Part 01: 梨花(高校生冬服): ふぅ……今夜は、このくらいにしておこうかしら。 ある程度目処をつけた入試問題集から顔を上げ、私は大きく伸びをしながら深呼吸する。 今日のノルマとしていた分量は大幅に超えたので、あと数日もあればこの問題集もおしまいだ。癖の強い回答形式にも、かなり慣れてきたと思う。 梨花(高校生冬服): (今年度から実施の、新共通一次のセンター試験。私たちの学年から初導入なんて、因果なものね……) センター試験は、マークシートによる試験形式だ。それを聞いた沙都子は「困ったら鉛筆を転がせばよろしくてよ~」なんて言っていたが……。 その辺りの対策として用意されたのか、数学や理科の計算回答は数字で入力しなければならないので、サイコロを用いても意味がない。 また、設問の中には「正解を全て選べ」と複数の回答選択を求められるものもあって、なかなかよくできていると思う。 いずれにせよ、新制度の導入で本来は現役生よりも経験面で有利な浪人生と同条件で戦えるというのは、少しだけありがたい……のだろうか? 梨花(高校生冬服): まぁ、泣いても笑っても受験まであと少し。頑張りましょうね、沙都子……? そう言って、親友と同時に自分も励ますつもりで私は同意を求めようと隣の机に顔を向ける……が。 沙都子(高校生): くぅ……すぴぃ……。 ともに勉強を頑張っていたはずの沙都子は腕を枕にして突っ伏し、気持ちよさそうに寝息を立てている最中だった……。 梨花(高校生冬服): もう……沙都子ったら。一緒に勉強をしようって誘ってきたくせに、いい気なものね。 やれやれと呆れた思いでため息をつき、私は肩をすくめる。 今夜は同室の子が不在、ということで久々に沙都子と同じ部屋で過ごせると楽しみにしていたのだが……。 部屋に戻るなり、彼女はのんびり寛ぐどころか雑談もそこそこにして机へと向かい、勉強に集中するというストイックモードに移行。 それを受けて、仕方なく私も追随することになったのだが……気づいた時に居眠りされては、さすがに文句も言いたくなるというものだ。 梨花(高校生冬服): ……? あっ……。 机に広げた彼女のノートに目を落とすと、びっしりと英単語が書き取りのように何十個も綴られて……その意味が赤で上書きされている。 どうやらさじを投げたというわけではなく、単語の暗記に没頭して疲れた脳の一休み、といったところか。……大したものだ。 梨花(高校生冬服): (以前は大の勉強嫌いだったのに、ここまで前向きに頑張るようになったのね……) 入学した当初は、勉学に苦しむ沙都子の様子を目にするたびに聖ルチーアへの入学を誘うべきではなかった、と激しく後悔したものだが……。 彼女は挫けずに努力し続け、他の生徒たちからもその行動力と発言力を評価された結果……遂には生徒会長を務めるまでになった。 #p雛見沢#sひなみざわ#rにいた頃の沙都子も可愛らしくて大好きだったが、自信に満ちた今の姿も同じくらいに頼もしくて愛おしい。彼女の親友でいることに、私は誇りすら抱いていた。 梨花(高校生冬服): 沙都子……沙都子ってば。そんな格好で寝たら、風邪を引くわよ。 沙都子(高校生): っ、……って、……梨花……? 軽く肩を揺さぶって声をかけると、沙都子はゆっくりと瞼を開けて応えてくる。 そして顔を上げ、辺りを見回してから……ぱちくり、と目を丸くしながら私を見つめていった。 沙都子(高校生): えっ……どうしてこんな遅い時間に、梨花が私の部屋にいるんですの? 梨花(高校生冬服): はぁ? 何を言い出すのよ、沙都子。受験追い込みの時期だから一緒に勉強しようって私を誘ったのは、あなたじゃない。 沙都子(高校生): 私が?……って、そうでしたわ。ちょっと今し方見ていた夢とごっちゃになって、思い出すのに時間がかかってしまいましてよ。 梨花(高校生冬服): 夢って……そんなに長い時間眠っていたってこと? 沙都子(高校生): いえ、ほんの数分程度だと思いますわ。10分ほど軽く一眠りするつもりで、タイマーもかけていたんですもの。 それを証明するように、机の上の小さな時計がアラーム音を鳴り響かせる。