …………。 赤坂: すみません、大石さん。東京との電話連絡が長引いてしまって……。 大石: あぁ、赤坂さん。こちらこそお忙しい中お呼び立てしてしまって、すみませんねぇ。 赤坂: あ、いえ……どうしました、大石さん?ずいぶん嬉しそうな顔をしているように見えますが、何かいいことでもありましたか? 大石: あぁ、はい。そうですね……なんと言いますか。5年前にあなたと出会った時のことを思い出しましたよ。 赤坂: 5年前……ですか?え、えっと……大石さんに笑われるような何か失礼なことでもしましたか? 大石: んっふっふっふっ……まぁ正直に言うと、生意気なやつだと感じたことは確かですけどねぇ。ですが不思議と、嫌な気分は感じなかった。 大石: あの時のことを、言葉にするのが難しくてなんとなく棚上げにしていましたが……今になって、近いものを思いつきましたよ。 赤坂: は、はぁ……ちなみに、それは? 大石: 悩んで迷いながらも前に進もうとする……謙虚な勇気ってやつです。 Part 03: 詩音(私服): おや……大石のおじさまじゃないですか。今日はどうしてこちらに? 大石: いや、実はここで探偵と怪盗の対決が行われると耳にしましてね。 大石: 警察側としては、ぜひとも応援すべきだと思って仕事を抜け出してきちゃいました……んっふっふっ! 詩音(私服): ……要するにサボりじゃないですか。警察に敬意を払っている美雪さんあたりがそんなことを聞くと、きっと悲しみますよ。 大石: ありゃ、そいつは失礼。あのお嬢さんにはそのあたりでうまいことを伝えておいてもらえると、ありがたいです。 詩音(私服): くっくっくっ……そうは言っても、聞いちゃったわけですしねー? 詩音(私服): あ、ちなみに私、伊藤博文さんとかのお顔を拝見すると、途端に記憶力が怪しくなります。聖徳太子さんだったら、速効です。 大石: それは立派な恐喝ですねー。すみませんが、どうか署の方にお越しください。 詩音(私服): あっはっはっはっ、冗談ですよ!そんなふうにマジに取らないでくださいって! 詩音(私服): っと、もうこんな時間です。そろそろ準備に取りかからないと……というわけで、失礼しますね。 大石: えぇ。どうぞお構いなく。……ん?なんだかあちらが騒がしいようですが、何かありましたかね? 圭一(探偵): っと、大石さんいいところに!お願いします、ちょっと手伝ってください! 大石: はて? 手伝うとはいったい……? 詩音(私服): 『さぁ! 本日のメインイベントです!名探偵VS大怪盗、ライバルとの対決の行方はいったいどこに……?』 圭一(探偵): この現場に残されたカード……いったいどんなメッセージが込められているのか、まるでわからねぇぜ。 大石: 鑑識の報告ですと、カードはあの場所にあったそうです。私たちに発見されることを前提に置かれていたようですが、この部屋は内側から鍵がかけられていました。 圭一(探偵): なるほど……つまりここは密室、誰も入ることができなかったってわけか。となると……。 圭一(探偵): ……オオイシさん。あんた、この屋敷にはいつ来たんだ? 大石: ? さっき着いたばかりだと申し上げたつもりでしたが……。 圭一(探偵): いや……違うな!あんたは昨日、ぎっくり腰になって自宅で療養しているはずなんだ! 圭一(探偵): なのに、そう簡単に立って歩けるはずがない!つまり全てのトリックを仕込んだのはあんた……。 圭一(探偵): いや、怪盗サトコ! お前のはずだ! 大石: っ……をーっほっほっほっ!見抜いてみせるとは、お見事ですわ~! 圭一(探偵): よし……ついに追い詰めたぜ、怪盗サトコ!ここが年貢の納め時だ、神妙にお縄につけぇぇ! 沙都子(怪盗): をーっほっほっほっ、残念ですわねぇ名探偵K!あなたのチンケな策に引っかかってしまうほど、私はヤキが回ってなどいませんわぁぁ! 圭一(探偵): んなっ……こ、これは煙幕……?さてはこれを目くらましにして、逃げる気か!みんな、注意しろよ! 一穂(探偵): う……うんっ! あやしいやつがいたら、絶対に逃がさないようしがみついて……あぁっ?! 美雪(キューティポリス): か、カズホっ……? しっかりして! 沙都子(怪盗): をーっほっほっほっ!探偵だの警察だのが束になってかかってきてもものの数ではありませんわ~! 美雪(キューティポリス): くっ……! 沙都子(怪盗): さぁ、これで勝負はつきましたわ!では約束通り、このお宝はいただいて参りましてよ~! 圭一(探偵): ……っ……! 圭一(探偵): く、くくく……くくくくっ、あっはっはっはっ! 圭一(探偵): 甘い、甘いぜ怪盗サトコ!お前が俺たちの罠を見抜いていたように、俺たちもこの手は想定済みだぜ! 沙都子(怪盗): んなっ……? そ、それは拳銃?!まさか、私立探偵でしかないあなたがどうしてそんな危険なものを持っているんですの?! 圭一(探偵): 探偵だからこそだよ! どんな手段を使っても、正義は勝たなきゃならねぇ……! 圭一(探偵): 法を守るよりも、正義を優先!それが俺のポリシーってやつだぁぁ!! 沙都子(怪盗): ふ、ふああぁぁああぁんんっっ?!こんなの反則も反則、インチキですわ~?! …………。 圭一(探偵): いやー、助かりましたよ大石さん!クライマックスで相棒の刑事役をやってもらうはずの葛西さんに、急用ができちまったそうで……。 圭一(探偵): 貫禄のある人がいるといないとじゃ劇の迫力が大違いだったから、手伝ってくれて助かりました! 大石: いえいえ、このくらいはお安いご用です。……とはいえ、いきなり台本を渡されて演技をしろと言われた時は、さすがに肝が冷えましたけどね。 魅音(私服): いやいや、いい感じでした!明日からもお願いしたいくらいですよ~! 大石: んっふっふっふっ、そんなおだてには乗りませんよ~。今回だけは前原さんの顔に免じて、特別です。 大石: ……まぁ、前原さんがいつもの元気を取り戻してくれたみたいなので、少し安心しましたけどね。 圭一(探偵): えっ? 大石さん、何か言いましたか? 大石: いえいえ、別に。ただの私の独り言ですよ、なっはっはっ!