Part 01: 富竹: 着いたよ、一穂ちゃん。降りる場所はここでいいかな? 一穂: ……あ、はい。すみません、こんなところにまで車で送ってもらっちゃって……。 富竹: はは、これくらいはお安い御用さ。君の家からだとこの診療所までは、歩くと結構あるからね。 富竹: うまい具合に、近くを通りがかることができてよかったよ。また機会があったら、いつでも遠慮なく頼ってくれていいからね。 富竹: それより、具合の方はどうだい。さっき見た時は顔色が悪そうだったけど、車で酔ったりはしなかったかな? 一穂: そんなことないですよ。富竹さんの運転、すごく上手で助かりました。 富竹: はは、ありがとう。それを聞いて安心したよ。 一穂: 富竹さんはこの後、どうされるんですか? 富竹: 僕はこれから、あっちに見える村外れの辺りを撮って回るつもりだよ。 一穂: あんな遠くまで……?あ、だから今日は車なんですね。 富竹: うん。あそこまで自転車で行くのは、さすがに骨が折れるからね。 一穂: そうですか。気をつけてくださいね。 富竹: ……君も、あまり無理をしないようにね。体調が悪いようだったら、入江先生に言って少し休ませてもらうといいよ。 一穂: わかりました。富竹さんも、お気をつけて。 富竹: うん、ありがとう。それじゃ。 一穂: …………。 一穂: (富竹さん、すごく心配そうにしてた……私、そんなに元気なさそうに見えたかな?) 一穂: ……早く元気にならないと、だね。このままじゃ、美雪ちゃんたちにまた心配をかけちゃうし……。 一穂: ……ってあれ、前原くん? 圭一: ……ん? あぁ、一穂ちゃんか。こんな朝早くから会うなんて、奇遇だな。 一穂: う、うん……診療所に来てるってことは、前原くんもまだ体調が戻ってないの? 圭一: ……あぁ。とりあえず、変な夢を見てうなされることはなくなったんだけどさ。 圭一: まだ、眠りが浅いというか……どれだけ寝ても疲れが取れない感じで。 一穂: そうなんだ……早く良くなるといいね。 圭一: ははっ、気遣ってくれてありがとな。 圭一: で、そういう一穂ちゃんの方はどうだ?まだ元気って言えるほどじゃないみたいだけど。 一穂: うん……私も、前原くんと同じかも。 一穂: 富竹さんに、診療所の近くまで送ってもらったんだけど……すごく心配かけちゃったみたいで。 一穂: 私、そんなに元気ないように見えるかな? 圭一: いや、俺には元気そうに見えるけど俺自身がこんな感じだから……あんまりアテにならないな。 圭一: 俺はもう診察終わったけど、一穂ちゃんも監督によく見てもらったほうがいいぜ。話を聞いてもらうだけでも、気が楽になるしな。 一穂: わかったよ。前原くんも、気をつけて帰ってね。 圭一: おぅ、もちろん。んじゃ、またな。 一穂: …………。 一穂: (前原くんの方こそ、かなり無理をしてるように見えたけど……大丈夫かな? 一穂: (何か、よくなる方法があればいいんだけど……) 羽入: ……あぅあぅ、一穂? 一穂: あ、おはよう羽入ちゃん。……もしかして、まだ体調がすぐれないの? 一穂: (前原くんや私、他にもいろんな人が悪夢にうなされたあの事件……) 一穂: (その事件の中で、梨花ちゃんと羽入ちゃんが消えて……古手神社の巫女さんは絢花さんに変わっていた) 一穂: (梨花ちゃんと羽入ちゃんが戻ってくるのと入れ替わるように、絢花さんが消えて……前原くんや私も悪夢から出られたけど……) 一穂: (もしかして、羽入ちゃんにも後遺症が……?) 羽入: 僕はとっても元気なのです。今日はここで定期検診を受けている梨花を迎えに来ただけなのですよ。 一穂: あはは、そっか。……羽入ちゃんは強くて、ちょっと羨ましいなぁ。 羽入: それはそうと、一穂。さっきまでここに、圭一がいませんでしたか? 一穂: うん。でも、どうしてわかったの? 羽入: さっき、向こうの道を自転車で走っていく圭一の姿を見かけましたのです。 羽入: ただ、声をかけても返事がなかったので……もしかしたら見間違いかと思ったのですよ。 一穂: そうなんだ。きっと前原くん、用事があって急いでて気づかなかったんじゃないかな……? 羽入: いえ……むしろ、ふらふらとして危なっかしい感じだったのです。だから声をかけたのですが……。 一穂: ……。やっぱりまだ、この前の一件の後遺症が残ってるのかな。 羽入: あぅあぅ……圭一には悪いことをしてしまったのですよ。 一穂: ううん、羽入ちゃんたちは悪くないよ。2人だってこんなことになるなんて知らなかったんだよね? 