オーフェンは、マジクの肩を思い切りつかんだ。

 マジクがうめく。

「げ──い、痛いですよ、お師様」

「お前もつかまってろ。はなれたら死ぬぞ」

「……え?」

「村の外まで、魔術で転移する。少なくとも、声のとどくところまではな」

 オーフェンが言うと、マジクはほっとあんいきらした。

「なんだ──そんなことができるんですか」

「できるにはできる──万にひとつのせきが起きれば、生き延びることができるかもしれない」

「……はあ?」

「転移の魔術ってのは、よほどのじゆくれんしやが試みても、きよくたんに成功率が低い──十メートルのきよぶのでやっと。その倍の距離になれば、数パーセントってところかな。声のとどくかぎりとなれば、コンマ以下だ」

「そ、そんなあ!」

 マジクが悲鳴をあげる。オーフェンは無視して、視線だけで周囲を見回した──こちらを包囲した村人たちは、殺気立って手にした武器をかかげている。何人か、屋根に上ろうとしている者もいた。迷っている時間はない。

「失敗すれば、全身のさいぼうふつとうして完全しようめつを起こす。転移する間にかべやらなにやらの障害物が入れば、それだけで衝撃死する可能性も高いしな。それでなくても、大気さつだけでとてつもない熱量が発生する。身体がそれにえられなければ、一瞬ですいじやくする」

 と、数百の村人たちに視線を転じて、続ける。

「あるいは、この連中と力つきるまで戦争するかだ。どっちを選びたい?」

「どっちも死ねって言ってるようなもんじゃないですか」

 泣きそうな顔でつぶやくマジクに、オーフェンはかぶりを振った。

「いや、違う」

「は?」

「どちらにも生き延びるチャンスはある。くそ……せめてフィエナがいれば、彼女を人質にするってテもあったんだがな」

「させませんよ、そんなこと」

 マジクがつっかかってくるが、オーフェンは無視した。意味のない口論をしても仕方ない。すでくわを持った男がひとり、屋根に上がってきている。

「今までもロクなメにゃあわなかったが……こいつはきわめ付けだな」

 オーフェンはこぶしを固めると、そちらに向き直った。やはり転移の魔術はリスクが大きすぎる──それでも最後の手段となれば、考えないわけにはいかないが。

「くそっ」

 オーフェンは口の中でき捨てると、おどりかかってきた男を屋根の上から突き落とした。


 ◆◇◆◇◆


「……よう。ちゃんと待ってたみたいだな」

 サルアが声をかけると、薄茶色のマントをすっぽりとったフィエナは顔を上げた。この半年間でびたかみを後ろでポニーテイルにまとめ、マントの下も、ふくではなく普通のシャツのえりりがのぞいている。

 村の、さわぎからはかなり離れた一角である。けんそうと、魔術がばくはつする音が聞こえてくる。だがそれも、遠い場所の出来事のように小さい……

 彼女はまずこちらを見て、そしてせるようにまぶたを落とした。

「あのひとは連れていかないんですか?」

「? どのひと?」

 サルアがすっとぼけて聞くと、少女は少しためらうように肩をすぼめた。

「だから……マクドガルの使用人の。知ってるんです。あのひとと、恋人なんだって」

「俺とあの女?」

 別に、そういった仲ではない。少なくとも、兄のげきりんれるのを分かっていても、郷里につれていかなければならないほどの仲では──とはいっても、フィエナ相手にそれを説明できる自信は、サルアにはなかった。

(俺を、女ひとり片腕に抱いてがいせんできるヒーローだとでも思ってるのだかね? しがない、みじめな暗殺屋をよ)

