Part 01: #p雛見沢#sひなみざわ#rの子たちと親睦を深めるため、朝食の後すぐに白熱(?)した戦いを彼女たちと繰り広げてきたことはまた別の機会で話すとして……。 いろんな意味で身体だけでなく気持ち的にも疲れた俺はこの近くにゆっくり休める適当な場所はないものか、とリーダー格の園崎に教えてもらうことにした。 魅音(私服): 休める場所? うーん、そこで何をやるかで意味合いが変わってくると思いますが……ちなみに、どういったところをご希望ですか? いや、むしろ何もやりたくないから誰もいなくてごろりと横になれるような場所がベストなんだが。 そう返そうと考えて口を開きかけたところ……耳ざとくこちらの話を聞きつけたのかハルヒが割って入り、俺を押しのけるように口を挟んでいった。 ハルヒ: 確かに、ちょっと何か食べるものが欲しい感じね。第2ラウンドの開始前に腹ごしらえといきましょう! ハルヒ: この近くに美味しいご飯を食べられるような、おすすめのお店ってあったりする? ……俺は文字通りに休むつもりでいたのだが、ハルヒは疲れからの回復よりも空腹を満たす方が優先らしい。異能力バトルを繰り広げた後だというのに、元気なものだ。 それにしても、現在の時刻は確かに正午に近いとはいえ今日の朝食でハルヒは2人分、いや3人分は軽くペロッと胃袋の中に収めたはずだが……あれはもう消費したのか? ハルヒ: 結構派手に運動したんだから、当然じゃない。ただ突っ立ってただけのあんたと一緒にしないで。 そういうお前だって攻撃の時以外は長門と古泉、あと時々俺をこき使って後ろでふんぞり返ってただけだろうが。ナマケモノの方がぶらさがってる分、まだ運動してると思う。 それより、第2ラウンドとはどういうことだ。例の「カード」の力まで駆使して激戦を繰り広げたというのにまだやる気か? 俺はもう帰って寝たい気分で一杯なんだが。 古泉: 確かに、少しお腹が空きましたね。ではおいしいものを食べて英気を養い、次の試合に備えるとしましょう。 なのに、古泉があっさりと同意するものだからハルヒの頭からはすでにそれ以外の選択肢が蹴散らされ、園崎に案内を頼んで一同は移動を始めつつあった。 有希: …………。 みくる: あの、あたしは美味しいお茶が飲めるところだとすごく嬉しいんですが……きゃっ? 長門はもちろん何も言わず語らずなので問題ないが、朝比奈さんはせっかくの要望を聞いてもらえているのか不明なままハルヒに引っ張られている。実に気の毒だ。 そして、残りの俺は――。 ハルヒ: 何してるのよキョン。さっさとついてこないと、置いてくわよ。 ……発言の機会すら与えられないのか、俺は。誰か哀れんでくれ。 そんな内心の嘆きなど塵芥のごとく存在すら認識されずに吹き飛ばされ、俺は園崎の案内で徒歩圏内のある店の前にやってきた。 見たところ、普通のファミレスだ。「雛見沢でもっとも美味しくて最先端な店」とのことだったが、正直に言って多少の拍子抜け感は否めない。 いや、もしかするとこれは田舎によくある「都会っぽさ」を一番アピールできる場所ということなのだろうか。だとしたら失礼がないよう、余計なことは言うべきではない。 ハルヒ: ……なんだ、普通のファミレスじゃない。もうちょっと小洒落た感じか、逆にくたびれた場所だと思ってたから、ちょっと期待外れね。 なのにハルヒときたら、そういった場の空気を読むことも肌で感じることも一切考慮しようとせずただ思ったことをそのまま言葉にしやがった。 あぁでも、確かにこいつはこういうやつだった。ここにたどり着く途中で注意しておくか、あるいは彼女の口をミシンか何かで縫っておけばよかったと後悔する。 が、園崎はそれを聞いても不快そうに感じた様子ではない。むしろ逆に計画通り、と言いたげに意味深なニヤリ笑いを顔に浮かべていった。 魅音(私服): くっくっくっ……まぁ昨日の晩と今日の朝とでご馳走続きだったから、そういう反応も想定内ですよ。 魅音(私服): でも、外から見るのと中に入ってからで印象がガラッと違ってくるはずですから、何はともあれ入ってみてください。さ、どうぞ。 ハルヒ: ……魅音がそこまで言うなら、別にいいわ。でもあたしって、結構おいしいものにはうるさいのよ。 キョン: (お前は料理に限らず、年中無休でうるさいだろうが) そんなツッコミを内心で叫びつつ、来た時よりも明らかに足取りがやる気の落ちた感じのハルヒに続いて、俺たちは店の中に入っていった。 