Part 01: 菜央(私服): ごちそうさまー……ほわぁ、とってもおいしかった。レナちゃんの手作り料理は、いつも絶品よね~♪ レナ(私服): あははは、お粗末様。今日つくったのは初めて挑戦したお料理だったから、菜央ちゃんのお口に合ってよかったかな……かなっ。 菜央(私服): えっ、そうなの? 塩加減もソースとの相性もぴったりで、全然そんな感じじゃなかったわ。 菜央(私服): やっぱりレナちゃんって、料理のセンスが抜群よ。一流シェフさんがつくったものだって言われてもあたしは信じちゃうかも……かも♪ レナ(私服): は……はぅ……。それはさすがに、お世辞でも言いすぎだよ~。 菜央ちゃんの絶賛の言葉は少しくすぐったくて……それ以上にあたたかく、幸せな気持ちにさせてくれる。 圭一くんの時もそうだったように、手作りのお料理を喜んでもらえるのは本当に嬉しい。今日のように心を込めてつくった時は、なおさらだ。 正直に言うと、今回は下準備が多少手間だった上、出来については半信半疑な面もあったけど……。 そんな苦労と不安は、彼女の嬉しさに満ちた笑顔で全部綺麗さっぱりと吹き飛んでしまっていた。 菜央(私服): ほわぁ……もうこのままあたし、レナちゃんの家に居候しちゃおうかしら~。あ、もちろんその分しっかり働くから♪ レナ(私服): はぅ~♪菜央ちゃんが妹になってくれるなんて、レナも大歓迎だよ~! 菜央(私服): ……っ……? その時、菜央ちゃんが息をのんで言葉を失い……その表情にわずかな陰りが浮かんで見える。 ……しまった。いくら居候云々が冗談だとしても、妹と呼ぶのは踏み込みすぎだったかもしれない。 レナ(私服): ご……ごめんね、菜央ちゃん!レナ、つい変なことを言っちゃって……! 菜央(私服): う……ううん、そうじゃないの!ただ、ちょっとびっくりしただけで……。 菜央(私服): もし……レナちゃんのことをお姉ちゃんって呼ぶことができたら、あたし……すごく嬉しい!これ以上ないってくらいに、幸せよ! レナ(私服): はぅ……そ、そう?だったら、よかったかな……かな……。 菜央ちゃんにそう言ってもらえたことで、私は動揺で高鳴りかけた胸をなで下ろす。 ……どうしてだろう。彼女に対してはなぜか、うっかり心を許して時々言い過ぎてしまうことが増えた気がする。 魅ぃちゃんに対してでさえ、ある程度の距離感を保つことは忘れないようにしてきたはずなのに……? 菜央(私服): そ、それはそうとして……レナちゃんって、本当にお料理が上手よね。お店を開いてもいいレベルだと思うわ。 菜央(私服): いっそ学校を卒業したら、魅音さんに頼んで食堂か料理屋さんを#p興宮#sおきのみや#rに開くのはどうかしら?レナちゃんさえよければ、あたしも手伝うから! レナ(私服): あははは。さすがにお金をもらって商売するほど、レナは料理上手じゃないよ。 その言葉は本心からのものだけど……ちらっ、と一瞬脳裏に浮かんだ想像に、思わず心を奪われかけてしまう。 私が料理をして、その隣で菜央ちゃんがかいがいしく笑顔で手伝ってくれる……なんて素敵で、幸せな未来だろう。 レナ(私服): (……。でも……) 本当に、とても残念だけど……その夢はきっと、実現しないこともわかっている。 なぜなら菜央ちゃんには、他にもっと素敵な夢があって……その実現のために毎日頑張っていることを私は知っているからだ。 菜央(私服): うーん、そうかしら……?レナちゃんほどのお料理の腕だったら、絶対繁盛すると思うんだけどな……。 菜央(私服): じゃあ、レナちゃん。お料理関係以外でなりたい職業とかって、他に何かあったりするのかしら? レナ(私服): えっ……? 菜央(私服): 大人になったら、どんな仕事をしたいのかなって。