それをオフにして、沙都子は大きく伸びをしてみせた。 梨花(高校生冬服): 短時間で夢を見るほど熟睡できるなんて、大したものね。どんな内容だったの? 沙都子(高校生): それは、……ん……うーん、うーん……? 沙都子(高校生): さっきまで私、どんな夢を見ていたんでしたっけ……? 梨花(高校生冬服): 私に聞かれても、答えられるわけないじゃない。やっぱりまだ寝ぼけているのね。 再び大きくため息をつくと、私は立ち上がってそばに置いてあったポットに手を伸ばす。 幸いまだ、夕食後に淹れておいた紅茶はかなり残っている。それを2つのカップに注ぎ、1つを沙都子に差し出した。 沙都子(高校生): ありがとうですわ、梨花。ちょうど起き抜けで、飲み物が欲しかったんですの。 沙都子はカップを傾け、紅茶を一気に飲み干す。……相当喉が渇いていた様子だったので、私はすぐさま2杯目を彼女のカップに注いだ。 そして席に戻り、しばし香りを楽しんでから自分のカップの半分ほどを口に含んで潤す。舶来品だけあってか、芳醇にして味わい深い。 唯一の不満があるとすれば、これが卒業した秋武元会長のお土産ということだ。……憎らしいドヤ顔が、脳裏に浮かんで消える。 沙都子(高校生): ふぅ……おかげで、頭がすっきりしてきましたわ。目覚めの一杯とはよくいったものですわね。 梨花(高校生冬服): それ、2杯目よ。あなた、わざと言っているでしょう? 耳ざとく聞いた私が指摘すると、沙都子は「ばれましたわね」と舌を出していたずらっぽく笑う。 そして、3度ほどに分けて紅茶を飲み終えてから彼女はカップを指で弾きながら呟くように言った。 沙都子(高校生): 思い出しましたわ。夢で見たのは、あの時のことでしてよ。 梨花(高校生冬服): あの時って……どの時? 沙都子(高校生): 梨花は覚えていまして?雛見沢で迎えたクリスマスパーティーのことですわ。あの時はホント、大変でしたわね……。 Part 02: 美雪(冬服): なーんか私たち、毎回ヘルプ要員として呼び出されてる気がするけどさ……いい加減お役所も、黙ってないと思うよ。 魅音(冬服): うっ……た、確かに。労働基準法とかを持ち出したら、合法すれすれだもんね。 菜央(冬服): すれすれどころか、完全にアウトでしょ。一穂や美雪ならまだしも、あたしたちまで手伝いにかり出されてるんだから。 一穂(冬服): あ、あははは……。 沙都子(冬服): 梨花……労働基準法、ってのは何ですの? 梨花(クリスマス): 子どもは早く寝なさい、という大人たちが決めたルールなのですよ。みー。 そう曖昧に答えてごまかしながら、私はいそいそとラッピングの作業を続ける。 今夜は、例によって魅音に頼まれたバイトの真っ最中。私たちは来週のクリスマスイベントに参加する、村の子どもたちのためのプレゼント作りに勤しんでいた。 菜央(冬服): あたしや梨花たちも参加するイベントだからプレゼントを用意してもらえるのはすごく嬉しいし、ありがたいとは思ってるんだけど……。 梨花(クリスマス): みー。もらえるプレゼントを自分たちで用意するのはちょっとだけ複雑な気分なのですよ。 そう言って私は、自分の衣装にちらりと目を向けて苦笑する。 てっきり壮行会を兼ねた、少し早めのクリスマスパーティーかと思って少しおめかしをしてきたのだが……。 実は魅音がうっかり手配を怠っていたお手伝いの延長だと知らされて、さすがにがっかりした思いは多少あったりする。 ……隅っこにある、明日の夜に向けて用意されたクリスマスの飾り付けを見ていると複雑な気分だ。 魅音(冬服): ご、ごめんねぇ……。ホントは梨花ちゃんたちに喜んでもらえるよう、内緒にしておくつもりだったんだけど……。 魅音(冬服): エンジェルモートのヘルプ要員に人員を割いたら、こっちの手がどうしても足りなくてさ……。 沙都子(冬服): 別にいいんですのよ、魅音さん。困った時はお互い様、持ちつ持たれつですわ~! 詩音(冬服): あら、沙都子もずいぶんと大人な発言をするようになりましたね~? ではご褒美に、あんたのプレゼントはカボチャの特製――。 