Part 01: #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (もう、あの場所に戻ることはないのでしょうね) 遠ざかる高天村を横目に見送り、安堵の息を吐く。……正直あの村はあまりいい思い出のある場所ではなかったので、未練などは特にない。 まともな引き継ぎもなく、いきなり神社の管理を親族に任されて……職務と自活で本当に大変だった。村の人とも、ほとんど関わる暇がなかったほどだ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (……関わろうとしなかった、の間違いかもしれない) 下手に関わって、自分の無力さを見抜かれて、どうしようもない状況に陥るのが怖かった……それが本音であり、実情だった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (古手「絢花」が体験した#p雛見沢#sひなみざわ#rでも……そんな感じだった気がする) 村の中心のような立ち位置だった神社も、正統な頭首である古手梨花の代わりが私では、人も離れる一方で……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (古手「絢花」が体験した雛見沢でも……そんな感じだった気がする) そんな状況が変わったのは、レナさんたちが来てくれたからだ。 どんな村人にも分け隔てなく接する、優しい女の子。そんなレナさんが信用しているのだから、と次第に私への態度も和らぎ、協力が得られて……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (でも……私はそれを、素直に喜べなかった) どんなに村人たちの態度が変わろうとも、よそ者を見る冷たい視線の中で身を縮めて暮らしてきた……それまでの記憶。 それが思考や感情の邪魔をして、何を今さらとわいてくる憤りと悲しみを拭いきれなくて……。 だからこうして、高天村を離れられることができて……肩の荷が下りた思いだった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (この先どうなるかはわからないけれど、少なくともあの村にとどまるよりはマシだろう) #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (ただ、気がかりなのは……) 巴: 東京に戻ったら、竜宮さんたちの寝床を早急に確保しないとね。 巴: 万が一の襲撃の可能性を考えると、安全な場所に越したことはないし……。 巴: 私の自宅だと、さすがにこの人数で寝起きするには狭すぎるから。 レナ(24歳): はぅ……魅ぃちゃんは今、どこに住んでいるの? 魅音(25歳): 私は系列ホテルとかを、転々としている。ただ、園崎関係者に支援してもらいながら隠れ住んでいる身だから……。 灯: ならレナさんと絢花さん、うちに来ませんか?よかったら魅音先輩も、一緒にどうぞ。 魅音(25歳): うち……って、秋武の家に? 灯: 正確には、実家の敷地内の離れです。小さいですがお風呂や洗面所もありますし、諸々の事情で防犯面も保証されています。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (諸々の事情……?) レナ(24歳): はぅ……ありがたいけど、ご家族は大丈夫?急に大勢で押しかけたら驚かせちゃうんじゃないかな……かな? 灯: 叔父さんが居候していた時にみんな慣れていたりするので、その辺りは大丈夫ですよ。 任せてください、と胸を張る隣の「彼女」の顔を見る。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……いいんですか? 灯: もちろん。あ、放置していたら延々と喋り続ける母と、柱の陰から将棋盤片手にじっと見つめてくる父がいたりします。 灯: あぁ、そうだ……動物は大丈夫ですか?うちの実家、犬が3匹と猫が2匹いまして。 レナ(24歳): はぅ、たくさんいるんだね。 灯: 犬3匹は元々飼っていたんですが、猫はひーさんが拾ったのをうちで引き取ったんです。 灯: おかげで生粋の犬派だった姉さんは犬と猫のかぐわしい匂いを交互に吸わなくては生きていけない身体に……! レナ(24歳): 吸う……? 灯: こう、ふわふわのお腹に顔を押しつけてすーっと深呼吸を。 灯: 猫はカワイイんですが、突然現れたひーさんがきっかけになって姉さんの趣味嗜好が変わるのはこう、なんか納得いかなくて……! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……わざとですか? 灯: うん……? 心底不思議そうな顔に……少し、イラつく。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 気づいていますよね、質問の意図に。……私の「いいんですか」が、何を指しているか。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 言いましたよね、私はあなたを信用できないと。……その考えは、今も変わっていません。