だがそれでも、マクドガルは聞き返してきた。
「なんと言った?」
「わた……しは……」
フィエナはうつむいて、
マクドガルが、部屋に一歩
「半年前、森の中で迷っていたお前を保護してやったのは、わたしなのだぞ」
「わたしは……迷ってなんかいませんでした」
うつむいて、半歩ほど後ろに
「迷っていなかった? では、なにをしていたというのだ?」
「探していたんです……」
「……なにをだ」
フィエナは、震える声を出した。
「あ……あなたを」
それを聞いてマクドガルは
「ならば導きだ。
「…………」
フィエナは答えない。マクドガルが、また一歩進む。
「この計画にはお前の存在が不可欠だ。そもそも……お前が現れなければ、この
と、肩をすくめる。
「感謝には、
「力……なんて……」
フィエナがまた、口ごもる。マクドガルが、
「まさしく、力だよ──そうだろう? フィエナ。お前は、ドラゴンの魔術を
(……な──?)
その間にも、マクドガルは続ける。腕組みして、
「その力で《森》の心臓を
「わたしは……──」
と、フィエナがまた聞き取れないせりふを
「聞き分けのないことを言うんじゃない。お前の
マクドガルがこちらを示す。さすがにムッときたが、マジクはまだ身体が動かなかった。
教祖は続ける。
「空気を吸いたいというから、窓も開けさせてやった──土を
「いいかげんに──」
マジクはそこまで声を出してから、息を吸いなおした。
「しろっ!」
その声を
「この魔術士──」
マクドガルが、毒づいた。厳しい
「マジク!?」
背後から、彼女の声。マジクは、
「もう
魔術が成功すればの話だけど、と胸中で付け加える。かなり深刻な問題ではあったが。
マクドガルは、にやりとして、自分の
「ほう──こいつのことを知っているのか」
「お
「わたしは──」
マクドガルが、立ち上がる。
「わたしは、手に入れたいものを手に入れる。手に入れるべきものが、手に入るのさ──女神に
(女神……?)
マジクは
「
「わたしの女神は、そのようなものではない──わたしに力を
マクドガルの手が、じりじりと懐の拳銃へと近づいていく。
「貴様の魔術など、はるかに及びもつかない強い力を、わたしは得るのだ。《森》の……心臓でな」
「……くっ……」
意味もなく、マジクはうめいた。マクドガルの手は、ついに上着の中へともぐりこんでいる。
(もし、
冷や汗を浮かべつつ、
(ぼくはあいつを殺さなければならない。じゃないと、殺される──)
それはあまりにも現実離れした想像ではあった。自分が人を殺すなど、夢の中でも考えたことがない。実のところ、現実に可能だとも思わなかった。
(お師様なら、こんなときどうするんだ──?)
マクドガルは、続ける。
「必要な武器は、手に入れてきたのだ──この拳銃も、用心棒も、そして、そのフィエナもだ!」
「彼女は、お前のものなんかじゃない!」
マジクは反射的に叫んで、右手を
「我は放つ──」
叫びつつ、マジクは
(失敗した!)
マクドガルの銃口が、はっきりと、こちらの
(やられる──!)
が──
マクドガルの左手は、こちらに
「お前の
「……はい」
マジクの背後で、フィエナが
「魔術を
「マジクを殺すつもりがなくなれば、動けるようになります。そういうふうに暗示をかけました」
(精神……支配?)
マジクはびっくりした
(人間の魔術じゃない)
「
そのせりふに、フィエナが、はっと息を飲む。マジクはなにも分からないながら、
「待って──」
彼女が、声をあげる。が、マクドガルは無視して部屋を出ていった。ばたん、と冷たい扉の音が、すべてを
「計画って?」
「…………」
彼女は答えない。まあ仕方ないかと思いつつ、彼は、なんとか立ち上がった。
「ぼくの服はどこかな……ここに来るとき、着てたやつ」
「……! 村を出ていくの?」
フィエナが、不安そうな目を見せる。
「まさか」
なにが『まさか』なのだかは分からなかったが、マジクはなんとなくそう答えた。
「少なくとも、今はまだだよ。でも、あのマクドガルって
「行動?」
不思議そうに、彼女。マジクは、思わず
「決まってるだろ!?
