Prologue: 職員室の、ドアの前――廊下に居並ぶほぼ全員が、緊迫した面持ちで佇んでいた。 表情を強張らせているのは魅音さんに沙都子ちゃん、そして美雪ちゃん。 その後ろでレナさん、羽入ちゃんが3人を心配そうに見つめている。私も、おそらく同じような表情だろう。 ……だけど、梨花ちゃんはその場の空気に逆らうかのように、なぜか楽しげな笑みだ。 さらに、あきれ顔の菜央ちゃんは自分は関係ないと言わんばかりにそっぽを向いていた。 菜央: ……スーパーのタイムセールが始まっちゃうから、あたしもう、帰ってもいい? 一穂: だ……ダメだよ。みんなで揃って行こう、って話になったんだから。 菜央: だって、あたし全っ然関係ないし……レナちゃんがどうしても、っていうからついてきただけよ。 そんな私と菜央ちゃんの会話をよそに、一同を見回した魅音さんは、真剣な視線を沙都子ちゃんと美雪ちゃんに向けた。 魅音: 沙都子、美雪。……2人とも、覚悟はできた? 沙都子: もちろんですわ。部活メンバーたるもの、いついかなる時でも一蓮托生……。 沙都子: 喜びも苦しみも、全員で分け合う心づもりでしてよ。 美雪: そうだね。一人だと逃げ……いや、怖気づいてるところかもしれないけど……。 美雪: こんなにも心強い仲間が一緒にいるんだ。怖いものなんて、何もないよ。 魅音: よし……あんたたちの覚悟はわかった。安心してていいよ、私が全部引き受けてあげるから。 そう言って、3人は頷きあう。そして魅音さんが代表してドアを開けた。 魅音: 失礼します。 開いたままのドアから、私たちはそっと職員室の中を覗き込む。 そこには、見ただけで背筋が冷えそうな、氷の微笑みを満面に浮かべた知恵先生が待ち構えるように立っていた。 知恵: よろしい、時間通りに来ましたね。……では、単刀直入にお聞きしましょう。あの騒ぎを始めたのは、誰ですか? 魅音: 沙都子です。 沙都子: 美雪さんですわ。 美雪: 魅音からです。 開口一番、3人は同時に自分以外の相手を素早く指さす。 その反応は彼女たちも意外だったのか、それぞれが焦った表情で口々に非難の応酬を始めた。 魅音: こら、沙都子! そもそも市民プールで遊んでる最中に、「鬼ごっこをやろう」って言い出したのはあんただろ?! 沙都子: 私は、あくまでプールの中でと申し上げたのです! 沙都子: 追い詰められたからといって、プールの外に逃げてもセーフ、とルールを変えたのは美雪さんでしてよ! 美雪: んなこと言い出したら、「逃げてばっかりじゃ面白くない」って鬼への反撃をOKにした魅音こそ、大騒ぎになった原因でしょーが? 美雪: なにあの、巨大水鉄砲?あれっておもちゃのレベルを超えてる威力じゃん!絶対最初から、あぁなる展開を狙ってたでしょっ?! どうにか自分だけでも助かろうと、3人は相手に責任を押しつけ合っている。 一穂: い、一蓮托生って……どういう意味だったっけ? 菜央: フレンドリーファイアの間違いじゃない? 知恵先生に呼び出された理由―― それは、先日遊びに行った市民プールで大暴れをしてしまい、他のお客さんやスタッフに迷惑をかけてしまったことだった。 ジェットスライダーなど、プール内施設の一部破損。プールに来ていた他のお客さん数名が巻き込まれて、軽い怪我……。 ひとつ間違えれば……いや、都会だと問答無用で損害賠償に発展してもおかしくなかったと思う。 明らかに「子どもの遊び」のレベルをはるかに超えた、乱痴気騒ぎ。……警察沙汰にならなかっただけでも格別の恩情というものだろう。 知恵: まぁ、それは謝罪も済ませているようなので許しましょう。未成年者にありがちな、遊びすぎの範囲内です。 