沙都子(冬服): そう言ってすぐに私への罰ゲームにするのは止めてくださいまし、詩音さんっ!からかいも度を過ぎればただのイジメでしてよ! 詩音(冬服): 失礼な。いじめてなんかいませんよ、私は。沙都子が将来誰かに弱点を突かれて困ったりしないよう、心を鬼にして鍛えてあげているだけです。 沙都子(冬服): 今! まさに! 私は困っているんですのーッ!! 羽入(冬服): あ、あぅあぅ……確かに鬼の所業なのです。最近僕は、詩音のことが梨花と同じくらいドS的な存在に見えて仕方がないのですよ……。 梨花(クリスマス): ……へぇ?じゃあ私もあんたの弱点を鍛えてあげましょうか?帰ったら夜食に、早速キムチを……。 羽入(冬服): こ、言葉を選び間違えたのです!僕は梨花のことを、極悪非道だなんて全っ然思っていないのですよー?! 美雪(冬服): ……語るに落ちたというか、今の発言は明らかに自爆だよね。 菜央(冬服): 雉も鳴かずば打たれまいに……もはや日常の風物詩というべきかしら。 羽入(冬服): あぅあぅあぅあぅあぅ~~っ!! 詩音(冬服): まぁまぁ皆さん。ご不満はごもっともですがお姉のうっかりミスはいつものことなので、どうか大目に見てくださいね。 魅音(冬服): ちょっと、私だけのせいにしないでよ!元はといえば詩音、あんたが安請け合いして人手が確保できなくなったのが原因じゃんか! 詩音(冬服): お姉がエンジェルモートの余剰人員まで、ゲストハウスでのイベントに拠出したからでしょう?あれで計画が全部狂ったんですよ。 詩音(冬服): クリスマスの時期は忙しくて人を確保しづらいからバイトたちのシフトをいじらないでください、ってあれほど言っておいたのに……! 魅音(冬服): 余剰って言っても、待機させていただけじゃんか。バイト代が入らないからなんとかしてくれ、って逆に相談されたくらいなんだからね。 詩音(冬服): この作業を依頼するつもりだったんですよ。なのに……あぁもう……! 喋りながらの作業で手元が狂ったのか、詩音のラッピング紙がしわくちゃになってしまう。さすがに見栄えが悪く、やり直しが確定だ。 詩音(冬服): はぁ、これで3つ目……。そもそも、なんでプレゼントを包装する必要があるんですか?そのまま渡せば済む話でしょう? 魅音(冬服): 子ども会の子たちが相手とはいえ、TPOはちゃんとわきまえないとまずいでしょ?こういうのは雰囲気が大事なんだしさ。 詩音(冬服): それはわかりますが……せっかく苦労してラッピングをしたとしても、最終的には破られてゴミ箱行きじゃないですか。 詩音(冬服): それを思うと、なんか空しいな……って、気持ちが入ってこないんですよ。 魅音(冬服): そりゃまぁ、そうかもしれないけど……。 魅音(冬服): って詩音、やる気を削ぐようなことを言うんじゃないよ。せっかくみんなが手伝ってくれているんだからね。 レナ(冬服): はぅ……けど、詩ぃちゃんの言いたいこともわかるよ。 レナ(冬服): せっかく綺麗に飾り付けるんだから、すぐに捨てられないよう一緒に渡せるといいんだけどね……。 梨花(クリスマス): みー……捨てられないように、一緒に渡す……。 美雪(冬服): ん? どうしたの、梨花ちゃん。何か思いついたりした? 梨花(クリスマス): ちょっと、思いついたのです。ラッピングをこうするのは、どうですか……? Part 03: 梨花(クリスマス): やり方はこうなのです。大きめに切ったラッピング紙を2つ折りにしてから、三方のうちの1つを除いて端をのり付けして……。 梨花(クリスマス): 袋状にした中にプレゼントを入れて開いた口をリボンでくくれば……みー? 菜央(冬服): へー……これはいいアイディアね。丁寧に折り目を気にしなくてもいいから、とっても楽だわ。 詩音(冬服): 確かに……!まさにコロンブス的な発想ですよ、梨花ちゃま! 沙都子(冬服): 包装紙を袋にするのが少しだけ手間ですけど、分担すれば大した作業にはなりませんのよ。 羽入(冬服): あぅあぅ、では僕がラッピング紙を切っていくのです。沙都子と梨花には、のり付けをお願いするのですよ。 