「我は癒す
魔術によって、マクドガルの傷はあっさりと癒されていった──というか、本当はほとんどかすり傷ばかりだったのだが、こちらが
傷がなくなるにつれて、マクドガルの気力も回復していく──
「ふ──ふ──ふふふ──」
教祖は、ひどく
ばんっ!──
──……
暴発した銃弾は、そのままマクドガル自身の
「な…………」
絶句してオーフェンが立ち尽くしていると、不意につぶやく声がした。
「お前さんの魔術、どうやら拳銃そのものに直撃したらしいな──で、シリンダーが熱を持っちまったんだろうよ。ほれ見ろ、拳銃を持ってる手とグリップが、焼け
サルアだった。近くの部屋に逃げ込んでいたらしい。自分の剣を持って、後ろに、例の毛布の女も連れている。
いまだ、ぱちぱちと火の粉をあげる廊下の床を
「ま、これで俺の任務は完了だな──村の中でこの男を殺すのは危険すぎっから、やめてたんだけどよ。この
と、後ろの女が、口元に手を当てて
「ね、ねえ、あんた、どうして人が死んでるのよぉ」
「気持ちのいい朝だからだよ。なあ、キリランシェロ?」
サルアがウインクしてくる。オーフェンは、なにも反応しなかった。
「どした? 別にあんたが殺したわけじゃねえんだから、気落ちするのは損ってもんだろ? じゃあ、俺は行くぜ──約束どおり、フィエナは俺が連れ出しておく」
「…………」
「ね、ねえ、あんたぁ、どうして人が死んでるってのに、あんたそんなに冷静なのよぉ」
「
ふたりは、そんなことを言い合いながら、ぱたぱたと
「結果オーライだったから言うわけじゃねえけどよ。俺、裏切り者ってのは結構好きなんだ。じゃあな」
「…………」
サルアはそのまま、気楽に姿を消す──それを見送りながら、オーフェンは
(暴発じゃない……マクドガルは確かに、一度俺を狙ってから、自分の頭に銃口を当てた。
確信的に、最後の数瞬を思い出す。
(なんでだ?……魔術で
「なんにしろ、馬鹿な死に方だよ、マクドガル」
オーフェンはぽつりとつぶやいた。額から流れる血を、手の甲でぬぐいながら。
あまりの馬鹿馬鹿しさに、思わず笑みまでが
「へっ……大騒ぎして、こんだけのことなんだからよ。俺もどうかしてる──暴発でいいじゃねえか。どうかしてるっていえば、本格的にどうかしてるな、今朝は──まさかあの
マクドガルに
「タヌキも、たまにゃ役に立つってことか。今回ばかりは礼を──」
そこまでつぶやいた瞬間、屋敷の外から聞き慣れた声。
「みなさぁん!──」
屋敷でこれだけ大騒ぎをしたのだから、当然外には人だかりがしているだろう──その
サルアの言葉を思い出した。この状況なら、俺が犯人にされるってことはねえだろうし──なら、誰が犯人にされるんだ?
それには、外から聞こえてくる
「みなさぁん! 大変です!
「やっぱり、あの馬鹿は……」
オーフェンは頭を
◆◇◆◇◆
「……ヒマだわ」
「おう」
「ああ」
「へえ」
「…………」
クリーオウは剣の
例の村の、外れである。目の前に小屋が並んでいるせいで、村の中からこちらは見えないだろう。小屋は、すべて
「
口をとがらせてそう言うと、レンジャーのひとりがため息をつく。クリーオウのように武装はしていないが、
「なんで
「だって……しょうがないじゃない。オーフェンが朝まで動くなって言うんだから。なんで
「人質に指示されて動く救出部隊ってのは、いったいなんなんだ……」
レンジャーのせりふに、クリーオウはぴくりとこめかみをひきつらせた。
「あんたら、どーしてそう、人の気勢ばっかり
「詰め所を出るときもって、自発的に出てきたように言われたくないなあ。刃物で
「なあに言ってんのよ!」
と、クリーオウは
「わたしなんて、オーフェンにくっついて家を出てからってゆーもの、毎日のように靴紐は切れるわ、ティーカップは割れるわ、落っことしてもいないのに
「──で、
「う……」
レンジャーのつぶやきに、クリーオウは一瞬だけ
「とりあえずは、作戦を立てないといけないわね。どこが
熱っぽく語るも、レンジャーたちはごまかされない。
「なあ……やっぱり、なにかがどこかで
「
「母ちゃんの
「ああ、もう! うるさいわね! わたしが悪かったわよ!」
クリーオウは小声で
と──
「あれ?」
「ねえ、なにかしら、これ」
手近なレンジャーの腕をつんつんとつついて、クリーオウは聞いてみた。レンジャーは、ちらりと見てから、