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あなたは……美雪さんと同じ匂いがします。 とうとう言ってしまった、と後悔とともにせき止めていた感情が止水板を外したように溢れ出す。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 相手を油断させるためだけに、明るく振る舞って近づいて……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 笑顔の下の冷えた目で、小賢しく相手を値踏みしてくる。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そして自分にとって都合が悪い会話は、気づいていないフリをして別の会話とすり替える強かさ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 自分の発言に相手がどう返事をするか予想した上で、道化のように振る舞う計算高さ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 私はこの人のことを……信用できません。 レナ(24歳): 絢花ちゃん……? レナさんの声が戸惑いを帯びる。 当然だろう。ここ数年の間同居していたが、美雪さんをどう思っていたのかを話すのは今が初めてだった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (そもそも……隠れながら生きることに精一杯で、そういう話はほとんどしなかった) お互い、触れようとしなかった。触れたら最後、互いの意識や認識にズレがあったらどうしよう、と躊躇いがあったのかもしれない。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (レナさんとは、一度もケンカしたことがなかった。彼女が大人だということもあったと思うけど……) お互い他に行き場がない状況で、険悪になりたくない……という気持ちがあったのは否定できなかった。 美雪さんのことが苦手だということを口にしたのは、あの閉ざされた場所から脱出した気の緩みもあったのだろう。 川田: それ、個人的に美雪さんのことが気に食わないだけなのに、無理矢理それっぽく理由をこじつけているだけじゃないですか? 川田: まぁ、別に灯が嫌いなら嫌いでもいいじゃないですか。私も嫌いですしね。 そう言って、助手席に座った川田さんが「はぁ……」とわざとらしい声をあげる。 川田: そもそも、灯が何か深いことを考えていると?計算高い女がわざわざこんなところまで来ますか?なーんにも考えないから無茶できるんですよ。 巴: ……秋武、大丈夫?なんかどっちにもボロボロに言われているけど? 灯: ははは、かなり極端な人物像ですねー。第三者が聞いたら同一人物と認識できずに混乱しそうだ。 灯: どうです? 魅音先輩とレナ先輩から見た秋武灯は。計算高い女と何も考えていない女、どちらでしょう? レナ(24歳): ……灯ちゃんは、状況によっては計算高い振る舞いもできる子だとは思うけど……魅ぃちゃんはどう思う? 魅音(25歳): あー、その……うーん。 しばらく黙り込んでから、少し躊躇いがちに魅音さんはぽつり……と口を開いていった。 魅音(25歳): 私は、秋武とレナって……ちょっと似ているって思ったんだよね。 絢・碧: 絶対違う。 巴: 綺麗にハモったわね。 魅音(25歳): いやいや昔! 昔の話だって!今思うと全然違うなって思うけど、あの時は本当にそう思ったんだよ! 川田: あの時って……どの時です? 魅音(25歳): ……私が詩音としてルチーアにいて、秋武がそこから脱出するのを手伝ってくれた時。 巴: あぁ、あおいが寝ている間にそんな話があったわね。 魅音(25歳): 今思うと、なんでそう感じたのか自分でもわかんないけど……その瞬間はなんかこいつレナみたいだな、ってさ。 灯: ふむ……それはきっと、主語が入れ替わっていたからではないでしょうか? レナ(24歳): はぅ……? 灯: お聞きした話によると……魅音先輩は自分が死んだと思った直後に、気がついたらルチーア学園で私とチェスをしていた。 灯: それも、なぜか魅音ではなく双子の妹の方の園崎詩音として……ね。 魅音(25歳): …………。 灯: 自分が置かれた状況を話した魅音先輩は、雛見沢に帰りたいと言った。それを受けて私はあなたが学園から逃走することを幇助。 レナ(24歳): そっか……魅ぃちゃんの状況から考えると、その状況で灯ちゃん以外に頼れる人がいなかった。 レナ(24歳): でも、その時点の魅ぃちゃんにとって灯ちゃんは何も知らない初対面の人間……信用できるかは、わからなかった。 灯: おそらく、その時点で魅音先輩が一番側にいてほしかったのは……レナ先輩なのでしょう。 灯: 秋武灯がレナ先輩に似ていたのではなく、レナ先輩に似ている部分を一番近くにいた秋武灯に見いだそうとした。 灯: この子のことはよく知らないが、レナ先輩と似ているから信用できる……。 灯: 当時の魅音先輩には、自分を納得させるためにもその理屈が必要だった。……違いますか? レナ(24歳): ……魅ぃちゃん。灯ちゃんの手を借りずに、ルチーアから逃げることってできたと思う? 