レナ(冬服): はぅ~っ! ラッピングの失敗が減って、作業がすいすい進んでいくよ~♪ 梨花(クリスマス): それに、袋の口を開ければすぐにプレゼントを取り出せるので……包装紙を破る必要もないのです。 一穂(冬服): うん、そうだね……!ラッピングの絵も可愛いし、取っておけば何かに転用できるかもしれないよね……? 魅音(冬服): よーし! この調子でじゃんじゃん作業を片付けていこうー! 一同: おおぉぉぉぉおおおっっ!! 梨花(高校生冬服): くすくす……大変だったけど、文化祭の準備みたいで楽しかったわね。 沙都子(高校生): えぇ。それに、あの経験があったおかげでこの学園に入ってからイベントの準備の仕方が色々と思いつくようになりましたのよ。 沙都子(高校生): ちょっとした工夫を施すだけで、作業の負担ががらりと一変することもある……あの時の梨花に、学ばせていただきましたわ。 梨花(高校生冬服): くす……大げさね。 楽しそうに昔話を語る沙都子の顔を見つめながら、私は面はゆさを覚えて肩をすくめる。 私自身は言われるまで完全に忘れていたのに、私との思い出を夢にまで見てくれるなんて……それを思うと嬉しく、あたたかな気分だった。 梨花(高校生冬服): あ、そうそう……はい、沙都子。ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントよ。 沙都子(高校生): えっ……い、いつの間に?この部屋に入ってきた時には梨花、何も持っていませんでしたわよね? 梨花(高校生冬服): さっき紅茶を淹れに出ていった時、自分の部屋に戻って持ってきたのよ。沙都子は集中していて、気づかなかったみたいだけど。 梨花(高校生冬服): この前、買い出しで銀座へ行った時に見つくろっていたものなんだけど……せっかくだからサプライズにしたいと思ってね。 沙都子(高校生): そうでしたの。……ありがとうですわ、梨花。早速、中を見てもよろしくて? 梨花(高校生冬服): えぇ、どうぞ。 私が促すと、沙都子はいそいそとリボンを解いて袋の中に入ったものを取り出す。 梨花(高校生冬服): (そういえば……無意識で袋にしちゃったけど、あの時もこれと同じラッピングだったわね) そんなことを思いながら見守っていると、彼女は少し大げさだと思えるくらいの反応で小さな箱を手に取り……その目を輝かせた。 沙都子(高校生): これは……とても綺麗なデザインですわね。ボールペン? それともシャープペンシル? 梨花(高校生冬服): くすくす……両方よ。右に回すとシャープペンシルに、左に回すとボールペンになるわ。 沙都子(高校生): えっ……確か、高価なものでしたわよね……?そんなものをいただいて、本当にいいんですの? 梨花(高校生冬服): もちろんよ。……それに、そこまでじゃないわ。最近だと廉価版もできて、お手頃だったから。 もちろん、それは事前に考えていた言い訳で……実際には結構値が張った高級品だ。 それでも、勉強に対し見違えるほど前向きになった沙都子へのプレゼントとして……多少頑張ってでもいいものを贈ってあげたかったのだ。 沙都子(高校生): ありがとうですわ……梨花。一生大切に使わせてもらいますわね。 梨花(高校生冬服): くす……一生なんて、大げさね。潰れるくらいに使い続けてくれるほうが、むしろ私は嬉しいわ。 沙都子(高校生): ……をーっほっほっほっ!では、来年に買い直していただけるくらいに使わせてもらいましてよ~! 沙都子はそう言って再び机に向かうと、ノートを広げる。そして渡したペンを目の前に置き鉛筆で英単語の書き取りを再開した。 梨花(高校生冬服): (使い潰していいって言ったのに……沙都子ったら) おそらく、当面の間はお守りのように肌身離さず持っていてくれるつもりなのだろう。……それはそれで、とても嬉しい。 梨花(高校生冬服): (さて……私も負けていられないわね) そう内心で自らを鼓舞しながら、椅子に座って問題集を広げる。 今夜中にこれを終えるくらいに頑張って、明日は新しい問題集を買いに行こう……そう心に決めて、私はペンを握った。