「さあ……犬の尻尾じゃねえか?」
聞かないでも思いつきそうなことを言ってくる。クリーオウは、そっとその尻尾に触れながら言った。
「犬じゃないわよ、これ……犬の尻尾って、別に
「湿ってる……?」
と、ぞっとしたような声を、レンジャーがあげる。
「うん」
うなずいて、クリーオウは
いきなり尻尾をつかまれて、それを確認するような形で草むらから姿を現したのは、真っ黒な子犬だった。くるりと身体を丸めるようにして、自分の尻尾をつかんでいるクリーオウの手と、顔とを交互に見る。その動作は犬にしてはあまりに知性を感じさせたし、それに──子犬と目が合って、クリーオウはぽかんと口を開けた。子犬の目は、
「ディ──ディープ・ドラゴン──」
レンジャーたち三人が、同時に悲鳴じみた声をあげる──
「ディープ・ドラゴン……?」
クリーオウは、あっけにとられるようにつぶやいた。正確には、その子供だが。
子ディープ・ドラゴンは、声もあげずにクリーオウの手に鼻先を押し付けてきた。
と──クリーオウは、はっとした。彼女のすぐ横で、レンジャーが鉄棒を振り上げたのだ。その
「ちょっとぉ!」
クリーオウは思わず大声を出して、ディープ・ドラゴンをかばうように身体を投げ出した。
「痛つっ……!」
腕の中でもがくディープ・ドラゴンを感じながら、クリーオウはうめき声を出した。驚いたようにレンジャーが声をあげる。
「お、おい──
「だ──」
「大丈夫なわけないでしょ!」
子ドラゴンを
「なに考えてんのよ! あんなもんで思いっきり
「ケガひとつねーじゃねえか……」
信じられないが、という
「この子が、てコトよ!」
と、腕の中の子ドラゴンをあごで示す。子ドラゴンはもうあがくのはやめたのか、あるいは意外と
「い、いや、ちょっと待ってくれよ──」
「ディープ・ドラゴンだぞ──《森》の中でこいつらに出会ったら、もう助からねえっつー、あのドラゴンだぞ? 危険極まりない──」
「まだ子供でしょ! それに大声出さないでよ。村人に気づかれちゃうわよ」
クリーオウが言うと、彼は、うっと口をつぐんだ。ここは村の外れで、
「し、しかし……なんでまた、こんなもんが……」
ほかのふたりが近寄ってきて、ディープ・ドラゴンの背中をつつく。クリーオウは肩で、そのふたりの手を
ドラゴンは、きょとんとこちらの顔を見上げている。
その鼻先に、ちょんとあごで
「そりゃドラゴンだって、子供くらいはいるでしょ。この《森》に住んでるんなら、ここにいたって不思議じゃないじゃない」
「いや、ドラゴンってのは、
「そんなの知らないわよ、
クリーオウは、不意に言葉を飲み込んだ。なにがあったというわけではない──ただ、背後から、なにか
「うあ──」
うめくように口にして、倒れたままのレンジャーが絶句する。音もなく──本当に文字通り音もなく、そこには巨大なディープ・ドラゴンが立っていた。背の高い木々の間に
「どうして気づかなかったのかしら」
クリーオウは、誰にともなく聞いた。レンジャーが
「ディープ・ドラゴンてのは、その気になれば、姿を消すことができるんだってよ……」
「もう
と、ほかのふたりが続けて声をあげる。
「やっぱりそうか──俺の家系は、先祖代々金髪にだまされてるんだ……」
クリーオウは無言で、ディープ・ドラゴンを見上げた。
頭の高さは、三、四メートルはあるだろう。
(なんてきれいな
胸中でつぶやく。クリーオウは初めて、ドラゴン
と、やがて、じっとこちらを見つめていたディープ・ドラゴンの
親ドラゴンは、そのまま特に気にするでもなく、すうっと首を動かすと、クリーオウらと並ぶようにして村を
(このドラゴンの子供なんだわ。でもなんで、このドラゴンはここに──)
まるでこのドラゴンは、村に用事があって待っているように見える。
「あなたたち、この村になにか用なの?」
問いかけたのは、特に深い考えがあったわけでもない。なんとなく聞けば答えてくれるような気がしたのだ。
が、ドラゴンは答えない。
「ねえ──」
と声をあげかけて、クリーオウはまた、はっと止めた。目の前のドラゴンの、すぐ向こうに──またドラゴンがいる。彼女はあわててあたりを見回した。
「な…………」
と、
剣を抱えたまま、クリーオウは立ち
子ドラゴンを抱え上げて、クリーオウは