魅音(25歳): いや。少なくともあの短期間での脱出は、間違いなく無理だったろうね。 魅音(25歳): あのタイミングで雛見沢に戻らなかったら当時「魅音」を名乗っていたのが詩音だとは誰も気づかなかったと思うし……。 魅音(25歳): 梨花ちゃんが不在、圭ちゃんは#p興宮#sおきのみや#r……沙都子とレナは前の記憶がなかったから、タイミングとしてもギリギリだったかな。 レナ(24歳): 魅ぃちゃんは灯ちゃんとレナが似ていると思った……じゃなくて、似ていて欲しいと思ったんだね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: …………。 ……違和感を抱く。なるほど、と頷くレナさんたちは気づいているのだろうか。 「秋武灯は信用できる人間か?」という問いは「なぜ魅音さんは、秋武灯を信用したのか」に変わってしまっているのだけど……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (本当に、こういうところは美雪さんによく似ている……) #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あなたは、話を別の方向へ誘導するのがとても上手ですね。 川田: 思いつくままポンポン口にしていたら、脱線しただけでは? 川田: ……で、灯はどう思ってるんですか?信用できない宣言を出されましたけど。 灯: ふむ。素直に言うと……。 灯: 絢花さんにとって私が悪人だろうが、信用ならない女だろうが……必要な分だけを割り切って利用してくれていいと思っている。 灯: 私は信用できない女かもしれないが、同時に首輪をつけられた女でもある。 灯: 少なくとも、私の首輪を握るレナ先輩は西園寺さんの信用できる人だろう? 巴: あんた、自分が利用されるのはいいの? 灯: 相手次第ですね。西園寺さんなら、まぁいいかなって。 巴: ……少なくともあんたは、西園寺さんのことを信用しているってこと? 灯: そう呼ぶ人もいるでしょうが、私は言いません。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: どうしてですか? 灯: なんかこう、照れちゃうので。 隣の女の笑顔に美雪さんの笑顔が重なって見えて……直視できず、思わず視線をそらす。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (……可愛くない女) 信用できないと言ってやったのだから、少しくらい傷ついた顔でもすればいいのに。 本当は傷ついているのだとしても、絶対にそんな顔を見せないのだろう……憎らしいほどに鉄面皮な人だ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (一穂さんや菜央さんは、可愛かった) 自分に正直な一穂さんや、表情や言葉の端々に素直な感情がにじみ出る菜央さんが、可愛かった。好きだった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (そんな2人が一番信用していたのが、美雪さんだったから……) 絶対に同意は得られないとわかっていたから、美雪さんが苦手だと言う気持ちにフタをした。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (でも成長した今なら、美雪さんがあんな風に振る舞っていた理由も……少しは理解できる) 10年前という未知の世界で、子どもながら必死に一穂さんと菜央さんを守るために自分の感情を押し殺して……戦っていたのだろう。 今でも美雪さんのことは、好きではない。けれど、成長した今なら理解も同情もできる。 ……だけど、秋武灯については。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: (やっぱり、信用できそうにない……ただ) #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……灯さんの、実家の猫は。 灯: えっ……? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 人慣れ、しているんですか? 灯: ! あぁ、片方は気まぐれだがもう片方は人間大好きだから遊んであげたら喜ぶよ! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……そうですか。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: それは……少し、楽しみです。 Part 02: 比護: ……端的にお伺いします。自分が警察博物館の調査担当に選ばれた理由はなんです? 喜多嶋: ……不服か? 比護: いえ、説明が欲しいだけです。養父のコネで厚生省に入庁できただけの自分が担当になったのは、課長代理の推薦でしたので。 喜多嶋: お前は細かいところに気が利くが、それを主張しない。 喜多嶋: 以前、お前がインフルで休んでいる時、その間ずっと給湯室が荒れっぱなしだった……お前は誰にも何も言わず、清掃をやっていたな? 比護: ……手の空いた時しかやっていません。 