Part 01: 魅音(冬服): ……で、今回のイベントにかかる費用がある程度出揃ってきたんだけど、予定よりも色々と経費がかさんでくるみたいでさ。 魅音(冬服): さすがに予算内で収めるのは苦しいから、もう少し当初の額に上乗せしてもらえないか義郎おじさんに交渉しないと、ダメっぽいね。 魅音(冬服): あと、衣装の準備はレナと菜央ちゃんがやってくれているって話だけど……詩音、そっちの方の進みはどう? 詩音(冬服): …………。 魅音(冬服): ……詩音? ちょっと、詩音ってば。 詩音(冬服): あ……なんですかお姉、呼びましたか? 魅音(冬服): いや、呼びましたかって……こんな近くで私が喋り続けていたってのに、何も聞こえていなかったの? 詩音(冬服): えっと……すみません。ちょっと考え事をしていたら、すっかり意識がそっちに向いてしまっていたようでして……。 魅音(冬服): ……いや、それは別にいいんだけどさ。まだ寝不足というか、疲れが残っているんじゃない?あまり根を詰め過ぎないよう、気をつけなよ。 詩音(冬服): お姉こそ。他人の心配より、まず自分の体調を気遣ってあげてくださいね。数日前にも「あんなこと」があったんですから。 魅音(冬服): うっ……嫌なことを思い出させないでよ。例の一件に巻き込まれてからというもの、うたた寝するのも怖くなっちゃっているんだからさ。 魅音(冬服): おまけに、ここしばらくは圭ちゃんと顔を合わせるのもなんか気恥ずかしい感じだし……はぁ、なんであんな夢を見たのかなぁ。 詩音(冬服): くすくす……確かに夢の中でお姉、圭ちゃんとまったり2人きりでイチャイチャしていましたねー。 詩音(冬服): まぁ、お姉が長年抱いていた念願……いや、妄想? が夢の中とはいえ具体的になって、とりあえずはよかったんじゃないですか? 魅音(冬服): 長年ってなんだよっ?圭ちゃんとは知り合ってから、まだ1年も経っていないっつーの! 詩音(冬服): ……ふむ、確かにそうですね。でも私、圭ちゃんやレナさんたちとはもう何年も一緒に過ごしてきたつもりになっていましたよ。 詩音(冬服): 考えてみれば一穂さんたちも、今年#p雛見沢#sひなみざわ#rに引っ越してきたばかりだっていうのに……なんだか不思議な感じです。 魅音(冬服): まぁ……その点については私も同感だね。それだけあの子たちと過ごしてきた時間が濃密で、思い出深いものだったってことなんだろうけどさ。 詩音(冬服): で……そんな付き合いもまだ短い子たちが私のことを心配して、全力で助けようとしてくれた。 詩音(冬服): もちろんお姉も、私の体調をあの時も今も本気で気遣ってくれている……ありがたい話です。 魅音(冬服): ……そんなの、当然でしょ。あんたとはこれまでに色々とやり合ったり、ぶつかったりすることもあったけど……。 魅音(冬服): それでも詩音は、私にとって大切な妹なんだから。この先「世界」がどんなふうに変わろうとしても、その事実だけはずっと変わらないし……同じだよ。 詩音(冬服): お姉……。 詩音(冬服): ……くっくっくっ。なんだか最近のお姉って、自分の気持ちをわりと素直に語るようになりましたね。以前だったらおちゃらけるか、ごまかしていたのに。 詩音(冬服): 心境の変化につながるような、何かきっかけでもあったんですか?差し支えがなければ、ぜひ教えてもらいたいです。 魅音(冬服): 心境が変わったなんて、私は別にそんなつもりなんてないんだけど……。 魅音(冬服): ただ、心の中で思っているだけじゃ……相手には伝わらない。まして察しろってのは、ずいぶんと思い上がった姿勢だ。 魅音(冬服): だから……せめて2人きりの時くらい相手に対して正直に、ありのままを伝えられるように努力しよう……って考えるようになったんだよ。 詩音(冬服): ……あ、あはは。そこまで正面切って言われてしまうと、さすがに照れますね~。 詩音(冬服): まぁ、その勇気というか開き直りの潔さをお姉がぜひとも圭ちゃんの前で見せてもらえるよう、妹としては願うばかりですよ……くっくっくっ! 魅音(冬服): は……はああぁぁぁあぁっ?な、ななな、なんでここで圭ちゃんの名前が出てくるってのさー?! 詩音(冬服): もちろん、言われた時のお姉の反応が面白いからです。さて、そろそろバイトの時間ですし……私はこのあたりで失礼させてもらいますね。 