 サルアは剣帯をがちゃつかせながら、答えた。

「彼女は、この混乱だからな……はぐれちまった。どのみち、この村の人間なんだからよ、ここにいるのが幸せなのさ、彼女は」

 正確には、彼女を連れてこの騒ぎを切り抜ける自信がなかったので、わざとはぐれるように足を速めたのだが……せりふの後半は、むしろ本心に近かった。

「行くぜ──あの魔術士が、みんなの目を引き付けてくれてる間によ。なあに」

 と、サルアはやすけ合いして手を振った。

「マジクとかいうガキのことを心配してるんだろうが、死にゃしねえよ──ああ、死ぬわけがねえ」

 こっそりと目を光らせる。えつに。

「こんなところで死ぬわけがねえさ……特に、あいつはな」

 フィエナは、それでも安心はできないようだった──不安げに、村の中心を遠く眺めている。彼女は、ぽつりと聞いてきた。

「わたし……逃げてしまって、いいんでしょうか」

 ざっ──と、サルアの視線が彼女をでる。彼は、あっさりと答えた。

「マクドガルを失った村人たちに捕まったら、お前、今度こそ逃げるすきなんぞないほど完全に監禁されちまうぞ。今度はでなく教祖としてな。生き延びるのが最重要だろ──逃げもせずに打ち勝ちたい、なんてのはただの自己満足だ。悪いこっちゃねえけどよ」

「わたし……どこに連れていかれるんですか?」

「キムラックだ。とりあえずは、俺の養女になる。正しくは、俺の兄のな。まあ……あまり幸運なことだとは思わないでくれよ」

「あなたのお兄さん、会いたいです」

「そのせりふをこうかいする日が、きっと来る」

 サルアはため息混じりに、彼女の背中をぽんとたたいた。

 ちらりと──ほんのちらりと──背後を見やる。オーフェンの魔術の声が、かすかに聞こえた。

「死ぬわけはねえよな……必ず来るはずだ。俺のところによ。それまでは……そうだな」

 彼は小さく、つぶやいた。げんそうにこちらを見上げているフィエナにも気づかず。

「それまでは、退たいくつだな」

 そしてサルアはフィエナを連れ、深き《森》へと出ていった。


 ◆◇◆◇◆


 十五人目で、さすがに息が上がってきた──おまけに、多少のきずも負っている。屋根の上、マジクと背中あわせに、オーフェンは深々と息をついた。

「……あと、どれくらいもちそうだ?」

 マジクは答えてこなかった。かぶりを振ったのが、気配で分かる。

(ま、善戦したほうだがな)

 戦闘訓練などなにも受けさせていないのに、魔術だけで何人かの敵をげき退たいしている。が──

「そこまでだ」

 ふと気が付くと、屋根の上に、五人の男が上ってきていた──まだ若い、二十代の後半くらいの男たち。手にけんじゆうを構えている。

「マクドガル親衛隊の残党ってトコか」

 オーフェンは、皮肉げな笑みを浮かべながらそう言った。五人の後ろからも、ばたばたと次々別の男が上ってきている。そいつらも、拳銃でそうしているらしい。

 最初に声をかけてきた男が、続けた。

「罪ある魔術士よ──我らが心臓、我らがマクドガル様のかたきを取らせてもらう」

 オーフェンは、投げやりにうめいた。

「好きにしろよ。俺はつかれた」

「お──お師様っ!?

 マジクが、きようがくの声をあげる。オーフェンは無視した。

「しっかりねらえよ。一発でめねえと、ほかのやつが俺の命を横取りするかもしんねえぞ」

「……横取り?」

 にぶそうな声で、男。オーフェンはにやにやと続けた。

「おんや? 分かってねえのかな。どうせ、こんな田舎いなか村のこった。教祖の仇を取った奴が、次の教祖──その程度のシステムなんだろが?」

「う……」

 少し驚いたように、男たちがたがいに視線を見合わせる──実際にあんもくりようかいで、そういった取り決めはあったのだろう。なかったとしても、今の一言でその可能性をできたはずだ。

(あと一息だ)

 オーフェンは、続けた。

「おい、ほら──お前がぼさっとしてっから、後ろの奴ががらを狙ってやがんぞ」

「なにっ!?