Part 02: ……確かに期待していた分、行き先がファミレスだったので俺も多少の落胆があったことは認めよう。 だからこそ、ハルヒがあからさまに失望感を表情に出した時に咎める思いはあったものの、その反応は当然だとも理解していた。 だが、店のドアを開けて喫茶店によくあるチャイムの音が鳴り響くのを聞き流して、なにげなく店内を見渡した俺は――。 キョン: なっ……こ、これは……!? 思わず、叫んでしまった。……いや、普通の感覚なら叫ばずにはいられない。 なぜなら給仕でいそいそと動き回っているメイd……ではなくウェイトレスたちの服が、あまりにも際どくて扇情的なデザインだったからだ。 ハルヒ: あら……なかなか奇抜で可愛い服じゃない。あたしが選ぶ傾向とは微妙に違ってるけど、これはこれで良さげな感じね。目の保養になるわ。 いや……むしろ目の毒と言うべきレベルに達していると思うのだが。なんだあの、スカートの前スリットは。さらに胸の谷間を強調した上半身……まさに神の御業だ。 さて。ここはじっと見つめてもよいものか、あるいは多少遠慮して目端に映る程度に留めるべきかで逡巡する俺が懊悩に落ちかけていた、そこへ――。 詩音(エンジェルモート): おかえりなさいませご主人さま、お嬢さま。さぁ、こちらの席にどうぞ。 そう言ってウェイトレスのひとりが出迎えるや恭しく一礼し、おそらくマニュアルに従ったものとはいえ見事な動きと仕草で俺たちを窓際のボックス席へと案内する。 ん……? よく見たらこのウェイトレスの顔には覚えがあるぞ。確か昨夜、園崎本家で開かれた宴席で……。 詩音(エンジェルモート): あ、昨夜は自己紹介を忘れていましたね。失礼しました。 詩音(エンジェルモート): 私は、園崎詩音。ここに皆さんを連れてきた魅音の妹です。 なるほど……園崎とよく似た子がいると思ったが、やはり姉妹だったのか。 それにしても、よく似ている。髪型以外は瓜二つに近いから、おそらく双子なのだろう。 詩音(エンジェルモート): はい、その通りです。ちなみにこのお店はうちの親族が経営しているところなので、どうぞお代は気にせず何でも召し上がってくださいね。 詩音(エンジェルモート): ちなみに店のおすすめは、こちらのパフェです。どれもたくさんのフルーツで色とりどりに飾り付けられて、見栄えと味の両面でご満足いただけると思いますよ。 ハルヒ: そうなの? じゃあ、このメニューに載ってるパフェを全種類お願いしてもいいかしら! おい待てハルヒ。おごりだからと言ってさすがに全種類はいくらなんでもやり過ぎだと思うぞ。せめて2つか3つくらいにしておけ。 ハルヒ: 別にいいじゃない。もしかしたらここに来れるのは、今日が最初で最後かもしれないのよ。 ハルヒ: なら全部を食べ比べなきゃ、ここのファミレスの良さを味わい尽くしたとは言えないでしょ?というわけで、料理はこれとこれを……。 そう言ってハルヒはメニューをめくりながら、俺たちに構わず次々にオーダーをしていく。 っていうかお前、そんなに食べ切ることができるのか?パフェや料理一品あたりがどの程度なのかは俺も知らないが、それだけ頼むと結構なボリュームだぞ。 ハルヒ: 大丈夫!だってあたしたち全員で食べ比べるんだから、これくらいは平気でしょ? みくる: えっ? そ、そうなんですか……? やはり朝比奈さんは、何も聞かされていなかったようでおろおろと困惑した表情だ。 有希: …………。 長門も意外だったのか少しだけ顔を上げた……ようにも見えたが、特に気にしたふうもなくテーブルの脇にあったパンフレットを広げている。 ただ、それでも彼女たちは甘いものに興味があるのか、席についてからずっと熱心にメニューを見つめていた。 古泉: これは……ふむ、なるほど……。 キョン: ん? どうした古泉。お前も結構甘いもの好きだったのか? 古泉: あ、いえ。もちろん嫌いなわけではありませんが、ちょっと気になることがありまして……。 ハルヒ: もちろん古泉くん、キョンも参加よ!ちなみに食べ残しは死刑! あと、食べたものに対する最低限の礼儀として、必ず食レポをつけること! 古泉の曖昧な返答は、ハルヒの無慈悲な宣告でかき消される。いつからこの昼食会はTVのグルメ番組もどきになったんだ。