Part 01: 灯: いやー、今年も学園内のクリスマスイベントは大盛り上がりだったねー!生徒会役員のみんな、本当にお疲れ様! 灯: 頑張ってくれた労に報いるにしてはささやかだが、思いつく限りのご馳走を揃えてみた!許可も取ったから、存分に騒いでくれたまえ! 灯: さて、飲み物は行き渡ったかい?それじゃ、かんぱ――。 梨花(高校生クリスマス): ちょっと待ってくださいっっ!! 灯: ん、どうしたんだい梨花くん?まだ告白もしていないのに「ちょっと待った」コールはさすがに早すぎると思うんだが。 灯: あっ……なるほど。つまり先に告白をするという、別パターンってこと?うーん、そういった変化球も悪くないね。では……。 梨花(高校生クリスマス): 違います!ここで紅のクジラのイベントをやるつもりなんて、全くもってありませんっ! 梨花(高校生クリスマス): 私が言いたいのは、どうして! あなたが! ここにいて!あまつさえ乾杯の音頭を取っているのかということですッ! 灯: ……何かおかしいかい? 梨花(高校生クリスマス): あなたがそう問いかけること自体がそもそも変だと認識してください! 梨花(高校生クリスマス): この際だからはっきり申し上げますが、前会長!あなたはもう生徒会の関係者ではないんですよっ?すでに引退して、現在は役無しです! 灯: そうなのかい? 部外者扱いは寂しいなぁ……。私はこの学園のために身を粉にし、寝食を忘れるほど全てを捧げてきたというのに……。 梨花(高校生クリスマス): 全てを捧げた、という言葉には「嘘だ!」と叫んだ上で訂正を求めたいところですが……ご活躍ぶりは認めます。あなたのことは沙都子と同様に、心から尊敬しています。 梨花(高校生クリスマス): ですが、それとこれとは話が別です!まして今年のクリスマスイベントはここにいる沙都子……いえ、北条会長の頑張りがあってこそです! 梨花(高校生クリスマス): なのに、主役を務めるべき彼女よりも目立って場を支配するのはお門違いでしょう?! 沙都子(高校生クリスマス): まぁまぁ、梨花。会長さんから色々とご尽力をいただいていたのは確かなことでしてよ。 沙都子(高校生クリスマス): それに、これだけたくさんのご馳走を会長さんのポケットマネーでご用意いただいたのです。私なら、席を譲っても構いませんわ。 梨花(高校生クリスマス): 気にしなさいよ、沙都子!あんた……じゃない、あなたは今や学園の生徒の代表なんだから! 沙都子(高校生クリスマス): そうは申されましても……私にとって会長さんはずっと会長さんでしたから、会長が会長さんでないのは違和感がありましてよ。 沙都子(高校生クリスマス): ですから、この場では会長さんのことを会長さんとお呼びして、私のことは暫定としてたとえば新会長と……あ、いえ。 沙都子(高校生クリスマス): 選挙が行われてから数ヶ月が経ちましたし……「新」という肩書きはなんだかむずがゆいですわね。 沙都子(高校生クリスマス): となると、「現」会長……?ただ「現」という響きはなんだか余分に感じますわ。だったらやっぱり会長にして、会長さんは……。 梨花(高校生クリスマス): やめて、沙都子っ!会長ワードがあっちこっちに入ってきて、思考がゲシュタルト崩壊を起こしそうよ! 灯: ふむ……思考のゲシュタルト崩壊か。言い得て妙と言えば、その通りだろうね。 灯: ただ、念のために言っておくとゲシュタルト崩壊は視力に影響を与えるわけだから思考に何らかのおかしな変化を与えたりは――。 梨花(高校生クリスマス): あぁ、もう!そういう意味じゃなくてただの言葉の綾なんですから、おかしな方向に話を向けないでくださいッ! 灯: というわけで、かんぱーいっ!! 