 男が慌ててり返る。それに反応してか、反射的に後ろの男たちが拳銃を構えた──

(今だ)

 オーフェンは、胸中で叫んだ。くるりと振り返り、マジクをはがいめにする──そしてこんしんの力を振りしぼり、彼は叫んだ。

「我はおどる──」

 転移の魔術だ。ほかに方法はない──

「天のろうかく!」

「ひああああっ!」

 さっきの説明を思い出してか、マジクが悲鳴をあげた。実際、さっきの説明通り、長距離を転移すれば、その成功率は極めて低い──ほぼゼロだ。だが、オーフェンがんだのは、通りをはさんだすぐとなりの小屋の屋根だった。すっ──と視界が開け、かたむいた屋根の上に足を下ろしてから、オーフェンは続けて叫んだ。

「我は放つ光のはくじん!」

 うずく光熱波が、さっきまでオーフェンらの立っていた小屋のかべさる。木製の壁はあっけなくかれて、小屋の中にまった熱衝撃波は、屋根ごと小屋を一気にえんじようさせた。ぜつきようじみた悲鳴をあげながら、男たちが転落する。

「やった──」

 とマジクがかんせいをあげるが、結局のところ、事態はさほど好転していない──包囲される小屋が、あちらからこちらに変わっただけだ。あんじよう、村人たちはすぐさまこちらの小屋の真下にさつとうしてくる。

「こうなりゃ──」

 オーフェンは、汗をぬぐいながら声をあげた。

「とことんやってやる!」

 構えをとる。魔術の構成をみ──全身から力を振り絞って──

 ──ふわっ──

 とした感覚が、身体を包んだ。あまりにも静かに……優しく。

 おだやかすぎて、それがばくあつであることなど気づかなかったほどだった。

 しゅわ──!

 炭酸水がはじけるような音が、耳の中にひびく。同時に視界をつぶした光量に、オーフェンは悲鳴をあげた。熱風が、汗を含んだ髪を一気にかわかす。すべてが終わったとき──

 オーフェンは、目を開けた。なにも変わっていない。いや……

 おそる恐る、彼は振り向いた。マジクがぺたんとしりもちをついている向こう──村の中心に、なにやら巨大なクレーターができている。そこにあったはずの教団のとうも……工房も、一瞬で蒸発してしまっていた。

「今のは……」

 オーフェンは、うめいた。なにもなくなったクレーターの真ん中に……すうっと、空気から現れいでるようにしつこくの巨体が姿を浮かばせる。ディープ・ドラゴン=フェンリル。

 おお……と、村人たちからかんたんの声が漏れた。

 ざっ──と、背筋があわつようなプレッシャーを覚えて、オーフェンはあたりを見回した。いつの間にいたのだか……村の外輪を、ずらりとドラゴンがくしている。

「オーフェン!」

 いきなり、黄色い声がせいじやくを破った。よく見ると、村の中心に現れたディープ・ドラゴンの背中にクリーオウが乗っかっている。なぜか小さなドラゴンを胸に抱いて、その後ろで固まって、レンジャーのそうをしている三人の男が真っ青になってふるえていた。

 あっけにとられるオーフェンや村人たちの表情にも気づかずに、クリーオウがさらに続ける。

「大変なの──大変なのよ!」

 と、ぶんぶんと剣のさやを振ってみせる。それにあわせて、抱いている子ドラゴンも首を動かしていた。

「このドラゴンねえ──なんていうか──ものすごく怒ってるみたいなの!」

「……あん?」

「なんだか、ここの村の人をみんな殺すって言ってるの!」

 彼女の声を、そのままこうていするように──ディープ・ドラゴンがそうぼうを見開く。

 しゆんかん、すべてを焼き尽くすような純白のほのおふくれ上がった──あまりの光量に、そのも分からない。またなにかがじようはつする音──ちゅん、ちゅんっと小さくはじかれているのは、金属がふつとうする音だろう。すさまじいまでの光の中で──オーフェンは両腕で顔をかばった。吹きつける熱風で、はだがそのままはがれてしまいそうなげきつうを覚える。

 今度の光が消えると──村の半分が、消えていた。

 ちんもく──そして──

「きゃあああっ!?

 泣き出すような、クリーオウの悲鳴。

(たったいちべつで──村を消し飛ばしただと!?