一穂: なっ……そうなのっ?! 知恵: ですが――。 3人: ひぃぃいぃっ?! くわっ、と目を見開いて3人にすごむ知恵先生に彼女らは思わず後ずさる。隙間越しの私たちですら、全身が縮み上がるかと思うほどの迫力と圧迫感……?! 知恵: あなたたちが大乱闘をしたせいで、プール施設内のカレーショップが被害を受け、その日の営業が中止になってしまいました……! 知恵: この罪、万死に値します!プールの管理人さん、いえ神が許してもこの私が決して、断じて! 許しませんッッ!! 3人: ご、ごめんなさぁぁぁいっっ!! もはや猛獣の#p咆哮#sほうこう#rにも近い知恵先生の怒声に、3人はその場で土下座を始める。 それでも、先生の怒りは収まらない。仁王立ちになって、彼女たちにビシッと人差し指を向けて言い放った。 知恵: あなたたちは罰として、プールの休園日に掃除をするのですッ! わかりましたねッ!! 知恵: そこのドアの向こうにいる集団も、連帯責任ですッ!! 一穂: え……えぇぇっ?! Part 01: そして、数日後……私たちは休園日を利用して、修理作業を終えたばかりの市民プールへとやってきていた。 もちろん、泳ぐためではない。青空の下、濡れてもいいように体操着や水着に着替えてから、デッキブラシを片手に黙々と掃除を始める。 菜央(水着): はぁ……。なんで、あたしまで……。 事件当日は、レナさんと一緒に楽しく水泳の練習をしていた菜央ちゃんは、無関係のはずなのに、と不満そうにため息をついている。 レナさんが説得してくれていなければ、間違いなく抗議をして参加を断っていただろう。今も彼女がついているおかげで、なんとか我慢している感じだ。 レナ(水着): 手伝ってくれてありがとうね、菜央ちゃん。みんなでやれば、あっという間だよ~♪ 菜央(水着): レナちゃんが、そう言うんだったら……わかったわよ。 菜央ちゃんはぷいっ、と背を向けて、それでもレナさんからそんなに離れない距離で一心不乱にデッキブラシで床をこすっていく。 なんだかんだ言って、手を抜かないのは彼女のいいところだ。そして、 梨花(水着): たまにはこういうのも楽しいのですよ、にぱー。 羽入(水着): なのですー♪ 一穂(釣り): うん、そうだね。 そんな会話を交わしつつ、私たちはプールサイドを端から順に磨いていった。 今日は風もあって涼しく感じるものの、屋根もない場所にいると、頬や首筋には汗が伝っていく。 私は自分の割り当て分の一角を綺麗にし終えると、手の甲で汗を拭いながら辺りを見渡した。 一穂(釣り): ……この市民プールも、こうして見ると結構広いんだね。 レナ(水着): 普段と違って誰もいないから、余計にそう感じるよね。ふんふん♪ 隣にいるレナさんは鼻歌を交えながら、相変わらず楽しそうに掃除を進めていた。 一穂(釣り): レナさんは、どうしてそんなに楽しそうなんですか? レナ(水着): だって、お掃除ってきれいになっていくのが目に見えてわかるでしょ?だからレナは、お掃除結構楽しいかな……かなっ♪ 菜央(水着): ……さすが、レナちゃんよね。その前向きさは、やっぱりカッコいいかも……かも。 レナ(水着): もう、菜央ちゃん。あんまりおだてられると恥ずかしいかな……かな。 羽入(水着): あぅあぅあぅ……だったらあっちの3人にも、その元気を分け与えてほしいのですよ~。 一穂(釣り): ……あー、うん。 困った表情の羽入ちゃんが、指さした先にいたのは――。 沙都子(水着): ここって、プールですわよね……? なのにどうして、私たちは水浴びもできずに日干しになってるんですの……? 魅音(体操服): あー、あちぃ……。