梨花(高校生クリスマス): って、全部ぶん投げたっっ?!この人は……この人はぁぁぁっっ!! 梨花(高校生クリスマス): はぁ……酷い目に遭ったわ……。 沙都子(高校生クリスマス): お疲れ様ですわ、梨花。あなたもいい加減、会長さんの性格を理解して反発せずに受け入れればよろしいのに。 梨花(高校生クリスマス): ……あんたたちがあっさり受け入れすぎなのよ。おまけにまた、口八丁手八丁を駆使してこんな服を着せられるなんて……うぅ、屈辱だわ……。 沙都子(高校生クリスマス): ですが、生徒さんからのウケはよろしくてよ。先生方も慣れたのか、去年ほど嫌な顔をして私たちのパレードをご覧になっていませんでしたしね。 沙都子(高校生クリスマス): 来年になれば、きっと普通のイベントとして受け入れられるようになるのでしょうね。それはそれで、素敵だと思いましてよ。 梨花(高校生クリスマス): 普通になっていいのかしら……?お堅いことを言って水を差すつもりはないけど、時々心配になってくるわ。 沙都子(高校生クリスマス): まぁまぁ、梨花も少し肩から力を抜いてくださいまし。せっかくイベントも無事に終了して、今は2人でささやかに打ち上げ会を開いているんですから……ね? 梨花(高校生クリスマス): ……そうね、わかったわ。せっかく沙都子と一緒のクリスマスなんだから、楽しく過ごしましょう……あら? 沙都子(高校生クリスマス): ? どうしましたの、梨花? 梨花(高校生クリスマス): ねぇ沙都子、そこにある置物ってとっても可愛いわね。どこで買ったの? 沙都子(高校生クリスマス): あら……お忘れになりましたの?これは以前にーにーが私に買ってくれた、クリスマスプレゼントでしてよ。 梨花(高校生クリスマス): にーにーって……悟史のこと? 沙都子(高校生クリスマス): をーっほっほっほっ、それ以外にはいませんわ!私がにーにーと呼ぶのは、世界広しといえどもにーにーだけなんですから♪ 梨花(高校生クリスマス): ……っ……。 Part 02: 悟史(冬服): 『ねぇ、沙都子。せっかくのクリスマスだから、ちょっと遠くに出かけてみないか?』 そう言ってにーにーが誘ってくれた時、私はすごく嬉しかったのだけど……。 ただ同時に、どうしても怪訝な思いを抱かずにはいられなかった。 沙都子(冬服): あの……大丈夫ですの?クリスマス当日は、詩音さんと……その……。 敢えて言葉を濁したものの、詩音さんがにーにーのことを憎からず……いや、思慕の念を抱いていることは私たちの間では周知の事実だ。 だから、敢えて彼女の想いを無視してまで自分の都合を優先するという……そんなわがままを押し通すつもりは毛頭無かった。 沙都子(冬服): (詩音さんには色々とからかわれたり、時には嫌いな食べ物を無理やり勧められたりして文句を言うことがありましたけど……) 沙都子(冬服): (あれも好意の裏返しで、なんだかんだで私のことを可愛がってくれている以上……無下にはできませんわ) だけど、そんな逡巡は次のにーにーの返事で氷解する。兄も詩音さんのことを、軽んじていたわけではなかった。 悟史(冬服): 大丈夫だよ、沙都子。この時期のエンジェルモートって、忙しいを通り越した修羅場状態になっちゃうだろう? 悟史(冬服): だから、詩音の方から勧めてくれたんだ。せっかくのクリスマスなんだし、たまには沙都子と一緒に出かけてみたらどう、ってね。 沙都子(冬服): あぁ……そういうことでしたの。だったら、少し安心しましたわ。 いや、本当のことを言えばにーにー本人ではなく詩音さんの意向で誘われたのか、という不満はほんの少しだけ湧き上がらないこともなかったが……。 兄と出かけられる嬉しさと幸せのことを思えば、そんなものは太平洋に墨汁一滴を垂らすようなもの。