 オーフェンは絶望的に、ディープ・ドラゴンをえた。群衆が、悲痛なざわめきを発する──今の一撃で、村だけではない、村人もかなりの数がその魔術に巻き込まれていた。

「暗黒魔術──か」

 ちできるような次元のものではない……

 オーフェンは、ぼやくように言った。ぺたんと力つきたように、彼のひざに背をもたれているマジクが、しゃっくりのような悲鳴をあげている。

「な、な、な……」

 とふるえるマジクの肩をつかんで、起き上がらせてやりながら、オーフェンは叫んだ。

「クリーオウ! お前はなんでドラゴンの背中なんかに乗っかってるんだよ!」

「だって──」

 少女が、半泣きになって叫び返してくる。抱いている子ドラゴンを示しながら、

「この子の親がさ、この村をほろぼすから、下がっててって言うから──止めようとしたら、いっしょにこんなところにんじゃって──」

「ったく──」

 オーフェンは毒づきかけて、やめた。なにかが、頭の中に割って入ろうとするようなはいを感じたのだ。

 かんまかせて視線を転じると──自然、視線はドラゴンと合った。ディープ・ドラゴンの緑色のひとみが、かがやきを発する。

なんじらは、きんおかそうとした》

 その声──空気をしんどうさせる声ではないが──には、オーフェンは聞き覚えがあった。最初にこの村にせんにゆうした夜、彼に精神攻撃をかけたドラゴンと同じかんしよくである。

 ディープ・ドラゴン=フェンリルは続ける。だいなる心臓と名乗る村で。

《よって処分する》

 群衆の間に、不理解のちんもくが降りた──が、やがてドラゴンの言葉がしんとうしていくにつれ、じよじよに……ヒステリーの波が、沈黙にとってかわる。

 あまりにもじんそくさつりくが始まろうとしていた。

 

(禁忌……?)

 いぶかしみながらオーフェンは、屋根から飛び降りた。ドラゴンの視線のいつせんが、たびとてつもない熱量をき上げる──

 その光の中に、十数のひとかげが消えるのを、オーフェンははっきりと見ていた。天まで焼きがす真白きほのおが、大気に散る。

「お──」

 地面に降り立って、オーフェンは胸元のペンダントをつかんだ。どうしようもないしようどうが──はいふるわせる。

「おあ──あああああっ!」

 ペンダントのくさりを引きちぎり、オーフェンは、それがそのままなにかの武器であるかのようにドラゴンに向けて構えた。こちらを無視して、また緑色の視線を放とうとしているディープ・ドラゴンに叫ぶ。

「我はおどる天のろうかく!」

 叫んだのは、転移の魔術だった──だが、転移を行うのは自分ではない。手の中の、冷たい銀のペンダントだ。銀細工のドラゴンのもんしようは、一瞬にして彼の手の中からかき消え、鋭い音を立ててドラゴンの向こうの空間へと現出した──つまり、ドラゴンの身体を突き抜けて向こうに現れいでたことになる。

 空間転移といったところで、文字通り空間をちようやくできるわけではない──魔術で質量をごまかして、絶大な加速をかけるといった意味でしかなかった。つまり、目に見えなかろうと壁があればぶつかるのだし、そんな加速状態でしようとつしたのならば、すさまじい衝撃を受けることになる。しかも、質量的には存在していないわけだから、転移した物質自体はまったくかいされずにエネルギーだけがれつするわけだ。

 ばくはつはドラゴンの、のどのあたりで起こった。ばくしようとでも呼べばそれらしいかもしれない衝撃波が、ディープ・ドラゴンの身体を横倒しにする──背中に乗っていたクリーオウやレンジャーたちが、悲鳴をあげて落下するのが見えた。

 ぴぃぃぃぃ──ぃん──と一瞬おくれて、空中にねたペンダントが、かん高い音を立てた。それを合図にするように、ゆっくりと黒いドラゴンが……首を起き上がらせる。

(あれすらも通じねえのか……)

 オーフェンは、がくぜんとした気分でよろめいた。

 今のは、一種のふだだった。だんはまずやらない──人間相手なら、ていこうも防御もさせないまま、問答無用で殺してしまうことになりかねないからだ。

 もっとも、ディープ・ドラゴンは、その爆発をも魔術で押さえ込んだようだった。

 起き上がったしつこくけものと、オーフェンはじっとにらみあった──ディープ・ドラゴンの魔術のさくれつがなくなったわけではない。村を取り囲んでいた数十ものドラゴンたちが、ゆっくりと行動をとりはじめていた。ときおり、光が大気をかきまぜ、しんどうが地面をふるわせる……村はもうパニックで、今さらオーフェンに構う者もいなくなっていた。村人たちみんなが、散り散りになって逃げようとし、そして爆光の中に消える。

