「……ドラゴン種族は昔、人間の魔術士を
落ち着いたフィエナの説明を聞きながら、オーフェンはどうでもいいことだと思っていた。もっとほかに、考えることはいくらでもある。
あれから数時間
村が
「ところで、これからどこへ行くんだ? これだけの人数を連れて」
「……わたしの村に帰ろうかと思っています。ソリチアンに。そこが気に入らない人がいたら、このあたりは、小さな村がたくさんありますから、そっちを案内して。どの村も、むしろ人手は欲しいでしょうから、落ち着く先に困ることはないと思いますよ」
「そいつは、君が考えたわけ?」
にやとしてオーフェンが聞くと、彼女は、手を口元に当ててくすっと笑った。
「マジクが、そう言ってたんです。だから、あんまり気に
「……もう、ドラゴン種族の支配は?」
「受けてません。少なくとも──強くは」
と、彼女は、すっと静かな表情を作ってみせた。
「魔術の力もなくなっちゃいましたけど、でも……なんていうか、必要ないって分かった気がします。あなただって、とても
「さあな」
と、オーフェンは肩をすくめてごまかした。続けて聞く。
「別に、こんなこと知りたいわけでもねえんだけどよ。君は……ドラゴン種族の聖域のある場所を知っているのかな」
聞かれて、フィエナは、さっと首を横に振った。
「いいえ。《偉大なる心臓》──聖域のことに関しては、ドラゴンはなにも話してくれませんでした。ひょっとしたらあの子なら、なにか知っているのかもしれませんけど」
と、彼女が指さしたのは、村人たちの中からこちらに向かってくるマジクとクリーオウ──その足元をぱたぱたとついてくる、小さなディープ・ドラゴンだった。あまり真っすぐに歩けないらしく、ふらふらと曲がっては、でんぐり返しをしてブレーキをかけている。それでも挙動が速いため、クリーオウらの歩速と変わらないのだが。
「あの……」
クリーオウを見ているこちらの胸中を読んだのか──彼女には、もう魔術の力はないはずだが──、フィエナが声をあげる。こちらに
「あなたが、あの爆発のときに叫んだことは、誰も聞いていなかったと思いますよ。だから──」
そのあとは口に出さず、フィエナはクリーオウらを
クリーオウとドラゴンだけが、こちらに近寄ってくる。彼女は、
「これ……見つけたわ。返す」
と、彼女が投げてよこしたのは、彼のペンダントだった──剣にからみついた、一本脚のドラゴンの
「あの
言い終わるころには、彼女はもう目の前に来ていた。オーフェンは、はは、と笑ってそれを否定した。紋章をポケットの中に落としながら、
「
「……ンなわきゃないでしょ。モグラじゃないんだから」
と、疑わしげにクリーオウ。が、オーフェンは取り合わなかった。
「
「ホント? あれ、やだって言ってたじゃない」
「いや……考えてみれば、あのくらいじゃないと効かねえんだよな」
「そう?」
クリーオウはなにやら
「あ、でも、俺より先に、マジクの奴にやってやってほしいな。全力で」
「そ……そう?」
で、俺の番になったら逃げればいいや、とオーフェンはこっそり考えた。クリーオウは、にこにこと続けている。
「もち、やるなら全力よ。お父様も、死ぬほど
「…………」
オーフェンはなにも答えずに、クリーオウの頭を押さえたまま遠くを見やった。四方を囲む《森》──この大陸の二割までも
《我らの望みどおりに動かざるを得まい──》
ドラゴンの言葉が、耳の中に
(だが、お前らは、なによりもそれを恐れている──)
オーフェンはひとりでくりかえした。
(お前らは、俺に
ならば──
と、クリーオウが声をあげる。
「オーフェン……」
「ん?」
「痛い」
言いながら、彼女は頭の上のオーフェンの手を
「ああ──悪い」
と、オーフェンは手をどかした。と、声があがる──
「みなさぁん! そろそろ出発します! 日が暮れないうちに《森》を出なければなりませんから──レンジャーの方が道案内をしてくれますから、絶対にはぐれないように──」
フィエナだ。マジクも横で、同じことをくりかえしている。
「お師様あ! 行きますよぅ!」
「ああ」
と、オーフェンは手を振って答えた。
すべてを決心したのだ。身体も軽いし、腕も軽かった。
◆◇◆◇◆
そして誰もいなくなって──
数分前までオーフェンが立っていた地面が、もりっと盛り上がった。
「うべほっ!──うぺっ──げほげほっ!」
口と鼻から土を
「うう──息ができないのが、こんなに苦しいもんだとは!」
それに答えるように、ボルカンの
「知っててよぅ。そのくらいは……」
「たわけもの! 息ができないなんぞ、初めての体験だったんだぞ!」
と、
「くそったれが──あの
「……なら、兄さんもぼくの頭の上でわめくのやめてよ……」
「
再び、鞘で突く。今度は悲鳴はあがらなかったが、代わりにため息が聞こえた。
ボルカンは、のろのろと穴からはい出した。身体中
「むう──それにしても、
「誰も倒してないのに……」
ぶつぶつ言いながら、ドーチンも穴から顔を出す──が、ボルカンがぎろりとにらみつけると、あきらめたようにまた穴の中にもどっていった。
ボルカンは、ひとりで続ける。
「しかぁし! 勝つのはこのマスマテュリアの
「どーせ、遠くから見つめ殺すとか、雲に乗って流れ殺すとか、そーゆうのでしょ……」
「ンなことをするかっ!」
穴の中からのつぶやきに、ボルカンは叫ぶ。
「することはひとつ! 俺の力を思い知らせてやる!」
「……どーすんのさ」
まだ穴から顔は出さず、ドーチン。ボルカンは得意げに続けた。あさっての方向に指をさして。
「決まっているだろう!
「……あくまで
「はあーっはっはっ! そのよーな世論、恐れはせんぞぉっ!」
動揺のカケラすら見せず、ボルカンは叫ぶ。ようやく穴から顔を出して、ドーチンはつぶやいた。どことなく
「そーだね。でもその名案を実行するには、とりあえず、この《森》から抜け出す道を探さないとね。どーすんの?」
「……うっ──」
ボルカンの
《フェンリルの森》──戦士たちの故郷。
キエサルヒマ大陸最後の──そして永遠の──