喜多嶋: 手が空いていようがなんだろうが、何もしない人間は本当に何もしない。 喜多嶋: 仮に調査で何もわからなくても、お前だったら無理に手柄を立てるために波風を立てることはない、と判断した。 喜多嶋: 警察博物館……いや、広報センターに改名するのか。館長に着任する南井巴について、どれだけのことを知っている? 比護: 厚生省にとって触れられたくない例の一件に、あと一歩のところまで近づいた人物で……。 比護: また、家族を殺害した畠山あおいという#p雛見沢#sひなみざわ#rに連なる少女を……引き取ったと。 比護: ですが、それだけではつなぎとはいえ名誉職の館長に選出された理由として不可解です。 比護: それを警戒した上が、課長に内部調査を命じたと伺っています。 喜多嶋: ……。南井巴の館長就任と同時期に、広報センターへ異動予定の警官が数人いる。 喜多嶋: ……その中に、友人の姉妹がいる。 喜多嶋: 彼女たちには、個人的な恩がある。下手な人間は近づけたくない。 比護: ……恩の詳細をお伺いしても? 喜多嶋: ……。私の、この名前……。 喜多嶋: 喜多嶋伸介という名前は、どこからか親が持ってきた……全く別の人間の戸籍だ。 喜多嶋: で、本当は雛見沢出身の人間だと知ったら……どうする? 比護: そのことを……ご友人のお二方は、ご存知で? 喜多嶋: 知らない。 喜多嶋: ……言えるはずがないだろう。 『雛見沢大災害』の後、隣の#p興宮#sおきのみや#rに住んでいた私は早い段階で両親に連れられて……都心の方へと居を移した。 転校先のクラスメイトたちは、「公由」の名と大災害にまつわる記事によって早々に私が雛見沢関係者だと知ることになり……。 雛見沢出身者による異常行動や暴行、殺人事件が連日マスコミの手で報道される中……クラスメイトたちはある決意を固めた。 ――『公由怜も人を殺すかわからない。だったらその前に殺すしかない』 なぜそんな結論になったのかは、想像するしかない。憎まれて恨まれるようなことも……覚えがない。 あるいは、自分たちの居場所に突如現れた……いつ人を殺すか分からない不穏分子。それを追い出して安心したかったのかもしれない。 ――長期休暇の少し前。 今まで見たことのない優しい顔で体育倉庫での掃除を手伝ってほしいと申し出てきたクラスメイトの頼みを、私は断ることができなかった。 その学校では、何年か前に体育倉庫に事故で閉じ込められた生徒が衰弱死寸前で助けられる……という事件が起きていた。 だから警戒はしていたが、まさかという思いが拭えなかったせいだろう。 自分だけが体育倉庫に残され、勢いよく閉められようとする体育倉庫の扉。 それを見て慌てて駆け寄り、扉を止めようと手を伸ばして――。 ――かろうじて扉のフチにかかった右手小指は、勢いのついた重く巨大な扉と壁に挟まれて……ちぎれ飛んだ。 その後は阿鼻叫喚だ。どうやら彼らに殺意はあっても、指がちぎれる程度の傷害や血などを見るだけの覚悟はなかったらしい。 結局事件はうやむやになり事故として処理され、残ったのは私が右手小指を失った事実だけ。 ……その後、父の意向で親戚と養子縁組を結んで名前を変え、ひとりアメリカへ留学することになった。 『お前は、まだ生きなければいけない義務がある。このまま潰れてはいけないよ』 異国へと送り出す直前に告げた言葉……「生きなければいけない義務」の詳細を、父は教えてくれなかった。 だが、息子を大切に思っていると考えるには妙に威圧的な声と、背後に佇んでいた母の笑顔は今でも強烈に残っている。 ……あの時から父は、自分の復讐に息子を利用することしか考えていなかったのだろう。 当の息子が、自分の小指を喪わせた相手への復讐も考えようともしないほど無気力に陥っていたことに、全く気づかなかったのだから。 喜多嶋: そんな状態で、言葉もろくにわからない外国に行かされてうまくいくはずもなく……。 喜多嶋: ある日学校内で絡まれていたところを、日本人の兄妹に救われた。 喜多嶋: 当時の私には絡まれた理由すらわからなかったが、割って入った背の高いお兄さんが英語でがなり立ててくれなかったら……今頃どうなっていただろうな。 比護: それで、留学生のご兄妹と仲良くなったと。 喜多嶋: いや……留学生は妹だけで、お兄さんの方は日本から遊びに来ただけだった。 喜多嶋: 礼をしたいと言う私に、お兄さんは「妹と仲良くしてくれればいい」と言い残して去っていった。 喜多嶋: 妹の方は私より一つ下で……彼女とは、それ以来の友達だ。 喜多嶋: おかげで留学中は楽しかった。今は日本の大学にいて、たまに遊びに行く……私は一般商社勤めだとごまかしているが。 比護: お兄さんともよく会うんですか? 喜多嶋: いや、あの一度きりだ。妹から話を聞くだけで……でも。 喜多嶋: ……かっこいいんだ。 喜多嶋: 妹といっぱい遊んで、可愛がって……もし危ない目に遭ったら、命をかけても守って……だが、ダメなことはちゃんとダメって叱る。 自分がいつかなりたかった、理想の兄の姿そのものだった。 理想を体現した人間が実在しているという感動と、自分には絶対になれないと理解させられた絶望は今でも鮮明に思い出せる。 喜多嶋: ……これは持論だが。人間に必要なのは、安心できる環境と自ら定めた目指すべき目標だと思う。 喜多嶋: 私は幸運にも、信用できる友と目標を同時に手に入れた。