そもそも今の今まで、食レポなんてやったことないだろうが。 ハルヒ: やったことがなくても、感じたままを言葉にすればいいのよ。せっかく魅音たちがあたしたちにご馳走してくれるんだし、アンケート協力くらいはしてあげるべきでしょ? 詩音(エンジェルモート): あっ、それすごく嬉しいです!都会の人たちのご感想とかご意見とかって、新商品開発の参考になりますからね。 キョン: まぁ、俺たちの意見なんて何かの役に立つとはとても思えないけどな……。 ハルヒ: それと、みくるちゃん! みくる: っ、は……はい? なんでしょうかぁ……? ハルヒ: こんなにも素敵なメイドさんがいるお店なんだから、みくるちゃんもメイドの心得を学ばせてもらいましょう!お願いしてもいいかしら、魅音? 魅音(私服): えっ? メイドの心得を学ぶって、具体的には……? …………。 みくる: え……えええぇぇっっ? …………。 そして朝比奈さんは、園崎姉妹の悪ノリ……もといご厚意によって、メイドの心得とやらを本人の意思と関係なく実地にて学ばせてもらうことになった。 みくる: い、いらっしゃいませぇ……っ……。な……何名様のお越し、ですかぁ……? 朝比奈さんは店頭に立ち、羞恥に顔を真っ赤に染めた涙目で今入ってきたばかりの客を出迎える。 SOS団の部室内のことならともかく、実際の飲食店でお客を相手にするとなれば心構えができていないのも当然で、朝比奈さんの動きはいつも以上にぎこちない感じだ。 ……だが、それがいい。今日も俺のツボを突いてくれますね。本当に凝りが治りそうです。……南無。 詩音(エンジェルモート): うーん……うちって本当は「いらっしゃいませ」じゃなく、「お帰りなさいませ」がお客さんを出迎える挨拶なんですが……そんなことが気にならないくらい、堂に入っていますね。 ハルヒ: でしょでしょ! なんてったってみくるちゃんは、わがSOS団のミラクルエースなんだから!接客業もお手のもの、お茶の子さいさいってね! いや、だからなんでお前が威張るんだ、ハルヒ。 みくる: お、お待たせしました……!ご注文のコーヒーと紅茶、あとは……ひゃぁぁあっ? お客A: ぅわっちゃっちゃっちゃっ? 熱い熱いー! みくる: あああぁっ? ごごごご、ごめんなさいぃぃ~!! 持ってくる時に慌てたのと緊張しすぎていたことが災いしたのか、朝比奈さんは盛大に持ってきたカップを中身ごと客の一人にぶちまけてしまう。 どう見てもどう考えても、とんでもない失態だ。仕方ない、ここは俺が代わって客の怒りだけでも受け止めてやらなければと思い、とっさに腰を浮かしかけたが――。 客A: あ……ありがとうございましたー!!! みくる: えっ……あ、あの……えっと……?? 歓喜と至福でうち震える客に土下座同然に感謝されて、朝比奈さんは頭の上に複数の「?」を浮かべるような表情で首を傾げながら戸惑っている。 しかも、その様子を見ていたお客の大半が立ち上がり……涙を流さんばかりに拍手して祝福を示したものだからさらにわけがわからない。 魅音(私服): あー……心配しなくても、大丈夫ですよ。うちのお店の常連さん、みんな心が広い人ばかりですし。 キョン: いや、あれは心が広いというより、むしろへんたi――。 詩音(エンジェルモート): ……それ、言葉が隠れていませんよ。 Part 03: 客まで巻き込んだ店内の乱痴気騒ぎは、時間の経過とともに収まる……どころかさらにヒートアップする一方だったので、とにかく朝比奈さんを退避させるべく強引に外へと連れ出す。 すると、いつの間に抜け出したのか入口を出た駐車場には壁に背を預けて缶コーヒーを片手にくつろぐ、古泉の姿があった。 キョン: なんだ、お前も逃げ出してきたのか。 古泉: あのまま留まっていれば、いつ矛先がこちらに向けられるかわかったものじゃありませんからね。まぁあの感じであれば、少なくとも命の危険はなさそうですし。 キョン: だったらお前も、早い段階で手を貸してくれ。……とりあえず朝比奈さん、こっちにベンチがありますので少し休んでください。 みくる: は、はい……ごめんなさいキョンくん、色々と面倒をかけちゃって。 さすがに疲れたのか、朝比奈さんは俺の勧めに応じてベンチに腰を落として大きくため息をつく。 もちろん、彼女が申し訳なく思うことは何もない。