なんでこういう時に限って、雲ひとつない快晴なんだよ……。 美雪(水着): どばーって雨が降ってくれたら、全部綺麗にしてくれるのにねぇ。雨よ降れー、今すぐ大量に、全てを洗い流してしまえ~……はぁ。 3人はデッキブラシやホースを手にしているものの、手よりも口の方が動いているように見えた。 菜央(水着): ……そもそも、あの3人が原因なのにね。放っておいていいの、レナちゃん? レナ(水着): うーん……何か楽しめることがあるとか、頑張ったら何かいいことがあるとかだったら、きっとやる気になってくれると思うんだけど……。 菜央(水着): そんなの、罰にならないでしょ?それに、見返りが前提なんてあさましい考え方だと思う。 私たちは顔を見合わせ、苦笑いとため息を吐く。 一穂(釣り): まぁ、見てても仕方ないし……掃除の続きをしよう、ねっ。 レナ(水着): あははっ、そうだね!じゃあ頑張ってくれたら、レナがおいしい夕食を作ってあげるよ♪ 菜央(水着): なっ……やるわよ、一穂!見ててね、レナちゃん! 一穂(釣り): な、菜央ちゃん……?! モノにつられるのはよくないって、さっき言ってなかったっけ……? Part 02: レナ(水着): プールサイドの掃除は終わったし、次はプールの底だね。 菜央(水着): ということは、残り半分くらいね。さっさとやって、終わらせましょう。 一穂(釣り): う、うん……っ。 少し息が上がってきた私とは対照的に、菜央ちゃんの意気は揚々だ。そんなにレナさんの手料理が食べたいのだろうか。 一穂(釣り): (……うん、私も食べたいな。というわけだから、頑張ろう) 私たちは壁に備えついているはしごを使って、プールの下に降りていく。 一穂(釣り): 水を抜いたプールって、思ったより深く感じるね……。 羽入(水着): あぅ……それに、結構広いのですよ。 梨花(水着): みー。でも、そこまでは汚れていないのです。それに区切られてる分、さっきよりは楽な気がしますです。 魅音(体操服): そうかなぁ……おじさんは正直、へばっちゃってるよ……。 美雪(水着): 魅音がヘロヘロなのは、最初からでしょ~。まぁ、気持ちはわかるけどさ……。 しおしおとしている魅音さんと美雪ちゃんを横目にして、私たちは床を磨く前に、と石鹸をいくつか転がした。 魅音(体操服): それじゃあ……プール底の掃除、開始ぃ――。 沙都子(水着): をーっほっほっほっ! 隙あり、ですわぁ! その時、陽気な声を上げながら沙都子ちゃんが、突然ホッケーのように石鹸をデッキブラシで打ち飛ばしてくる。 一穂(釣り): わっ! レナ(水着): きゃっ! 魅音(体操服): うひゃぁぁぁっ! 私とレナさんはその石鹸を間一髪のところで避けたが、油断しきっていた魅音さんは見事に避けそこねてしまった。 さらに、元々石鹸で地面が滑りやすくなっていたこともあり、どっしーん、と思いっきり仰向けに倒れ込む。 一穂(釣り): み……魅音さん、大丈夫ですか……?! 魅音(体操服): や、やったなぁ……! くっ、これでもくらえ、沙都子っ! 魅音さんは起き上がるや、足元の石鹸を打ち返したが……そのパック――もとい石鹸は飛ぶ方向が変化。 ちょうど、しゃがんで底に沈んだ落ち葉を拾っていた美雪ちゃんのお尻にヒットしてしまった。 美雪(水着): ぎゃんっ?! 魅音(体操服): あ……。 美雪(水着): なにすんだよ、魅音っ! 魅音(体操服): あー、悪い悪い。手元がちょっとくるっちゃったー、あはっ。 美雪(水着): ……。おい。 魅音さんの雑な謝り方に、美雪ちゃんは低い声を上げてうつむく。