魅音(冬服): ……あ、ちょっと待って詩音。今から電話して、葛西さんにここまで迎えに来てもらうからさ。 詩音(冬服): まだ日も沈んでいませんし、別にいいですよ。この屋敷にある自転車を1台貸してもらえたら、ひとっ走りで行けますって。 魅音(冬服): ダメだよ。母さんと婆っちゃにも、詩音が移動する時は当分そうしろってきつく言われているからさ。 詩音(冬服): 母さんはともかく……鬼婆も、ですか?私のことをそこまで気遣ってくれるなんて、なんかちょっと意外です。 魅音(冬服): あははは、そんなの当然だよ。詩音が倒れる寸前になるまで頑張っているんだから、あの人たちだって応援したくなるって。 詩音(冬服): …………。 魅音(冬服): そんなわけだから、ちょっとここで寛いでいて。私、電話してくるから。 詩音(冬服): あ……っ……。 詩音(冬服): ……。はぁ、まいったなぁ。 Part 02: 詩音(冬服): はーい、ただいま帰りましたよ……っと。 靴を蹴っ飛ばすように脱ぎ捨て、揃えるのも面倒だとばかりに自室に入った私は、そのままベッドにぼすん、と仰向けに寝そべる。 義郎おじさんが気を利かせてくれたのか、深夜近くにもかかわらずバイトが終わって店を出ると、葛西が車で迎えに来ていた。 詩音(冬服): 「詩音さん、お勤めご苦労さまです」――なんていかにも誤解を招くような言い方で出迎えられた時は、横っ面をひっぱたいてやりたくなったけどね……。 ただ、それだけ周囲に心配をかけまくっているという自分の現状を、一応は理解していないわけではない。 というわけなので、私は渋々ながらもその「ご厚意」にありがたく従って、帰りは後部座席で軽く眠らせてもらうことにした……。 詩音(冬服): はぁ……みんな心配しすぎというか、過保護だって。ここ数日の間だけ、寝不足が続いただけなのに。 なんとなく、くすぐったさと気持ち悪さが胸の内で入り混じった感じがして……私はつい、強がりにも似た憎まれ口を叩いてしまう。 もちろん、お姉や葛西……あの鬼婆でさえ私を本心から気遣ってくれていることは理解できるし、その気持ちが嬉しくないというわけではない。 ただ、私は……1年前の「あの件」のせいもあって、どうしても素直に受け止めることができないのだ。 ……なぜ、今なんだ。どうして1年前に、味方になってくれなかったんだ。 もっと早い段階で、私を認めてくれていたら。古い因習やしがらみ、過去に起きたわだかまりを捨てて動いてもらえたら、あるいは――っ……! 少し気が緩むと、そんな苛立ちと憤りを孕んだ呪詛の言葉がとめどなく溢れ出してきそうで……感情の暴発を抑えられる自信が、私にはまだなかった。 詩音(冬服): ……わかっている。一応、わかっているつもり。人間ってのはそんな簡単には変われないものだし、この思いはきっと、勝手なエゴなんだろうって。 でも……それでも、私は……。 今の「世界」に居心地の良さを認めれば認めるほど、自分の胸の内でくすぶり続ける「なぜ」「どうして」の感情的な言葉が熱を帯び始めることに、気づいてしまう。 ……だから、受け入れることができなかった。自分にとって一番大切「だった」ものの存在が、色あせていくのが怖くて……恐ろしくてっ……。 詩音(冬服): ……神様ってのがいたら、ぶん殴ってやりたいなぁ。いったい何が楽しくて、私を……こんな「世界」を生み出したんだか……、っ? と、その時。からから……と音を立てながら、ベランダへと出るガラスの引き戸が開かれていくのを感じる。 顔を向けると、寒暖の差で外へ流れる風によってカーテンが舞い……隙間からひとりの女の子が姿を現して、ずいっ、と中に踏み入ってきた。 詩音(冬服): あのね……せめて部屋へ入る前にノックか、なにかしらの合図くらいはしてくださいよ。仮にもここ、レディの部屋なんですから。 雅: ……時刻は伝えた。予定通りなのだから、問題はない。 詩音(冬服): いや、確かにその通りではありますけど……。 淡々と事務的にそう告げる「彼女」に寝転びながら顔を向けて、私は呆れた思いでため息をつく。 初めて会った時から、相変わらずというか……まるで能面のように無表情をはりつかせて、およそ愛想といったものが全く感じられない。 最近の#p雛見沢#sひなみざわ#rではおかしなこと、非現実的な事象が立て続けに起きているので……あるいは「彼女」の正体は機械人形か何かじゃないかと、私は本気で思いつつあった。 