「でも──」
「でも、じゃないよ。とにかくこの村を出て、《森》の外まで逃げるんだ。お師様だってこっちを探してるはずだから、なんとか合流すれば、あんなマクドガルなんて、お師様がどうにでもしてくれるさ。
「あの……」
「ああ、ごめん。今の
「そうじゃなくて、その、言いそびれてたんだげど」
「……ん?」
フィエナが、申し訳なさそうな声で続ける。
「その人も、もう
◆◇◆◇◆
「なにを考えてるんですかぁぁぁっ!」
「……
苦痛は、
牢の前にはさっきまで見張り役の村人がふたり立っていたのだが、マジクといっしょにやってきたフィエナとかいう
そして、先刻の夢(?)の中に出てきた少女でもある。
「人がせっかく
牢の
「……生きてるだけでもほめて欲しいよ。ディープ・ドラゴンに精神
と、ドラゴンという単語を聞いた
「生きてるだけでほめてもらおうなんて、虫が良すぎます! 人間はやっぱり、成果を残してこそ──」
「あー、うるせえな。ったく。ならてめえは、なにやってたってんだよ。一番最初に、あっさり捕まったのはお前だろ。俺はそれを助けにきたんじゃねえか」
「そーゆうことを言いますか?」
マジクは、いつになく強気な様子で、フフンと鼻息を
「聞いて
「あのぅ……」
と、マジクの後ろから、フィエナがくいくいと
「ええと……まあ確かに、三回目に関しては、彼女にちょっとだけ手助けしてもらいましたけど、でも──」
(……こんガキャ、女の前だと思って調子に乗ってやがんな)
オーフェンは胸中で
が、マジクはなおもしつこく続けてくる。
「これはもう、お師様もぼくを一人前と認めざるを得ませんよね。しかも、まったくの無傷ですよ!」
「あのぅ……」
「あ、いや、確かにちょっと手傷は負いましたけど、でも無事です。おや、お師様、元気なさそうですね?」
「てめえ、回復したら覚えてろよ……」
「こうなったら仕方ないですから……どうです? 一人前のぼくがお師様を助けてあげましょうか」
「あと一言でも言ってみろ。こっちにもそれなりの報復手段があるぞ」
「どんなです? 今のお師様になら、ぼくだって勝てます」
「クリーオウにマッサージさせちゃる」
「……それが報復なんですか?」
「やられてみりゃ分かる。だいたいな、お前、身動きできない俺を相手にふんぞりかえるなんざ、どう考えてもフェアとは言えねえぞ」
「そりゃそうですけど……でもお師様、精神攻撃って、なんです?」
「そのまんまだよ」
オーフェンは
「一発にらまれただけで人格が消し飛んだ──それでも俺は《
「はあ……でも、精神攻撃で、なんで身体が分解されるんです」
「なんで身体が分解されないと思うんだよ」
オーフェンが聞き返すと、マジクは困ったような顔を見せた。
「だ、だって──精神でしょう?」
「じゃあ、その精神とやらが一体なんなのか、お前に分かるか?」
「…………」
マジクは腕組みして、しばし天井を見上げた。
「分かんないですけど」
「それみろ。要するに、俺たち魔術士の間で『精神』つったら、二種類の意味がある──ひとつは、
「はあ……」
分かったような分からないような
「
「……そんなに危険なんですか? ディープ・ドラゴンって」
「あのなぁ──いいや。俺の今の姿を見て、勝手に判断しろよ……」
と、オーフェンはマジクの後ろに立つ少女に顔を向けた。たったそれだけの動作で、
「フィエナ……だったっけ? 聞きたいことがあるんだが」
「は、はい」
少女は、どもった──どうもこちらを直視できないようで、
「この
「あれは……」
と、
オーフェンは別のことを聞いた。
「なら……ドラゴンだ。昨日、ディープ・ドラゴンが村の真ん中に現れたが、ありゃなんなんだ?」
「なんなんだ、というと……?」
目を
「ディープ・ドラゴンは《森》の守護者だ──少なくとも、伝説ではな。《森》に立ち入った人間をたちまち
「…………」
「しゃべりたくないのなら、いい。これで最後だ、なんでこの村の教祖──マクドガルとかいう名前だったか?──は、俺たちを
「それは……あなたたちが、魔術士だからです。情報があったので……最近村に迷い込んできた地人が、自分たちは魔術士に追われている。もう近くに来ているはずだって、マクドガルに。マクドガルは魔術士が
「……あんの福ダヌキども……いちいち人を
それだけ聞けば、知りたいことはもうおおむねなかった。というか──どうしても知りたいことに関しては、このフィエナはなにも話してくれないような気がする。おまけに、話していたら頭痛もひどくなってきた。
(自分で調べるしかねえか……なんにしろ、動けるようになるまで待たなけりゃなんねえが……)
なんでこんな《森》の中にドラゴン
あのディープ・ドラゴンは、なんなのか──
マジクの話に出てきた、マクドガルの使った
そしてこれはおまけだが、ボルカンのくそダヌキども、どうやって血祭りにあげてくれようか──
どの疑問に関しても、ある程度
だがあえて答えは出さずに、オーフェンはつぶやいた。
「フィエナ」
「は……い?」
不意をつかれたように、彼女が顔を上げた。オーフェンは短くつぶやいた。
「
「そんな……」
「癒したって、お師様を?」
マジクが、彼女に横から聞いている。オーフェンは、彼女がマジクにのたのた説明してやるのを待つつもりはなかった。無視して、続ける。
「あのときはよく分からなかったが、今なら分かる──俺はいったん、精神的には滅びたんだ──人間の力では、それを癒すことなどできない。それは、君も知ってるんだろう?」
「……はい」
うなだれるように、フィエナがうなずく。オーフェンは
「だが君は癒した」
「…………」
彼女は、答えなかった。腹の前あたりで弱々しく手を組み合わせて、こちらを見ている。いや──見ているのは、こちらの寝ている地面の、ほんの少し手前だ。あまり人を
「ひとつだけ、質問させてくれ──答えなくてもいいが、目をこちらに向けて欲しい。勝手にこっちで読み取る」
「お師様、そんな
が、マジクの抗議を
「答えられます。答え……られる……ものは」
だんだんと
「なら答えてくれ。そんな力を持っていながら、いったいなにを恐れる必要があるんだ?」
「…………」
フィエナは答えなかった。そしてその