前髪に隠れて、その表情は見えなかったけれど……いや、見たくない。 しかもこの後の展開が、読めすぎるほど読めててしまった。 羽入(水着): あぅあぅ……美雪の周りの空気が夏なのに、まるでブリザードなのです……! 梨花(水着): みー。夏の暑さもふっとぶ冷気なのですよ……。 美雪(水着): くふふふ……このホッケー部助っ人経験者の赤坂美雪さまを怒らせるたぁ、いい度胸じゃないの!くらえっ……おりゃおりゃ、おりゃっ、とりゃぁぁぁっ!! 魅音(体操服): ぎゃあっ! ぐへっ……あぼっ?! 沙都子(水着): わわっ、私もですのぉぉ?! あいたぁぁっ!! どこから取り出したのか、いくつもの石鹸を魅音さんと沙都子ちゃんに向けて乱れ打ち。あぁもう、結局また大騒ぎに……! 一穂(釣り): 美雪ちゃん、落ち着いて……、ひゃっ! 羽入(水着): あぅあぅ……大惨事なのです……気を確かに――ぼはっ?! 止めようとした私や羽入ちゃんの元にも、石鹸が飛んでくる。 一穂(釣り): というか……いくらなんでもどうして、こんなにもたくさんの石鹸が……っ? 梨花(水着): にぱー☆ 一穂(釣り): 梨花ちゃん?! はっと顔を上げると、いつの間にかプールサイドに上がっていた梨花ちゃんが、次々と段ボール箱に入っていた大量の石鹸をプールの中に投入していた。 菜央(水着): ……ふん、ばかばかしい。危ないから離れてましょう、レナちゃ――。 レナ(水着): け、けど……美雪ちゃん、そのへんで止め……あうぅ! 菜央(水着): レナ――ちゃん?!こんの……あんたたち、ブッコロがす!! 一穂(釣り): なっ、菜央ちゃんまでっ?! レナさんにまで被害が及んだことに怒った菜央ちゃんが、美雪ちゃんたちに報復すべく参戦したのをきっかけに――その場はどんどんカオス化していく。 このままでは収集がつかないと感じたのか、それともテンションが上りきってしまったのか……魅音さんが両手を広げて大声で宣言した。 魅音(体操服): よーし、だったら勝負だ! 被弾した数の一番多かった子が、罰ゲーム! 残りの掃除を1人でやるってのはどうっ?! 沙都子(水着): 望むところですわぁ! 負けませんことよ――っ! 美雪(水着): とりゃぁぁぁっ! だりゃぁぁぁっ! 一穂(釣り): な・ん・でっ? そうなるの――っ?! 晴天に響き渡るような声を上げる私だったが、その叫びに耳を貸す者は誰もいない。いるわけがない。 そして、理性を失った部活メンバーによる大乱戦が幕を開けた。 Part 03: 美雪(水着): はぁ、はぁ、はぁ……け、結果はどうなった? 菜央(水着): ……あたしとレナちゃんが、16……っ。あとは、沙都子が――。 一穂(釣り): (こ、こんな大乱戦の中でも相変わらず、冷静に数えてたんだね……) いきなり始まった、石鹸のぶつけ合いバトル――。 全員の息が入ったところで菜央ちゃんが息を切らせながらも、各自の被弾数を読み上げていく。 沙都子(水着): を……をーっほっほっほっ!やはり皆さん、私のテクニックの前にはかなわないようですわねぇ! 魅音(体操服): はっ……私だって負けてないさ! 美雪(水着): こっちも、十分1位が狙える位置だよっ……! 予想通り、身動きの素早い沙都子ちゃんと美雪ちゃん、魅音さんの被弾数は少ない。 菜央(水着): ……梨花も、結構避けてるわね。 梨花(水着): 余裕なのですよ、にぱー☆ 菜央(水着): で、残りの2人は……。 一穂(釣り): ……っ……。 羽入(水着): あぅあぅあぅ……。 やっぱり、動きの鈍い私と羽入ちゃんが、最下位争いをしているみたいだった。 魅音(体操服): くっくっくっ……!