そんなことも、胸中に浮かび上がってくる。
いつから、そうでなくなったのか──いや、結局は今だってたいして変わったわけでもないだろう。ただ、トトカンタの実家では味わったことのなかった
(わたし……そんなにお荷物なのかなあ……)
(オーフェンがね、保護者
彼女は声に出してつぶやいた。
「わたしだって、オーフェンがその気になってくれさえすれば、きちんと相棒として働けるんだから」
いくらお嬢様育ちとはいえ、学校も下町のところに通い、友人もそちらのほうが多いし、そうそう世間知らずに育ってきたわけではないと自負している。とっさのことにも──その行動指針の正否は別とすれば──少なくとも
(これだけ条件がそろっていれば……まあ対等ではないにせよ、パートナーを名乗るのに不足はないはずよ。うん。もし、まだ足りないところがあるとすれば──)
こんこん、と、扉がノックされた。クリーオウの返事を待たずに、少々か細い、
「クリーオウ。ぼくだけど……入るよ」
「どぉぞ」
クリーオウは、ムッとした表情で扉をにらみつけた。
扉が開く。そこには、マジクが立っていた。
(まだ足りないところがあるとすれば──)
クリーオウは胸中でくりかえし、はっきりと
(オーフェンがわたしのことを認めてくれないのは、あの石頭、わたしが魔術を使えないからに違いないのよ)
部屋の入り口で、どうやらこちらの
◆◇◆◇◆
「……めんどうなことになったな」
村から数キロほど離れた森の中、ぼさぼさの黒髪に隠れるようにして眠たげな眼差しをのぞかせるその男は、ぼそりとした声でそうつぶやいた。実際の年齢はさほど高くはないのだろうが、見かけはそれより
その、ともすれば当人とは別生物なのではないかと思わせるような傷痕の動きを見つめながら、男の周囲に集まっている数人の男たち──
「……つまり? どういうことです、コーゼンさん」
コーゼンと呼ばれたその男は、眠たげな
「つまりだ。我々は奴の暗殺に失敗した。奴もこれからしばらくは警戒を強めるだろうし、そうなれば我々も次の機会を待たなければならない。だが、こんな郊外の村では、
「やはり……《牙の塔》の魔術士を相手にする、なんてのは──」
暗殺者の、今度は別のひとりが
「馬鹿なことだった、とでも言いたいか?」
「じゃあ……あんたは、そうでないとでも?」
「あの男が
コーゼンは、剣の柄から手を放し、自分のあごに当てると、不精髭の一本をぶつんと引き抜いた。
「《牙の塔》の魔術士であるという
「なら、そいつを敵に回すのは……」
「そうでもない。いくら力を持っていようと、しょせんは若造だ。技術も
と──右手に立っている、右腕を包帯で
「そりゃ、あんたも魔術士だから言うんだろう。
そこまで言いかけたところで、その長髪の男は、がくん、と一回だけ
「────?」
「ア──ア──」
自分の
「ミ──ツケ──タ──ゾ──」
異常に対する、暗殺者たちの反応は素早かった。ざっ──と長髪から遠ざかるように後退りし、
「開け!」
恐らく、そのあまりにも一般的な単語がどういう結果を意味しているのか、聞いた瞬間に理解した者はこの場にいなかっただろう。そんなどうでもいい思いが、コーゼンの脳裏に浮かぶ。次いでその瞬間、彼の魔術は発動していた。
ざむっ──大きめの
そして……その傷口から、もわっと──黒い
「な、なんだあ?」
暗殺者のひとり、ひょろっとした手足の長い男が、悲鳴をあげる。手にしているナイフは空しく、虚空に震えていた。
霧の人型は、白衣を着た線の細い若者の姿で、コーゼンだけを
「ミツケタゾ──オマエハ──マジュツシダ──フォノゴロス!」
「ふ、ふぉの?」
まったく分からないという口調で、コーゼンが聞き返す。
「フォノゴロス──オマエノ──シタコトヲ──オモイシレ!」
「吹き飛べ!」
コーゼンは無視して呪文を発していた。彼の突き出した両手から、
「くそ──」
うめき、コーゼンはやや腰を落とした。ほかの殺し屋たちは、手にした武器で意味もなく霧に向かって
「亡霊だ──」
誰ともなしに、そんなことを言いだす。その瞬間──
「え……?」
間の抜けたうめき声を、ひょろ長い男があげた。見ると、彼はぴたりと動きを止め、自分の胸元にゆっくりと
そして、ほかの方向からも──
「痛てっ!」
これもこの事態の中では、間が抜けているのに違いはないが、それなりに意味のある悲鳴ではあった。こちらは、いきなり地面に倒れると、足首から先をざっくりと
ぴうっ──!
今度はかん高い音が、風を切る。胸元に血のあとを拡げる男の首が、苦もなくごとんと地面に落ちた。
「いったい、なにが起きてるんだ?」
コーゼンはとにかくあたりを見回しながら、うろたえた声を出した。こうなると、魔術もなにも無意味だった──敵の正体が分からず、姿さえも見えず、対抗する方法も思いつかない。
「亡霊じゃないぞ、こいつら──」
コーゼンはつぶやきながらくるりときびすを返すと、最後に残った仲間の顔をちらりと見やった。
「こいつらはバケモンだ!」
叫ぶ。
が──どうもさっきから静かだと思っていたその仲間は、とうに事切れていた。立ったまま、強烈な酸をかけられでもしたように、頭部が半分以上溶解してなくなっている。
「くそ──!」
コーゼンは、必死になって駆け出した。その背後で、足首を失って倒れていた仲間の