詩音(冬服): にしても……あんた、どうやって来たんです?ここって、結構な高層階だったと思うんですが。 雅: 説明する必要はない。要件を伝えたら、すぐに失礼させてもらう。 詩音(冬服): ……さようですか。で、何を知らせに来てくれたんです? 一々気にしたところで変化など期待できないことはもうわかりきっているので、私は上体を起こすとベッドに座りながら「彼女」に向き直る。 どうせまた、神の啓示みたいに傲慢めいた予言かよくわからない話をのたまいに来たのだろう……少しはつきあわされるこちらの身にもなってもらいたい。 ……そんなぼやきを内心で呟いた私だったが次の台詞を聞いた瞬間、わずかに抱きかけていた眠気や怠さが吹き飛ぶほどに目をむいて固まった。 雅: あなたが探していた相手……見つけた。それだけでも先に、伝えておこうと思った。 詩音(冬服): えっ……?! Part 03: 詩音(サンタ水着): メリークリスマース! 詩音(サンタ水着): クリスマスパーティーのはじまりです!全力ではじけちゃいましょう~! 一穂(冬服): 一番弾けてるのはその衣装じゃないかな……? 菜央(冬服): そうかしら? こんなの普通だと思うわよ。 美雪(冬服): ほんと、この子は服に関することについては寛容だよね……。 レナ(冬服): はぅ~、詩ぃちゃんサンタさんかぁいいよぉ! 美雪(冬服): ……キミもか、女ブルータス。 羽入(サンタ水着): あぅあぅ、ごちそうがいっぱいなのですよ~! 梨花(冬服): 羽入、その服で食べ過ぎると大きくなったお腹が目立ってしまうのですよ。 羽入(サンタ水着): じゃあ、着替えてくるのです! 詩音(サンタ水着): あー、それはダメです。お揃いで着るって決めたじゃないですか。 羽入(サンタ水着): あぅあぅあぅ~! 沙都子(冬服): このご馳走を前にして、お預けだなんて……ちょっとかわいそうな気もしますけどね。 梨花(冬服): 食べ過ぎなくてちょうどいいのですよ、にぱー。 詩音(サンタ水着): 圭ちゃん、飲んでいますか~?! 圭一(冬服): おう。もちろん、ジュースだけどな。 詩音(サンタ水着): えー、せっかくですからこっちのあわあわな麦茶なんていかがです? 梨花(冬服): みー、それはボクがいただくのですよ。 羽入(サンタ水着): 梨花もダメなのです、あぅあぅっ! 詩音(サンタ水着): えー、いいじゃないですか~。1年に一度のお祭りなんですしね。 美雪(冬服): というか、なんで未成年だらけのパーティーに酒が置いてあるのか知りたいんだけどさ……。 沙都子(冬服): 知らない方がいいですわよ、きっと。 魅音(冬服): ……詩音、あんた酔っているでしょ?今日のテンション、ちょっとおかしくない? 詩音(サンタ水着): 酔ってませんよ? レナ(冬服): はぅ……もしかしたら、この場の空気に酔っちゃったのかな、かな? 魅音(冬服): あのさ、うまいこと言ってフォローするつもりかもしれないけどさ……こいつがそんな可愛いように見える? 詩音(サンタ水着): 酷いです……お姉。あんまりそうやっていじめると私、いじけちゃいますよ。 一穂(冬服): い、いじけるって……? 詩音(サンタ水着): こう、床に寝っ転がって……足をバタバタします。 菜央(冬服): ……本当に酔ってるみたいね。 美雪(冬服): 駄々っ子じゃないんだから、ほどほどにしておきなよー。 詩音(サンタ水着): …………。 詩音(サンタ水着): 酔っている……か……。 詩音(冬服): 見つかったって……それ、本当ですかっ?もしデタラメでぬか喜びなんてさせたりしたら、本気であんたのことブチ殺しますよ! 雅: 信じないなら、別にそれでもいい。私にとってはさほど重要ではないことだから。……それじゃ。 詩音(冬服): っ……ま、待って! 待ってください! 逆ギレ気味の反応を不快に感じたのか、あっさりと身を翻し出ていこうとする「彼女」に向かって、私は身を乗り出しながら必死に呼び止める。 動揺のあまり、ベッドの上にいたことも忘れて段差で足を踏み外し、上体から情けない格好で床に落ちて悲鳴を上げてしまったが……。 そんな痛みや体裁も思考から消して私は、もはやなりふり構わず這って進み……手をいっぱいに伸ばして「彼女」の足にすがりついた。 詩音(冬服): 教えてください! 