どうやら一穂と羽入のどちらかが、最下位決定のようだねぇ。 羽入(水着): あぅあぅあぅ~、見逃してほしいのですよ……! 一穂(釣り): って……羽入ちゃん、私の後ろに隠れないでよ……! 羽入(水着): あぅあぅっ! そう言いながら一穂も、背中を押すのはやめてくださいぃ~!! 隣同士にいた私たちはお互いを盾にしようとして、後ろに回り込み背中を押し合う。 そんな、見苦しいやりとりをしている間に私たちへと照準を合わせたのか魅音さんはにやりと笑い、デッキブラシを振りかぶった。 魅音(体操服): くっくっくっ……さぁーて、どっちを狙ってやろうかなぁ?右かなぁ? 左かなぁ……? 一穂(釣り): うぅっ……。 羽入(水着): あぅあぅあぅあぅ……! 魅音さんは舌なめずりをするような表情で、残り1つの石鹸を打ち込もうとする――が、 知恵: …………。 知恵: 何をしているのですか、あなたたち……っ?! 一同: っ、ななっ……?! 底冷えするような、低い地響きのような声に――私たちは、思わず息をのんで一斉に振り返る。 魅音(体操服): あっ……ち、知恵先生……っ? そこには、憤怒をあらわに腕組みして仁王立ちする知恵先生の姿があった。 知恵: 真面目に掃除をしているのかと、様子を見に来てみれば……これはいったい、どういうことですかっ……? 魅音(体操服): あ……あの、その……これは、えっと……?! 美雪(水着): えぇっと……ちょっとした休憩と言うか、息抜きと言うか……そのぉ……。 沙都子(水着): そ、そうですわ! 私たち、さっきまでずぅーっと真面目にやっておりましたのよ!で……ですので、ですから……っ? 必死になって、言い訳を考えるが……。 泡だらけになったプールと、自分たちの姿を前にして知恵先生を納得させられるような理屈など、あろうはずもなかった。 これはもう、再び説教、いやいや処刑タイムか……と、私たちは身をすくめて担任からの宣告を待ち受ける。 ――と、その時だった。 一穂(釣り): っ……あ、あれはっ……?! プールの排水溝から、にゅるっと黒い物体が押し出されるように現れたかと思うと、それは巨大な怪物の姿となる。 それは、アメーバのようにプールの底へと広がって……散らばった石鹸を身体の中へと取り込んでいった。 魅音(体操服): みんな! 言い逃れの大チャンス……じゃなかった、プールの中の魔物退治だ! 迎え撃つよ! 一同: おうっ!! Part 04: 魅音(体操服): よーし……っ、これで、全部っ? 一穂(釣り): うん、あれが最後の1体みたいだよ。 その言葉とともに、私の目の前にいたアメーバ状の『ツクヤミ』はすうっ……と空気の中に溶けていく。あとには、何も残らなかった。 レナ(水着): はう~、無事に倒せてよかったよ~。 菜央(水着): ホントね。……レナちゃん、怪我はない? レナ(水着): 菜央ちゃん、レナのこと心配してくれたの?はぅぅ……かぁいいよ……お持ち帰りぃ~♪ 菜央(水着): ぁいっ?! ほ、ほわわっ……? 盛り上がっているレナさんと菜央ちゃんを横目に、私たちは安堵のため息をついた。 梨花(水着): みー。みんな、とっても頑張ったのです。全員の連携がすごかったのですよ。 魅音(体操服): あはははっ、そうだねぇ。あいつらとのバトルのやり方が、みんなも板についてきたってことさ。 美雪(水着): うんうん、さっすが私たちってとこだね! 羽入(水着): あぅあぅ、あっという間だったのですよ~。 沙都子(水着): そうですわね。あーんな大量に、床でへばりついていたあいつらも、これで――。 沙都子(水着): って、みなさんっ?見てくださいませ、ほらっ! 羽入(水着): あぅあぅっ?