断るという選択肢なんて、存在するはずがなかった。 沙都子(冬服): では、にーにー。実は私、一度行ってみたいところがあったので……聞いてもらってもよろしくて? 悟史(冬服): うん、いいけど……どこに? 沙都子(冬服): ちょっとどころか、かなりの遠出になりますわ。……をっほっほっほっ! 悟史(冬服): うわっ……すごいね! 人もいっぱいだし、街全体がお祭りをやっているみたいだよ。 沙都子(冬服): をーっほっほっほっ!お祭りみたい、ではなくてお祭りをやっているんですのよ。 沙都子(冬服): 今の時期の東京は、さしずめ全国から恋人たちが集まるフェスティバル会場ですわ~! そういって私はにーにーとともに、色とりどりの照明と飾りつけで華やぐ都会の並木道を練り歩く。 #p雛見沢#sひなみざわ#rから監督の車と電車を乗り継いで、約6時間。お昼頃に出発して到着した頃にはすっかり日が落ちて、辺り一面が光と影のコントラストに包まれていた。 悟史(冬服): でもまさか、沙都子が東京に行きたがっていたなんて全然気づかなかったよ。正直言って、こんなところには興味が無いんじゃないかって思っていたからさ。 沙都子(冬服): をーっほっほっほっ!私とてレディの端くれなんですから、当然こういう街を歩いてみることに憧れくらいは持っていましてよ。 沙都子(冬服): まるでTVドラマの中の登場人物になったみたいで、とっても素敵な気分ですわ~♪ 悟史(冬服): そ、そう……? 沙都子が楽しいんだったら、もちろんそれが一番なんだけど……僕はちょっと、こういう雰囲気の場所は苦手かなぁ。 そう言ってにーにーは、きょろきょろと周囲に目を向け落ち着かない様子で不安そうな表情を浮かべている。 こんなにたくさんの人がいても、みんなそれぞれに街の雰囲気と語らいに夢中なのだから別に気にしなくても大丈夫なのに……と、可笑しさを覚えたが。 元々にぎやかなところがそれほど得意ではないとわかっていたので、兄の反応はほぼ想定通りだった。 沙都子(冬服): (それに……ここへにーにーを連れてきたのは、「代役」の役目を果たすことが目的でしたのよ。だから……あら?) 人混みの中を抜けて少し進んだ先に、私は裏路地への入口を見つける。そこは大通りよりも灯りが少なくて目立たない、細い抜け道だった。 沙都子(冬服): にーにー、ここですわ。この路地を入って奥まったところに、とても感じのいいアンティークショップがあるとのことでしてよ。 沙都子(冬服): ぜひにーにーも、一緒に来てくださいまし。可愛いグッズとかがいっぱい揃っているそうで、詩音さんへのお土産にはぴったりですわ~! 悟史(冬服): えっ……だ、大丈夫なの?人の姿もあんまり無くて寂しい感じだし、それに銀座のお店だと……その……。 沙都子(冬服): ご心配には及びませんわ!ちゃんとお財布事情にも優しい場所だと、「常連さん」からのお墨付きですのよ。 沙都子(冬服): さぁにーにー、騙されたと思ってついてきてくださいまし!きっと後悔はさせませんわ~! 悟史(冬服): ……沙都子がそこまで言うなら、わかったよ。でも沙都子、どうして僕が詩音へのプレゼントを買うつもりだったって気づいたの? 沙都子(冬服): にーにーの顔を見れば、一目瞭然でしてよ!をーっほっほっほっ! Part 03: 沙都子(冬服): をーっほっほっほっ! 事前に聞いていた通りに、素敵な掘り出し物が山盛りざっくざくでしたわ~!いかがでして、にーにー? 悟史(冬服): う、うん……最初はお化け屋敷みたいな感じで、店の中に入ってからもずっとドキドキしていたけど……。 悟史(冬服): 沙都子が言っていたように、思ったほど高いものばかりじゃなくて逆に驚いたよ。