羽入: はい……僕たちが助けを求めた相手を、同じように悪夢に引きずり込んでしまうなんて想像もつかなかったのです。 羽入: ……圭一に避けられても、仕方ないことだとわかってはいるのです。 羽入: それでも、少し寂しいと思ってしまうのは僕のワガママなのですよ……あぅあぅ。 一穂: そんな、ワガママなんて……。 一穂: (どうしよう、羽入ちゃんまで落ち込んでる……でも、私じゃどうすればいいかなんてわからない) 一穂: (だったら……!) 一穂: 羽入ちゃん、みんなに相談してみようよ。 羽入: あぅあぅ……? 一穂: 前原くんが元気になる方法、みんなで考えてみようよ。私じゃ思いつかないけど、みんななら……。 羽入: ……わかりました。このあと梨花に話して、みんなとも相談してみるのですよ。 一穂: うん! Part 02: 圭一(私服): ……なぁ、みんな。こんなところに呼び出して、何の用なんだ? 美雪(私服): まぁまぁ、そう焦らないで。 魅音(私服): まずはついてからのお楽しみってことでさ♪ レナ(私服): はぅ……一穂ちゃんから聞いたよ。圭一くんが、最近よく眠れていないって。 菜央(私服): その特効薬として、ちょっとした企画を立ち上げてみたのよ。楽しんでいってもらえると、嬉しいわ。 圭一(私服): き、企画……? 気持ちはありがたいが、なんか怖い感じもするよな……。 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!見もしないうちに怖気づいて尻込みするなんて、いつもの圭一さんらしくありませんわねぇ~? 圭一(私服): んだとぉっ? 別にビビってなんかいねぇよ!ただ、ちょっとその……。 美雪(私服): 大丈夫、大丈夫。今回の企画は魅音とかじゃなく、梨花ちゃんと羽入が提案したものだからさ。 圭一(私服): ……梨花ちゃんと羽入が?それならまぁ、まだ心配はいらねぇか……。 魅音(私服): おぉい圭ちゃん、それどういう意味ぃ?! 美雪(私服): はいはい魅音、ここは抑えて抑えて。 詩音(私服): 実はですね……エンジェルモートの新作や期間限定コスチュームを発表する場所として、このゲストハウスを使うことになりまして。 詩音(私服): それで今回は、第一回目としてテーマを梨花ちゃま発案の「デビル娘」ってのはどうか、ってことになったんですよ。 圭一(私服): でっ、「デビル娘」ぇ……?なんか響きからして不安満載なんだが……大丈夫なのか? 羽入(小悪魔): ……あぅあぅ、心配はいらないのですよ。 圭一(私服): そ、その声は……?! 羽入(小悪魔): あぅあぅ……圭一。僕たちのお茶会に、ようこそなのですよ。 圭一(私服): っ? な、ななっ……そ、その格好は? 圭一(私服): ひっ……ひいいいぃぃいぃぃっっ?! 一穂(私服): ま……待って、前原くん!逃げ出さないで、ちゃんと見て! 圭一(私服): っ、か……一穂ちゃん? 一穂(私服): ……ごめんね、前原くん。嫌なことを思い出させちゃって……でも……! 一穂(私服): あの夢で見た女の子たちって……もしかして、こんな感じじゃなかった? 圭一(私服): ……っ……?! 羽入(小悪魔): ……あぅあぅ。 圭一(私服): た……確かに。こんな感じだったような気がする。 羽入(小悪魔): 圭一……今の僕は、怖いですか?やっぱり恐ろしいと感じますか……? 圭一(私服): 全然、怖くない……いや……むしろ可愛い……? 一穂(私服): 悪夢の中の悪魔も、可愛くなかった?よーく思い出してみて? 圭一(私服): た……確かに。よくよく考えてみたら、全然怖くもなんともなかった……気がする……。 圭一(私服): むしろ、結構イケている……っ?! 梨花(小悪魔): みーっ!ここから出してくださいなのですよ~♪ 圭一(私服): うぉっ、梨花ちゃん?! 梨花(小悪魔): ……どうですか、圭一? レナ(私服): はぅ~、2人ともとってもかぁいいよ~! 圭一(私服): た、確かに……これは、かぁぃい……! 詩音(私服): アリですか、ナシですか? 圭一(私服): そうだな、アリかナシかで言えば……。 圭一(私服): どっちもアリだ!むしろこんな可愛い悪魔ならいくらでも夢の中に出てきてほしいくらいだぜ! 一穂(私服): やったぁ! 梨花(小悪魔): みー! 詩音(私服): では一件落着ですね。めでたしめでたしです。 沙都子(私服): ……詩音さん、一仕事終えたいい顔していらっしゃいますわね。 