ぴ、ぴんぴかぴん、になってるのですよ……! 羽入ちゃんの言葉通り、さっきまでプールの底全域に広がっていた石鹸の泡が、『ツクヤミ』とともにきれいさっぱりなくなっている。 それだけではなく、プールの底に残っていた木の葉や汚れも、一緒に消えて――。 まるで掃除を終えたばかりのように、プールはピカピカに磨かれていた。 知恵: な、なんと……プールの底が、こんなにもピカピカにっ?! 知恵: はっ? つまり、ひょっとしてこれは……プールの中に棲むやつらの特性を利用した、あなたたちの作戦だったのですか? 一穂(釣り): え? いえ、それは違――もがっ……? 私が偶然だと口にする前に、美雪ちゃんが背後から羽交い締めする。そして、 美雪(水着): いやー、さすがは知恵先生、見事なご推察です!プールに巣食ってた連中は、どうやら石鹸の泡が好物みたいでしてね。 美雪(水着): 排水溝の奥に逃げ込んでたところを外に誘い出して、やっつけるつもりだったんですよー。ねっ魅音、沙都子? 魅音・沙都子: そうです! 美雪の言うとおりです!(そうですわ! 美雪さんの言うとおりですのよ!) 知恵: まぁ、そうだったんですね。すごいです、皆さん! 先生は感動してしまいました! 魅音(体操服): ははっ、これくらい部活メンバーなら当然つーか……ねっ? 美雪(水着): 私たちが一致団結すりゃ、これくらい余裕だよ! 沙都子(水着): をーっほっほっほっ! その通り!私たちの考えた作戦に不備などございませんことよ!! 知恵: お見事です……!あなたたちの勇気と知恵のすばらしさを、先生はしかと見させていただきましたよ。 魅音(体操服): いやー、そんなに褒められたら照れちゃいますよ~。あははははっ! 盛り上がる知恵先生と、魅音さん、沙都子ちゃん、美雪ちゃんと違って……。 一穂(釣り): うん、まぁ……。 レナ(水着): そう……だったの、かな? かな……。 菜央(水着): はぁ、調子いいんだから……。 羽入(水着): よくもまぁ、あれだけ口からでまかせをすらすらと言えるものです……。 梨花(水着): にぱー☆ 残りの面々は、世にも微妙な笑顔を浮かべて魅音さんたちを見つめていた――。 Epilogue: 掃除を終えた私たちは、デッキブラシやホースを片づけてプールサイドの場所に戻ってきた。空っぽになっていたプールにも、なみなみと水が注がれている。 美雪(水着): いやー、こういう時だけは『ツクヤミ』様々だねぇ。てなわけで、プール掃除は完了、っと。 一穂(釣り): 予定より早く終わって、よかったね。 知恵: みなさん、お疲れ様です。プールの管理人からのご提案で、掃除のご褒美として遊んで帰っていい、とのことですが、どうしますか? 魅音(体操服): えっ? それってつまり、貸し切りってことですか?! レナ(水着): はぅぅ~! みんなでプール遊び♪ プール遊び♪ 美雪(水着): もちろん、ありがたく頂戴させてもらいます!ひゃっほーう♪ 喜びの声を上げた私たちは、早速更衣室へと駆け出していく。念のためにと思って、水着を持ってきて正解だった……! 知恵: あっ……こらっ!だからと言って、プールサイドで走っちゃだめですよ! 一同: はーいっ!! 沙都子(水着): やっぱりプールは、水があってこそですわ~♪いきますわよ~っ! えーいっ! 菜央(水着): きゃっ? な、何するのよ……! レナ(水着): 沙都子ちゃん、ビーチボールとドッジボールは遊び方が違うんじゃないかな……かな。 羽入(水着): あ、あぅあぅあぅ……。遠くへ飛んでいっちゃったのですよ。 