全く同じにはなれずとも、少しでも近づきたい……そういう目標があったから、ここまで頑張れた。 比護: だからその恩人に、下手な人間を近づけたくないと。 喜多嶋: そうだ……さて、今の話だが。一つ、問題があってな。 比護: なんでしょうか? 喜多嶋: 私もずいぶん後に知ったんだが。友達……灯のお兄さんなんだが。 喜多嶋: お兄さんじゃ、なかったんだ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……つまり、こちらの秋武麗さんのことを何年も男だと思ってたんですか? 魅音(25歳): あっはははははは! レナ(24歳): はぅ……魅ぃちゃん、笑いすぎだよ。 喜多嶋: …………。 川田: うわ、すっごいいたたまれない顔してる……ぷっ。 喜多嶋: うるさい。 灯: す……すまない、私が原因なんだ! うん!当時私が姉さんをあだ名のレイと呼んでいたのと、見せたモデル時代の姉の写真がまぁ、その……。 灯: ほぼ男装がほとんどだったんだ! 灯: だから、兄さんじゃなくて姉さんだと気づいた時怜がその……大変なことになってしまったので、姉さんにも秘密に……。 灯: つまり私が悪いんだ、ごめんなさい! 川田: かばうと本人のためになりませんよ……ぷふーっ。 喜多嶋: この女……! 巴: いや……でも一度だけとはいえ、直接会ったんでしょ? 普通、性別を間違える? 麗: 今のあーちゃんを身長20センチほど伸ばして、髪を短くして、寝不足で目つき悪くさせて、声は酒焼けで、Tシャツジーパン姿で……。 麗: 想像してみてください……それが当時の私です。 巴: ごめん、それはちょっと判別不可能だわ。 麗: わかっているから怒りませんよ……私も彼のこと、女の子だと思っていたので。 魅音(25歳): え? 当時の怜ってどんな感じだったんですか? 麗: ……一言で言うなら、か弱そうでしょうか。小柄で、怯えて目を合わせてくれなくて、声も小さくて……。 麗: 若白髪交じりのボサボサくせっ毛頭で……野良猫みたいな感じです。 レナ(24歳): はぅ……それだけ聞くと、一穂ちゃんみたいだね。 麗: あーちゃんの手紙にも、いつも固有名詞じゃなくて友達、としか書いてなかったし。 灯: 怜とレイで名前が一緒だと紛らわしいかなぁ、と思って……はい。すみません、ごめんなさい。 喜多嶋: ……とにかく、本題に入りたい。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 本題? 喜多嶋: あーちゃんはこの件から、手を引いて欲しい。 灯: 怜とあおいが手を引くなら私も引くが、そうはいかないだろう? 喜多嶋: 血縁と状況的に、自分たちはもう引けない……だけど、あーちゃんは無関係だ。 喜多嶋: あーちゃんみたいな第三者でも、関わり続けたら何らかの罪に問われるかも……いや。 喜多嶋: 死ぬかもしれない、から。……あーちゃんに、死んで欲しくない。 灯: …………。 灯: そっか、うん、そうか。えーっと、えー…………? 川田: こっちを見るな。 灯: どうしよう。 川田: 助けを求めないでください。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……案外、直球に弱いタイプだったんですね。 巴: 正論の弱点ね……シンプルな感情論にはものすごく弱い。心配だからやめてほしい、なんてある意味で最強だもの。 灯: えーっと……怜、心配ありがとう!だが怜もあおいも雛見沢関係者である以上、手を引くというわけにはいかないだろう? 喜多嶋: ……だが、死んで欲しくない。 灯: う、うん! ありがとう!でもそれは私も同じなんだがな?! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 怜さんって……甘えていいと判断した相手にはとことん自分の意見をゴリ押しするタイプの方ですか? 川田: よくわかりましたね。ついでにこうと決めたことは全力で押しつけてくる実に面倒くさい男、ってのも付け加えておいてあげてください。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そういう川田さんは、好きな相手には自分のことをより強く見せようと背伸びをしちゃう方タイプですよね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あと、思想が0か100かの極端で中間がないというか……。 川田: ケンカ売っていますか? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: いえ、そんなことは。 灯: いいかい、怜?友人が引けない状況で私だけ引きたくはないし、そもそも私も既に引き返せない身なんだ。 灯: それに私の首には、竜宮レナさんの手で首輪がかけられているのだから、もう遅い! 喜多嶋: ……は? レナ(24歳): ……はぅ。 魅音(25歳): ちょっと怜。レナを睨まないでよ。この子はなんにも悪くないんだから。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そうです。レナさんは強制首輪プレイに付き合わされているだけです。 喜多嶋: 強制首輪プレイ……?! 