あたしはもちろん、服のデザイナー関係だけど。 菜央(私服): レナちゃんのなりたい職業って、今まであんまり聞いたことがなかったから……もしよかったら、教えてほしいわ。 レナ(私服): はぅ……そうだね……。 なんとか笑みを取り繕いながら、私は胸にわき上がった困惑をごまかし隠す。 こういう時、無難な返答として真っ先に上がるのは「お嫁さん」「お母さん」だろう。魅ぃちゃんたちが相手なら、そう返していたと思う。 そのどちらかを挙げるだけで、この手の話題はたいてい冗談めいた笑い話で終わる……けど。 レナ(私服): レナは、その……。 思わず言いよどんで、口をつぐんでしまう。夢を叶えるために頑張っている菜央ちゃんに対して、この返答は茶化しているようにも思えたからだ。 菜央(私服): ? どうしたの、レナちゃん。あたし、何かまずいことを聞いちゃったかしら……? すると、私が返答に困る様子から何かを察したのか、菜央ちゃんが心配そうな表情を浮かべている。 この子を、不安にさせてはいけない。……そう思って私は平静を取り戻すと、にこやかに笑いかけていった。 レナ(私服): ううん、そんなことないよ。ただ、レナは菜央ちゃんと違ってどんな仕事をしたいのか、まだ決まっていないから……。 レナ(私服): 将来の夢って聞かれても、すぐには答えられないんだ。……ごめんね。 菜央(私服): あ……あたしこそ、ごめんなさい。レナちゃんはいつも頑張り屋さんで、いろんなことを勉強してるから……。 菜央(私服): もしかしたら、大人になって何かしたいものがあるのかな……って思っちゃっただけなの。 レナ(私服): あははは、気にしないで。むしろ、菜央ちゃんくらいの年齢で将来の夢が決まっているなんて、すごいと思うよ。 菜央(私服): そ、そうかしら……? レナ(私服): うん。だから……レナは菜央ちゃんのこと、ちょっとだけ羨ましいな。 レナ(私服): レナは夢を叶えるだけの才能もなかったし、努力もできなかったから……余計にね。 菜央(私服): えっ……? Part 02: ……自分には、「あの人」ほどの才能がない。そう気づかされたのは、わりと早い段階だった。 興味が、なかったわけじゃない。夢と呼んでもいいほどの憧れだって、間違いなく存在していた。 実際、絵を描くこと自体は楽しかった。いくつかの作品を「あの人」に見てもらい、褒められた時は本当に嬉しかったほどだ。 ……今思うと、「あの人」は褒め上手だった。相手のやる気をそぐようなことは口にしないし、自身の価値観に押し込めることも決してない。 機会も、色々と用意してくれた。クレヨンなどの画材、高い画集も欲しいと言えば惜しみなく積極的に与えてもらえた……と思う。 だからこそ私は、一時的とはいえ「あの人」と同じデザイナーになる……なんて夢を持っていたこともあった。 「あの人」も、それを伝えたら喜んでくれた。たとえ子どもの戯れ言だったとしても、自分の仕事をそんなふうに思ってもらえて……嬉しかったのだろう。 もっと、「あの人」の笑顔が見たかった。たくさんお話がしたかった。褒めてもらいたかった。 そのためにも、私は努力しようと思った。だから暇さえあれば絵を描いて、描いて描き続けて……。 …………。 だけど、そんな意欲は日を追うごとに少しずつ……でも、確実に減退していった。 自分の作品を、誰かに貶されたわけではない。壁にぶつかった……のも、少し違うと思う。 ただ……ふと、気づいてしまったのだ。私が将来デザイナーになりたいと考えたのは母に関わりたい、褒められたかったからで……。 デザイナーという職業に対してはさほど憧れを抱いていなかったのだ……と。 レナ(私服): (絵を見てもらいたいのは、※※さんだけだった。