沙都子ちゃん、菜央ちゃん、レナさん、羽入ちゃんは輪になってビーチボール遊びを楽しんでいる。 その隣のレーンでは、魅音さんと美雪ちゃんが競泳プールで勝負の真っ最中だった。 魅音(水着): うりゃりゃりゃりゃ! 負けないよぉぉぉぉ――! 美雪(水着): わぷっ! バタ足の勢いやばすぎっ!でも、私も負けないからぁぁぁぁ! そんな中私はプールサイドに腰かけながら、辺りを見回していた。 一穂(釣り): あぁ、私はどうしようかなぁ……ちょっと疲れたし……。でも……。 ひとりでのんびり過ごすのもいいけれど、せっかく貸し切り状態のプールなのに、ただ座っているのも少しもったいない気がする……。 梨花(水着): ――ちょん、ちょん。 一穂(釣り): わっ……! いきなり、背中をつつかれて思わず振り返る。するとそこには、ビート板を抱えた梨花ちゃんが立っていた。 一穂(釣り): あ……梨花ちゃん。どうしたの? 梨花(水着): みー。せっかく広いプールが使えるので、泳ぎを教えてほしいのです。バタ足でもう少し、上手に進めるようになりたいのですよ。 一穂(釣り): ……梨花ちゃん。 そう誘われて、私は彼女が声をかけてくれた理由を理解する。 きっと梨花ちゃんは、大騒ぎはしたくない、でも、ひとりだけで過ごすのは寂しい……。そんな、私の気持ちを汲み取ってくれたのだろう。 彼女のそんな思いやりが温かくて……とても嬉しく、ありがたいと感じた。 一穂(釣り): うん、いいよ。どこのプールで泳ぐ? 梨花(水着): 一番端の、あっちへ行くのですよ。みんなからも目立たないので、穴場なのです。 一穂(釣り): わかった。……。 梨花(水着): ……みー? どうかしましたか、一穂? 一穂(釣り): えっと、その……梨花ちゃんって、いつもちゃんとみんなのことを見ているよね。そういうところ、私はすごいな……って思ったんだ。 梨花(水着): みー。ボクはみんなが笑顔でいてくれるのが、一番楽しいのです。 梨花(水着): そのためならいたずらでもなんでも、喜んで参加するのですよ。にぱ~☆ 一穂(釣り): あはははっ。じゃあ、行こっか。 私たちは笑い合いながら端っこのプールへと向かい、その中に入る。 ……心なしか、冷たいはずの水が少しだけあたたかいようにも感じられていた。 Part A1: 美雪(私服): いやー、今日は市民プールを堪能できたねー!テッテー的に綺麗にしたから水も気持ちよくて、なんか得しちゃった感じだよ! うんうん! 菜央(私服): ……なんて恩着せがましいことを言ってるけど、そもそもプールの清掃をやることになったのはあんたたち3人のせいだって、忘れないようにね。 美雪(私服): おぅっ……そうやって責めないでよ。私たちだって、みんなに迷惑をかけて申し訳ないって反省してるんだしさ……。 梨花(私服): みー。あんまりきつく言い過ぎると、逆ギレした沙都子がもっと恐ろしいイタズラをやりかねないのですよ。 沙都子(私服): し……しませんわよ、失礼なっ!まるで執念深い性悪女のようなイメージを菜央さんに植えつけないでくださいましっ! 一穂(私服): あ、あははは……でも、綺麗なプールでいっぱい泳ぐことができて楽しかったね。 羽入(私服): あぅあぅ、普段はあれだけ大きなプールを貸し切ったような状態で使うことはないので、いい思い出になったのですよ~。 菜央(私服): まぁ……そうね。その代わり、食べ物とかのお店がどこも休みで閉まってたのは残念だったかも……かも。 レナ(私服): はぅ~……だったら菜央ちゃん、もうすぐ夏休みだからレナと一緒に改めてあのプールへ行くのはどうかな、かな? 菜央(私服): えっ……ほ、ホントに?行くっ! もちろん行くわ!! 