魅音(25歳): なに変なことを想像してんのさ、あんたは。 喜多嶋: 真っ当な人間は人間に首輪なんてつけない。 灯: それはそうだが……それを言うなら、怜もあおいに首輪を繋いでいるだろう? 喜多嶋: 首輪? なんのことだ。 灯: 麻薬取締官の協力者として偽名と身分を与え、その行動を支援・保証すると同時に配下に置いた……それが首輪ではないなら、なんと呼ぶんだい? 灯: ……僭越ながら、友として忠告しよう。 灯: 相手が自分に逆らえない立場だと思って、髪を切らせたり服の種類を変えさせたりと自分の趣味を押し付けるのはよくないと思う! 喜多嶋: ……っ……? 灯: はっ……そうか!怜は、セミロング清楚女子大生系よりもショートカットセクシー系がお好みなんだ?! 灯: 確かにあおいにショート髪は、大変良く似合っていると思う。……うん、ナイスセンスだよ!! 喜多嶋: は? いや、ち、違っ……。 川田: 私、別にこの男に言われて外見変えたわけじゃないです。髪も服も、印象変えるための必要措置でしかありません。 灯: あおいは私が何を言っても髪触らせてくれなかったよ?服だって何を勧めても絶対ノーの一点張りだったが?! 川田: お前に触らせるのも趣味に合わせるのもうっとうしいから嫌だっただけです。 川田: はぁ……確かにバックについているという意味ではこの男に「首輪」は付けられています。でも、バカの懸念するようなことは何もありません。 川田: この男は私に偽名と厚生省側から情報を与え、私は違法な情報収集と必要なら工作員として働いた。……それだけの契約関係です。 灯: 本当に……? 本当かい? 本当に大丈夫かい……? 喜多嶋: なんで私は、そんなおかしな面で疑いをかけられているんだ……? 灯: だって私が怜だったら、色々するよ?世間が許すならば限界突破で! 川田: するなクソバカ。世間の前に私の許しを得てからにしろ。……まぁ、絶対許しませんが。 灯: レナ先輩どうしましょう?!どうしたらいいですか?! レナ(24歳): 灯ちゃん、ちょっと落ち着こう? ね? 灯: はい。 魅音(25歳): 急に落ち着いた?! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: レナさん……もうこの短時間で飼い主の貫禄を出していますね。 川田: お願いですからその女の手綱、絶ッ対に離さないでくださいね。 灯: よい子でついて行きますワン。 喜多嶋: いや、だから行かせたくないと私は言っているんだが……。 比護: 諦めましょう、課長。 麗: 大丈夫、あーちゃんが死ぬ前に事態が収束すればそれでいい話だから。 麗: あーちゃんが死なないように……頑張ってくれるよね? 喜多嶋: ……善処します。 Part 03: 魅音(25歳): よし、一旦状況を整理しよう……! 夏美: えっ? 魅音(25歳): ずっと逃げ脳ばっかりを使っていたせいか、ここ数日の間どうやり返していくべきかが何も考えられなかったからね。 魅音(25歳): ここからは、攻め脳に切り替えていくよ!攻め脳で! 川田: 知らない単語が出てきましたね。 レナ(24歳): はぅ……でも、状況整理は大事だよね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 確かに、大勢の人が関わってきたせいで私もよくわかっていませんでしたが……。 魅音(25歳): だからこそ、認識の統一が必要だと思ってね。 魅音(25歳): 私たち全員の目的は、人々を死に至らしめる『#p雛見沢#sひなみざわ#r症候群』のウイルス拡散を阻止! 魅音(25歳): ……で、いいんだよね? 巴: えぇ、その通りよ。『眠り病』を完全になくすと、人々は『雛見沢症候群』による猛毒性ウイルスに感染してしまう。 巴: ……ただ、『眠り病』を何もせず放置すると発症した患者が衰弱死することにもなる。 巴: 大本である『雛見沢症候群』の拡散を止めないと、状況が解決したとは言えないわね。 灯: 『雛見沢症候群』のウイルス拡散に関与していると思われるのが……高野美代子の率いる高野製薬。 灯: そして、怜の父君……西園寺太壱を代表とした旧陸軍の爆破事故に巻き込まれた旧・高天村の村民たちと、その遺族……。 魅音(25歳): 製薬会社と村がどこでどう繋がっているかが不明だから、現状攻めあぐねているんだけどね。無関係ってことはまぁ、ないだろうけどさ。 魅音(25歳): よし、ひとまず敵勢力の整理終了! 次は味方勢力! 魅音(25歳): 味方の方は、大まかに3つのグループに別れている。 魅音(25歳): 1つは、過去と未来を行き来している美雪たち学生グループ。 魅音(25歳): 2つは、南井さんたち警察グループ……現状、警察の庇護下にある私やレナもここだね。 魅音(25歳): 3つは、喜多嶋……もとい、怜や川田さんの厚生省グループ。 川田: グループ分けの定義はなんですか? 魅音(25歳): 単独で動けるかどうかだね。美雪たちは学生だから制限はあるけど、警察や厚生省とは無関係に動けるから。 灯: なるほど……ある種の三角同盟になっているのか。互いに影響を及ぼし合うが、なにかのきっかけで離脱も考え得る。 夏美: そのグループ分けだったら、私はどこに所属するのかな……? 魅音(25歳): 今は警察グループ、でいいんじゃないかな?