魅音(私服): 詩音、あんたね……一穂と梨花ちゃんの相談に、バイトの困りごとをうまいこと絡ませてきただけでしょうが。 詩音(私服): いいじゃないですか、一石二鳥で。 レナ(私服): あははは。終わりよければすべてよし、ってことだね。はぅ♪ 菜央(私服): えぇ、そうね。ふふっ……。 梨花(小悪魔): にぱー☆ Part 03: 美雪(私服): いやー、始めた時はどうなるかと思ったけどうまくいってよかったよ! 菜央(私服): そうね。前原さんも喜んでくれたみたいだし、あの分なら大丈夫そうね。 沙都子(私服): それにしてもいくら小悪魔がテーマとは言え、なかなかハードなコスチュームですわね。 梨花(小悪魔): みー、次は沙都子も一緒に着るのですよ~! 沙都子(私服): えぇ……?これは罰ゲームの衣装としてもギリギリですわよ? 菜央(私服): へぇ、そういうこと言うのね……。 菜央(私服): じゃあもう一着作っておくから、次の罰ゲームで沙都子に着てもらうわね。 沙都子(私服): あら菜央さん、私に勝つおつもりですの?返り討ちにしてさしあげますわ~! 羽入(小悪魔): …………。 一穂(私服): あ……お疲れさま、羽入ちゃん。色々と頑張ってくれて、ありがとうね。 羽入(小悪魔): あ、一穂……。 一穂(私服): 大丈夫? 疲れてるなら、お茶会の前にちょっと休憩する? 羽入(小悪魔): あぅあぅ、心配してくれてありがとうなのですよ。 羽入(小悪魔): でも、疲れたなんて言っていられないのですよ。圭一があんなふうになったのは、僕たちが驚かせてしまったことが原因なのです。 一穂(私服): 羽入ちゃん、それは……。 羽入(小悪魔): それに、圭一が元気になってくれたので僕と梨花も元気になれた気がするのです。 一穂(私服): そうだね。友達が悲しい顔をしてると、自分も悲しくなっちゃうもんね。 羽入(小悪魔): ……。一穂も例外ではないのですよ? 一穂(私服): えっ……な、何が? 羽入(小悪魔): 圭一が元気をなくしていたのは、僕と梨花のせいでした。でも、一穂の場合は……違いますよね? 一穂(私服): …………。 羽入(小悪魔): あの絢花という人は……あなたにとって、とても大事な人だったのではないのですか? 一穂(私服): ……わからない。名前以外、今もあまり思い出せないから。 羽入(小悪魔): 絢花と僕たち、一緒にいられる方法があったのかもしれないのに……それを、見つけることができなかった。 羽入(小悪魔): それがとても、あなたに対して申し訳ないと思っているのですよ。 一穂(私服): ……そんな顔をしないで、羽入ちゃん。 一穂(私服): あの世界は、……間違ってた。絢花さんだって、わかってくれてたし……あれが最良の選択だったんだよ。 羽入(小悪魔): もし、そうだとしても……自分が消えることをよしとできる人間がいるのでしょうか? 一穂(私服): それは……さすがに、絢花さん本人に聞いてみないとわからないかな。 一穂(私服): ねぇ……羽入ちゃん。古手家に親戚の人って……いたりするの? 一穂(私服): 梨花ちゃんの代わりに神社を守ってたってことは、古手家の親戚の人の可能性があるんじゃないかな? 羽入(小悪魔): ……僕が知っている範囲だと、近隣の場所に住む親戚は誰も思い当たらないのです。 羽入(小悪魔): あと、分家の人はみんな戦争で亡くなったと聞いたことがあるのです。でも……。 一穂(私服): でも……なに? 羽入(小悪魔): 古手家には、家系図があるのです。ただ、その家系図から誰かが意図的に消されていたとしたら……。 羽入(小悪魔): もしくは、戦争で死んだと思っていたけど生き残った人がいて、その子孫がいないとは限らないのですよ。 一穂(私服): 羽入ちゃんたちが、知る方法がない……? 羽入(小悪魔): もしそうだとしたら、辿りたくても、辿る方法が見当たらないのです。 一穂(私服): そっか……そうだよね。 羽入(小悪魔): でも……近いうちに、探してみます。 一穂(私服): えっ? 羽入(小悪魔): 時間がかかるかもしれませんし、探すだけ時間の無駄かもしれないのです。 羽入(小悪魔): ……でも。そういうリスクを背負ってでも僕は絢花に会ってみたいのです。 羽入(小悪魔): だから、もしもの時は……一穂。圭一と僕たちの仲直りを手伝ってくれたように、探すのを手伝ってくれますですか? 一穂(私服): もちろんだよ。私も、また絢花さんに会いたいから。 羽入(小悪魔): ありがとうなのですよ、一穂。……いつか一緒に、絢花と会うのです。 一穂(私服): うん!