美雪(私服): んー……ここは口を挟まず、菜央とレナの2人だけにしてあげたほうがよさそうだね。 一穂(私服): うん、そうだね。私たちはその後か、別の日にでも……あれ? 圭一(私服): おっ……なんだ、みんな揃ってプール帰りか?けど、今日は市民プールって休みだったような……。 美雪(私服): プールを大掃除する代わりに、試運転を兼ねてちょっと使わせてもらったんだよ。前原くんこそ、電車に乗ってどこに行ってたの? 圭一(私服): 俺は穀倉に出て、夏期講習の申し込みだ。夏休みが始まる前に手続きをしておかないと、すぐに締め切られちまうって聞いたからさ。 レナ(私服): はぅ……すごいね、圭一くん。夏休みの宿題以外に塾にも通うなんて。 圭一(私服): へへっ、勉強自体は嫌いじゃないしな。……それと俺の場合、今回の夏期講習はリハビリみたいなもんだ。 圭一(私服): 少し前だと塾なんて、話を聞くのも嫌だったんだが……こっちで生活をしているうちに少しは余裕ができたし、取り返していこうってな。 一穂(私服): リハビリ……取り返すって、どういうこと? 圭一(私服): あ、いや……こっちの話だ。大したことじゃないから、気にしないでくれ。 一穂(私服): う、うん……。 圭一(私服): ……それはそうと、魅音。さっき詩音と会ったんだが、お前のことを探している様子だったぞ? 魅音(私服): えっ、詩音が……? 圭一(私服): あぁ。なんでもお前のお袋さんと鬼婆……じゃなかった、お祖母さんが今回の一件で色々と聞きたいことがある、だそうだ。 魅音(私服): んなっ?そ、それは……えっと……。 魅音(私服): わ……私、急用を思い出しちゃった!2、3日の間は身を隠して旅にでも出るから、詩音にはそう伝えておいて――のはっ?! 詩音(私服): やっと見つけましたよ……お姉。さぁ、私と一緒に本家へまいりましょう。 魅音(私服): し、詩音……あんた、いつの間に……っ? 詩音(私服): お二方とも、奥の座敷でお待ちです。それぞれ家宝の日本刀をお手入れしながら、お姉を出迎えてくれるそうですよ……? 魅音(私服): いっ……いやああぁぁああっっ?2人から何を言われて何をされるのか、もうすでに想像できる地獄なんて行きたくないいいぃぃい?! 詩音(私服): 残念ですが、お姉の意思なんて関係ありません。もちろん選択権もありませんので……葛西? 葛西: ……魅音さん。どうかおとなしく、後部座席に乗ってください。私も詩音さんもできる限りフォローしますので。 魅音(私服): じょ、冗談じゃない……!葛西さんはまだしも、詩音が助け船を出す絵面が全く頭の中に浮かんでこないっての! 魅音(私服): むしろ船底に大穴を開けて私を自沈させるか、爆薬を仕込んで派手に轟沈させるとしか思えないよ! 詩音(私服): おや……?くすくす、そんなこと言うんですか……お姉? 詩音(私服): 気が変わりました。だったらお望み通りにしてあげるとしましょう。骨は拾ってあげますので……くっくっくっ! 魅音(私服): ちょっ……ま、待って!今回の一件は私だけが悪いんじゃなくて、ことの始まりは美雪と沙都子が――のぶぁ?! 詩音(私服): はい、乗車完了っと。それじゃ皆さん、ごきげんよう~♪ 葛西: ……失礼します。 沙都子(私服): まさに拉致、としか言えないようなやり取りで連れ去られていきましたわね……。 梨花(私服): 魅ぃはボクたちの犠牲になってくれたのですよ。なむー。 美雪(私服): いや、犠牲って死んでないから!……と言いつつ、それも時間の問題のような気がするけどさ……。 一穂(私服): あ、あははは……。