他には恥ずかしくて、とても……) それに、母は褒め上手だったが……だからこそ本当にいいと思ってくれているのか、あるいはお世辞なのかが……わからなかった。 もし、私のことを気遣って貴重な時間を奪い、余計なストレスを与えているのだとしたら……それはとても失礼なことだし、申し訳ない。 そう考えてしまった私は、絵を描くことを止めた。熱意も完全になくなり、部屋で画材を目にしても触ろうともしなくなった……。 レナ(私服): (もし、本当に才能があるんだったら……きっと「あの人」に嫌がられても疎まれても、私は絵を描くことを止めなかった……と思う) なのに、そんなつまらない理由で止めてしまえるのだから……才能が「ない」。 私はそう考えて、デザイナーへの道をあっさりと諦めてしまったのだ……。 レナ(私服): ……レナは残念だけど、憧れていたその人になれるだけの才能がなかった。なにより、情熱も……なかった。 レナ(私服): だから……ね。目標に向かって頑張っている菜央ちゃんは、レナにとってすごくまぶしい存在なんだよ。 レナ(私服): 一生懸命つくりあげた作品を、勇気を振り絞って他人からの評価を受け止めて……活かそうとする。 レナ(私服): いっぱい悩んで、傷つくことがあっても……それでもなお、憧れの夢を大好きでいられる。言葉でいうほど、簡単なことじゃない。 レナ(私服): それって、全部……レナにはできなかったことだから……。 菜央(私服): ……レナちゃん。 ……あぁ、情けない。私は今、とてもみっともないことを口にしている自覚がある。 菜央ちゃんのように、夢を持って……それを叶えるべく精一杯頑張っている人にとって、私の存在はさぞかし格好悪く見えるに違いない。 だけど……私には……夢を目指せるだけの勇気と情熱がないから……どうしても……。 菜央(私服): ……。そんなこと、ないわ。 レナ(私服): えっ……? 菜央(私服): そんなこと……絶対にない!だってあたしにとって最高の憧れの人は、今はお母さんよりもレナちゃんだもの! レナ(私服): な、菜央ちゃん……? 菜央(私服): いつも明るくて、優しくて……!どんなに辛いことがあっても我慢して乗り越えて、笑顔でいてくれてる! 菜央(私服): レナちゃんみたいに、強くて優しい人になりたい……もしなれなかったとしても、せめて近づきたい! 菜央(私服): あたしは、レナちゃんと出会った時からずっとそう思ってるわ……! レナ(私服): ……っ……! 菜央(私服): だから、才能がないとか……努力をしてこなかったなんて、悲しいことを言わないで! 菜央(私服): レナちゃんの才能は、どんな相手に対しても幸せでいてほしいって願ってくれる優しさよ!そのための努力だって、ちゃんとしてる! 菜央(私服): だから……だからっ……! レナ(私服): ……っ……。 ぼろぼろと涙をこぼしながら、泣きじゃくる菜央ちゃん。その小さな身体を……私はそっと抱きしめる。 ……あぁ、そうか。私が彼女のことを気に入っている理由が、またひとつわかってしまった。 菜央ちゃんは……私のことをちゃんと見てくれていたんだ。笑顔だけじゃなく、その裏の内面まで。 そんな彼女だからこそ私は、ありのままの自分になって……本心を……。 レナ(私服): ごめんね……ありがとう、菜央ちゃん。あなたにそんなふうに言ってもらえて、レナは……私は、とっても嬉しい。 菜央(私服): っ、……レナちゃん……。 レナ(私服): 今はまだ、夢と呼べるものは思いつかないし見つけたいって願望があるわけじゃないけど……。 レナ(私服): 将来なりたいものができたら、必ず菜央ちゃんに教えるね。……約束だよ。 菜央(私服): うんっ……約束……!