この「世界」じゃ厚生省の職員じゃないんだし、私たちと同じ警察の庇護下にいるわけだから。 川田: 厚生省の職員だった時も、彼女がこっちの味方だったことはただの一度もありませんけどねぇ? 巴: ……それ、どういう意味? 川田: 黙・秘……まぁ、強いて言うなら旦那以外のためにはテコでも動かないような厄介な女だったってだけですよ、夏美さんは。 夏美: あ、あはは……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……否定しないんですね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: でも、こうして見ると味方の人数は多いかもしれませんが……整理するとたった3グループなんですね。 魅音(25歳): 私も最初は、もっとバラバラにいろんな勢力が入り交じっていると思っていたんだけどねー。 魅音(25歳): 個々人の#p思惑#sおもわく#rとか目的とかはあるだろうけど、こうしてみると結構まとまるもんだなーって。 レナ(24歳): まとまるじゃなくて、まとめた……かな。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……?なんだか、誰かがまとめたみたいな言い方ですね。 灯: 誰か、じゃない……美雪くんたちだ。 灯: 彼女たちの影響力は薄い……当然だ。美雪くんたちはただの学生だからね。 灯: だが、この三角同盟内においての影響力は絶大だ。 魅音(25歳): 確かに、美雪たちが無茶したから夏美ちゃんを助けるのに踏ん切りがついたようなものだし……。 巴: 黒沢さんが協力してくれなかったら、警察が例のフロッピーを掘り出すことは不可能だったでしょうね。 巴: フロッピーの情報が古くて状況の進展に繋がらなくても、黒沢刑事が調べていた事実は上を動かす材料としては十分だもの。 巴: 西園寺太壱について警察が本格的調査に乗り出せたのは、あのディスクの存在が大きいと思うわ。 レナ(24歳): レナとしては、菜央が会いに来てくれたから全力で戦うって決意が固まったかな……かな。 灯: 3グループに収まるまで味方勢力がまとまった……あるいは、どこの所属か判明したのは彼女たちが心折れずに走り回った成果だろうね。 魅音(25歳): ……で、あんたはどこに所属しているの? 灯: 私は三角同盟全員のことが大好きなので。贅沢にど真ん中をいただきます! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……やっぱりこの人、事件とは無関係ですよね? 魅音(25歳): だから、レナが首輪つけているんじゃん。 川田: あの、レナさん?お願いですから、絶対に手綱を離さないでくださいね? レナ(24歳): でも、灯ちゃんはいい子だよ?なんだかおっきなワンちゃんみたいで、可愛く見えてきたかも……はぅ。 魅音(25歳): レナの情が移った?! 灯: カワイイ飼い犬路線の維持、頑張りますワン! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……。腹立ちますね、この女。 川田: 大変同感です。 Part 04: 圭一(私服): うおおおおおりゃあああぁあぁあッ!これで、あがりだーっ!! 川田: ぐ、ぐぅう……! ま、負けました……。 魅音(私服): これにてトランプ対決終了ー!5位、圭ちゃん! 6位、もとい最下位川田さん! 沙都子(私服): あらあら、罰ゲームは川田さんに決定ですわね。 梨花(私服): みー……でもかなりの接戦だったのですよ。 圭一(私服): あっぶね! ギリギリだった……!でも、勝ちは勝ちだからな! 圭一(私服): わーっはっはっはっはっは!! 川田: ……腹はくくりました。メイド服でもスク水でも体操服でも幼児服でもヒラヒラでもなんでも持って来てください。 レナ(私服): はぅ……川田さんが切腹直前の武士みたいに……。 魅音(私服): あー、残念ながら今日はそういうのは持ってきていないんですよねぇ。 魅音(私服): けど、私たちが罰ゲーム衣装を持っているのをよく知っていましたね? 川田: 村の人に聞いたんですよ。これでも私、ジャーナリストですから。 沙都子(私服): なにを調べているんですの? 川田: 水害対策としての、ダムの有用性への疑問点……って、あれ? これ前にも言いませんでしたっけ。 川田: 要するに、大金をつぎ込んでダムを作っても本当に大雨が来た時に下流の人々の土地や財産を守れるのか、って記事を書くための取材です。 梨花(私服): みー……そんな大事な取材中に遊んでいてもいいのですか? 川田: 息抜きも仕事のうち、ですので。 川田: ……あ、もうそろそろ夕方ですね。さて、とっとと罰ゲームを済ませちゃいましょう。 魅音(私服): えー、せっかくの罰ゲームをあっさり終わらせるのはつまんないよ。 魅音(私服): ……あ、そうだ!川田さん、明日もまた#p雛見沢#sひなみざわ#rに来るんですか? 川田: え? えぇ、その予定ですけど……。 魅音(私服): じゃあ、明日また今日と同じ時間にここへ来てくれますか?罰ゲームはその時ってことで! 圭一(私服): おぅ! じゃあまた一緒にトランプやろうぜ! 