東京の中心街でもお手頃な商品を扱っているんだね。 沙都子(冬服): えぇ、そうですわ。先入観というのはモノの価値や正体を惑わせ、いわばノイズのように思考を阻害する存在。 沙都子(冬服): ですから、それを取り除いてこそ新しい発見に繋がる第一歩となるんですのよ~。 悟史(冬服): 確かに……そうだね。沙都子に勧められなかったら、うっかり何も知らずに都会への苦手意識を持ってしまうところだったよ。 悟史(冬服): それにしても……沙都子。さっきのお店の情報は、いったい誰から聞いたの?やっぱり圭一とか、レナとか……? 沙都子(冬服): をーっほっほっほっ!にーにーとドッコイレベルの朴念仁な圭一さんが、あんなお店をご存じなわけがありませんのよ。 沙都子(冬服): レナさんとて、東京のことに関してお詳しかったというお話は聞いたことがありませんわ。ですから、にーにーの予想は残念ながら外れでしてよ。 悟史(冬服): ……そっか。じゃあ、いったい誰が沙都子に東京のことを? 沙都子(冬服): 誰って、それはもちろん……。 …………。 沙都子(冬服): あ、あらっ……? 誰、でしたっけ……? 悟史(冬服): むぅ……沙都子。ひょっとして、僕をからかっているのかい……? 沙都子(冬服): ち、違いますわ!私はその、えっと……、っ? その時、ふと私は通りがかったショーウィンドウに目を止める。 そこに飾られてあったのは、球体状の置物だ。ガラスの中には幻想的な彩りがあって……。 悟史(冬服): どうしたの、沙都子?何か気に入ったものでも見つけたのかい? 沙都子(冬服): あ、いえ……とても可愛い置物だなって思いまして。ちょっと目を引かれてしまいましたのよ。 沙都子(高校生クリスマス): ……で、にーにーが買ってくださったんですのよ。東京のお店で詩音さんに向けた素敵なプレゼントを教えてくれたお返しに、って。 沙都子(高校生クリスマス): 少し値が張っていたので、最初は断ったんですけど……にーにーったら、どういうわけか引き下がってくれなくて。 沙都子(高校生クリスマス): あまり遠慮すると、かえってにーにーの気持ちを蔑ろにすると思って……ご厚意に甘えることにいたしましたわ。 梨花(高校生クリスマス): ……。そうだったのね。 沙都子(高校生クリスマス): って、このことは買ってきた時に梨花にも話したつもりでいたんですけど……もしかして、お忘れになりまして? 梨花(高校生クリスマス): えぇ……ごめんなさい。綺麗な置物だとは思ったけど、その辺りのことを聞き逃していたのかもしれないわ。 沙都子(高校生クリスマス): をーっほっほっほっ!今は完璧副会長の梨花も、#p雛見沢#sひなみざわ#rにいた頃は少しうっかり屋さんだったのかもですわね~。 役員: 北条会長ー、すみません。ちょっと来てもらえますかー? 沙都子(高校生クリスマス): あら、何かありましたの?……ごめんなさい梨花、ちょっと行ってきますわ。 梨花(高校生クリスマス): えぇ、行ってらっしゃい。 …………。 梨花(高校生クリスマス): 沙都子……あなたは覚えていない、いえそう記憶しているのかもしれないけど……。 梨花(高校生クリスマス): あなたは今まで、東京に行ったことなんて無いわ。少なくとも、私の目が届いていた範囲ではね。 梨花(高校生クリスマス): それに……沙都子。悟史はあれから、ずっと「行方不明」のままよ。目を覚ましたって報告は、一度も来ていない。 梨花(高校生クリスマス): 沙都子……あなたが記憶している過去は、いったい何なの? 梨花(高校生クリスマス): 妄想? 夢? それとも――。 梨花(高校生クリスマス): あなたが体験してきた、もうひとつの「世界」……?