 オーフェンは身動きできずに、じっとドラゴンのそうぼうえていた。大陸最強の戦士……《森》を守護するドラゴン種族。

(ひとにらみされただけで──俺はこの世からしようめつする)

 オーフェンはふと、自分が失禁しそうなほどおびえているのに気が付いた。勝てるわけがない──

「オーフェン!」

 呼びかけられて、彼はびくっと身体を震わせた。どこをどう走ってきたのか、背後からクリーオウが近づいてくる。まだ腕に子ドラゴンを抱いたままで、マジクもいっしょのようだった。振り返らずにいると、クリーオウは、さっととなりに並んできた。

「サポートするわ!」

 と、きっぱりと言ってから、ふと困ったように聞いてくる。

「……どうすればいい?」

 オーフェンは、なんだか無意味に笑い出したくなってきた。なにもかも投げ出して、やめにしてしまいたい──その一方で、ひどく静かに決心する自分の姿も見ている……

(……まだだ……)

 まだ彼になにかできると信じているらしいクリーオウや、マジクの顔を見ながら、また──強いまなしで、ドラゴンをめかえす。

 キリランシェロだったころとはちがう……今ここであきらめることの意味が、あまりにも大きすぎる。

 視線はそらさず、オーフェンは言った。

「これだけの数のドラゴン種族を相手に、勝つことは無理だ。しゆうも奇策も、ハッタリもきかねえ──やつらはこっちの心が読める」

「じ、じゃあ……どうするの?」

 クリーオウが聞いてくる。オーフェンは、ため息をひとつついた。少女の腕の中の、きょとんとした顔のドラゴンの首を、むんずとつかむ。

「人質だ」

「オ──オーフェン!」

 クリーオウが悲鳴をあげた。マジクも、なんだか驚いたような顔でこちらを見ている。どうも、相手の子供をたてにとることを予想していなかったらしいが、あまりれいごとを言っていられる場面でもなかろう。

「俺が本気だってことは、分かるはずだな、ディープ・ドラゴン──」

 心を読まれていることは承知で、オーフェンは言った。

「突然おそいかかってきた理由は聞かない──さっさとこの村から消えるんだ」

 ディープ・ドラゴンは言葉を解する──というか心を読むのだが、眼前のディープ・ドラゴンのひとみが、ちゆうちよするようにれるのを見て、オーフェンは内心ほっとした。クリーオウやマジクを守るためなら、いかに子供だろうとドラゴンの首をへし折るのにためらいはしないが、実際にそれをやったら当のクリーオウらに八つ裂きにされそうではあった。

 張本人(?)たる子ドラゴンは、事態が分かっていないのか、首根っこをつかまれても、気持ちいいと思っただけのようだ。

 そのドラゴン──彼女? が、このディープ・ドラゴンの群れ全体のリーダーなのか──彼女が動きを止めると、ほかのドラゴンらもこうげきをひかえた。とうとつにまた静かに、そしてしびれるほどきんぱくした空気が立ち込める。

「このまま立ち去れば、このガキは解放する。早く決断しろ……俺は暗殺訓練を受けた魔術士だ。やると言ったらやるぞ」

 言うオーフェンの手首に、子ドラゴンが小さな頭をすりよせてきている。

 答えはない……すっと、眼前のドラゴンのそうぼうが、細くなる。

 長いちんもくの後に、彼女は告げた。

《好きにするが良い》

「──なに?」

 信じられない思いで、オーフェンは聞き返した。ドラゴンは平然と、

《我らの魔術をあなどるな……死したものもせいさせる。我らは戦士だ。傷をあたえ、傷をいやすことが能力──》

 そして、緑色の瞳が見開かれる。

《スレイプニルが無を──原初を支配し、ノルニルが創造と管理をつかさどる。そして我らフェンリルは効果的に敵をはいじよする。我ら種族は、無意味に存在しているのではない──なんじらとは違うのだ。自らを無意味に、無価値にしてしまった汝らとは》

「無価値……だと?」

 歯をぎしりと鳴らしながら、オーフェンはつぶやいた。