沙都子(私服): ……川田さんがまた負けてしまったら、2回も罰ゲームを受けることになるのではありませんの? 川田: もう勝った時の算段ですか?私が圧勝して、レナさん垂涎のかぁいい格好でみなさんを市中引き回しの刑に処してあげますよ。 レナ(私服): は、はぅぅ……! 魅音(私服): マズイ! レナのエンジンがかかった!! 圭一(私服): 明日は血の雨が降るぞ……! 梨花(私服): みー……。 川田: では私は、この辺りで。また明日……よろしくお願いします。 川田: 梨花さん……何か言いたそうな顔をしていましたね。 川田: まぁ、同じような世界を繰り返している最中に突然川田碧なんてジャーナリストを名乗る見知らぬ女が現れたら……警戒して当然ですが。 采: ……チョー浮かない顔をしているのです。 川田: ……。そうですね。 川田: ……梨花さんは私を信じて、自分が何度も「世界」を繰り返していたことを勇気を出して打ち明けてくれた。 川田: その彼女は、もうどこにもいないんだと……今さらながらに実感したところです。 梨花(私服): どんなにあがいて、苦しんで、乗り越えてもまた同じことの繰り返し! 梨花(私服): ――だったらもう、未来なんて必要ないっ!! 川田: ……大丈夫です。最初から、わかっていたことでしたから。 川田: 「世界」が終わってしまったら、たとえ梨花さんであろうと信頼を得たところで……そこで終わりだって。 采: …………。 川田: それより、采様。……ずーっと私の肩越しにみんなのトランプの手札を観察していましたね。何か面白いものでも見つかりましたか? 采: ……チョー不思議なのです。「世界」を繰り返し、あおいと角の民たちが毎回同じようにトランプで遊んでいるのに……。 采: 手持ちのカードが一度として、同じ組み合わせにならないのです。 川田: 52枚のカードを、5枚ずつ配っていますからね……確か、260万通りくらい組み合わせがあるはずです。 川田: 52枚のトランプで260万通りの組み合わせが存在しているのなら、「世界」の組み合わせなんてそれこそ途方もない数なんでしょうね……。 川田: だからこそ、これまで私たちが繰り返したどの「世界」でも花とは呼べない「花」がいつも咲いていて……。 川田: 采様の開花を妨害されているのは恣意的なものだと……断言できます。 川田: もうすぐ#p綿流#sわたなが#rしですが、異変の糸口は見つからず……この「世界」も、見捨てることになりそうです。 川田: この「世界」の皆さんも、自分たちの身の回りに異変が起きているなど知らずに……死んでいくのでしょうね。 川田: ……早く采様が咲き誇れるように、原因を排除して「世界」を整地しないと。 采: ……仮に。 川田: はい、なんでしょうか? 采: ……この星が、マヌケな角の民の花でいっぱいになっても構わないのだとしたら。 采: ……惨劇を引き起こす、花とも呼べぬ花を確実に除去できると思うか? 川田: それは……ですが、よろしいのですか?采様は己の種子をこの星に咲き誇らせるために「御子」の私を「世界」に遣わしているのでは? 采: 我の種は根を下ろし、咲き誇り、星を食い潰す。惨劇など起こさず……速やかに。 采: だが……食い潰してしまっては、先が見えない。 采: お前とともに繰り返し、観賞し……。 采: ……少しだけ、知りたくなった。惨劇の先の、昭和58年を。そして平成5年の、先の「世界」を――。 川田: …………。 采: おかしいか? 川田: ……いえ、そのようなことは。家畜を箱庭の中で満足するまで飼い慣らして、好きなタイミングで屠殺するのも支配の形かと。 川田: 私は角の民の長とやらの詳細は存じませんが、とてもマヌケなんですよね? 川田: だとしたら一度そのマヌケに花壇を返還し、多少の整備をさせた上で……。 川田: 采様のお好きなタイミングで、種子による支配を行った方がよりスムーズかもしれません。 川田: ただ……神様の考えは変わらないものだと思い込んでいたので、少し驚きました。 采: ……我も、少し驚いている。 川田: そうなんですね。神様も条件次第で考え方が変わるのだと思ったら、少し興味深いです。 川田: では、新たな方針が決まったところで。景気付けに何か食べますか? 川田: 食べたいものがありましたらいつも通りお供えを用意させていだきます……まぁ、実際食べるのは私ですけど。 采: ……いちごのミルフィーユ。 川田: 灯が私の誕生日によく作る、あのケーキですか? 采: ……嫌いか? 川田: ではないですが……雛見沢では食べられませんね。平成に戻ったら銀座に食べに行きましょうか。 川田: あの女に作らせたら、その後めんどくさく……いえ、元より無意味に面倒くさい女でした。面倒くさい男と相性抜群そう。割れ鍋に綴じ蓋理論で。 川田: ま、あぁいうノーテンキなバカは何も知らないままノーテンキに幸せに長生きすればいいんですよ。 采: ……お前は、長生きしたくないのか? 川田: だって……長生きする殺人鬼なんてどう考えてもおかしいでしょう? 川田: それに……滅びでも安寧でも、采様がお望みの未来を手に入れるお手伝いができたなら私はそれで満足です。 采: …………。 川田: 大丈夫ですよ、采様。役目を果たさずには死ねませんので。 川田: 何千回、何万回と繰り返そうとも……。 川田: 神の望みを叶えるのが、『御子』です。