悪いのはこんな罰ゲームとしか思えない体験をさせたハルヒと、お店の変態どもだ。 ……あと、こうなることを予測しておきながら止めずにしばらく見過ごしてしまった、俺にも責任の一端はあるが。 キョン: にしても、妙なところだな。おかしなことが確実に起きてるのに、みんな普通に受け止めてる。いっそ夢だと言ってくれたほうがまだ納得できるくらいだ。 古泉: ……本当に、夢であってくれれば僕も安心できるんですけどね。情報の錯綜が複雑すぎて、整理するだけで頭が痛くなりますよ。 キョン: ? なんだ、何か気になることでもあるのか。 古泉: そうですね。気になることを挙げはじめたらそれこそキリがない感じなんですが……一番驚いたのは、あのファミレスのメニューです。ご覧になりましたよね? キョン: あぁ。こんな小さな町にしては、なかなかの充実度だったな。味も悪くない。 古泉: 聞いたところによると、どうやら県庁所在地の穀倉にも系列店を出しているそうですよ。そこでもかなり人気で、時間帯によっては長蛇の列ができるとのことです。 キョン: まぁ、あの味だったら当然だろうな。園崎姉が自信を持って俺たちを連れてきたのも納得だよ。 ちなみに、園崎を「園崎姉」と言い替えたのは妹の詩音の存在を知ったので、それと区別するためだと補足しておく。 古泉: ……それにしても、僕たちはこういう店があることを全く知らなかった。TVの全国ネットの情報番組でも、取り上げられたところを見たことがありません。 キョン: そうだな。でもまぁ、俺たちのいる街から離れた場所で有名な地元のファミレスなんていくらでもある。こっちに支店を出してくれたら通いつめるところなんだが。 古泉: 他にもスープパスタや、カルボナーラ……ラインナップがありえない内容でした。味の良さよりも、そちらに注意が向いてしまいましたよ。 キョン: そうか? 今どきのファミレスなら定番商品だし、そんなに珍しいものだったとは思えんのだがな。 みくる: キョンくん……スパゲッティがパスタと呼ばれるようになったのは、イタリアンレストランが流行り始めてからなの。なのにこの店では、普通に「パスタ」と呼ばれてる……。 みくる: あと、あたしの勘違いじゃなければティラミスとかのデザートが日本でメジャーになったのは、1990年代……かなり最近になってからのはずなのに……。 古泉: それだけではありません。昨日、あの中の3人の子たちと話した内容で気になることがありましてね。 古泉: あの子たちは確か、「今日は第二土曜日じゃないから、休みじゃない」と言ったんです。 キョン: ……それの何が気になったんだ? 古泉: 国公立の学校で第二土曜が休みになったのは、1992年の9月から。その後は1995年4月に月二回、2002年4月より土日が完全に休みとなりました。 キョン: ……ずいぶん詳しいな、お前。 古泉: たまたまですよ。……で、僕たちの学校は当然のことながら土日が休みの週5日制です。そしてこの「世界」、1983年は土曜も授業……。 古泉: なのにあの子たちは、「第二土曜が休み」だと答えました。この違いはどうして生まれたんでしょう? キョン: たまたま……というには、微妙な言い間違いだな。とりあえず、3人の言動には注意しておこう。 古泉: えぇ、僕も気をつけておきます。……では、そろそろ戻りましょう。僕は先に行って、様子をうかがってきますね。 キョン: あぁ、頼んだ。 みくる: …………。 キョン: 大丈夫ですか、朝比奈さん。もし疲れたようなら、園崎姉にでも頼んで先に戻ってもいいか聞いてみますが。 みくる: う、ううん……大丈夫。行きましょう、キョンくん。 …………。 朝比奈さんが沈黙していた理由を知ったのは、夕方から夜にかけて行われた#p綿流#sわたなが#rしの「惨劇」のあとだ。 なんとか安全な場所までたどり着き、息をついたところで気絶していた彼女は目を覚まして……ここで起きたことを涙ながらに打ち明けてくれたのだ。 ……ただ、その内容は申し訳ないがここで語るわけにはいかない。それが朝比奈さんとの約束なので、許してほしい。 その後、なんとか脱出に成功した後……彼女はなぜかそのことを、全く覚えていなかった。 偶然なのか人為的によるものなのかは、いまだに不明だ。……ただ俺は、朝比奈さんが「そのこと」を忘れてくれて本当に良かったと思っている。