彼は……悟史くんは、いったいどこにいるんです?! 詩音(冬服): 彼は生きているんですかっ? それとも――?! 雅: ……。生きている。ただしそれは、この「世界」じゃない。 詩音(冬服): なっ……?! 沸き上がりかけた私の心が、その付け足された一言であっという間に……氷点下にまで達するごとく、冷たく凍りつく。 私たちの存在を示して確する、「世界」の概念と原理。ここであって、「ここ」ではない場所……つまり……。 雅: ……もし本気で望むのだったら、かねてからの約束通りに。そうすれば……きっと、「会える」。 詩音(冬服): ……っ……! 雅: ……私は、事実しか語らない。この力を「あの子」のために使うと誓った時から、そう決めている。だけど……。 詩音(冬服): ……えぇ、わかっていますよ。予想もしていなかったことを聞いちゃったせいで、少し取り乱しました……ごめんなさい。 そう言って私は「彼女」の足から手を離し、大きく息をついてから立ち上がる。 そして、外へ向かって流れ続ける風に髪を揺らしながら……まっすぐにその瞳を見据え、取り戻した落ち着きとともに言葉を繋いでいった。 詩音(冬服): あんたが何者で、何を企んでいるのかは聞かない約束ですし、正直言ってどうでもいいです。 詩音(冬服): ただ、少なくとも「敵」ではない……その言葉を信じて、私は動かせてもらいますよ。 雅: それで十分。……また連絡する。 「彼女」はその言葉を最後にして、はためくカーテンの向こうへと去っていく。 そして次の瞬間、強い風の流れに煽られてベランダがあらわになったが……そこにはもう、誰の姿も見えなくなっていた。 詩音(冬服): (確かに私は、酔っているのかもしれない。それもお酒じゃなくて、もっとたちの悪いものに……) きっと誰もが、私のことを残酷なやつだと思うだろう。なにしろ、自分の願いを叶えるためにとてつもなく多くのものを生贄に捧げようとしているからだ。 無論、その自覚はある。……罪業の重さも感じている。今でも意識を向けるだけで、ぞっとした恐怖が全身を覆うように押し寄せてきて……震えが止まらない。 それに、なにより……私はこの選択に対して、本当に正しいのかもいまだに自信が持てなかった。 もしかしたら、私はただ意地になっているだけで……実際には引き返すほうが正しいのではないだろうか。 もしくは、あえて間違った道を選ぶことで「彼」に対する自分の想いに価値を……命を吹き込もうとしているのかもしれない。 詩音(冬服): (だから、私が実際に傷つけたいのは他の誰でもなく、私自身に対して……?) ……そんな自己陶酔めいたロジックが頭をよぎり、私は呆れた思いでひとり苦笑してしまう。 あぁ……そうだ。今さら後悔しても、もう遅い。すでに私は戻るべき場所を失い、引き返すことができないところにまで来てしまった。 だとしたら……せいぜい踊ってみせるしかない。たとえ山ほどの後悔と絶望が願いの代償として与えられても、私は……。 魅音(冬服): ……ちょっと詩音、いつまで横になってるのさ。ほら、手ぇ貸してあげるから起きなよ。 詩音(冬服): はぁい。 伸ばされたお姉の手に捕まりながら、ゆっくりと立ち上がる。 そしてふと……おそらくここではない「世界」にいた時の記憶を、私は思い出していた。 詩音(サンタ水着): (……あの時も「私」は、自分の想いを優先して他の人達の気持ちを踏みにじった。そして勝手に暴走して、勝手に自滅した……) その顛末は全てにわたってあまりにも醜く、惨めで……愚かな「私」にふさわしいものだったと思う。 でも……「こうはなりたくない」という嫌悪と同時に心の片隅に現れた、熱い何か……。 それを、羨望や憧憬にも似た「共感」だと感じてしまうのは錯覚なのか、あるいは……。 詩音(サンタ水着): (……だから、やるしかないんだ。この気持ちに決着をつけて、答えを見つけるためにも……) 詩音(サンタ水着): お姉。 魅音(冬服): んー? 詩音(サンタ水着): お姉は幸せになれますよ。 魅音(冬服): は? ちょっと、なにを突然……。 詩音(サンタ水着): そんな困った顔しないで、文字通り素直に受け取ってくださいよ。 魅音(冬服): 素直にって……いきなりすぎてわけわからないって。なにそれ、予言かなにか? 詩音(サンタ水着): ノンノン。これはですね……。 詩音(サンタ水着): サンタさんからの、クリスマスプレゼントでーす♪