「手! 手が──地面から出てきて、殺し屋を──」

「殺されちゃったんでしょ? ところで、もうひとりのほうも殺されたりしたらまずいんじゃない?」

 長い黒髪を、ばさりと夜に投げ出しながらヒリエッタが言う。オーフェンは、はっとして長髪の殺し屋のほうを見やった。

 が、もうとっくに逃げ出している。あたりにはもう気配もない。

「くそっ──」

 オーフェンは、やるせない思いで毒づいた。くうの壁をたたくようなしぐさで腕を振る。

「ま、あの状況じゃ仕方ないわね──」

 まるっきりごとのように、ヒリエッタがつぶやくのが聞こえた。

 そしていきなり、宿の扉が開いてポーチが騒がしくなる。

「オーフェン!」

「お師様!」

 クリーオウとマジクが、連れ立って外へと駆け出してきた。マジクはそのまま駆け寄ってきたが、クリーオウのほうは、ヒリエッタの姿に気づいた瞬間、ムッとしたように足を止めた。

「いったいなにが──」

 問いかけてくるマジクを、オーフェンは手で制した。なんにしろ、答えられるとは思えない。先刻起こったことは、なにひとつとして。

 ちらりと見やると、気をかせてのことだろう──ヒリエッタがさりげなく、どこから持ってきたのか黒いシーツのようなものを殺し屋の死体にかぶせているところだった。ほっとして、クリーオウの顔を見やる。少女はぐせのついた金髪を手でかしつけながら、言ってきた。

「なんなのよ、窓から飛び降りたりして! サポートもなしに殺し屋と戦うなんて、自殺行為よ!」

 はいはい、と力ない手振りで応じながらオーフェンは、なるたけ血の飛び散った地面のほうは見せないようにかばいながら、クリーオウの肩に手を回した。そのまま、宿の中に押しやっていく。

「あの福ダヌキどもはどこだ?」

 マジクに聞くと、彼は軽く肩をすくめた。

「あの地人たちのことですか? 部屋の中をうろつき回って、修理費はいくらだとか、ばいしようきんはいくらだとか計算してましたよ」

「…………」

 オーフェンが嘆息をもらすと、背後から、ヒリエッタが近づいてきた。

「この村のけんかんには、どうするの?」

「君から報告してもらえないか? 俺にはできそうにないし……どうやら」

 と、じろりとにらみやる。

「どうやら、俺なんかより君のほうがはるかに事情にくわしそうだからな」

 彼女は悪びれた様子もなく、ボディスーツに直接ついているさやにナイフを落とし込んだだけだった。あまつさえ、言ってくる。

「ところで、オーフェン」

「あんだよ」

 しつこく説教じみたことをまくしたてているクリーオウの背をいんうつな気分で押しやりながら、オーフェンは聞き返した。ヒリエッタは、そっと耳打ちするように告げた。

「明るいところにもどる前に、ふいといたほうがいいんじゃない?」

「なにがだよ」

くちべにがついてるわよ」

 きゃはは、と笑い声をあげるヒリエッタに、今度こそ絶望的なまでに顔を紅潮させながら、オーフェンはあわてて手の甲で唇をぬぐった。