第六章
「我は放つ光の白刃!」
一条の光熱波が、起き上がった『蛇』の頭を打ちすえる。ハンマーで横から
「──光の白刃!」
文字通り光の剣のごとく、白光の帯が標的の身体を縦に
「我は放つ光の白刃!」
きゅぼうっ!──小さな爆音を立てて、三度目の光熱波が炎をあげる。空間に
見届けてからオーフェンは、後ろに
「我は閉ざす境界の縁!」
がくん──と、重い鋼鉄の扉が
「我は与う巨人の幸い!」
叫んだ瞬間、扉がさらに
ふう、とオーフェンは
「ここまでやりゃあ、解体屋でも呼ばねえかぎりここは開かねえぞ──あのサミイや
自分に確認するようにつぶやく。地下室の中の、弱々しい照明から閉ざされ、真っ暗になった階段の踊り場に、オーフェンはおぞけを感じたように身体を震わせた。扉から手を離し、一服するように
びぢいいいっ!
湿った布でも裂くような音が一度だけ響くと、扉が食い込んでいる壁の
間もなく、扉はこちらに倒れてきた。
「うぉわっ!」
オーフェンは後ろに跳んでそれを避けると、部屋の中をにらみやった。入口に、でんと『蛇』が立っている。その口元から、だらだらと毒液の余りが
「くそっ……」
オーフェンは、
「どういうこった。扉のことはともかく、あれだけ熱衝撃波を食らえば
だが『蛇』の身体には傷ひとつない。もっとも、あれだって生命体である以上、衝撃で内臓にいくらかのダメージはいっているはずだが──おい、待て。
オーフェンは、ぞっとして思い出した。
(こいつの
彼の脳裏に、いかなる物理的な加撃も通用しなかった
だとしたら──
(まさか──ヒリエッタ。彼女もクリーチャーなのか?)
『蛇』があぎとを開いた。
その一瞬後に毒が吐き出されてくるのは分かっていた──だからオーフェンは、反射的に後ろに跳び退こうとはしていたのだ。が──いきなり、右足が床に張り付いたように動かなくなる。
(────!)
致命的な
そして次の瞬間、彼は毒液を食らっていた。
「ぐ────!」
悲鳴をあげなかったのは、
「わ・れ・は──」
オーフェンは肩口に右手を当て、叫んだ。さっき悲鳴をあげていたら、この呪文は
「
なによりも危険だったのは、激痛だった──そしてそれ以上に、精神的な衝撃だった。外傷は最も癒すのが簡単だが、精神的な負担に関してはとてつもなく大きくなる。特に傷の状態が凄惨になればなるほど、それだけでショック死することもあり得た。
だが魔術が発動すれば、傷口は時間が逆転するように一気に
オーフェンは傷が治るが早いか、右手だけを『蛇』へと振り向け、叫んでいた。
「我は呼ぶ破裂の姉妹!」
見えない衝撃波が『蛇』の身体を弾きとばす。それと同時にオーフェンは、自分の身体にもその衝撃波をたたきつけていた──息も詰まる衝撃に内臓がしびれるが、それによって自分の身体も後ろに飛ばされ、右足を『手』の
階段にしたたかに背中をたたきつけられながら、オーフェンは起き上がった。似たような格好でやはり倒れている『蛇』に指を突き付け、
「我導くは死呼ぶ
ゔゔんっ──と鋭い羽音のような音波が『蛇』の身体に
(やっぱり──反応がヒリエッタと同じだ。こいつ、
それがなんであれ、たったひとつでも弱点があるのならば、打つ手は無限にある──これも彼の師の言ったことだったが。
(そういや、フォノゴロスの奴、こいつらはみんな試作品だっつってたな。となると、それぞれ
「ついて来いよ、サミイ! 俺はフォノゴロスだぞ! 上に逃げるぜ!」
オーフェンは階段を駆け登りながら、見えない背後に向かって叫んでいた。地下室──安置室とヒリエッタは呼んだっけか? その部屋の奥にいるはずの、恐らくは記憶力も持ち合わせてはいないだろう『亡霊』に向かって。
ついでに、その声を呪文にして魔術をかける──真っ暗な階段を、彼の手のひらから飛び出した鬼火のような明かりが照らした。鬼火を追いかけるようにして、彼は全力で階段を登りきった。階段の上の
と──
階段を登りきって足は止めずに、彼は横に
「────!」
オーフェンは、声にならない悲鳴をあげた。鞭はいきなり下から引っ張られたようにぴんと張ると、巻き上げ機のようにうなりをあげ、一気に階下から『鎧』の本体、
ごすん! と最後に鞭の先を突き刺していた壁に衝突し、『鎧』は止まった。だが、何事もなかったように頭だけをこちらに向き直らせて──
甲冑の、面ぼおの部分が、わずかに開くのが見えた。
「我は
ぶんっ──と、視界がブレるように
(
鬼火の明かりに反射して、水玉のように
(つくづく
(弱くなっている……俺は)
だが──
「クリーオウを殺したんだから、お前らも
オーフェンは吐き捨てるように言うと、二撃目の動作を見せている『鎧』に向けて腕を突き出した。
「我は放つ光の白刃!」
『鎧』が爆光に
(女神様のお
だが、俺ひとりで勝てるのか? と彼は自問した。
(確かにサポートは必要なのかもな。すまない、クリーオウ──)
オーフェンは無言で走りつづけた。