その時が来たらあたし、絶対にレナちゃんの夢を全力で応援するから……! レナ(私服): ……ありがとう、菜央ちゃん。 心からの感謝を込めて、私は菜央ちゃんの小指に自分のそれをからませる。 やっぱり……この子は他のみんなと、何かが違う。なんとなくなので、言葉では表現できないけど……。 彼女の応援は、とても嬉しくて……励みになる。それだけは間違いなく、信じることができた。 Part 03: レナ(アラビアン): ……昨夜、そんな夢を見たんだ。夢の中の「世界」がどんなところだったとか、詳しい内容はよく覚えていないけど……。 レナ(アラビアン): あんなふうに、レナのことを励まして元気づけてくれる子は今までいなかったから……起きてからもずっと、幸せな気分だったよ。 魅音(アラビアン): ……なるほど。ここではない「世界」での、会ったこともない友達とのやりとり……か。 魅音(アラビアン): どうしてそんな夢を見たのかはともかく、ずいぶんとリアリティのある内容だったんだね。 レナ(アラビアン): うん。公由さんからここと違う「世界」について、色々と教えてもらったからかもしれないね。 レナ(アラビアン): 菜央ちゃんっていうその子は……レナのことを本当のお姉さんみたいに慕ってくれていたんだよ。 魅音(アラビアン): …………。 レナ(アラビアン): だからもし、どこかの「世界」のレナにはあんな妹がいて一緒に仲良く過ごしているんだとしたら……。 レナ(アラビアン): 羨ましいな、って心から思うよ。魔王や敵討ちのことも全部投げ出して……その子のために生きたいくらいにね。 魅音(アラビアン): レナ……。 レナ(アラビアン): あははは。レナは魅ぃちゃんと違って、実は甘えん坊な性格なのかもしれないね。 レナ(アラビアン): 空の部族の生き残りなんだから、誇り高く毅然とした生き方をしようって思ってきたつもりだったけど……。 レナ(アラビアン): 本当は、心のどこかで誰かにすがりたい。出口の見えない毎日を終わらせたい……なんて考え始めちゃっているのかも。 魅音(アラビアン): くっくっくっ……何を言うんだよ。私だって、レナと同じようなものさ。 魅音(アラビアン): 死んでしまった火の部族の仲間たちのことより、自分の妹だったかもしれないって戯言ほざいたやつが最後に残した言葉に従って、こだわって……。 魅音(アラビアン): 今もこうして、生きているんだ。……それを果たすことさえできれば、本当は魔王のことなんて二の次、ってくらいにね。 レナ(アラビアン): 魅ぃちゃん……。 魅音(アラビアン): 正直ね……この「世界」がどうなるかなんて、今はもうどうでもいいって思っているんだ。 魅音(アラビアン): もちろん、自棄になったわけじゃない。ここで私たちが行き着いて見つけ出したものが、別の「世界」の自分たちの幸せに繋がる……。 魅音(アラビアン): そういう巡り巡った可能性ってやつを、知ることができたから……さ。 レナ(アラビアン): あははは……そうだねっ。レナも魅ぃちゃんと同じかな……かなっ。 レナ(アラビアン): あっ……だとしたら、魅ぃちゃんは公由さんにそういう理由があって力を貸そうと考えたの? 魅音(アラビアン): まぁ、その辺りはご想像にお任せするよ。……『英雄』と呼ぶにはまだまだ全然物足りない、頼りなさ全開の人材だけどね。くっくっくっ! レナ(アラビアン): はぅ、『英雄』って……どういう意味なのかな、かな? 魅音(アラビアン): んにゃ、こっちの話。……なにはともあれ、そろそろあの子を起こして出発の準備を始めよっか。 レナ(アラビアン): うん、わかったよ。どこかにいる誰かのために、レナたちも頑張ろうねっ。